企業にとって「次世代リーダーの育成」は、避けては通れないテーマです。単なる教育施策というよりも、組織の持続的な成長や変化を支える“経営戦略の柱”といえる存在です。とくに、変化のスピードが加速し、価値観が多様化する今の時代では、リーダーの力が企業の未来を左右する場面も増えています。

一方で、その重要性は理解していても、どこから手をつければよいのか分からず、なかなか育成が進まないという悩みもよく聞かれます。「制度はあるけれど機能していない」「育成に時間がかかりすぎる」「任せられる人材が見つからない」現場からこうした声が上がるたびに、課題の根深さが浮き彫りになります。

この記事では、リーダー研修の基本的な考え方や設計のポイントに加えて、海外の先進的な教育機関・研究機関の実践事例をもとにしたアプローチまで、幅広くご紹介します。組織の将来を支える人材をどう育てていくのか。そのヒントを探っていきましょう。

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リーダー育成が進まない日本企業の現状

まずは、日本企業が今どのような課題に直面しているのかを、調査データとともに整理してみましょう。表面的には「リーダー育成の重要性」は広く共有されているものの、実際の取り組みや成果にはまだ大きな差が見られます。

企業が抱えるリーダー不足への危機感

株式会社タナベコンサルティンググループの調査によると、57.6%の企業が「次世代のリーダーづくり・後継体制づくり」を人材育成の最重要課題に挙げています。他の課題を大きく引き離しており、将来の経営を担う人材が足りないという強い危機感が感じられます。

この背景には、急激なビジネス環境の変化や、組織の高齢化、事業承継の難しさといった複合的な要因があると考えられます。さらに、従来の育成方法では、こうした変化に対応しきれていないという実感が、企業の中に広がっているのです。

これまでのやり方では、次の世代のリーダーを育てるのが難しい、そんなジレンマを抱える企業が多いのが現状です。

進まない中小企業のリーダー育成

共通の課題があるにもかかわらず、企業ごとの取り組み状況には大きな差があります。たとえば労務行政研究所の調査では、96.6%の企業が階層別研修を行っていると回答していますが、リーダー育成をメインテーマにしているケースばかりではありません。むしろ、リスク対応など別の目的に重点を置く企業も少なくないようです。

またHR総研の調査によると、従業員数によってリーダーシップ研修の実施率に差があることも分かっています。大企業(従業員1,001名以上)では55%が研修を実施しているのに対し、中堅企業(301〜1,000名)では44%、中小企業(300名以下)になると32%にとどまります。

このような差は、中小企業が直面する「育成にかける余裕がない」という現実を反映しているのかもしれません。日々の業務に追われ、長期的な視点での人材育成が後回しになり、その結果、次のリーダーが育たないという悪循環に陥っているのです。

リーダー育成が後回しになる理由

注目したいのが、研修のテーマの偏りです。最近では「ハラスメント対応」や「コンプライアンス」など、リスク管理系の研修が重視される傾向が強まっています。実際、前出の調査では81.8%、78.0%の企業がこれらの研修を実施していると回答しています。

もちろん、こうした内容も組織にとって重要ですが、リーダー育成のような“未来志向”のテーマが後回しになってしまう傾向があるのも事実です。リスクを防ぐ力と、未来を切り拓く力の両方を育てていく、そのバランスが求められています。

「やっても効果が見えない」という不信感

研修や育成の重要性は理解されていても、「本当に効果が出ているのか分からない」という声が企業内で根強くあります。研修・人材開発支援を手がけるEdWorksの調査によると、研修によって「プラスの効果を実感した」と答えた受講者はわずか約3割にとどまりました。

成果が見えにくいがゆえに、リーダー育成の優先順位が下がってしまう。そんな構造的なジレンマが、多くの企業に共通する課題として存在しています。

参考:

株式会社タナベコンサルティンググループ「『2024年度 人材採用・育成・制度に関する企業アンケート調査』結果を発表」

日本経済団体連合会「人材育成に関するアンケート調査結果」

労務行政研究所「人材育成・教育研修の最新実態」

HR総研「人材育成『テーマ別研修』に関するアンケート調査 結果報告(2019年)」

EdWorks「企業研修と研修効果に関する実態調査」(2023年)

