部下へ注意をすると、ふてくされたり、改善が見られないなど、部下への注意の仕方に悩む管理職の方は多いのではないでしょうか。注意の仕方を誤ると、部下のモチベーションや生産性の低下、最悪の場合、離職に繋がりかねません。

本記事では、信頼関係を築きながら部下を成長に導く、効果的な注意の仕方を解説します。また、年上や新人部下への注意の仕方もそれぞれ紹介します。

本記事を参考に、部下との良好なコミュニケーションを築き、組織全体の成長を目指しましょう。

この記事の監修者

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。

部下への注意の仕方で意識したいこと

部下の指導に悩む上司は多い

厚生労働省の「人材育成の現状と課題」によると、企業が今後強化すべき事項として、「人材の能力・資質を高める育成体系が52.9%とされています。またALL DIFFERENT株式会社が実施した「管理職意識調査」によると、約6割の管理者がフィードバックする際に躊躇していることがわかりました。

しかし、人材育成を怠ってしまうと、組織に大きな影響をもたらします。ハーバード・ビジネス・レビューの論文では、人材育成を怠ることで以下の損失が企業に発生するとされています。

  • 生産性が低下する
  • 顧客からの信頼を失う
  • コストが増加する

人材育成の仕方を誤ると、従業員の士気が下がり生産性が低下したり、従業員だけでなく顧客からの信頼を失うことにもなりかねません。また、信頼を取り戻すには時間と労力がかかり、企業にとって大きなコストとなります。

部下への正しい注意の仕方を知ると、部下との良好な関係を築きながら生産性を向上させると同時に、定期的に部下の行動や思考を軌道修正することができ、質の高い人材育成にも繋がります。

「注意」と「怒る」の違いを知る

注意と怒るはどちらも相手の行動に対して、軌道修正を図り、ネガティブな感情を示すアクションです。しかし、その目的や表現方法は異なるので、それぞれの意味について理解しておきましょう。注意と怒るの違いは以下のとおりです。

  • 注意…相手に気をつけさせるように伝えること
  • 怒る…腹を立てて、相手に感情をぶつけること

「怒る」は怒って荒ぶった感情をそのまま相手にぶつけるのに対して、注意は相手に今後同じことが起こらないように促すことです。

部下への注意は、感情をぶつけるのではなく、相手に気をつけてもらえるような伝え方が重要となります。

参考:

Harvard Business Review”The Price of Incivility

Christine Porath and Christine Pearson (2013). Harvard Business Review.The Price of Incivility.https://qualitymanagementinstitute.com/images/hrsolutions/HBR-ThePriceofIncivility.pdf

注意の仕方で気を付けるポイント

部下への注意の仕方で気を付けるポイントについて、インドのギャルゴッティアス大学、ファティマ博士らによる論文を元に解説します。以下4つの部下への注意の仕方で気を付けるポイントについてそれぞれ解説します。

  • 部下の意見を尊重する
  • 目標、役割、手順を明確に伝える
  • 具体的な評価や改善案を伝える
  • 功績を認める

部下の意見を尊重する

部下の意見を尊重すると、部下のモチベーションや生産性の向上や信頼関係の構築に繋がります。例えば部下の話に耳を傾けず、自分の経験や意見ばかりを主張する上司がいるとします。

意見を聞いてもらえないため存在価値を感じられず、モチベーションの低下や多様な意見が吸い上げられず生産性の低下につながります。部下の意見をないがしろにせず、尊重して信頼関係を築くことが目標達成のための近道でしょう。

また、注意をする際にも、頭ごなしに注意をするのではなく、まずは部下がなぜそのような行動をとったのか部下なりの考えや意見に耳を傾けることが正しい注意の仕方といえるでしょう。

目標、役割、手順を明確に伝える

目標・役割・手順を明確に伝えることで、生産性や仕事への満足度の向上に繋がります。目標・役割・手順を曖昧に伝えた場合、部下は何を期待されているかがわからなくなり、ストレスを感じてしまう可能性があります。

ストレスを感じた結果、仕事へのモチベーションの低下や離職に繋がる恐れもあります。それを避けるためには、目標・役割・手順を明確に伝えることを意識して伝えましょう。

声掛けの例

〇〇さんの来月の目標は、新規顧客を3社獲得することです。〇〇さんには、営業・戦略・立案から顧客提案まで一連の流れを任せたいと思います。まずはターゲットとなる業界と企業規模を絞り込み、来週中にリストを作成してください。その後、私と一緒に提案資料を作成し、アポイント獲得、訪問と進めていきましょう。

