管理職の皆さんの中には、「相対評価はもう時代に合っていないのではないか」「部下から不公平に思われていないか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。実際、米国のビジネスメディアであるHarvard Business Reviewの報告によれば、米国企業の3分の1以上が従来型の人事評価(年次評価など)を廃止しています。

一方で、相対評価はいまも多くの企業で活用されており、日本企業でも人事評価に取り入れられるケースは少なくありません。適切に運用すれば、社員の成長を促す有効な仕組みになり得るという意見もあります。

本記事では、相対評価と絶対評価の違いから、相対評価のメリット・デメリット、そしてデメリットを乗り越えるための工夫や導入ステップについて、具体的に解説していきます。

参考元:
Harvard Business Review “The Performance Management Revolution”

相対評価とは?絶対評価との違いを整理

相対評価とは、集団内での比較に基づいて成績や評価ランクを決める方法です。「上位○%はAランク、その次の○%はBランク」といったように、あらかじめ評価の枠組みを設定し、その枠に従って各人を割り振ります。

一方、絶対評価は「決められた基準にどれだけ達したか」で評価を行い、他者との比較はしません。たとえば営業成績であれば、絶対評価では「年間○○件成約」という目標達成度に応じて評価されますが、相対評価では「チーム内で上位○番目」といった順位によって評価が決まります。

相対評価の典型例として、「強制分布(ベルカーブ)」という運用方法があります。これは「高評価:通常評価:低評価」をたとえば2:6:2の割合で設定し、その比率に基づいて社員をランク分けする仕組みです。このため、たとえチーム全員が目標を達成していても、必ず一定数の低評価者が出ることになります。

強制分布は、評価のばらつきを抑えたり、評価者による基準の甘辛を調整したりする効果がある一方で、「全員が成果を出していても誰かに低評価を付けざるを得ない」という課題も抱えています。

ここからは、こうした相対評価の基本を踏まえたうえで、具体的なメリット・デメリットを見ていきましょう。

参考:
HRBrain「相対評価とは?絶対評価との違いやメリット・デメリットを解説」

Unipos「人事評価制度の課題とは?制度設計で押さえるべきポイントを徹底解説」

部下が感じる「不公平感」の根拠

相対評価による人事評価は、公平に運用されなければ、部下に不満や不信感を抱かせるリスクがあります。実際、日本国内では多くの働く人々が自社の人事評価制度に不満を感じているのが現状です。

アデコ株式会社が実施した「人事評価制度に関する意識調査」によると、自社の評価制度に不満を抱いていると回答した人は62.3%にのぼりました。不満の理由として最も多かったのは「評価基準が不明確」(62.8%)、次いで「評価者の価値観や経験によるばらつきで不公平に感じる」(45.2%)という結果が出ています。

つまり、何をどう評価されるのかが社員に十分伝わっていなかったり、上司ごとに評価基準が異なると感じられたりすることで、部下は強い不公平感を覚えてしまうのです。

さらに、相対評価にはもともと構造的な不公平が内在しているとも指摘されています。相対評価では、個人の成果ではなく周囲のレベルによって評価が左右されるため、優秀な社員が多い部署では、相対的に評価が低くなりやすい傾向があります。

逆に、全体の成果レベルが低い部署では、それほど目立った実績がなくても高い評価を受ける可能性が出てきます。この仕組みは、部下の立場から見ると「自分は十分に成果を出しているのに、周囲が優秀だから低評価になる」という不満につながりやすいのです。

また、リクルートマネジメントソリューションズが実施した「人事評価制度に関する実態調査」でも、社員が感じる不満の理由として「何を頑張ったら評価されるのかがわからない」「努力しても正当に報われない」といった声が多く挙げられています。こうした実態は、相対評価の運用だけでなく、制度設計や運用の透明性にも課題があることを示しています。

このように、相対評価をめぐる部下の不公平感には、評価基準の不透明さと、相対評価という仕組み自体に起因する構造的な問題の両方が関係しているといえるでしょう。

参考:

リクルートマネジメントソリューションズ「人事評価制度に関する実態調査」
パーソル総合研究所「人事評価制度への意識と課題2024」

アデコ「『人事評価制度』に関する意識調査」

組織にとっての相対評価のメリット

相対評価には難しさもありますが、適切に運用すれば組織に大きなメリットをもたらします。以下では、具体的な4つのメリットを紹介します。

評価のしやすさと整合性の確保

相対評価は他者との比較によって順位付けを行うため、絶対評価に比べて評価基準のブレが少なく、複数の上司間でも評価の整合性を取りやすくなります。

あらかじめ評価ランクの割合を定めることで、「誰を高評価、誰を低評価にするか」という判断もしやすくなり、主観に頼りすぎずに済む点も特徴です。

人件費コントロールへの寄与

また、相対評価には経営面でのメリットもあります。評価の分布を事前に設定しておけば、高評価者にボーナスを厚く、低評価者には抑えめに配分するなど、人件費のコントロールがしやすくなるでしょう。

