このページのまとめ

  • VUCAはビジネス市場や組織が変化し、予測困難になっている状況のこと
  • VUCA時代に適応するためのリーダー育成が重要
  • VUCAに対応する考え方として、OODAループやVUCAプライムがある

ビジネス市場や環境が変化し、将来の予測が困難になる状況をVUCAと呼びます。VUCAに適応できる企業は成長し、適応できない企業は衰退するといわれていることから、これからの時代を生き抜く企業や組織、ビジネスパーソンには不可欠な知識でしょう。このコラムでは、VUCAの概要やVUCA時代に適応するためのマネジメント方法を解説します。

VUCAとは

VUCA(ブーカ)とは、ビジネス市場や環境、組織などが変化し、将来の予想が困難になっている状況を意味する造語です。「Volatility」「Uncertainty」「Complexity」「Ambiguity」の頭文字から取られています。それぞれの言葉の意味は次のとおりです。

Volatility:変動性

これからどのようなことが起こるか、予測不可能で変化が激しい状態を変動性といいます。現代は技術の急激な発展により、新たなサービスや商品が誕生しています。それにともない、消費者のニーズや価値観も変化。たとえば、スマートフォンやSNSの普及、営業やマーケティング手法の変化があげられます。社会の変化に対応できれば新たなビジネスチャンスになる一方で、対応できなければ、ビジネスが衰退してしまう恐れもあるでしょう。

Uncertainty:不確実性

この先の環境がどう変わっていくか分からない状態のことを不確実性といいます。不確実性が高い状態では、ビジネスの見通しをたてるのが困難になります。たとえば、地球温暖化による社会の変化、新型コロナウィルスの流行なども不確実性のひとつ。個人だけでなく組織にとっても不安定な状況を示しています。

Complexity:複雑性

さまざまな要因や要素が複雑化していることで、解決策を出すことが難しい状況を複雑性といいます。複雑性が高いと、「他国や他企業の成功例をそのまま参考にできない」「1つの企業だけでは問題を解決できない」などの事態が起こります。
ただ、このような問題もある一方で、既存の枠組みを超えたアイデアや革新的な事業が生まれる要因にもなるのが複雑性の特徴。高級車の配車サービスや、民泊などが、複雑性から生まれたサービスの事例です。

Ambiguity:曖昧性

絶対的な解決策が見つからない状況のことを曖昧性といいます。前述の「Volatility:変動性」
「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」が組み合わさり、曖昧性になります。

具体的なVUCAの事例

ここからは、具体的なVUCAの事例を解説します。

Volatilityの事例

Volatility(変動性)の事例としてわかりやすいのが、技術の進歩です。インターネットの登場は、大きく世界を変えました。たとえば、2000年代初頭にスマートフォンが発売されました。それまで主流だった携帯電話の概念を大きく変えることに成功し、いまではスマートフォンが生活に欠かせない存在になっています。また、各種SNSも変動性の影響を受けやすい領域です。個人が手軽に情報発信できる場として浸透。いまでは「動画配信者」も職業のひとつと認識されるなど、新しい概念や情報は予測不可能となっています。

Uncertaintyの事例

Uncertainty(不確実性)の事例としては、自然災害がわかりやすい例です。特に日本は、大地震や台風、大雨など自然災害の影響を受けやすい国の一つ。自然災害は予測が難しく、ビジネスでイレギュラーになる存在です。これまでの傾向が自然災害一つで変わることもあり、不確実性の代表的な例になります。

Complexityの事例

ビジネス構造の複雑化は、メリットとデメリットの両方をもたらします。海外との生産や取引はボーダレス化が進み、海外企業が日本に参入したり、日本が海外企業に進出したりすることも増えてきました。
しかし、日本特有の規制や習慣がビジネスを複雑化している場合もあります。
たとえば、海外では一般的な一般の人がドライバーとして乗客を運ぶサービスは、日本では法的観点から実施が不可の場合がほとんどです。このように、特定の国や地域で成功した事例が、ほかの国や地域では法律や習慣によって複雑化し、成功するとは限らないのです。

Ambiguityの事例

価値観が多様化し、先の状況が曖昧になったことから、ビジネスの再現性の難しさが際立っています。消費者の好みが変わりやすく、従来の画一的な商品開発では商品が売れなくなっているのが理由。数年〜数十年前と同じ商品やサービスに注力し続けるのではなく、時代や消費者に合わせて商品やサービスの多様化を進めなければ、VUCA時代を生き残るのは難しいでしょう。

VUCA時代のマネージャーに求められる5つの要素

VUCA時代でも対応できる組織になるためには、マネージャーの素質も重要です。従来と同じ思考では、社会の変化についていけなくなるでしょう。VUCA時代のマネージャーに必要となる要素を5つ紹介します。

1. 明確なビジョン設定

曖昧で予測困難なVUCA時代では、環境の変化への対応が求められます。その際、明確なビジョンがなければ時代に振り回されることに。環境に適応しながら成功するためには、個人も企業も明確なビジョンが重要です。柔軟でありながらも一貫した考えを持つ人物が、マネージャーにふさわしいといえます。

2. 情報収集の徹底と精査

インターネットが普及した現在、社会の情勢は毎日のように変化しています。そのため、情報収集を欠かさず、現在の状況を把握しておくことが必要です。また、情報を集めるだけではなく「その情報が正しいかどうか」の判断も求められるでしょう。WebサイトやSNSには、不確定な情報や虚偽のある情報も多く掲載されています。信頼できる情報・ソースを見抜く精査力も、VUCA時代には不可欠な要素です。