具体的な評価や改善案を伝える

具体的な評価や改善案を伝えると、その後のやるべき事が明確になり、部下の能力向上や問題点の改善に役立ちます。注意の際に、「良い」、「悪い」だけを伝えてしまうと、何を改善すればよいのかわからなくなってしまいます。

声掛けの例

〇〇さん、A社への提案お疲れ様でした。市場分析に基づいた課題提示は素晴らしいです。改善点として、提案内容を顧客に分かりやすく伝えられるよう、サービス導入メリットを簡潔にまとめましょう。

このように評価されることで、取り組み自体は間違っていなかったと自信に繋がります。また、具体的な改善点を提示されると、迅速な改善だけでなく今後の業務にも活かせるでしょう。

功績を認める

部下の功績や努力を認めて賞賛することで、モチベーションの向上や部下からの信頼を得られることが期待できます。注意したいときは、感情的になってしまっていることも多いと思いますが、まずは部下の努力を賞賛する意識を忘れないようにしましょう。

声掛けの例

〇〇さん、この前のプロジェクトの資料作成からリハーサルまで、本当によく頑張ってくれました。おかげで、お客様からも高評価をいただき、プロジェクト成功に大きく貢献できたと思います。〇〇さんが資料作成で工夫してくれた視覚的な表現方法は、他のメンバーにとっても良い刺激になったようです。チーム全体で協力して、良い成果を出せたこと、私も嬉しく思います。

部下との信頼関係やモチベーションの向上は、金銭的な報酬とは異なり、低コストで効果の高い注意の仕方といえます。

参考:

ResearchGate Behaviors for Effective Supervision: A New Review and Meta-Analysis of the Literature

Fatima, Z., & Azam, M. K. (2016). Consequences of supervisory behaviour: A literature review. International Journal of Business Insights & Transformation, 9(2), 39. Retrieved from https://www.researchgate.net/publication/321224765

【年上・新人】タイプ別の注意の仕方

部下といっても、年上や新人によって、注意の仕方は異なります。年上・新人の部下への注意の仕方について、ハーバード・ビジネス・レビューが公開しているアドバイスを元に解説します。

年上の部下

年上であることを尊重し、尊敬語を使って間接的に注意するとよいでしょう。たとえば、直接的な指示の仕方は「この資料、明日までに修正して提出してください」となります。一方で、間接的な注意の仕方は以下のとおりです。

間接的な声掛けの例

この資料、もう少し改善できる余地があるように思いますが、明日までに再提出いただけると大変助かります。

間接的な注意の仕方の方が、丁寧で相手に敬意を払っていることが分かります。年上の部下に限らず、相手に敬意を払って接することは大切です。

しかし、経験豊富な年上の部下に対しては、より注意の仕方に気を配ると良い信頼関係を築くことができるでしょう。

新人

新人のように、人間関係が構築されていない段階で、頭ごなしに注意すると、今後の関係が築きにくくなります。新人へ注意する際には、なぜ注意したのか、その理由を具体的に伝えるとよいでしょう。

また、新人の場合、曖昧とも捉えられる間接的な表現よりも直接的な表現のほうが効果的なケースがあります。たとえば、間接的な注意の仕方は「この資料、もう少し改善できそうかな? 明日までに再提出お願いね」となります。

どこをどのように改善すればよいか、経験の浅い新人にとってはわからない場合があります。一方、直接的な注意の仕方は以下の通りです。

直接的な声掛けの例

この資料の〇〇と〇〇の部分は、分かりやすくするために、〇〇のデータを元に修正して、明日午後2時までに再提出してください。

注意をする理由と、具体的な改善方法を伝えると、経験の浅い新人でも自分の役割を明確に理解できるでしょう。

参考:

Harvard Business Review “The Power of Talk: Who Gets Heard and Why”

Harvard Business Review ”What Most People Get Wrong About Men and Women”

Tannen, D. (1995). Harvard Business Review.The power of talk: Who gets heard and why .https://hbr.org/1995/09/the-power-of-talk-who-gets-heard-and-why

Catherine H. Tinsley and Robin J. Ely.(2018). Harvard Business ReviewWhat most people get wrong about men and women.https://hbr.org/2018/05/what-most-people-get-wrong-about-men-and-women

