日本企業では、人事評価制度に対する不満の声が少なくありません。評価の基準があいまいで、「なぜこの評価になったのか分からない」と感じる社員も多く、納得感を持てないケースが目立ちます。

アデコグループが行った調査によると、社員の6割以上が「評価基準が不明確」、約半数が「評価にばらつきがあり不公平」と感じており、3割近くが「フィードバックが不十分」と答えています。

こうした背景から、近年注目されているのが「ノーレイティング」と呼ばれる新しい評価の仕組みです。本記事では、従来の評価制度の課題を整理したうえで、ノーレイティングとは何か、そのメリットやデメリット、導入の進め方や成功のポイント、そして実際の導入事例まで幅広く紹介します。

参考:
アデコグループ「人事評価に関する意識調査結果」

目次
  1. 日本の人事評価が抱える課題
    1. 評価の公平性と基準のあいまいさ
    2. フィードバック不足による納得感の低さ
    3. 評価にかかる時間と負担の大きさ
    4. 時代の変化に対応しきれない制度
  2. ノーレイティングの定義と背景
    1. ランクをつけない人事評価制度
    2. なぜノーレイティングが注目されているのか
    3. 海外企業が先行して導入
    4. 評価をなくすわけではない
  3. ノーレイティングを導入するメリット
    1. 評価への納得感が高まり、やる気が続く
    2. フィードバックを通じて成長を後押し
    3. 変化に応じて目標を柔軟に見直せる
    4. 公平な評価が離職防止につながる
    5. チームの信頼関係と協働を促す
  4. ノーレイティング導入のデメリット・懸念点
    1. 管理職の負担が増える
    2. 高いマネジメント力が求められる
    3. 運用ルールの設計が難しい
    4. 評価と報酬の連動が難しい
    5. 自社に合わない可能性もある
  5. ノーレイティング導入の手順とポイント
    1. 導入までのステップ
      1. Step 1:現状の課題を整理する
      2. Step 2:導入の目的を明確にする
      3. Step 3:スケジュールを立てる
      4. Step 4:社内に周知し、トレーニングを行う
      5. Step 5:制度を運用しながら改善する
    2. 成功に導く5つのポイント
      1. 自社に合う制度かどうかを見極める
      2. 段階的に導入する
      3. 上司と部下の信頼関係を育てる
      4. 管理職の負担を減らす仕組みをつくる
      5. 報酬の決め方を明確にする
  6. ノーレイティング導入企業の事例
      1. アクセンチュア(Accenture)
      2. デロイト(Deloitte)
      3. アドビ(Adobe)
      4. GE(ゼネラル・エレクトリック)
    1. まとめ
  7. まとめ

日本の人事評価が抱える課題

多くの企業で評価制度に対する不満が積み重なっており、その影響は組織全体にも広がっています。以下では、日本企業の人事評価制度が直面している代表的な課題を解説します。

評価の公平性と基準のあいまいさ

社員が評価に不満を感じる大きな理由の一つが、「評価基準がはっきりしないこと」です。アデコグループの調査によると、評価をする人によって判断の仕方が変わるため、不公平だと感じる社員が半数近くにのぼるとされています。

評価の基準があいまいなままだと、「なぜこの評価になったのか」が分からず、社員にとっては納得しづらい結果になります。このような不透明さが、会社への信頼を損ねる原因になっています。

フィードバック不足による納得感の低さ

評価のあとにきちんと説明やフィードバックが行われないケースも多く見られます。その結果、社員は「ただ評価されただけ」で終わってしまい、「なぜ自分の評価が低かったのか分からない」といった不満が残りやすくなります。こうした状況が続くと、社員のやる気が下がり、優秀な人ほど会社を離れてしまうといった悪循環につながる恐れもあります。

評価にかかる時間と負担の大きさ

従来の年に一度の評価制度では、書類の作成や面談の準備に多くの時間がかかるため、日々の仕事に支障をきたすという声もあります。特に管理職にとっては、部下一人ひとりの評価を準備することが大きな負担です。実際にAdobeの調査では、管理職の約9割が「評価準備にかかる時間は無駄だと感じている」と答えています。こうした作業負担が大きいこと自体が、生産性の観点から見ても見直しが必要とされています。

時代の変化に対応しきれない制度

最近では、ビジネスの変化や技術の進化が非常に早く、年度の初めに立てた目標が、年末には現実に合わなくなってしまうこともあります。それにもかかわらず、年の終わりまで目標を見直せない制度のままでは、変化に対応しきれず、チャンスを逃してしまうリスクがあります。こうした「長期固定型」の評価制度は、時代のスピード感にそぐわないという声も広がっています。

