新入社員が早く職場に馴染み、力を発揮できるかどうかは、その後の成長だけでなく、企業全体の活力にも影響します。しかし現実には、育成がうまく進まず、早期離職や戦力化の遅れに悩む企業も少なくありません。

本記事では、新入社員が活躍できる環境を整えるための課題と対策を整理し、育成施策や海外の事例も交えながら、管理職や人事担当者が押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。

新入社員が早期に活躍する重要性と日本の現状

企業にとって、新入社員ができるだけ早く職場に慣れ、活躍できるようになることは、生産性の向上や将来の組織の成長につながるとても大切なテーマです。

ところが、日本では新卒社員の早期離職がなかなか減らず、多くの企業にとって長年の課題となっています。

厚生労働省の調査によると、大卒で入社した新入社員のうち、約3割が3年以内に会社を辞めており、1年目で約10%、2年目で約20%、3年目で約30%と、年数が経つごとに離職率が高まる傾向があります。

こうした早期離職は、採用や育成にかけたコストが無駄になるだけでなく、人手不足がさらに深刻になったり、社内のノウハウが次の世代にうまく引き継がれなかったりといった問題も引き起こします。

また、会社に残っている新入社員の中にも、十分に力を発揮できておらず、「もったいない状態」になっているケースも少なくありません。

新入社員が安心して定着し、自分の力をしっかり発揮できるような職場環境をつくることは、多くの企業にとって、すぐにでも取り組むべき大きな課題だと言えるでしょう。

参考:

厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況に関する資料(就職後3年以内の離職率など)」

TalentClip「離職率が高い原因とは?定着率を上げるための対策と事例を紹介」

管理職・人事が直面する新入社員育成の課題

新入社員が職場にしっかりと定着し、早い段階で力を発揮できるように育てていくためには、現場の管理職や人事担当者による丁寧なサポートが欠かせません。

一方で、そうした育成の過程ではさまざまな悩みや壁があり、多くの企業が頭を悩ませているのが実情です。ここでは、よく見られる課題を3つに分けて紹介します。

モチベーションとメンタル管理の難しさ

リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、育成担当者が最も苦労しているのは「新入社員のメンタル面やモチベーションの管理」(26.1%)です。

そのほかにも、「考え方や価値観の違い」(23.7%)、「どう関わればよいか分からない」(16.2%)といった声も多く、若手との世代間ギャップや指導スキルの難しさが大きな課題となっていることがわかります。

OJTの負担の偏りと時間不足

「新人育成をOJT担当者一人に任せきりにするのは難しい」という声も少なくありません。現場では、通常の業務と新人指導の両立が難しく、時間的な余裕がなくなったり、育成の負担が特定の社員に集中したりしているケースが多く見られます。

実際の調査では、多くの育成担当者が「ほぼ毎日」新入社員とやりとりしているにもかかわらず、「期待通りに育った」と感じているのはわずか44.2%でした。また、67.8%が「成長を実感するまでに3カ月以上かかった」と回答しており、思うように成果が見えず、もどかしさを感じている様子がうかがえます。

関係構築の難しさとリモート勤務の影響

近年ではリモートワークの広がりも、育成を難しくする一因となっています。企業の人材育成を支援する日本能率協会マネジメントセンターの調査によると、在宅勤務中の新入社員のうち、15.5%が「上司や先輩とうまく関係を築けていない」と感じていると報告されています。

対面でのちょっとした声かけや相談が減ったことで、信頼関係をつくるチャンスが少なくなり、不安を抱えたままの状態になりやすいのが現状です。

このように、新入社員の育成にはメンタル面のケアから信頼関係づくり、指導体制の見直しまで、多くの視点からの支援が求められます。管理職や人事担当者にとっては、従来以上にきめ細かな対応が求められる時代になっていると言えるでしょう。

参考:

リクルートマネジメントソリューションズ「育成に関する実態調査(新入社員のモチベーション管理が最も難しいという声)」

日本能率協会マネジメントセンター「新入社員意識調査2023:リモート勤務で上司・先輩との関係構築が課題に」

新入社員育成に関する海外の事例

新入社員の育成には多くの課題があり、管理職や人事担当者が一人で抱えるには限界があります。こうした中で、育成のヒントを得るためにどうすればよいのか、海外での取り組みも含めて紹介します。特に注目されているのが、メンター制度や段階的な研修などを取り入れた「オンボーディング」と呼ばれる考え方です。

オンボーディングとは何か?

