このページのまとめ

  • 人事考課とは、従業員の能力や業績、勤務態度などを評価すること
  • 人事考課の目的は適切な給与設定や配属を行うこと
  • 人事考課では客観的な評価をしよう
  • 人事考課の導入は、誰が、どのように評価するか決めよう

従業員に対して適切な評価を行うことは重要です。適切な評価を行う際に役立つ制度が人事考課制度です。たとえば、人事考課制度の導入によって、従業員の能力開発や適切な人材配置、モチベーション向上につながります。このコラムでは、人事考課制度の概要と企業が導入するメリット・デメリットをあわせて解説します。企業の人事担当者の方は、適切な人事考課制度の整備にお役立てください。

人事考課とは

人事考課とは、従業員の能力や業績、勤務態度などを定められた基準で評価することを指します。また、その内容を昇給や昇進、能力開発に反映する制度のことを人事考課制度とも呼びます。

人事考課と人事評価の違い

人事考課と人事評価は大枠の意味で同じですが、目的が少し異なります。人事考課の目的は、適切な給与設定や昇進、配属を行うことです。人事評価の中に人事考課が含まれる考え方が一般的です。そのため、人事考課と人事評価を同一として扱う企業も多くあります。

日本での人事考課制度の普及

日本での人事考課は、年功序列の衰退とともに始まりました。1980年代頃までの日本企業は、年齢や勤続年数を重視した年功序列を採用する企業が多くありました。その際、能力や業績は評価にあまり影響していませんでした。

しかし、次第に能力や業績を重視した人事考課制度が広まります。2010年代を迎えると、人材開発や人事配置を目的とする評価も増えてきました。現代の人事考課は、社員能力の向上と成果を同時に生み出す、パフォーマンスマネジメントと呼ばれる概念で広まっています。

人事考課の目的

人事考課には、大きく分けて4つの目的があります。

1. 会社の評価基準を伝え、従業員に何を期待しているかを理解してもらう

会社が従業員に何を期待しているのか、どのような成果を上げてもらいたいかは、なかなか伝わりづらい部分です。会社と従業員の方向性がすれ違うと、「思い通りの成果が上がらない」「適切な評価がされていない」と不満を持たれてしまう原因にもなります。

従業員に明確な評価を伝えておくと、従業員も会社の考えを理解し、業務に反映できるでしょう。人事考課には、会社の考えや評価を明確にし、従業員に伝える目的があります。

2. 従業員の貢献度や能力を適正に評価し、従業員の成長を促す

客観的な評価は、従業員の成長を促すためにも重要です。人事考課で明確な基準を設けておくと、必要なスキルや足りない能力が見えてきます。客観的な評価を受けることができれば、従業員も成長の課題が見え、努力ができるでしょう。従業員に成長を自覚させるためにも、人事考課は重要な役割を持っています。

3. 従業員に適切な給与と役職を与えることで、従業員のモチベーションの低下を防ぐ

能力のある従業員には、適切な給与や役職が必要です。評価されていないと感じてしまうと、従業員のモチベーション低下につながります。たとえば、成果を上げている従業員であっても、年齢を理由に昇進を拒んでしまっては、正当な評価ではありません。従業員は納得がいかず、モチベーションを保つことが困難になります。人事考課で適切な評価を行えば、従業員は会社からの評価に納得ができます。従業員のモチベーション維持のためにも、人事考課を活用しましょう。

4. 従業員の能力を会社が正しく把握することで、適した配置先を見つける

人事考課を適切に行うことで、従業員に適した配属先を見つけることにつながります。従業員の成果や能力、意欲は異なり、別部署が適している場合もあります。上司や従業員が気付いていない適正を人事考課で発見できる場合もあるでしょう。従業員に適した配属先を見つけるためには、客観的な評価が必要です。従業員の生産性向上のためにも、人事考課を活用しましょう。

