このページのまとめ
- マインドセットとは、個人が持つ「無意識下の思考や行動のパターン」のこと
- マインドセットが注目された背景は、ビジネスや人材育成の場面での有用性への期待
- マインドセットは、適切な研修によって鍛えられる
「マインドセット」とは、先天的に持って生まれた性格や後天的に身に着けたものの考え方です。本来、マインドセットは誰しもが持っているものですが、近年では人材育成の分野で注目されることが増えてきました。なぜ、今マインドセットが注目されているのか。マインドセットの意味や、マインドセット教育に企業が取り組むことの重要性について学んでいきましょう。
マインドセットとは
マインドセットとは、個人が持つ「無意識下の思考や行動のパターン」のことです。「ポジティブ」と呼ばれるような人は、本人が意識するかしないかは別として、いつも前向きに考えたり、行動したりしています。逆に、「ネガティブ」といわれるような人は、後ろ向きな考えや行動をしがちです。
このように、人が物事に対して何かを考えたり、行動を起こしたりするときの「癖」のようなものがマインドセットと呼ばれるものです。
マインドセットは、人が生まれ持った性質はもちろん、育った環境や学んできたこと、その人や周囲の価値観といった要素から形作られます。
マインドセットの特徴は、これが個人のうちにとどまらず、周囲に影響を与えたり、影響を与えられたりする点です。
たとえば、「自分にはできない」と思っていたことを、自分と同じような境遇の人が成し遂げたとしましょう。その姿を見て「私にも出来るかもしれない」と感じるようになる人は少なくないはずです。これは、今までは無意識で「不可能だ」と考えていたマインドセットが、「出来るかもしれない」というマインドセットに変わったとみることが出来る事例です。
マインドセットの種類
マインドセットは、大きく分けて「成長型マインドセット」と「停滞型マインドセット」に分けられます。
成長型マインドセット
成長型マインドセットは、「自らの境遇や能力は、努力で変えたり伸ばしたりすることが出来る」という前向きな考え方です。英語を直訳し、「グロースマインドセット」とも呼ばれます。
成長や変化のための努力や取り組みをいとわないため、考え方や行動がポジティブなものになります。
停滞型マインドセット
停滞型マインドセットは、「境遇や能力はあらかじめ決まっているもので、後から変えることができない」という後ろ向きな考え方です。「フィックストマインドセット」や「固定型マインドセット」とも呼ばれることがあります。
成長型マインドセットが変化や努力をいとわない考え方な一方で、停滞型マインドセットは、「努力したって変化や成長は得られない」というネガティブな考え方です。
成長型と停滞型、必ずしも一人がどちらか一方だけのマインドセットしか持っていないということではありません。
ある事柄については成長型マインドセットを、別の事柄には停滞型マインドセットを、さらに別の事柄には停滞型マインドセットを・・・という風に、一人が両方のマインドセットを持ち合わせていることが普通です。
このため、マインドセットを人材育成に活用するならば、育成したい人材がどのようなマインドセットの傾向があるのか、複数の事柄に対するマインドセットを踏まえて分析する必要があります。
ビジネスにおけるマインドセットの種類
最近では、ビジネスや人材育成の分野でマインドセットが注目されるようになりました。
周りに影響を与えたり、与えられたりするというマインドセットの特徴から、ビジネスで結果を出したり、企業にとって理想的な人材育成をしたりする手法の一つとして、マインドセット教育が注目を浴びるようになったのです。
ビジネスにおけるマインドセットを考える際には、マインドセットには個人のものと、企業のものがあることを認識する必要があります。
それぞれがどういうものなのか、確認していきましょう。
個人のマインドセット
従業員ごとに生まれも育ちも違い、得意なことや苦手なことも異なります。当然ながら、停滞型マインドセットの傾向が強い従業員もいれば、成長型マインドセットの傾向が強い社員もいます。
また、ある一人の従業員を見ても、事柄によってマインドセットの傾向は異なります。個人で出来る業務に対しては成長型マインドセットで取り組めても、チームでする業務については停滞型マインドセットで取り組む従業員もいます。