限られた昇給・賞与の原資を効果的に配分できる点は、経営にとって大きな利点といえるでしょう。

社員の競争意識と成長促進

さらに、相対評価は社員同士の競争意識を高め、成長を促す効果も期待できます。評価の結果が明確に示されることで、社員は互いに切磋琢磨し、業績向上やスキルアップに積極的に取り組むようになります。

リーダー育成と組織全体の底上げ

米国の人事専門団体SHRMが発表した記事によると、本気のリーダー育成を素早く進めたい場合には、強制ランク付け(相対評価)が有効な手段であると指摘されています。

実際、強制分布を活用することで、評価上位者には昇進のチャンスを与え、下位者には改善を促すメッセージを送り、組織全体の底上げを図る取り組みが進められています。こうした仕組みにより、実力主義・成果主義の文化を醸成し、ハイパフォーマーの発掘と育成を促進できる可能性も広がります。

参考:
SHRM “Forced Ranking: Making Performance Management Work”

相対評価のデメリット

相対評価を導入する際には、いくつか注意すべきデメリットも存在します。以下では、主な2つのリスクを紹介します。

モチベーション低下と離職リスク

相対評価では、仮に全員が目標を達成していたとしても、必ず一定数の低評価者が出る仕組みになっています。

そのため、「頑張ったのに納得できない評価だった」と感じる社員が生まれやすく、努力が報われないという思いからモチベーションが低下してしまうリスクがあります。こうした不満が蓄積すると、社員の会社へのエンゲージメント(愛着心)が下がり、生産性にも悪影響を及ぼします。

パーソル総合研究所が発表した調査によると、約5人に2人(40%)が自社の人事評価制度に不満を持っており、不満を抱えながら働くことはパフォーマンスの低下や離職リスクの高まりにつながると指摘されています。

公平さを欠いた評価制度は、優秀な人材の流出という大きな代償を招く恐れがあるのです。

チームワークの低下と組織風土の悪化

もう一つのデメリットは、チームワークの低下です。相対評価によって社員同士の競争が過剰に激化すると、協力し合う雰囲気が損なわれる可能性があります。

競争意識が強まるあまり、他人の足を引っ張ったり、自分の成果だけを優先する行動に走る社員が出ることも考えられます。

米国の人事専門団体SHRMが発表した記事によると、強制的なランク付け(相対評価)がもたらす弱肉強食の社風は、チームワークを重視する企業文化にとって毒になり得ると警鐘を鳴らしています。

組織内の一体感が損なわれ、協力よりも個人の成果を優先する風土が広がるリスクには注意が必要です。

管理職に求められる配慮とは

こうしたデメリットを踏まえると、管理職には、単に社員をランク付けして終わりにするのではなく、適切な対応が求められます。

具体的には、評価運用の透明性を高めること、公平性を担保すること、そして評価結果に対して丁寧なフィードバックやフォローアップを行うことが重要です。部下が納得感を持って働ける環境をつくることで、相対評価に伴うネガティブな影響を最小限に抑えることができます。

相対評価を機能させる5つのチェックポイント

相対評価のメリットを活かし、デメリットを最小限に抑えるためには、制度設計と運用にいくつかの工夫が必要です。ここでは、管理職が押さえておきたい5つのチェックポイントを紹介します。

評価基準の明確化と透明性

まず大切なのは、評価基準を明確にし、社員に対して透明性を高く示すことです。評価項目やランクの定義が曖昧なままでは、「上司のさじ加減で評価されているのではないか」という不信感を招くおそれがあります。

政府の人事指針でも、人事評価制度には公正さと透明性が求められ、評価項目や基準をあらかじめ明示することが重要とされています(内閣人事局「人事評価ガイド≪制度全般編≫」)。

また、評価結果についても可能な範囲で開示し、社員が自分の立ち位置を把握できるようにすることが望まれます。

評価者のトレーニングと評価基準のすり合わせミーティング

次に重要なのは、評価者である上司に対するトレーニングと評価基準のすり合わせです。相対評価では全員の序列を決めるため、個々の評価者の基準がばらついていては公平な評価が成り立ちません。