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リーダー研修の目的と進め方

ここからは、日本企業が抱える「育成への不安」をどう乗り越えるか、そのための基本設計について整理していきます。リーダー研修の目的や、リーダーシップ研修との違い、そして実際に設計する際に意識したいポイントについて見ていきましょう。

リーダー育成の3つの柱

リーダー研修とは、管理職やプロジェクトリーダーなど、現在リーダーの役割を担っている人、あるいはその候補者を対象に行う能力開発のプログラムです。個人としての成果だけでなく、チーム全体を動かす力や、組織を前に進める力を育てることが目的です。

リーダー研修の目的は、大きく3つの柱に分けられます。

役割の認識(Role Awareness)

まず必要なのは、「チーム全体の成果に責任を持つ」という意識への切り替えです。これまでのような“個人プレイヤー”ではなく、組織全体の目標に向かって行動できる「高い視座」が求められます。

体系的なスキル習得(Systematic Skill Acquisition)

戦略的な意思決定や、部下育成、コミュニケーション力など、リーダーに必要なスキルは多岐にわたります。OJTに頼りきるのではなく、段階的に学べるよう構成された研修によって、属人性を減らし、再現性のある育成を目指します。

人間性の育成(Leadership Character)

誠実さや共感力、困難を乗り越える胆力など、内面の力もリーダーには不可欠です。研修の場は、自分自身を見つめ直すきっかけにもなります。

「リーダー研修」と「リーダーシップ研修」の違い

よく混同されがちですが、「リーダー研修」と「リーダーシップ研修」には明確な違いがあります。

  • リーダー研修:役職者(管理職や部門長など)を対象とした、役割に必要な知識やスキルを身につける階層別の研修
  • リーダーシップ研修:役職に関係なく、すべての社員を対象に、自律的な行動や周囲を巻き込む力を高めるための研修

両者を区別せず一括で実施してしまうと、対象者によって内容が合わなくなってしまう恐れがあります。組織全体にリーダーシップの文化を根づかせる「リーダーシップ研修」を土台に、その上で役割に応じた「リーダー研修」を設計するのが理想です。

設計で押さえるべき4つのポイント

効果的なリーダー研修を設計するためには、次の4点が重要です。

目的と対象者を明確にする

「誰に、何を、なぜ学ばせるのか」をはっきりさせることが第一歩です。たとえば、新任の管理職には「部下との面談スキル」、幹部候補には「組織変革の推進力」など、役割に応じてテーマを調整しましょう。

研修形式を適切に選ぶ

内製か外部講師か、あるいはeラーニングか。それぞれにメリット・デメリットがあります。最近では、複数の形式を組み合わせる「ブレンデッドラーニング」も増えています。

実践とフィードバックの機会を組み込む

学んだことを現場で試し、振り返る時間をしっかり取ることで、学びが深まります。プロジェクトリーダーとしての経験を積ませるなどの“実地訓練”と、上司やメンターからのフィードバックがセットになると、より効果的です。

中長期的な育成計画に位置づける

リーダーの育成は一度きりの研修で完結するものではありません。人事制度や評価制度と連動させて、数年単位で継続的に取り組む視点が必要です。

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リーダー研修の効果を高めるための方法とは

ここからは、海外の教育機関や研究機関が実践している先進的なリーダー育成の手法をご紹介します。

目標を明確にするコンピテンシー・フレームワーク

「リーダー育成が思うように進まない一番の理由は、理想とするリーダー像が社内で明確になっていないことにある」そんな指摘も少なくありません。

評価基準が人によって異なれば、育成や評価に一貫性がなくなり、現場での混乱を招いてしまいます。

この課題に応えるのが、コンピテンシー・フレームワークという考え方です。これは、「リーダーシップ」という抽象的な概念を、具体的な行動特性の集合体として定義し、それを育成や評価の軸にしていくものです。

たとえば、アメリカのスタンフォード大学やウィスコンシン大学では、リーダーの行動を次の3つの領域に分けて整理しています。

  • Build Trust(信頼の構築):誠実さ、自己認識力、感情のコントロールなど
  • Drive Vision(ビジョンの推進):戦略的な思考、変化への柔軟さ、説明責任など
  • Cultivate People(人材の育成):部下の育成、チームでの協働、傾聴力、対立解決力など

