多くの企業が課題感を覚えている、新入社員の配属ミスマッチ問題。
前回までに、ミスマッチのない配属のためには「能力」「価値観」「性格」の3つの観点が重要であり、多くの企業が「性格」の観点を見落としていること、そして配属における「性格」観点の取り入れ方を具体的にご説明しました。
今回は、上司と部下の性格的な相性を考える際に必要な、「同質・異質」「補完・非補完」という視点について、さらに掘り下げて解説します。
「同質⇒異質・補完」がベストな配属戦略
現状、早期離職の多さに悩んでいるのであれば、まず「同質なもの同士」(似たような性格のもの同士)を意識して配属を行うといいでしょう。似たような性格の上司のもと、すぐに相互理解ができてのびのび働けるので、定着が進むと思われます。
ただ、同質性は同時に、停滞やマンネリを生みます。同質同士いくらチームワークが良くても、異質な視点による新しい風が入らないと、チームとしてのパフォーマンスはどうしても下がります。特に、創造性が要求される仕事においては、異質な人が多数集まり互いに刺激し合いながら補完し合うほうが、クオリティの高いアイデアが生まれやすくなるでしょう。環境が目まぐるしく変化し、先々が予測できない「VUCAの時代」においては、クリティビティがより重要視されることを考えると、離職率を下げたいからといって同質配属ばかりに偏るのは避けたいところです。
新入社員が早期に能力を発揮し、チームとして成果を挙げることを重視するならば、「異質・補完」の関係が最強と言われています。互いに違う視点を取り入れながらも、補完し合い、高め合うことができるからです。
ただ、基本的には「異質なもの同士」なので、相互理解にはどうしても時間がかかります。誤解や行き違いがあったりしながらも、仕事を通じて徐々に理解が進み、信頼関係が構築されるという関係性なので、相互理解に至るまでには一般的に半年ほどの時間がかかると言われています。
従って、入社後2~3カ月で辞めてしまうような「超早期離職」は防ぎにくいというデメリットがあります。早期離職をただちに減らしたいという企業には、「異質・補完」関係での初期配属は向いていないかもしれません。
これらを考慮すると、もっともおすすめしたいのは、最初の配属は「同質」を重視して行い、ある程度会社への愛着や仕事への慣れなど、退職の原因となり得る要素が軽減された段階で、今度は「異質・補完」の上司と組み合わせる、という方法です。早期離職のリスクを抑えつつ、活躍できる人材の育成にもつながるでしょう。
適切な配属とは、「定着」だけでなく「仕事で力を発揮できる」状態を指すものです。同質な上司のもとで慣れ、その後異質・補完関係の上司のもとでクリエイティビティを鍛え、能力を発揮する――これが配属のミスマッチを避け、かつ個人のパフォーマンスを挙げるベストな方法だと私は考えます。
【本記事の執筆者】
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。