このような課題を背景に、近年では従来の人事評価制度を見直そうとする企業が増えてきました。そこで注目されているのが、次に紹介する「ノーレイティング」という新しい評価の考え方です。

参考:

Adobe公式ブログ「パフォーマンスレビューに関する調査:評価は本当に必要か?」

ノーレイティングの定義と背景

従来の評価制度を見直す動きが進む中で、「ノーレイティング」と呼ばれる新しい評価手法に注目が集まるようになりました。以下では、ノーレイティングの基本的な考え方と注目される背景、導入の広がりについて、ポイントごとに分けて解説します。

ランクをつけない人事評価制度

ノーレイティングとは、社員をランク付けせずに評価する人事制度のことです。従来のように年に1〜2回、S・A・B・Cといった等級をつける方法とは異なり、日々のフィードバックや目標の見直しを通じてパフォーマンスを確認していきます。

例えば、上司と部下が定期的に1on1ミーティングを行い、目標の設定や進捗の確認、成果に対するフィードバックを積み重ねていくことで、最終的な評価につなげます。

なぜノーレイティングが注目されているのか

この制度が注目されている背景には、従来の人事評価制度に対する不満があります。年に一度の評価だけでは、社員がモチベーションを維持しにくく、不公平だと感じる声も多く見られました。また、変化の速いビジネス環境の中で、年単位の評価では柔軟な対応が難しいという課題もあります。

海外企業が先行して導入

ノーレイティングは、もともと海外の大手企業で導入が進んできた評価制度です。2010年代の半ばには、Adobe、GE、アクセンチュア、デロイトといった企業が年次評価を廃止し、より頻繁なフィードバックと対話を重視する制度に切り替えました。この流れは日本企業にも広がりつつあり、一部では試験的な導入が始まっています。

評価をなくすわけではない

ノーレイティングは「評価をしない制度」ではなく、「数字や記号に頼らない制度」です。評価そのものは行われ、社員の成長支援や公正な処遇を目的としています。

ただし、ランク付けを行わない分、上司は日常的に部下と対話を重ね、仕事ぶりや成果をよく観察しておくことが求められます。その意味では、マネジメントの力がより重要になる制度と言えるでしょう。

ノーレイティングを導入するメリット

ノーレイティングが注目されている背景には、多くの企業が抱える課題を解決できる可能性があるからです。以下では、導入によって期待される主なメリットをポイントごとに紹介します。

評価への納得感が高まり、やる気が続く

ノーレイティングでは、上司と部下が日常的に対話を重ねながら評価を行うため、評価の理由が伝わりやすくなり、社員の納得感が高まります。目標や課題をすり合わせるプロセスがオープンになることで、「どう見られているのか」が常に明確になります。

これにより、「なぜこの評価なのか分からない」という不満が減り、評価に対する信頼感が生まれます。納得感のある評価は、社員のモチベーションや仕事への主体的な関与(エンゲージメント)を高める効果も期待できます。

フィードバックを通じて成長を後押し

年に一度の評価だけでは、改善点を活かすタイミングを逃しがちです。一方、ノーレイティングではフィードバックがこまめに行われるため、社員は常に自身の成長に向けたヒントを得ることができます。

上司との対話を通じて目標を立て、振り返る習慣が根づくことで、「今やるべきこと」や「次に挑戦したいこと」を自ら考える力も育ちます。こうしたサイクルは、社員一人ひとりの成長を加速させる土台となります。

変化に応じて目標を柔軟に見直せる

ノーレイティングは、四半期ごとやプロジェクト単位など短いサイクルで目標を見直せるため、急な環境変化にも柔軟に対応できます。年初に立てた目標を1年間変えられないような制度では、現実とのズレが大きくなってしまうリスクもあります。

例えば、アメリカの大手複合企業GE(ゼネラル・エレクトリック)は、年次評価をやめて四半期ごとの優先課題に切り替えたことで、市場変化への迅速な対応が可能となり、企業戦略との連動性も高まりました。こうした柔軟性は、企業の競争力を高める要素にもなります。

公平な評価が離職防止につながる

ノーレイティングでは、社員を相対的に比較して順位をつける必要がないため、不本意な低評価を避けることができます。従来の制度では、一定の割合で低評価を割り当てるケースもありましたが、このような強制的な評価は不満の原因になりがちでした。

