「コミュニケーションが苦手な部下と、どう接すればいいのかわからない…」と悩む方も多いでしょう。部下の性格は人それぞれ異なるため、闇雲にコミュニケーションを取ろうとしてもうまくいかない可能性が高いです。
本記事では、コミュニケーションが苦手な部下とやり取りする際に心がけるべきポイントを解説します。部下にとって風通しのよい職場づくりを目指したい方はぜひ参考にしてみてください。
この記事の監修者
三橋史佳(みつはしふみか)
株式会社人材研究所
青山学院大学卒業後、人事コンサルティング会社の(株)人材研究所に入社。これまで外資系大手企業やIT系ベンチャー企業、創業100年の老舗メーカーなど新卒・中途を問わず様々な企業の採用支援や組織分析に携わる。現在はキャリアコンサルタントの資格を持ちながら、人材研究所マネージャーとして部下を育成しながらコンサルティングに従事。
【事例紹介】部下とのコミュニケーションが重要な理由
部下とのコミュニケーションが重要な理由は、以下の3つです。
- モチベーションアップにつながるから
- 生産性が向上するから
- 離職率が低下するから
上記について、事例を交えながら詳しく解説します。
モチベーションアップにつながるから
ギャラップ社が米国企業を対象に実施した調査によると、コミュニケーションが円滑に行われている職場では、部下のモチベーションが高い傾向にあります。こまめにコミュニケーションを取ることで、自分の仕事が理解され、評価されていると感じられるからです。
同調査では、意欲的に働いている労働者の割合はたった33%しかいないとされています。以下は、同調査での質問内容です。
項目 | 「はい」と回答した割合 |
---|---|
自分が仕事で何を求められているか理解している | 47% |
仕事上で自分の意見が尊重されている | 26% |
過去7日以内に自分の仕事ぶりを褒めてもらえた | 26% |
過去6ヶ月以内に自分の仕事に関するフィードバックをもらえた | 30% |
上記の結果を見ると、「良いフィードバックをもらった」、「仕事ぶりをほめられた」、「自分の意見は尊重されている」と感じている従業員は少ないことがわかります。
このようなコミュニケーション不足が結果的に意欲的に働いている従業員が少ない結果になっている可能性があります。会社やチームに対する帰属意識を高めるためにも、部下とのコミュニケーションは非常に重要といえます。
生産性が向上するから
部下ときちんとコミュニケーションを取れていれば、生産性の向上につながることがわかっています。
経営コンサルタント会社・ザグロスマングループのCEOデビッド・グロスマン氏の調査によると、従業員10万人の企業ではコミュニケーション不足が原因で、年間平均6,240万ドルの損失が発生するそうです。
また、作家でありコミュニケーションの専門家であるデブラ・ハミルトン氏の研究結果では、従業員100人の小規模企業でさえ、コミュニケーション不足によって年間平均42万ドルの損失が発生するとされています。
上司が部下の業務の進捗状況や問題点を把握することで、適切にサポートできるのでしょう。また、指示の誤解による無駄な作業も防げます。
企業規模の大小にかかわらず、円滑なコミュニケーションは収益に大きく影響する要素といえます。
離職率が低下するから
先ほども述べたとおり、活発なコミュニケーションは部下のモチベーションアップにつながり、結果的に離職率も低下します。
人材管理関連のソフトウェアを提供するクリアカンパニー社の調査によると、効果的なコミュニケーションが行われている企業では、従業員の離職率が50%低下するとされています。
離職率を下げるために、上司は部下とこまめにコミュニケーションを取り、不安や悩みを素早く察知し解決することが重要です。
参考:
Gallup “Why Does Employee Engagement Research Matter?”