オンボーディング(onboarding)とは、新入社員が会社にスムーズに馴染み、安心して働けるようにサポートする仕組みのことです。入社手続きだけで終わるのではなく、入社後の数週間から数カ月にわたって、職場の雰囲気や仕事の進め方に慣れてもらうための支援を段階的に行う取り組みです。

SHRM(Society for Human Resource Management)の記事によると、質の高いオンボーディングを行うことで、新入社員のやる気(エンゲージメント)が高まり、会社に長くとどまってもらいやすくなるとされています。また、こうした仕組みをしっかり設計することで、仕事の習得が早まり、生産性の向上にもつながると報告されています。

計画的なOJTが定着と活躍のカギに

アメリカの学術誌Journal of Clinical and Translational Scienceに掲載された2023年の論文では、新人や若手社員が職場でうまくスタートを切るための取り組みについて、さまざまな研究結果をもとにまとめられています。

その中でも特に効果が高いとされているのが、「計画的に準備されたOJT(現場での実践的な指導)」です。事前に内容や流れをしっかり考えて進めるOJTは、新入社員が自分の役割を理解しやすくなり、仕事に早く慣れて力を発揮しやすくなると紹介されています。

これは、行き当たりばったりの指導ではなく、「どう教えるか」「どんなサポートが必要か」をあらかじめ設計しておくことが、新人の育成にとって大きな効果をもたらすことを示しています。日本の職場でも、こうした考え方は参考になりそうです。

「企業文化の押し付け」ではなく「個性の尊重」が成果につながる

ハーバード・ビジネス・スクールの記事では、オンボーディングを行うときに「会社の文化を一方的に教える」のではなく、新入社員それぞれの強みや個性を活かす関わり方の方が効果的だと紹介されています。

実際にこの考え方を取り入れた企業では、社員のやる気や満足度が高まり、離職率が下がったり、業績が伸びたりするなど、良い変化が見られたと報告されています。

一人ひとりが「自分らしく働ける」と感じられることが、会社に貢献したいという気持ちを引き出す大切なポイントになるのです。

このように、海外では新入社員が安心して職場に馴染み、力を発揮できるようにするためのさまざまな工夫が研究・実践されています。

日本の企業にとっても、こうした取り組みをヒントにしながら、自社に合った育成の仕組みを整えていくことが、新入社員の定着と早期活躍につながるはずです。

参考:

SHRM(Society for Human Resource Management)“Onboarding: Strategies to Help New Employees Succeed”

PubMed Central(米国国立医学図書館)“Bridging the Gap: Evidence-Based Strategies to Support Early-Career Professionals”

Harvard Business School “Reinventing the Onboarding Process”

新入社員を早く活躍させるための施策

ここからは、これまでに紹介してきた課題や海外での事例をふまえて、新入社員が早い段階で職場に馴染み、力を発揮できるようにするための具体的な取り組みを紹介します。

メンターやバディ制度を導入する

新人一人ひとりに、先輩社員がメンター(またはバディ)として付き、日々の仕事や気持ちの面をサポートする仕組みです。メンターは業務の進め方や社内のルールを教えるだけでなく、「ちょっとした不安」や「気になること」を相談できる身近な存在にもなります。

SHRMの記事によると、こうした制度は新入社員の立ち上がりを早め、職場へのなじみやすさや満足感を高めることで、定着率の向上にもつながるとされています。

特に、入社直後は上司には聞きにくいような小さな疑問や不安も多くあります。バディがいれば、そうしたことも気軽に話せるため、安心感と学びのスピードがぐっと上がります。

この制度をうまく機能させるには、適切な先輩を選び、期待される役割をきちんと伝えることがポイントです。また、メンターとの相性や関わりの頻度にも配慮し、人事がフォローに入る仕組みをつくっておくと、より安心して運用できます。新入社員が「自分は大切にされている」と感じることが、やる気や自信につながっていきます。

エンゲージメントを高める工夫をする

新入社員が早く活躍できるようになるためには、「ここで働きたい」「この仕事を頑張りたい」と思える気持ち(エンゲージメント)を高めることがとても大切です。

そのためにまず大事なのは、「自分はチームの一員だ」と感じられること。例えば、入社直後に歓迎ミーティングや懇親会を開いて顔合わせの場をつくる、経営層からメッセージを送ってもらう、といった取り組みが効果的です。

また、小さな目標でもよいので「成果を出せた」という経験を積ませることも、モチベーションの維持に役立ちます。

例えば、入社後30日・60日・90日といった節目ごとに達成可能なミッションを設定し、小さな成功体験を積み上げていきます。定期的な1on1面談で進捗を確認しながら、努力に対するフィードバックや「よく頑張ったね」という声かけを忘れずに行うことも大切です。

さらに、新入社員の得意なことを活かせる場を用意することもおすすめです。例えばITが得意な人には業務改善の提案を任せたり、アイデアが豊かな人には新商品に関する意見を出してもらったりすることで、「自分の力で貢献できた」という実感が生まれます。

このように、「自分も役に立っている」「会社に必要とされている」と感じられることが、エンゲージメントの向上につながり、早期活躍にもつながっていきます。

小さな成功体験をつくる機会を提供

新入社員が早く成長し、職場で活躍できるようになるには、座学の研修だけでなく、実際の仕事を経験することも欠かせません。そこで効果的なのが、新人向けに設計された初期プロジェクトへの参加です。

例えば、入社後すぐの3カ月間に取り組む「ミニプロジェクト」を用意し、業務の一部を任せてみる。難しすぎず、でもやりがいのある内容にすることで、仕事を通じた学びや達成感が得られます。

