このページのまとめ

  • ノーレイティングとは、ランク付けを廃止し、上司が部下を個別で評価する方法
  • ノーレイティングにより、専門性のある人材や優秀な人材を発見しやすくなる
  • ノーレイティングを行う際には、研修などで評価者のスキルを成長させる必要がある

人事評価の方法の一つとして、ノーレイティングを導入する企業が増加しています。ノーレイティングとは、従業員を数値や記号でランク付けせずに評価する方法のことです。一人ひとりの従業員を個別で評価することで、人事評価への納得感を高める目的があります。今回は、ノーレイティングのメリットや実施手順を解説します。人事評価の方法を見直したいと考えている企業は、ぜひ参考にしてみてください。

ノーレイティングとは

ノーレイティングとは、「A・B・C」「1〜5」のように従業員を記号や数値で評価せず、上司が個別で評価を定める方法のことです。人事評価面談で上司が部下に業務のフィードバックを行い、従業員の評価を決定します。

従来の評価基準では、「Aランク」「Bランク」「Cランク」のようにランクを付けて評価する方法が一般的でした。しかし、ランク付けの評価方法では、特定の分野のスキルが突出している従業員の総合評価が低くなりやすいという問題があります。その場合、従業員が自分の得意分野のスキルをどんなに伸ばしても、人事評価の向上にはつながりにくいでしょう。

ノーレイティングでは上司が従業員の評価を個別で決めるため、従業員が自身の評価に納得感を得やすくなる特徴があります。

既存の評価制度の問題点

従業員を「A」「B」「C」のようにランク付けして評価する方法には、次のような問題点があります。

専門性のある従業員が評価されにくい

既存の評価制度の場合、専門性のある従業員が評価されにくい傾向にあります。
たとえば、「プレイヤーとしての能力は高いけど、部下の育成ができないから評価が下がる」というケースも発生します。

従来の評価では、専門性のある従業員よりも、総合的に平均以上の能力を持つ従業員のほうが高く評価されやすい傾向があります。その場合、特定の分野に秀でた能力を持つ従業員は評価されにくく、転職してしまう可能性も発生するでしょう。

平均的な評価の従業員が増加する

既存の評価の場合、各ランクに人数の枠が決められており、中間にあたる評価の従業員が多くなる傾向があります。従業員を「Aランク」「Bランク」「Cランク」に分ける場合、中間にあたるBランクの評価を受ける従業員が多くなります。
中間的な評価を受けた場合、どのような点を高く評価されたのか、または低く評価されたのかを従業員自身が把握しにくくなってしまいます。また、会社にどのようなパフォーマンスを求められているのかも分かりにくくなり、モチベーションが下がってしまうリスクがあります。

積極的にチャレンジする従業員が減少する

積極的にチャレンジする従業員が少なくなることも、従来の評価制度の問題点です。
特定の業務で成果を上げていても、別の業務でミスが生じると全体の評価が下がってしまう可能性があります。そのため、評価が下がるのを恐れて積極的に行動する従業員が少なくなってしまうケースがあります。

ノーレイティングのメリット 

ノーレイティングを実施するメリットには、次のようなものがあります。

従業員の強みを活かせる

ノーレイティングを実施することで、従業員の強みを活かしたマネジメントが可能になります。
さまざまな能力を総合評価して「A」「B」「C」のようにランク付けするよりも、「どのような能力に優れているのか」に意識を向けることで従業員の強みが見つけやすくなるでしょう。
一人ひとりの強みを活かして業務を任せれば、企業全体の生産性の向上も期待できます。

従業員の納得を得やすい

従業員一人ひとりに「高く評価したポイント」と「努力が必要なポイント」をフィードバックすることで、従業員が納得感を得やすくなるメリットがあります。

「新入社員の独り立ちに大きく貢献してくれたことを高く評価している」「自分の業務に手が回らなくなっていることが多いので、新人教育と自分の業務をバランス良く進められるようになってほしい」のように、伸ばすべき能力を具体的に伝えることが大切です。
具体的なフィードバックを行うことで、従業員は自分が伸ばすべきスキルが明確になり、モチベーションアップにつながるでしょう。

従業員のモチベーションアップにつながる

自分の働きぶりをしっかり見てもらえていると感じることで、従業員がモチベーションを保ちやすくなります。自分の強みと改善すべきポイントが明確になれば、努力の方向性が分かりやすくなります。フィードバックの内容を実践することで成果につながりやすくなるため、モチベーションの向上も期待できるでしょう。

ノーレイティングのデメリット

ノーレイティングを導入する際には、メリットだけでなくデメリットも押さえておく必要があります。ここでは、ノーレイティングで発生しうるデメリットを3つ紹介します。

評価者の負担が増える

ノーレイティングでは一律の評価基準が設定されていないため、評価者の負担が増えることに注意しましょう。
20人の部下がいれば、20人全員の個別評価を行い、個人面談を設定する必要があるでしょう。
ノーレイティングを行う際には、評価に時間がかかることを考慮したうえで、評価者の業務量を調整することが重要です。

評価者に評価スキルが必要

ノーレイティングの実施には、評価者のスキルが求められることを覚えておきましょう。
評価者が従業員を正しく評価できない場合、従業員とトラブルになる可能性があります。
評価者には、周りの人にも従業員の評価をたずねてみて、さまざまな意見を参考にしたうえで評価するスキルが必要です。