SHRM “The Cost of Poor Communications: The Business Rationale for Building this Critical Competency”
ClearCompany “Final Destination: Organizational Transparency”
コミュニケーションが苦手な部下の特徴
コミュニケーションが苦手な部下は、大きく以下の4つのタイプに分けられます。
- 元々内向的な性格をしている
- 知識・経験不足で自分に自信がない
- 自我が強く他人の意見を受け入れられない
- 上司のことを苦手に感じている
上記それぞれのタイプについて、適切なコミュニケーションの取り方も解説します。
元々内向的な性格をしている
元々の性格が内向的な場合、大人数での会話や、自発的な発言を苦手とする傾向が強いです。人材管理サービスを提供するエンゲージドリー社のCEOであるスリカント・シェラッパ氏によると、このタイプは以下のように接するのが好ましいとされています。
- 注目を浴びないように配慮する
- 内気であることを指摘・注意しない
- 1 on 1ミーティングやチャットで会話する
- 意見を求める場合は十分な時間を与える
- 心理的な負担がかからない仕事を割り当てる
- きちんと評価していることを伝える
人間の性格は個性であり、無理に内向的な性格を変える必要もないため、相手のペースに配慮しながらコミュニケーションをとるようにしましょう。
知識・経験不足で自分に自信がない
部下の知識・経験が不足している場合、自分に自信がなく、コミュニケーションが取りづらいと感じているかもしれません。このタイプは上司や同僚のサポートによって、少しずつ自信をつけさせることが重要です。
リーダーシップ開発などの領域で25年以上の経験を持つボニー・モニッシュ氏によると、部下の自信をアップさせるには以下のような方法が有効とされています。
- スキルに見合った仕事を振る
- 経験豊富なメンターをつける
- フィードバックを頻繁に行う
- 成果が出たときは感謝の気持ちを伝える
部下の知識やスキルに関係なく、相手を敬う姿勢を見せることが重要です。
自我が強く他人の意見を受け入れられない
自我が強い部下の場合、建設的なコミュニケーションが難しいかもしれません。自分の意見が正しいと信じ込み、周りの反論や指摘を受け入れられないからです。
心理生理学の専門家であるニコレット・トゥーラ氏は、自我が強い相手とやり取りする際、心がけるポイントが20個あると述べています。以下は、そのポイントの一部です。
- 感情的にならない
- 相手の意見に共感を示す
- 相手が間違っていると言わない
- 簡単に折れない
- 下手に出ない
相手の意見を尊重しつつも、自分の言いたいことはきちんと主張することが重要です。
上司のことを苦手に感じている
部下が上司のことを苦手もしくは嫌いと感じているせいで、コミュニケーションがうまく取れていない可能性もあります。この状況は職場の雰囲気を悪くし、パフォーマンスを低下させる恐れもあるため早急に解決しなければなりません。
トゥルーノース・コンサルティングの創設者・ルチラ・チャウダリー氏によると、険悪な関係の部下との関係改善には、以下の「GROWモデル」を活用した対話が有効だそうです。
- Goal(目標):より良い関係を築きたいと伝える
- Reality(現状):お互いの気持ちを正直に共有する
- Options(選択肢):改善策を一緒に考える
- Will(意思):具体的な行動計画を立て、継続的な努力を約束する
ただし、人間には相性もあるため、無理に仲良くなる必要はありません。仕事に支障をきたさない程度にはコミュニケーションが取れるよう、相互理解を行い、関係改善に努めましょう。
参考:
Engagedly “How To Manage Employees Who Are Shy?”
Insperity “5 effective ways to boost employee confidence”
wikiHow “20 Ways to Deal With Stubborn People”Harvard Business Review “Managing a Colleague Who Doesn’t Like You”
コミュニケーションが苦手な部下とのやり取りで心がけるポイント
コミュニケーションが苦手な部下とやり取りする際、上司が心がけるべきポイントは以下の6点です。
- 飾らず自然体で接する
- 雑談で雰囲気を和ませる
- 相手の意見を尊重する
- 目指す方向性を統一する
- 適切にフィードバックを行う
- 状況に応じてコミュニケーションツールを使い分ける
上記それぞれについて、詳しく解説します。
飾らず自然体で接する
部下とコミュニケーションを取る際は、飾らず自然体で接しましょう。ハイパースペースのCEO・ダニー・ステファニック氏は、リーダーシップを発揮するためには「Be yourself(自分らしくいる)」ことが重要だと述べています。
部下に対して無理に威厳を見せつけようとしたり、無理に親密になろうとしたりする必要はありません。ときには弱みも見せながら、ありのままの自分で接することで、部下も心を開きやすくなります。
雑談で雰囲気を和ませる
部下とは仕事の話だけでなく、雑談をすることで雰囲気が和み、結果的にコミュニケーションが取りやすくなります。
一般社団法人日本能率協会が全国のビジネスパーソンに対して実施した意識調査によると、回答者の7割以上が「雑談によって人間関係が深められる」と感じているそうです。他にも、雑談によって業務の生産性や創造性が高まると考えている人も多いことがわかります。(下表参照)
質問 | 「そう思う」と回答した割合 |
---|---|
「雑談」は業務の生産性を高める? | 61.1% |
「雑談」は業務の創造性を高める? | 60.3% |
「雑談」は職場の人間関係を深める? | 76.6% |
「雑談」はあなた自身にとってプラス? | 79.5% |
相手の意見を尊重する
部下とコミュニケーションを取る際はただ自分の意見を主張するだけでなく、相手の意見も尊重しましょう。
コミュニケーションに関するコーチングを行うインターアクト・スタジオ社のCEO・ルー・ソロモン氏は、「リーダーは課題や成功への障害について、従業員へ意見やアイデアを習慣的に求める必要がある」と述べています。その際、以下のような質問を投げかけるといいそうです。
- どうすれば改善できると思う?