3. 日常的な施策の立案・実行

VUCA時代では、従来のノウハウに頼るのではなく、自分たちで施策を立て、実行する力が必要です。新たな概念や変化が激しいVUCA時代において、従来のノウハウでは対応できない部分も多く、社会の変化についていけないためです。日常的に施策を実行するために、毎日ニュースに触れたり、新しい情報を取り入れることが重要です。新しい技術や経営ノウハウを学んでいくのも役立つでしょう。

4. メンバーのモチベート

多様性や価値観が重要視されるVUCA時代では、メンバーのモチベーションを上げることができるマネージャーが求められています。メンバーのモチベーションを上げて、個々の能力を活かしていく必要があるためです。
従来の企業では、部下に対する一方的な教育や指導が行われる場面も多くありました。しかし、一方的な教育では多様性は生まれず、社会の変化に取り残されてしまうでしょう。メンバーの多様性を認めるためには、上司が部下との個人面談を通して一人ひとりとコミュニケーションをとり、部下の本音を引き出すことを意識してください。

5. 選択と集中

時代の変化を理解するための情報収集だけではなく、必要な情報を選び出す取捨選択も重要です。また、情報が集まれば、施策を立てて実行する力も重要です。結果が出るまで、集中して施策に取り組みましょう。VUCA時代は変化が激しく、情報の選択と施策の実行の繰り返しです。決めた施策からぶれることなく、集中して実現させましょう。

VUCA時代の人材育成・教育のポイント

VUCA時代では、従来とは異なる人材育成が重宝されます。特に、時代の変化に適応し、柔軟に考えを変えていける人材が重要だといえるでしょう。

自発的な学びの支援

VUCA時代で成功するためには、自分から学んでいく姿勢が重要です。新しいノウハウや技術を取り入れていかなければ、時代に取り残されてしまいます。たとえば、企業側の支援としては、語学学校や資格取得の援助、留学のサポートなどがあげられます。一時的ではなく、生涯を通して学ぶ姿勢を持つ人物の育成、支援を行いましょう。

リーダー育成の促進

VUCA時代では、メンバーを率いるリーダーの資質が問われます。市場や消費者のニーズ変化に気付き、必要な手を打つ必要があるからです。また、現場の声を聞き入れ、経営陣に伝える役割も重要になるでしょう。変化が多いVUCA時代には、変化に対応できるリーダーの育成は必須です。マネジメント能力やリーダーシップの優れた人材の育成を目指しましょう。

個人に適合した教育

価値観が多様化するVUCA時代では、個人に適合した教育の重要性が増しています。個人の持つスキルや特性を把握し、活かしていく必要があるためです。これまでの常識や概念が通用しなくなるVUCA時代では、組織に頼った生き方ではなく、個々の専門性や能力を重視する傾向。これに伴い、社内教育も全体で同じことを行うのではなく、個人の能力や意欲に合わせた対応が求められるでしょう。

VUCA時代を乗り越えるためのフレームワーク

VUCA時代を乗り越えるために、新しい考え方が広まっています。従来のPDCAサイクルとは異なり、OODAループ、VUCAプライムなどが注目を集めています。

OODAループ

OODAループはウーダループと呼び、元はアメリカ空軍で使用されていました。
次の4つの言葉の頭文字で構成されています。

  • Observe(観察)
  • Orient(状況判断)
  • Decide(意思決定)
  • Act(行動)

OODAループの最初は、Observe(観察)。対象となる事柄を観察し、情報収集を行います。情報収集を行うことで、事柄の周囲環境や、競合企業の戦略を把握します。
次に、Orient(状況判断)。競合企業の状況分析を行います。状況から推測し、自社の方針を定めましょう。
続いて、Decide(意思決定)。決定した方針をもとに、具体的な施策を決定します。
最後に、Act(行動)。施策を実行に移して、OODAループが完遂されます。

OODAループは、素早く判断を下せるメリットがあります。PDCAサイクルよりも行動を重視しており、行動しながら考える方法です。ただし、ビジョンが明確でなければ、方向性に迷ってしまうので注意。ビジョンや目的を明確にし、OODAループを回すようにしましょう。

VUCAプライム

2007年にロバート・ヨハンセン氏が提唱したモデルが、VUCAプライムです。リーダーシップを重視し、VUCA時代に適応するための考え方をしています。
VUCAプライムの考え方は、次の4つです。

  • Vision
  • Understanding
  • Clarity
  • Agility

Vision

状況が予測不可能なVUCA時代では、リーダーは目標やビジョンを明確に持ち続けるべきだとされています。リーダーが持つべきビジョンは、従業員や取引先、消費者を納得させられる、論理的で説得力のある内容が求められます。

Understanding

状況把握を正確に行うことで、事業の不確実性を回避する効果があります。事業を進めていくなかで予測できない不確実性に直面した場合、状況の正しい理解が重要です。政治や経済、技術や法律などさまざまな知識を取り入れながら、状況の調査を行いましょう。

Clarity

予測不可能な出来事が起きた場合、状況を単純化してとらえる力も重要です。複雑な状況であればあるほど、理解が難しくなってしまうからです。物事を簡単にしてとらえることは、意思決定も簡単にします。

Agility

これまでにチャレンジしたことがない施策であっても、必要だと判断すれば素早い行動が大切です。意思決定から行動まで、機敏さを心がけましょう。また、素早い意思決定や行動は、ビジョンと目標達成に役立ちます。

まとめ

激変する社会に対応するため、VUCAの考え方が重要です。変化に対応できるかどうかで、企業が繁栄するか、衰退していくかが決まります。また、VUCA時代に対応するためには、次世代のリーダー育成も重要です。また、従業員全体で、OODAループ、VUCAプライムなどの考え方を共有する方法もひとつです。企業として支援を行うなど、時代の変化に柔軟に対応していきましょう。