評価基準のすり合わせミーティングでは、部署を超えて評価者が集まり、評価結果を持ち寄って議論し、甘辛や主観的なばらつきを是正します。具体的な成果や行動事例に基づき、「なぜこの評価にしたのか」を突き合わせることで、より一貫性のある評価が可能になります。

米国の人事専門団体SHRMも、評価基準のすり合わせを行う際は、初回は経験豊富なファシリテーターを配置し、データに基づいた議論を促すことが重要だと提言しています。評価者同士の基準を揃える取り組みが、制度全体の公正性を高めます。

競争と協調のバランスに配慮する

相対評価は社員間の競争を促す仕組みでもありますが、競争が行き過ぎるとチームワークを損ないかねません。個人主義が強まり、互いの足を引っ張り合うような環境になってしまうリスクもあります。

このリスクを避けるためには、個人の成果だけでなくチームへの貢献や協働姿勢も評価対象に含めることが効果的です。たとえば360度フィードバックや、チーム目標達成度の評価を取り入れることで、協力しながら成果を上げる行動を促進できます。

過剰な競争意識が職場に緊張感を生み、安心して働きにくくなるという指摘もあります。相対評価を運用する際は、健全な競争意識とチーム全体の協力意識のバランスを意識することが大切です。

フィードバックと人材育成の徹底

評価は結果を通知するだけで終わりではなく、フィードバックを通じて成長につなげることが本来の目的です。評価後には必ず被評価者と1対1で面談を行い、評価理由や今後の期待を丁寧に伝えましょう。

特に評価が低かった社員には、建設的なアドバイスとともに次の目標設定を行うことが重要です。フィードバックの機会を活用し、部下にとって「どこをどう伸ばせばよいか」が明確になるようサポートすることが、モチベーション向上とスキルアップにつながります。

単に書面で結果を通知するだけでなく、対話を重ねて理解と納得を促すことが、相対評価を人材育成のサイクルに組み込むカギとなります。

評価結果の活用と処遇への連動

最後に重要なのは、評価結果を適切に処遇へ反映することです。社員にとって評価制度の納得感を左右するのは、「その評価が自分にどう返ってくるか」という点です。

評価結果が昇進・昇格や報酬に反映されない場合、社員は評価そのものに意味を見出せず、モチベーションを失ってしまいます。実際、評価結果が処遇に結びつかないことを不満に感じる社員は少なくありません。

高評価者には昇給・昇進や新たな挑戦機会を与え、低評価者には改善支援策や研修機会を設けることで、評価制度に対する納得感と信頼感が高まります。米国の人事専門団体SHRMも、強制ランキング制度においては「評価後に取る具体的なアクションこそが最も重要」としています。

評価結果を放置せず、きちんと処遇や育成施策につなげることで、組織全体の成長サイクルを回すことができます。

このように、相対評価を単なる順位付けに終わらせず、透明性・公平性・成長支援・処遇連動を意識して運用することが、制度を機能させる最大のポイントとなります。

参考:
HRBrain「相対評価とは?絶対評価との違いやメリット・デメリットを解説」
パーソル総合研究所「人事評価制度への意識と課題2024」

アデコ「『人事評価制度』に関する意識調査」
内閣人事局「人事評価ガイド≪制度全般編≫」

ミイダス「相対評価の導入メリット・デメリットを解説」

大阪市「令和5年度人事評価結果の公表」
SHRM “Improving Performance Evaluations Using Calibration”

SHRM “Forced Ranking: Making Performance Management Work”

相対評価の導入・見直しの流れ

相対評価を新たに導入する場合や、現行の評価制度を見直す場合には、段階を踏んだ進め方が不可欠です。アデコの「人事評価制度に関する意識調査」では、約8割近くの社員が「自社の人事評価制度は見直しが必要」と感じていることが報告されています。

制度改善を検討する際は、闇雲に変更するのではなく、以下のステップに沿って進めるとスムーズです。

1. 現状の課題を洗い出す

まず、自社の評価制度に対する社員の満足度や不満点を把握します。アンケートや面談を通じて、「何が不公平と感じられているか」「運用上のボトルネックはどこか」を洗い出しましょう。

たとえば、「評価基準が不明確」「上司間で評価にばらつきがある」「フィードバックが不足している」などの課題が挙げられていないか確認します。現状を正確に直視することが、改革の第一歩となります。

2. 評価制度の目的・方針を明確にする

次に、新しい評価制度の目的を明確に定義します。「社員のやる気を引き出す」「公正性への不信を払拭する」「次世代リーダーを育成する」など、目指す方向性を経営層・人事部門間で擦り合わせます。