個人の持つマインドセットは、このように人や状況によって多種多様に渡ることを認識しておきましょう。
企業のマインドセット
企業は、これまでの業務の積み重ねや歴史、企業理念、経営方針、商品の特性や市場といったさまざまな要因から「社風」と呼ばれる文化を作ります。
一般的に、若いベンチャー企業は新たな分野への挑戦を繰り返し、大企業は既存の市場でのシェア拡大を重視するようなイメージが持たれます。
このように、企業ごとにもマインドセットと呼べるような、物事に対する無意識的な思考や行動パターンがあります。
企業のマインドセットは、個人のマインドセットにも大きな影響を与えます。
従業員は企業の一員として働いているわけですから、その企業が持つマインドセットによって、自身の思考や行動が左右されるようになります。
組織におけるマインドセットの重要性とは
個人や集団が持つマインドセットが注目されるようになったのは、ビジネスや人材育成の場面で、その有用性への期待が高まってきたからです。
なぜ、マインドセットに有用性があると期待されるのか、その理由を3つの観点からご紹介します。
マインドセットの「伝播性」
組織においてマインドセットが重要な理由として、その伝播性が第一に挙げられます。
既に解説したとおり、マインドセットは周りに影響を与えたり、与えられたりするのが特徴。一人の従業員が成長型マインドセットを持っていれば、周りの従業員も成長型マインドセットに変わり、いずれは企業全体が成長型マインドセットを持つ集団に変わる可能性もゼロではありません。
反対に、企業が停滞型マインドセットを持っているなら、そのネガティブな雰囲気が徐々に現場まで浸透し、従業員全体で停滞型マインドセットの傾向が強まることもあるでしょう。
このように、良くも悪くも企業活動に大きな影響を与える可能性があるのがマインドセットです。この伝播性という特徴を活用し、より人材活動やビジネスを効果的に行おうと考えられるようになっています。
従業員の意欲向上
従業員の業務に対する意欲向上につなげられる可能性があるのも、マインドセットに期待が集まる理由です。
成長型マインドセットは、「現状を変えることが出来る」という思考パターンなため、従業員が持てば自らの待遇を良くしたり、能力を上げたりしようと積極的に業務に取り組むようになります。
業務上の失敗についても前向きに捉えられるようになりますから、従業員が萎縮せず、新しいことに挑戦しやすい風土が整っていくでしょう。
従業員のキャリア意識向上
従業員のキャリア意識が高まるのも見逃せないポイントです。
成長型マインドセットを持った従業員は、現状を変えたり成功したりするための努力をいとわなくなります。自分が掲げた目標を達成するために必要なことを主体的に考え、行動するようになります。
このような思考と行動の傾向は通常の業務だけではなく、役職やポジションにも向けられます。
今よりも良い待遇になるにはどうすれば良いのか、より責任ある業務を任せてもらうために、今自分が何をすべきなのか。このように、従業員が自らキャリアについて考えることが増えるのが、成長型マインドセットの効果でもあります。
このような従業員が増えれば、リーダーシップを持った優秀な人材の育成や、企業に貢献出来るスキルの高い人材の育成がしやすくなるでしょう。
企業におけるマインドセット教育のポイント
これまで、マインドセットの概要や、マインドセットが企業にもたらす効果などについて見てきました。
では、実際に企業がマインドセットをビジネスや人材育成に活用する際、どのような形で従業員に教育をしていけば良いのでしょうか。企業がマインドセット教育をする際に、気を付けておきたいポイントを解説します。
成長型マインドセットの獲得が最重要
企業やビジネスの場面で好ましいのは、成長型マインドセットです。
新たな分野への挑戦や、努力や成長を好む成長型マインドセットは、ビジネスの分野でこそ求められる思考・行動パターンだといえます。
企業がマインドセット教育をする際には、この成長型マインドセットを獲得することが最重要。
成長型マインドセットを獲得するためには、さまざまなアプローチがあります。
まず、企業が組織として持っているマインドセットを変えていく方法です。
企業理念や経営計画を変えるという方法で、企業が持つマインドセットを成長型マインドセットに変え、それを従業員にも伝播させていくことができます。