- うまくいかない原因は?
- 今の仕事のどこが好き?
部下の意見がたとえ自分と異なっていても、頭ごなしに否定せず、まずは受け入れましょう。意見を述べる機会を積極的に与え、「自分は尊重されている」と感じてもらうことが重要です。
目指す方向性を統一する
部下には以下のような会社の目標やビジョンを定期的に共有し、お互いが目指す方向性を統一しましょう。
- 会社の短期・中期・長期の経営計画
- 部署目標と会社目標との関連性
- 具体的な行動計画と進捗状況
JobsInME社が米国の労働者に対して実施した調査によると、対象者の85%が「会社のニュースについて、定期的に最新情報を共有してくれるときが最もやる気が出る」と回答しています。
一方、HR総研が日本国内で実施した調査によると、労働者の半数以上が「会社の経営方針や事業方針、部署内での達成すべきミッションなどを共有できていない」と感じているそうです。
これらの結果から、部下と目指す方向性を統一することは非常に重要だが、多くの企業ではそれができていないといえます。
適切にフィードバックを行う
上司からのフィードバックは、部下のモチベーションをアップさせるのに有効です。特にポジティブなフィードバックは効果が高いため、積極的に行いましょう。
クリアカンパニー社の調査によると、意欲的な労働者の43%は「最低週1回は上司からポジティブなフィードバックを受けている」そうです。
たとえば部下が以下のようなよい仕事をした際は、その都度褒めてください。
- 同僚を手助けした
- よいアイデアを思いついた
- 以前と比べてスキルが向上した
もちろん、ネガティブなフィードバックもときには必要ですが、いい点は認めて評価することで部下の成長にもつながります。
状況に応じてコミュニケーションツールを使い分ける
部下とコミュニケーションを取る際は、状況に応じてツールを使い分けましょう。
おそらく多くの企業では、主な連絡ツールとしてメールを使っているでしょう。しかし、メールが常に最適な連絡手段とは限りません。
マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの研究結果によると、平均的な労働者はメールのチェックや返信に週13時間を費やしており、メールが多すぎると生産性が低下するとされています。また、カリフォルニア大学と米陸軍の研究チームによると、メールの受信数が多いほどストレスレベルが上昇することもわかっています。
部下に連絡する際はメールだけに頼らず、以下のように状況に応じたツールの使い分けが重要です。
- 事務的な連絡はメールやチャット
- 緊急性の高い連絡は電話
- 会議や建設的な議論をしたい場合は対面もしくはオンライン会議
参考:
Hyperspace “Effective Leadership Communication Strategies”
PR TIMES「2021年「ビジネスパーソン1000人調査」【雑談機会と効果】」
Inc. Newsletters “Survey: 91 Percent of 1,000 Employees Say Their Bosses Lack This 1 Critical Skill”
ClearCompany “How to Give Constructive Employee Feedback at Work”
HR総研「社内コミュニケーションに関するアンケート 結果報告」
Trade Press Services “Using Internal Communications to Enhance Business Growth”
SaneBox “Email Overload: Research and Statistics [With Infographic]”
まとめ
コミュニケーションが苦手な部下とやり取りする際に、上司が意識するべきポイントについて解説しました。
コミュニケーション能力には個人差があり、能力の向上には時間がかかります。日ごろから焦らず根気強く部下と接していくことが大切です。
本記事で紹介したポイントを意識し、部下にとって風通りのよい職場づくりを心がけましょう。