自社の経営理念や事業戦略と整合させることも重要です。たとえば「挑戦と協働」を重視する企業であれば、成果だけでなく協働姿勢やチャレンジ精神も評価対象に含めるべきでしょう。相対評価と絶対評価のバランスについても、この段階で方針を決めます。

3. 評価手法と基準を設計する

続いて、具体的な評価手法と評価基準を設計します。相対評価を導入する場合、どの単位(部署単位、職種単位など)でランク付けを行うかを決める必要があります。あまり母集団が小さい場合は、複数部署合同での評価も検討するとよいでしょう。

評価段階の設定(例:A〜Eの5段階)や分布比率の決定、絶対評価要素(目標達成度など)の取り入れ方もここで設計します。評価基準はできる限り具体的かつ定量的に定め、評価者間の共通理解を促すことが重要です。

厚生労働省の指針でも、印象や性格ではなく、実際の行動や成果に基づいて評価し、基準と行動例を明示することが求められています。

4. 社内周知と合意形成を行う

新制度の草案が完成したら、社内への説明と合意形成に移ります。経営層や部門長の承認を得たうえで、現場の管理職や社員にも趣旨とルールを丁寧に伝えます。

「なぜ制度を変えるのか」「新制度で何を実現したいのか」を明確に説明し、疑問や不安には個別対応を行います。可能であれば、一部の部署で試験的に新制度を運用し、実際に使ってみた感想や改善点をフィードバックとして集めると効果的です。

5. 評価者の研修とツール整備

制度開始前には、管理職層を中心とした評価者研修を実施します。評価基準の理解促進だけでなく、実際にケーススタディによる演習や評価基準のすり合わせの練習も行いましょう。

米国の人事専門団体SHRMも、評価結果のすり合わせミーティングの重要性を強調しており、事前準備が公平な評価を支える鍵だとしています。

また、評価シートやクラウド型評価システムなど、運用支援ツールの整備も有効です。評価者の負担を軽減し、データ蓄積による後続分析にも役立ちます。

6. 制度の運用開始とフォローアップ

新制度の運用が始まったら、評価期間中の運営管理が重要になります。途中経過で課題が発覚した場合は、評価者間で速やかに調整を図りましょう。

評価期間終了後は、評価結果のすり合わせミーティングを行い、他部署との整合性を取りながら最終ランク調整を行います。被評価者には個別面談を通じて、結果と今後の成長支援策を丁寧に伝えます。

7. 制度の効果検証と継続的な改善

一巡後は、必ず制度の効果検証を行います。社員アンケートや離職率などのデータをもとに、改善点を洗い出します。

パーソルグループの報告でも、時代や働き方の変化に合わせた制度見直しの重要性が指摘されています。評価制度を「作って終わり」にせず、PDCAサイクルを回しながら柔軟にアップデートしていくことが、組織の成長力強化につながります。

参考:

PRTIMES「人事評価制度に関する意識調査」

Unipos「人事評価制度の課題とは?制度設計で押さえるべきポイントを徹底解説」

株式会社イー・コミュニケーションズ「人事評価項目とは?基礎知識と設定時のポイントを解説」

HRBrain「相対評価とは?絶対評価との違いやメリット・デメリットを解説」

パーソル総合研究所「人事評価制度への意識と課題2024」
アデコ「人事評価制度に関する意識調査」
SHRM “Improving Performance Evaluations Using Calibration”

相対評価を「成長の原動力」へと変えるために

評価制度は、使い方次第でその力を大きく変えます。相対評価にはさまざまな賛否がありますが、本記事で紹介してきたように、工夫次第でメリットを最大限に引き出し、デメリットを抑えることが可能です。

管理職には、部下の声に耳を傾けながら、制度を適切に運用し、相対評価を組織と社員の成長を支えるエンジンへと昇華させる役割が期待されています。

鍵となるのは、公平性と透明性を担保し、評価結果を人材育成や処遇にしっかり結びつけることです。社員が「正当に評価され、努力が報われている」と実感できれば、安心して能力を発揮し続けられるでしょう。さらに、成長意欲の高い人材が会社に定着し、組織全体の生産性や業績向上へとつながる好循環が生まれます。

確かに、相対評価は簡単に運用できる仕組みではありません。しかし、管理職の知恵とリーダーシップによって、「評価への信頼」と「成長への意欲」の両立を実現できれば、これほど力強いマネジメントツールはないでしょう。

ぜひ本記事の内容を参考に、自社の評価制度を見直し、相対評価を組織の発展を支える推進力へと変えていってください。