ただし、企業がいくら成長型マインドセットを持っていても、全従業員が停滞型マインドセットなら、いずれ企業も停滞型マインドセットになってしまいます。
このような事態を避けるため、従業員に対するマインドセット教育をおろそかにしてはいけません。
役職ごとに求められるマインドセット
企業がマインドセット教育をする際には、従業員に対するマインドセット教育をしていく必要があります。
その際、対象となる従業員の属性によって、必要な要素も変わってきます。
ここでは、チームや部署を率いる立場にあるリーダーと、それ以外の従業員との違いを見ていきましょう。
リーダーに対するマインドセット教育
リーダーに対するマインドセット教育は、その他の従業員以上に成功型マインドセットを意識しなければなりません。リーダーは業務上、ほかの従業員と接する機会も多く、マインドセットが部下へ影響しやすいからです。
リーダー自身が自分がもつ影響力を自覚した上で、成功型のマインドセットを身につけるよう努力する必要があります。従業員に対して、成長や挑戦を促す一方、自分自身も成長や挑戦を避けず、真っ向から立ち向かう姿勢を見せることが重要です。
従業員に対するマインドセット教育
一方、リーダー以外の従業員へのマインドセット教育も重要です。
リーダーや指導者に比べると、業務への責任感や達成感が小さくなりがちですから、成功型マインドセットを身につけるためには、小さな成功体験を積み重ねる必要があります。本人さえ気づかないような小さな成功体験に周りが気づき、褒めることで徐々に成功型マインドセットを身につけることが出来るようになります。
また、一従業員が企業やチームのビジョンや目標を語ることも重要です。成長型マインドセットを身につけるには、まず「現状を変えられる」という認識を持たないといけません。理想を語り、失敗を恐れない思考パターンを身につけてはじめて、成功型マインドセットに近づくことができます。
マインドセット研修の手順
では、実際にマインドセット教育を研修として行う場合の具体的な手順を紹介します。
マインドセット研修を行う際には、次の3ステップを踏みます。
目標とするマインドセットのあり方を決める
まずは、目標とするマインドセットのあり方を決めます。
「成功型マインドセット」と一口に言っても、企業が置かれている状況によって具体的な思考や行動は別のものになります。
新しい分野へ参入するために従業員にどんどん資格やスキルを身につけてもらいたいのか、今の市場での競争力を高めるために失敗を恐れないメンタリティを鍛えてほしいのか、成長型マインドセットの中でどういった点を重視し、目標にしてほしいのかを決めましょう。
研修時期や対象を決める
目標とするマインドセットが具体化できたら、研修時期や対象を決めます。
マインドセットを変えるというのは、言い換えれば新たな価値観や信念を持ってもらうということです。
このため、研修をするタイミングは、従業員がこれまでの環境から離れるタイミングがおすすめです。具体的には、学生から社会人へと変わる新人研修、管理職にあがる際の管理職研修などが考えられます。
研修の中身を決める
最後に、研修の中身を決めていきます。
この際にぜひ取り入れるべきなのは、次の3点です。
- マインドセットについて知る
- 自分の傾向を知る
- 目標との乖離を知る
第一に、マインドセットと何か、どのような特徴があるのかを知らなければ適切にコントロールが出来ません。そのうえで従業員に、自分が停滞型マインドセットの傾向があるのか、成長型マインドセットの傾向があるのかを分析してもらいましょう。
自身の現在の状況が分かったら、次は設定した目標と今の自分のマインドセットとの違いを認識してもらうことが重要です。
現状と目標の乖離を認識することで、目標到達までの方法や課題を考えやすくなります。
まとめ
企業活動の基本は商品や市場だけではなく、従業員も重要です。その従業員が持っているマインドセットが停滞型なのか成長型なのかで、企業の活力が左右されます。
もちろん、企業が持つマインドセットにも同じことがいえます。
マインドセットを変えることは容易ではありませんし、そもそも認識しなければ変えることもできません。
まずは、自社の置かれた状況を分析し、今のマインドセットで目標達成ができるのか確認。改善が必要なら従業員に対するマインドセット教育の導入も検討してみましょう。