評価基準が変わりやすい

社内の状況によって評価基準が変わりやすい点にも注意が必要です。
ノーレイティングは、社内で求められている成果に応じて評価基準が変わる傾向にあります。
たとえば、業績を上げるために営業成績が重要視される時期もあれば、人材の育成に力を入れている時期もあるでしょう。人材育成に注力している時期は、人材育成のスキルが高い人材に高い評価が集まりやすくなるでしょう。
評価基準が変わることで従業員が混乱しないように注意が必要です。

ノーレイティングの実施手順 

ここでは、ノーレイティングの実施手順について解説します。
代表的な実施手順は以下のとおりです。

現状の評価制度の問題を考える

まずは、現状の評価制度の問題点を考えましょう。
ノーレイティングを実施することで、現状の評価制度の問題が解決できるかを検討する必要があります。解決できそうだと判断した場合は、ノーレイティングの実施に踏み切りましょう。

ノーレイティングの内容を決める

ノーレイティング実施に向けて、「移行期間」「導入時期」「評価方法」「評価担当者」などを決めましょう。評価基準を突然変えてしまうと従業員が混乱する可能性があるため、移行期間を設けたり、一部の部署で試験的に実施したりすると良いでしょう。

また、表彰制度を設けている場合は、表彰制度の有無についても見直しが必要です。
ノーレイティングではランク分けがないため、既存の表彰制度は利用できません。
表彰制度を継続させる場合は、どのような評価基準を設けるべきかを再考する必要があります。

従業員に周知する

実施内容が決まったら、従業員にノーレイティングを実施することを周知しましょう。
従来の評価制度との違いを説明するだけでなく、なぜ実施するのか、どのようなメリットがあるのかをもれなく伝えることが重要です。
また、評価する側にも、これまでの評価方法との違いを正しく説明する必要があります。
従業員一人ひとりの働きぶりを細かく評価する必要があるため、評価者に覚悟をもって取り組んでもらうことが重要です。

ノーレイティングの実施

ノーレイティングを実際にスタートさせたら、評価者がどのような判断基準で評価しているのかを確認しましょう。評価者によって評価の方法が大幅に異なる場合があるため、最低限の認識をすり合わせることが大切です。
また、評価後に従業員との個人面談で評価内容のフィードバックを行ったかも確認すると良いでしょう。

ノーレイティング実施時のポイント 

ノーレイティング実施に向けて、成功のポイントを覚えておきましょう。
ここでは、ノーレイティングの実施に向けて重要なポイントを3つ紹介します。

上司と部下が信頼関係を築いておく

ノーレイティングでは、上司と部下の間に信頼関係があることが非常に大切です。
信頼している上司からのフィードバックは素直に受け止められても、信頼していない上司からの評価には反発したくなる従業員もいるでしょう。
ノーレイティングでは、評価内容と同じくらいに、誰が評価するかも重要です。
上司と部下の信頼関係のもとでノーレイティングを実施するようにしましょう。

日頃から従業員の働きぶりに目を配る

評価者は、評価期間だけでなく、日頃から従業員の働きぶりに注目することが必要です。
周りの従業員にも定期的に働きぶりを確認し、「どのような能力に強みがあるのか」「改善すべきポイントは何か」を言語化できるようにすることが求められます。
評価者には、これまで以上に従業員一人ひとりの行動に注視するように伝えましょう。

評価者研修を実施する

適切な評価ができるように、評価者に研修を実施すると良いでしょう。
客観的な評価を下すコツや、従業員のモチベーションを高めるためのコーチングスキルの研修を行うのがおすすめです。
評価者全員が同じポイントを押さえて評価できるように、評価者研修を実施したうえでノーレイティングを導入してみましょう。

ノーレイティングを実施している企業事例 

ここでは、ノーレイティングを実施している企業の事例を3つ紹介します。

従業員に目標を設定させる企業

A社では、従業員に自ら目標を設定させ、目標の達成状況で評価を行っています。
従業員自身が目標を定めることで努力の方向性が明確になり、モチベーションの向上につながることがメリットです。
企業側は、研修やフィードバックの実施を通して従業員の目標達成をサポートしています。

企業と顧客に対する貢献度で評価する企業

B社では、「企業と顧客に対する貢献度」という明確な評価基準を公開したうえでノーレイティングを行っています。
評価基準を公開することで、従業員は評価基準に対して自分がどの程度貢献できているかを把握しやすくなります。評価者が評価基準を考えることが難しい場合は、企業が評価基準を示すことも方法のひとつです。

ランク付けを廃止した企業

C社では、ランク付けの評価をノーレイティングでの評価に移行しました。
従来のランク付けの評価では年始に1年間の評価基準を設定しており、年度内に社内状況が変化しても評価基準の見直しがされていませんでした。
その状況に多くの従業員から不満が生じたことから、ランク付け評価の廃止を決めました。
年間目標を上司と部下が1対1で設定し、状況に応じてリアルタイムで目標を更新する方法に変えたところ、従業員のモチベーション向上につながりました。

まとめ

従業員一人ひとりの能力を適切に評価する方法として、ノーレイティングを導入する企業が増えています。ノーレイティングを実施する際には、評価者の意識を変えることが重要です。従業員に合わせた評価ができるように、評価者研修などを行うことで評価者のスキルを高めましょう。適切に評価を行えば、ノーレイティングは従業員のモチベーションアップにつながる効果が期待できます。