このページのまとめ

  • コーチングは対話や問いかけを通して主体性を引き出す手法
  • コーチングは主体性を持つ社員の育成に効果的
  • コーチングでは指導や指摘を行わない

従業員の気づきを引き出し、主体性をもたせる手法として、コーチングが注目を集めています。コーチングは指導やアドバイスとは異なり、双方向のコミュニケーションを行うことがポイントです。コーチングは1対1が基本であり、指導者には傾聴力や質問力が求められます。主体性を持つ社員育成に課題を抱えている企業は、コーチングの導入を検討しましょう。

コーチングとは

コーチングとは、対話や問いかけを通して、相手の考え方や視点を引き出す手法です。コーチングがビジネスに反映されたのは1990年代で、1990年代にはアメリカでコーチングの教育機関の設立が相次ぎました。現在では、リーダーシップ開発や組織開発を目的として、企業でのコーチング導入が進んでいます。
コーチングが適しているのは、部下の主体性を伸ばしたいときです。考え方や行動の選択肢を増やすきっかけとなるため、部下が自ら行動を起こしやすくなります。主体性をもって行動すると、業務に対するモチベーションも高くなるはずです。

コーチングとティーチングの違い

コーチングと似ている言葉に「ティーチング」があります。ティーチングは、専門的な知識や経験を持つ人物が自身の知識やスキルを教えることを指します。方法論が確立しているノウハウを伝える場合には、ティーチングが適しています。一方で、コーチングは相手の意見を引き出すことに重きを置いているため、方法論が確立されていない業務を行う場面に適しています。
スキルを教える場合はティーチング、相手の主体性を引き出す場合はコーチングと区別しましょう。

コーチングとカウンセリングの違い

カウンセリングはメンタルが落ち込んでいる状態から元の状態に戻すコミュニケーション手法です。そのため、成果を出すことを目的としたコーチングとは異なります。カウンセリングはネガティブな状況を解消する、コーチングはポジティブな状況を作り出すと捉えると良いでしょう。

コーチングの3原則

コーチングは、自発的な行動を促すコミュニケーション手法です。自発的な行動を促す能力として、次の3原則が提唱されています。

双方向(インタラクティブ)

コーチングを行う際には、双方向のコミュニケーションが重要です。一方的なコミュニケーションでは、相手の意見を引き出すのが難しいためです。「指導」ではなく「対話」を心がけ、双方向コミュニケーションを行いましょう。

現在進行形(オンゴーイング)

コーチングは一度で成果が出るわけではありません。繰り返し継続して行うことが大切です。
成果が出るまでの期間は人それぞれで、1ヶ月で成果が出ることもあれば、1年以上かかる場合もあります。コーチングを成功させるために重要なのは、コーチングの内容を実践してもらうことです。さらに、実践するだけでなく、必要に応じて改善を行うことも大切です。成果が出るまでは、根気強く継続しましょう。

個別対応(テーラーメイド)

コーチングは1対1または少人数で実施し、一人ひとりの従業員に合わせたアプローチを用います。
従業員の性格やスキルはそれぞれ異なり、画一的な指導では効果が発揮されないためです。
たとえば、成果が出ていない2人の従業員に「頑張れ」と声を掛けた際に、1人は「応援してもらった」と素直に受け取ってモチベーションが上がるかもしれませんが、もう1人はプレッシャーに感じてしまう可能性があります。
プレッシャーを感じる従業員には、「頑張れ」よりも「いつも頑張っているね」と日頃の努力を認めてあげるほうが効果があるかもしれません。このように、従業員の置かれている状況や性格によって言葉の捉え方が変わるため、個別にアプローチすることが大切です。

コーチングに必要なスキル

コーチングを成功させるためには、以下の3つのスキルを身につけることが大切です。

傾聴力

傾聴力とは「相手の話し方や表情に注意を払い、話の本質を聴く力」です。
傾聴力を高めるためには、相手をありのままに受け入れる「受容」と、話の内容に理解を示す「共感」を意識する必要があります。傾聴力をもって話を聞くと、相手に「自分のことを理解してもらえている」という安心感を与えられます。そのため、相手から話を引き出しやすくなるのです。

承認力

承認力とは、相手の長所を認めたり、褒めたりする能力のことです。相手の良いところを見つけ出し、言葉や態度で伝える力でもあります。承認力が重要な理由として、人は褒められたことを繰り返し行いたくなるからです。そのため、コーチングで業務の成功や普段の言動を褒めると、積極的に繰り返すようになります。