ノーレイティングでは、一人ひとりの成長や成果を絶対的に評価できるため、公平性が高まり、不満を感じる社員も減少します。エン・ジャパンの調査によると、退職理由の約4人に1人が「評価や人事制度への不満」を挙げており、こうした不満の解消は優秀な人材の流出防止にもつながります。

チームの信頼関係と協働を促す

年次評価で個人をランク付けする場合、社員同士が競争的になりやすい傾向があります。ノーレイティングでは、上司が部下の成長を支える「コーチ」のような存在となり、対話を重ねながら信頼関係を築いていく文化が生まれやすくなります。

評価が「査定」ではなく「成長のための対話」として機能することで、組織全体に前向きなコミュニケーションが広がります。このような文化は、心理的安全性の高い職場づくりにもつながっていくでしょう。

このように、ノーレイティングには従来の人事評価制度ではカバーしきれなかったさまざまな課題を解決する可能性があります。社員のやる気や成長を支え、企業の変化対応力や人材定着にもつながる制度として、注目されるのも納得です。

参考:

The Wharton School,  The University of Pennsylvania “Why It’s Time to Eliminate the Annual Performance Review”

ノーレイティング導入のデメリット・懸念点

ノーレイティングには多くのメリットがありますが、導入するにあたって注意すべき点や課題も存在します。以下では、想定される主なデメリットとその背景について、ポイントごとに解説します。

管理職の負担が増える

ノーレイティングでは、日常的なフィードバックや対話が求められるため、評価を担当する管理職の負担が大きくなります。従来であれば年に1〜2回の評価面談で済んでいたところを、継続的に時間と労力をかける必要があります。

評価内容の記録や面談準備といった事務的な作業も増え、「どこで評価の時間を捻出するか」「本業に支障が出ないか」といった現実的な課題に直面する可能性があります。このため、制度を導入する場合は、業務の見直しやツールの導入など、管理職の負担を軽減する工夫が不可欠です。

高いマネジメント力が求められる

ノーレイティングでは、上司が部下をどう支え、どう評価するかが制度の成否を大きく左右します。そのため、観察力やコミュニケーション力、信頼関係の構築など、管理職には高いマネジメントスキルが求められます。

もしフィードバックの質が低かったり、上司の主観に偏ったりすれば、せっかくランク付けをなくしても不公平感は残ります。全ての上司が必要なスキルを備えているとは限らないため、評価者向けの研修や継続的なサポート体制が欠かせません。

運用ルールの設計が難しい

ノーレイティングは柔軟性がある反面、評価のタイミングや基準をどう揃えるかという運用面の難しさもあります。現場に任せきりにすると、評価の厳しさに差が出たり、基準があいまいになったりする恐れがあります。

また、目標を頻繁に変えられるようになることで、逆に現場が混乱することも考えられます。例えば、上司の方針で目標が頻繁に変わると、部下は振り回されてしまいます。こうした混乱を避けるためには、評価基準の共有や、部署をまたいだ調整の仕組みを整えることが重要です。

評価と報酬の連動が難しい

これまでの評価制度では、ランクに応じて昇給や賞与が決まっていた企業が多くありました。しかし、ノーレイティングではランクをつけないため、報酬制度との整合性をどうとるかが大きな課題になります。

たとえランクがなくなっても、社員ごとの貢献度や成果には差があるため、全員一律の処遇にはできません。そのため、日常的なパフォーマンスをもとに評価をまとめて報酬に反映する方法や、プロジェクト単位での貢献度を数値化する仕組みなどが検討されています。

いずれにしても「どうすれば納得感のある報酬制度にできるか」は慎重に考える必要があります。ルールがあいまいなままでは、かえって不満を招くリスクもあります。

自社に合わない可能性もある

ノーレイティングはあらゆる企業にとって最適な方法とは限りません。例えば、トップダウン型の文化が強く、部下の主体性が育っていない組織では、対話を重視するこの制度がなじまない場合があります。

また、社員が評価に対して消極的だったり、本音を話しにくい社風だったりすると、制度が形だけのものになってしまう恐れもあります。他社の成功事例に影響されて安易に導入するのではなく、自社の組織風土や課題に合っているかどうかを慎重に見極めることが大切です。

ノーレイティング導入の手順とポイント

ノーレイティングを導入するには、いきなり制度を切り替えるのではなく、段階を追って準備を進めることが大切です。以下では、導入に向けた基本的なステップと、スムーズな運用を実現するための工夫やノウハウを紹介します。