人事考課のポイント

人事考課では、主に「業績」「能力」「情意」の3つのポイントを評価します。それぞれのポイントについて解説します。

業績考課

従業員の業績を評価するのが、業績考課です。業績考課には成果だけではなく、成果に至るまでの過程も評価対象となります。たとえば、営業職は売上などの業績はもちろんですが、営業件数などの過程も評価に含まれます。成果と過程をどれだけの割合で評価するかは会社に委ねられますが、成果だけの評価ではないところが特徴です。また、過程を評価対象に含めることで、従業員は成果以外の部分にも力を入れるようになるでしょう。そのため、さらなる業績向上も見込めるのがポイントです。

能力考課

業務を行ううえでの能力や知識を評価するのが能力考課です。

能力考課には、次のような種類があります。

  • 保有能力
  • 発揮能力
  • 潜在能力

保有能力とは、業務に必要な能力や知識、資格を評価する項目です。従業員の基本的な能力が該当します。また、発揮能力は保有能力を実行する際の評価です。持っている能力や知識を発揮できるほど評価対象になります。潜在能力に関しては、将来性や成長の幅など、未来への期待値を込めた評価です。能力考課も、どの考課を優先するかは企業によって異なります。

情意考課

行動だけではなく、仕事に対する意識や考え方を評価するのが情意考課です。業務に対する取り組み方を重視し、性格や人間性を評価対象とします。

情意考課の例には、次のようなものがあります。

  • 規律性
  • 責任制
  • 協調性
  • 積極性

たとえば、協調性であれば周囲と協力し、成果を達成する取り組みが評価されます。能力があってもトラブルを起こしたり、自分勝手に行動すると評価されません。また、積極性では、指示された業務だけではなく、自分で業務を探したり、提案する能力が評価対象になります。

情意考課を人事考課に採用する場合、評価項目を明確にしておきましょう。評価項目を明確にすることで、評価の中に好き嫌いやイメージの要素が含まれてしまうのを防ぐことができます。客観的で公正な評価を行うためにも、明確な基準を設けておきましょう。

人事考課のメリット

人事考課を適切に導入すると、企業と従業員の両方にメリットがあります。従業員のモチベーション向上や人事配置の材料に効果的なためです。人事考課のメリットを確認し、効果的に運用を行えるようにしましょう。

社員の成長を促せる

人事考課は客観的な評価を提示できるため、社員の成長を促す目的で活用できます。客観的な評価を行い、従業員が自分に足りない能力や成果を認識できるからです。具体的な評価が行われると、従業員も改善点を明確に把握できます。また、企業が求める評価も明確になるため、今後の目標やキャリアに向けて成長を促せるメリットがあります。

社員のモチベーション低下を防ぐことができる

適切な昇進や昇給を行えば、社員のモチベーション低下を防ぐことができます。従業員に人事考課で明確な基準を示すことで、従業員が納得して評価を受け入れることができるためです。たとえば、成果をあげて昇進したことが人事考課で明確になれば、評価された従業員だけでなく、周囲の従業員も納得して昇進を受け入れることができます。評価基準が不明確な状態で昇給や昇進を行うと、従業員のモチベーション低下につながります。人事考課の導入によって、客観的で不満の少ない評価を実現できます。

適材適所の人事が行える

人事考課で能力や成果を明らかにすると、人事異動の資料として活用できます。そのため、従業員の能力に合わせた、適材適所の人事が行えます。たとえば、営業課に属している従業員のコミュニケーション能力が高い場合、人事課でさらに成果を残す可能性もあります。また、営業は苦手な社員が、事務作業で優秀な成果をあげる場合もあるでしょう。このように、人事考課で能力を適切に評価できれば、適材適所の人材配置が可能になります。

人事考課のデメリット

人事考課は適切な評価にメリットがありますが、運用方法にデメリットを感じる場合もあります。時間がかかったり、評価基準の設定が大変な場合もあるので気をつけましょう。

時間を要する

人事考課を行うためには、評価基準を明確にします。その際、会社ごとに一から評価基準を設定するので、時間がかかるデメリットがあります。明確な基準を設けなければ、評価がしづらかったり、従業員から不満が出る場合もあります。人事考課を行う場合、最初の準備に時間がかかることは認識しておく必要があります。

社員からの不満が挙がる可能性がある

客観的な基準を用いる人事考課ですが、従業員からの不満が出る場合があります。評価の低い従業員が、納得できないと声をあげてしまうからです。評価基準を設ける以上、どうしても評価に差は出ます。人事考課がモチベーションの低下や離職につながらないためにも、対策を考えておきましょう。