質問力

質問を行う際には、相手自身に気づきを与える質問が重要です。なぜなら、人間は指摘を受けることに抵抗を示しやすいですが、自分で反省して改善を行うことには抵抗が少ないからです。そのため、コーチングでは成長を促せるような、気づきを与える質問が重要です。質問を行う際には、相手を責めているようなニュアンスを与えないように注意しましょう。相手に威圧感を与えず、落ち着いて自分の課題を発見できるように誘導する質問力が求められます。

企業がコーチングを導入するメリット

企業がコーチングを導入するメリットは、従業員の主体性を引き出せることです。主体性を持つ従業員は自ら考えて行動し、成果を上げやすい人材になります。従業員の持つ可能性を引き出すためにも、コーチングを活用しましょう。

社員の潜在的な可能性を引き出せる

コーチングを行うことで、従業員の潜在的な可能性を引き出せます。
たとえば、考えは持っていたが実現できなかった、自分ができることに気づいていなかった、という従業員もいます。従業員に自分自身の潜在的な可能性に気づかせて実行させる際にも、コーチングが役立ちます。

自主性や主体性を上げることができる

コーチングでは「自分は何をすべきか」「どのような課題に向き合うべきか」といった気づきを与えます。コーチングを繰り返し行うことで、自分で考える力が身につき、自主性の向上につながります。

企業がコーチングを導入するデメリット

コーチングは1対1で行う性質上、大人数の指導に適していない、時間がかかるなどのデメリットがあります。多数のメンバーに指導できるティーチングと使い分けて、効率の良い人材育成の仕組みを整えましょう。

一斉に大人数にアプローチすることができない

1対1で行うコーチングは大人数へのアプローチができないため、人材育成に時間がかかります。
大人数にアプローチを行いたい場合は、ノウハウが確立され、一度に多くの人に指導できるティーチングを選びましょう。

成果が出るまでに時間がかかる

コーチングとは、コミュニケーションを通して相手の気づきを引き出す手法です。そのため、確立されたノウハウを教えるティーチングと比べて、成長に時間がかかります。コーチングに正解はなく、従業員それぞれに気づきや学びがあります。気づくまでに時間がかかる場合も多いので、長期的な対応を見据えましょう。

指導側にスキルや知識が必要となる

コーチングは指導側にスキルと知識がなければ、効果が期待できません。コーチングは従業員の気づきを引き出すことが重要であり、傾聴力や質問力などのスキルが求められます。ノウハウを伝えるだけでは結果が出ないことに注意しましょう。

コーチングの手順

コーチングを行う際の主な手順は以下のとおりです。

現状のヒアリングをする

従業員の現状をヒアリングし、目標や進捗に対する状況を把握しましょう。目標を達成するにあたって、現状の正しい理解が大切だからです。現状を正しく認識できれば、従業員の気づきの手助けになります。状況を正しく認識する手助けのためにも、現状のヒアリングを正確に行いましょう。

理想の状況を鮮明にイメージさせる

目標を達成するためには、理想を鮮明にイメージさせることが重要です。理想が曖昧になってしまうと、方向性に迷ってしまうためです。また、目標のイメージができたら、目標を達成するために何をすべきかを一緒に考えてあげましょう。

理想とのギャップを認識させ、その原因を洗い出してもらう

理想の状況を明確化できたら、理想と現実とのギャップを自覚させます。何ができていて何が足りていないのかを明確にしましょう。また、理想の実現を妨げている原因を洗い出すことも大切です。原因を把握し、改善策を立てましょう。

アクションプランを決定する

理想を妨げる原因がわかれば、解消するためのアクションプランを決定します。アクションプランを作る際には、「いつ」「どこで」「どのように」などの5W1Hを用いると考えやすくなります。
アクションプランを決める際のポイントは、従業員が主体的に考えることです。コーチングを行う際には、選択肢の提示やサポートに徹し、従業員が自分でアクションプランを決定できるようにしましょう。

振り返りとフォローを行う

アクションプランを実行したら、定期的な振り返りとフォローを行いましょう。コーチングは実施して終わりではなく、実施後の進捗確認とフィードバックまでをセットで行うことが大切です。その際、問題なく進んでいる場合には従業員をしっかり褒めて評価しましょう。
一方で、思うように実行できていない場合には、こちらから質問をすることで、目標達成を妨げている原因に気づいてもらいましょう。

まとめ

従業員の主体性を引き出す手法として、コーチングが有効です。従業員に気づきを与え、思考や行動に自主性をもたらすことができます。コーチングを行う際には、一方的な指導やアドバイスにならないようにコミュニケーションのとり方に気をつけましょう。また、一度実施して終わりにするのではなく、コーチング実施後の結果をふまえたフォローを繰り返し行うことが大切です。