上司がやってはいけない4つの注意の仕方

上司が注意の仕方を間違えると、部下からの信頼を失い、チーム全体の士気が下がる原因となります。以下4つの上司がやってはいけない注意の仕方について、ハーバード・ビジネス・レビューが公表する論文に基づいて解説します。

  • 責任転嫁をする
  • 人格を否定する
  • 長時間にわたって指導する
  • 人前で指導する

責任転嫁をする

自分のミスを部下に押し付けるなどの責任転嫁は、部下や周りの社員からの信頼を失う行為といえます。ミスを押し付けられた部下はもちろん、その状況を知った部下たちからも信頼を失うことになりかねません。

上司だけでなく、組織全体にも不信感を抱き、モチベーションの低下や離職リスクの増加につながります。上司がミスをしてしまったときは、責任転嫁や言い訳をせず、素直に謝る方が好印象です。

人格を否定する

人格を否定することは、部下のモチベーションや信頼を失うだけでなく、自己肯定感を低下させ部下の成長を阻害する行為です。注意する対象は、行動や言動であって、人格ではありません。

「そんなこともわからないの? 役立たずだな。」といったように人格否定はハラスメントに値する行為であり、注意の際に行うことは厳禁です。

長時間にわたって注意する

部下の成長を思って長時間に渡って注意することをついやってしまがちですが、むしろ逆効果のやり方であるといえます。長時間、注意することで、部下の集中が切れてしまい、伝えたいことが正確に伝わらない可能性があります。

注意とは、同じことが起きないように相手に気を付けさせることなので、簡潔に短時間で伝えることを意識しましょう。

人前で注意する

部下を人前で注意すると、恥ずかしいと感じたり、屈辱的になったり、さらには怒りや恨みの感情を抱く可能性もあります。人前で注意する上司を信頼することは難しいでしょう。

注意をするときは、人目がないところや個室などを利用して、相手を尊重することが大切です。

参考:

Harvard business review “The Price of Incivility”

Christine Porath and Christine Pearson (2013). Harvard Business Review.The Price of Incivility.https://qualitymanagementinstitute.com/images/hrsolutions/HBR-ThePriceofIncivility.pdf

信頼関係の構築に必要なこと

日頃から部下との信頼関係を構築することで、素直に上司の注意を受け止める可能性が高まります。以下3つの部下との信頼関係の構築に必要なことについて、ハーバード・ビジネス・レビューが公表する論文に基づいて解説します。

  • 情報・目的を共有する
  • 誠実であること
  • 一貫性を持つ

情報・目的を共有する

部下に日頃から情報や目的を共有することで、部下は上司を信頼することができます。積極的にコミュニケーションを取り、進捗を確認することも部下が上司に期待されていると感じられる行動の1つです。

情報や目的を共有し、部下の役割を明確にすることで、透明性や部下への期待を表すことができます。

誠実であること

誠実さは、上司と部下の信頼を築く上で非常に重要な要素です。職場での誠実さとは、主に正直で真実を伝えてくれることと約束を守ることがあげられます。

行動と言動がちぐはぐだったり、約束の時間を守らない上司などは信頼を失う恐れがあります。日頃から、誠実さを意識した行動や言動を行うことで、部下からの信頼を得ることができるでしょう。

一貫性を持つ

人や状況によって、注意の仕方を変えるなど、一貫性が無い行動は部下からの信頼を得る行動とはいえません。上司の注意の仕方やその他の行動が一貫していると、部下は安心して業務に取り組むことができます。

一貫性のある注意の仕方や行動は、部下との信頼関係の重要なポイントとなります。

参考:

Harvard business review “How Leaders Build Trust”

 Jack Zenger and Joseph Folkman(2019).Harvard Business

Review.How Leaders Build Trust.https://hbr.org/tip/2019/06/how-leaders-build-trust

まとめ

部下への注意の仕方で気を付けるポイントは、具体的な評価や改善点を伝えたり、部下の意見を尊重することです。年上の部下には、尊敬語などを使って敬意を払い、間接的な表現で伝えましょう。

新人の部下には、直接的な表現を使って、役割を明確に伝えると良いです。本コラムで紹介した注意の仕方と併せて、日頃から部下との信頼関係を築いておくことも重要です。

部下への注意の仕方で気を付けるポイントを意識して、部下と良好な関係を築き、チームの生産性を向上しましょう。