不正防止に気を配らなければいけない

人事考課を意識した従業員が、不正を行わないように気をつけましょう。他の従業員の評価を下げ、自分の評価をあげようとする社員も出てくるためです。また、評価対象となる業務以外は行わない従業員が現れる可能性もあり、そうなると本来の目的から外れてしまいます。人事考課を導入すると、人事考課がすべての評価になってしまうため、不正が行われないように対策をしましょう。

人事考課制度の導入方法を解説

人事考課制度を導入するには、「What」「How」「Who」「When」「Why」の5つのポイントを押さえて評価基準を定めることが大切です。

What

人事考課を行うにあたって、まずは「何を評価するのか」を決めましょう。

現在の人事考課制度では、次の3つが評価対象としてあげられています。

  • 能力評価
  • 情意評価
  • 成績評価

人事考課の評価内容は、企業に応じて変わります。しかし、どの企業であっても、明確な基準は必要です。何を評価対象にするのか、明確に定めておきましょう。

How

従業員の評価を行う際に、どのように評価するか、評価の集計方法をどうするかを決めておきましょう。評価にあたっては、1〜5の5段階評価を行う企業が多くあります。

極めて優れている、劣っているなどの評価基準を設ける企業もありますが、評価者の主観が入る可能性もあります。評価する際には、具体的になるようにしましょう。

Who

誰が評価を行うかも、人事考課では決めておきましょう。一般的には、従業員の上司が評価を行いますが、一人である必要はありません。たとえば、直属の上司だけではなく、同僚や部下からの評価も対象にする企業もあります。誰が評価を行うか決めましょう。

When

評価期間を決め、期間内の成果や行動を評価しましょう。半年、または1年単位で定める企業が多くあります。情意評価や成績評価は変化しやすいため半年ごとの評価、能力評価は変化が少ないので1年ごとに評価するのが一般的です。

Why

評価結果をどのように使用するか決めておきましょう。

基本的な使い方としては、次のとおりです。

  • 昇給
  • 昇進
  • 賞与
  • 人事異動
  • 能力開発

また、評価項目ごとに活用方法を変更することもできます。たとえば、成果は昇給や昇進に活用しやすく、能力評価は人事異動や能力開発に用いられます。評価結果をどのように活用するか、あらかじめ決めておきましょう。

人事考課制度を導入するときに注意すべき点

人事考課制度の基準を設けても、人為的なエラーが発生してしまう恐れもあります。事前に起こりやすいエラーを把握し、対策を設けておきましょう。

ハロー効果

ハロー効果とは、対象を評価する際に、目立つ特徴に評価が引きづられる現象をいいます。たとえば、部下の営業成績が優秀なため、事務作業や積極性なども引っ張られて高評価になる現象です。評価基準を明確にしたり、複数の人間で評価を行うなど、ヒューマンエラーを減らすように対策しましょう。

スペックに関する先入観で生じるエラー

従業員の年齢や学歴など、本人のスペックに影響されるエラーがあります。たとえば、高学歴だから仕事ができる人間だ、と評価するエラーです。本人のスペックではなく、実際の成果や能力、プロセスを評価しましょう。

帰属によるエラー

従業員の成果を正しく評価せず、外部要因を評価に反映してしまうエラーです。従業員以外の要員のおかげだと判断していまい、正しい評価ができません。たとえば、営業成績が良かったのは従業員の能力ではなく景気が良くなったから、などと外部要因の影響だと判断してしまいます。帰属によるエラーは、過大評価と過小評価の両方の可能性があるので気をつけましょう。

まとめ

人事考課制度は従業員の成果を適切に判断し、従業員と企業の両方にメリットをもたらします。うまく活用できれば、企業の組織拡大や、業績向上につながるためです。一方で、人事考課の基準が不明確であったり、正確な評価ができていなければ、従業員のモチベーション低下につながる可能性もあります。人事考課を定める段階から念入りな準備を行い、評価に役立てましょう。人事考課をどのように定めるか、活用するかは、このコラムを参考に実行してください。