このとき大切なのは、仕事の難易度を少しずつ段階的に上げていくことと、必要なときに上司やメンターからサポートを受けられる体制をつくっておくことです。プロジェクトの進捗を見守りながら、適宜アドバイスをすることで、安心して取り組める環境が整います。

実際の仕事を通して得られた経験は、座学よりも記憶に残りやすく、自信ややる気にもつながります。周囲からの信頼も得られ、「この人なら任せられる」と思ってもらえるようになります。こうした小さな成功体験の積み重ねが、将来の活躍につながる土台をつくるのです。

参考:

SHRM(Society for Human Resource Management)“The Advantage of a Buddy System for New Hires”

Harvard Business School “Reinventing the Onboarding Process”
PubMed Central(米国国立医学図書館)“Bridging the Gap: Evidence-Based 

新入社員育成を実践する際のポイントと注意点

ここまで紹介してきた施策を実際の職場でうまく活かすには、管理職や人事担当者がいくつかのポイントを意識して取り組むことが大切です。以下では、実践にあたって特に気をつけたい点を4つ紹介します。

メンターは「経験」より「適性」で選ぶ

メンターやバディを選ぶときは、「経験年数が長いから」という理由だけで決めるのではなく、後輩にしっかり向き合える人かどうかを重視しましょう。例えば、人の話をよく聞ける人、教えることに前向きな人、コミュニケーションが得意な人などが適任です。

メンターには事前に役割や期待を伝え、必要に応じて簡単な研修も行いましょう。また、本人に負担がかかりすぎないよう、業務量の調整や、人事が相談に乗れる体制を整えておくことも重要です。

周囲の先輩たちにも「育成はみんなで支えるもの」という意識を持ってもらい、一人に責任が集中しないよう工夫しましょう。

こまめな対話とフィードバックを大切にする

新入社員の不安や悩みを早めにキャッチするためには、日頃のコミュニケーションがとても大切です。

週1回や月1回など、定期的に1on1面談の時間を設けて、仕事の状況や気持ちの変化について話を聞くようにしましょう。フィードバックをする際は、良かった点と改善点の両方を伝え、「どうすればもっとよくなるか」を具体的にアドバイスすると前向きに受け取ってもらえます。

また、話しやすい雰囲気づくりも忘れずに。リモートワークの環境では、雑談やちょっとした相談がしにくくなりがちなので、チャットやビデオ通話など複数の手段を使って、こまめに声をかけましょう。

一人ひとりに合った関わり方を考える

同じ時期に入社した新入社員でも、性格や得意なこと、考え方はそれぞれ違います。だからこそ、画一的な育成ではなく、その人に合った対応が必要です。

例えば、自信がなさそうな新人には、小さな成功体験を積ませて自信を育てる。逆に、やる気に満ちている新人には、やりがいのある仕事を任せて意欲を保つ。こうした工夫が、成長スピードやモチベーションに大きく影響します。

また、若手ならではの考え方(例えば柔軟な働き方やデジタル活用への意識)にも理解を示し、頭ごなしに否定せず対話を重ねることが信頼関係につながります。新人から出たアイデアや改善提案も前向きに受け止めることで、自発的な行動を引き出すことができます。

育成は「長い目」で見る

早く活躍してほしい気持ちはあっても、焦りは禁物です。入社後すぐに成果を出すのは簡単ではなく、最初は時間がかかって当然だと考えることが大切です。

新人の育成は、3ヶ月〜1年といった中長期で見守っていくもの。万が一、配属先が合っていないと感じたときには、配置転換や支援体制の見直しも柔軟に検討しましょう。

大切なのは、一時的な結果にとらわれず、「この人が将来活躍するために、今なにが必要か」という視点で支援し続けることです。少しずつでも前に進んでいけるような環境づくりが、新入社員の安心と成長につながります。

参考:

リクルートマネジメントソリューションズ「育成に関する実態調査(新入社員のモチベーション管理が最も難しいという声)」

まとめ

新入社員が早い段階で職場に馴染み、力を発揮できるようになることは、企業にとって大きなプラスになります。現場の生産性が上がるだけでなく、チームの雰囲気が活気づき、新人自身も自信とやりがいを感じながら成長していくことができます。

こうした好循環を生み出すには、オンボーディングや育成の仕組みを丁寧に整えることが欠かせません。新人が安心して働ける環境があれば、定着率が高まり、いずれは組織を支える存在へと育っていきます。また、新人ならではの視点や発想が、職場に新しい風を吹き込み、組織にとっての刺激や変化にもつながるでしょう。

さらに、育成に力を入れている姿勢は、社外からの信頼や評価にも直結します。「この会社は人を大切にしている」と思ってもらえることは、採用の面でも大きな強みになります。

新入社員の育成は、単なる人材教育にとどまらず、企業の競争力を高めるための重要な取り組みです。管理職や人事の皆さんは、自社に合った育成のあり方を見直しながら、一人ひとりの可能性が伸びていく職場づくりを進めていきましょう。

参考:

SHRM(Society for Human Resource Management)“Onboarding: Strategies to Help New Employees Succeed”