導入までのステップ

Step 1:現状の課題を整理する

最初に、自社の現在の人事評価制度でどのような課題があるのかを洗い出します。評価基準があいまい、フィードバックが少ない、運用が形骸化しているといった問題点を把握し、なぜノーレイティングを導入するのか、その目的を明確にしましょう。ここが出発点になります。

Step 2:導入の目的を明確にする

次に、ノーレイティングを導入することで「何を実現したいのか」をはっきりさせます。例えば「社員の納得感を高めたい」「フィードバック文化を根づかせたい」「離職率を下げたい」など、期待する効果を経営陣と共有し、必要であれば数値目標も設定します。目的がはっきりしていないと、導入後の成果を測ることも難しくなります。

Step 3:スケジュールを立てる

導入を決めたら、いつ・どこからスタートするかを具体的に計画します。全社一斉に切り替えるのではなく、まずは一部の部署で試験的に導入する「パイロット導入」から始めるのも効果的です。準備や研修に必要な期間も考慮しながら、現場に無理のないスケジュールを組みましょう。

Step 4:社内に周知し、トレーニングを行う

制度の趣旨や変更点を、全社員にしっかりと伝えることが重要です。経営トップからのメッセージも交えて、新制度への理解と納得を得ましょう。特に管理職には、新しい評価者としての役割を明確に伝え、必要であれば評価やフィードバックに関する研修を実施します。

評価を受ける社員に対しても、制度の変化を丁寧に説明し、「どのような視点で評価されるのか」「報酬や昇進にどう関係するのか」といった点をしっかり共有しましょう。また、評価に向き合う心構えや、自己目標の立て方についても具体的に伝えることで、制度への理解が深まり、より前向きに取り組めるようになります。

Step 5:制度を運用しながら改善する

準備が整ったら、いよいよ制度を導入します。導入初期は職場の中で戸惑いや混乱が起きていないかを注意深く見守り、人事が各部署と連携しながらサポートします。

アンケートや面談を通じて運用状況を確認し、「フィードバックの頻度は適切か」「評価が偏っていないか」などの視点で改善点を洗い出します。必要に応じてルールや運用方法を調整し、制度が職場環境にしっかりなじむように整えていきましょう。

導入後しばらくは“試行期間”と捉え、柔軟に対応する姿勢が大切です。

成功に導く5つのポイント

自社に合う制度かどうかを見極める

ノーレイティングはすべての企業に合うわけではありません。制度のメリットとデメリットをあらかじめ整理し、自社の組織文化や評価課題と照らし合わせながら導入の可否を検討しましょう。特に、管理職の育成状況や社員の自主性といった要素が制度運用に大きく影響します。

段階的に導入する

いきなり全社で導入するのではなく、まずは一部の部署で試してみる方法もあります。例えば、1on1ミーティングの頻度を増やす、目標設定のサイクルを短縮するなど、小さな取り組みからスタートして段階的に広げていくと、現場の負担を抑えつつ制度の定着を促せます。

実際に、アメリカの大手企業GE(グローバルに事業を展開する複合企業)でも、数万人規模で試験的に制度を導入し、課題を整理してから本格的な展開に移行しました。

上司と部下の信頼関係を育てる

ノーレイティングの運用では、上司と部下の信頼関係が何よりも重要です。制度を整えるだけでなく、日頃からお互いに本音で話せる関係性を築いておくことが欠かせません。「感謝を伝える」「雑談の機会をつくる」「上司も自分の弱みを見せる」など、日常のちょっとした行動が信頼づくりにつながります。

管理職の負担を減らす仕組みをつくる

評価の頻度が増える分、管理職の負担が大きくなりがちです。そのため、評価のやり方を見直したり、クラウド型の評価システムを導入したりして、できる限り作業を効率化することが大切です。例えば、評価コメントのテンプレートを用意しておくだけでも、上司がスムーズに対応しやすくなります。

報酬の決め方を明確にする

評価と報酬がどう連動しているのかが分からないと、社員の不満につながります。ノーレイティングではランクがない分、どのような基準で昇給や賞与が決まるのかを明確に伝える必要があります。必要に応じて複数人で評価を調整する「キャリブレーション会議」を行うなど、評価の客観性を保つ工夫も有効です。

参考:

SmartHR Mag.「ノーレイティングとは?注目される背景と導入のポイントを解説」

ノーレイティング導入企業の事例

以下では、いち早くノーレイティングを取り入れた企業の具体的な取り組みを紹介します。主に海外の事例ですが、評価制度を抜本的に見直した企業の姿勢や工夫は、日本企業にとっても多くのヒントになるはずです。

アクセンチュア(Accenture)

2015年に従来のランキング付けや年次評価をすべて廃止し、独自の制度「パフォーマンス・アチーブメント」を導入しました。この制度では、社員が自らキャリアに沿った目標を設定し、それに対して会社が支援するという仕組みに転換しています。評価は定期的なフィードバックとコーチングを通じて行われ、納得感を高めることを重視しています。

デロイト(Deloitte)

同じく2015年、年1回実施していた360度評価を廃止し、ノーレイティングへと移行しました。代わりに導入されたのが「スナップショット」と呼ばれる評価手法です。これは各プロジェクト終了時にマネージャーが4つの簡単な質問に答える形式で、より迅速な評価を可能にしています。また、週1回の「チェックイン」という1on1面談も取り入れ、従業員との継続的な対話を通じて成長を支援する仕組みを構築しました。

アドビ(Adobe)

ノーレイティングを導入した企業の中でも先駆け的な存在で、2012年には年次評価を廃止。「チェックイン」という継続的なフィードバック制度をスタートさせました。マネージャーと社員が定期的に対話を行い、目標やキャリアについて話し合うことが日常化されています。

評価はランク付けを行わず、日々の対話をもとにマネージャーが総合的に判断して報酬を決定します。この取り組みによって評価準備作業を削減できたほか、離職率も改善されたと報告されています。

GE(ゼネラル・エレクトリック)

2016年、アメリカの大手複合企業GEは長年続けてきた年次評価制度を見直し、「PD(パフォーマンス・デベロップメント)」という新たな評価制度へと移行しました。

この制度では、年に一度の目標設定を廃止し、代わりに四半期ごとの優先事項に置き換えることで、状況に応じて柔軟に目標を調整できる仕組みを構築。上司と部下が定期的に「タッチポイント」と呼ばれる1on1を行い、リアルタイムでのフィードバックと目標確認を実施しています。

本格導入に先立ち、8万人以上を対象に試験運用を実施し、制度の改善を重ねながら全社展開した点も注目されます。

まとめ

ここまで紹介したように、ノーレイティングは海外企業を中心に広がりを見せてきましたが、近年では日本企業でもその考え方を取り入れる動きが少しずつ見られるようになっています。

また、これらの事例からもわかるように、ノーレイティングの導入には、トップの明確な意思と周到な準備、そして運用後の継続的な見直しが欠かせません。ただ評価の形式を変えるのではなく、組織全体で「人を育てる文化」を根づかせていく取り組みが求められます。

社員との対話を日常的に重ね、成長を支援する仕組みを作ることが、企業全体のエンゲージメント向上や離職防止につながっていくのです。今後、日本でも評価制度の見直しを進める企業が増えていく中で、ノーレイティングはその選択肢の一つとして、さらに注目されていくことでしょう。

参考:

The Washington Post“In big move, Accenture will get rid of annual performance reviews and rankings”
Harvard Business Review“Reinventing Performance Management”
Adobe“How Adobe continues to inspire great performance and support career growth”
Harvard Business Review“GE’s Real-Time Performance Development”
The Wharton School,  The University of Pennsylvania “Why It’s Time to Eliminate the Annual Performance Review”

まとめ

人事評価は、企業の文化や人材戦略に直結する重要なテーマです。従来の評価制度に対する「不公平感」や「納得感のなさ」といった課題に対し、ノーレイティングは有効な選択肢の一つといえるでしょう。

ランク付けをやめて、日常的な対話やフィードバックを重視することで、社員の成長支援や柔軟な目標管理が可能になります。ただし、運用にあたっては管理職の負担やスキルに依存する面もあり、準備やサポートが欠かせません。

導入を検討する際は、自社の課題をしっかり見極めたうえで、「なぜノーレイティングを取り入れるのか」という目的を明確にし、段階的に制度を整えていくことが大切です。

最後に、人事評価は一度つくって終わりではありません。制度を導入した後も、現場の声に耳を傾けながら改善を続けていくことで、評価の仕組みそのものが企業とともに成長していきます。

ノーレイティングは、そうした“進化する評価制度”の一つの選択肢です。これからの人材マネジメントを考えるうえで、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。