このようにフレームワークを導入することで、育成のゴールが「なんとなくの期待」から「具体的な行動目標」に変わり、現場でも共通言語として活用しやすくなります。

現場で学ぶ70:20:10の法則

リーダー研修というと、つい、集合研修などの「座学」をイメージしがちです。でも実際は、リーダーとしての成長は、経験を通じてこそ深まっていくもの。

そんな考え方を支えるのが、米国のリーダー育成研究機関であるCenter for Creative Leadershipでも紹介されている70:20:10の法則です。

  • 70%:経験からの学習(新しい役割への挑戦やプロジェクトを通じた成長)
  • 20%:他者からの学習(上司・メンターからの助言やフィードバック)
  • 10%:研修などの形式的な学習(講義やeラーニングなど)

この法則が示すのは、「最も大きな学びは実践の中にある」ということです。

それにもかかわらず、多くの企業では“10%にすぎない座学”に人やお金を集中させてしまっているのが現実です。

この考え方を取り入れると、人事や育成担当者の役割も変わっていきます。単に研修を企画するだけでなく、「経験から学べる環境をどう整えるか」を考える“学習の仕組みづくり”が主な仕事になっていくのです。

失敗できる場をつくる実践型トレーニング

リーダーに求められるスキルには、対人関係や意思決定といった“机上では学びにくい力”が多く含まれます。こうしたスキルは、失敗を恐れず試行錯誤できる環境の中でこそ育まれます。

そのため、多くの研修では、ロールプレイやケーススタディ、診断ツールなどが積極的に活用されています。ミネソタ大学の記事でも、こうした実践的なアプローチが推奨されています。

たとえば、以下のような手法が有効です:

ロールプレイ

部下との1on1面談や、チーム内での意見対立といった場面を模擬的に再現し、実際に対応する練習を行います。

事前に想定される状況を設定し、参加者が役割を演じることで、現場で求められる具体的な対応力や対人スキルを身につけることができます。研修後には講師や他の参加者からフィードバックを受けることで、行動の改善点を客観的に把握できるのも大きな特徴です。

状況対応型リーダーシップモデル

このモデルは、部下の「今のレベル」や「やる気の状態」に応じて、リーダーが取るべき関わり方(指導スタイル)を柔軟に切り替えるという考え方です。米国の国防総省系教育機関「Defense Acquisition University」もこのモデルの重要性を指摘しています。

たとえば、新しい業務に不安を感じている部下には「丁寧な指示」を、ある程度慣れてきた部下には「任せる姿勢」や「支援的な声かけ」を選ぶといった具合に、状況ごとにアプローチを変える力が求められます。これにより、部下一人ひとりに合った最適なマネジメントが可能になります。

自己診断ツールの活用

自己理解を深めるための診断手法を活用すれば、自分の行動パターンや他者との関わり方の傾向を、客観的に把握することができます。ジョージア工科大学やフロリダ大学などのリーダーシップ研究でも、こうしたアセスメントの活用が効果的だとされています。

たとえば、「リーダーとしてどんな言動の傾向があるのか」「周囲からどのように見られているか」といった点が可視化されることで、自身の強みや成長課題をより明確に捉えることが可能になります。

こうした診断は、リーダーとしてのあり方を内省するきっかけとなり、適切な関わり方やマネジメントスタイルを見直す手助けにもなります。

共通して重要なのは、こうした内省の機会が、実際の場面を想定した“安心して試せる環境”と組み合わされていることです。知識として理解するだけでなく、実践的なスキルとして定着させるには、体験を通じた学びの場が欠かせません。

参考:

Center for Creative Leadership “Leadership Development Models”

Defense Acquisition University “Rethinking Leadership Competencies”

Georgia Institute of Technology “Leader Competency Model”

Stanford University “John Ralston Leadership Initiative Framework”

University of Florida “Leadership Competency Model”

University of Minnesota “Driving Success: Effective Strategies for Developing Leadership Skills in Your Organization”

University of Wisconsin–Madison “The UW–Madison Leadership Framework”

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まとめ

これからの人事や育成担当者に求められるのは、単に研修を企画・実施する役割を超えて、人材育成全体のしくみを設計する「育成のデザイナー」へと進化することです。

なかでもリーダーは、企業の未来を支える重要な人的資本。だからこそ、目先の成果だけでなく、長期的な視野に立った戦略的な育成が欠かせません。

こうした発想を持つことが、組織の競争力を底上げし、持続的な成長につながる大きな一歩となるはずです。

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