1on1とは、上司と部下が1対1で行う面談を指します。近年、多くの企業が社員のエンゲージメントやパフォーマンス向上を目指し、導入しています。

しかし、「1on1で何を話していいか分からない」「有効な1on1にするにはどうすればいいのか」などの悩みを持つ管理職も少なくありません。このコラムでは、1on1で話すことの具体例や効果、有効な1on1にするためのポイントなどについて、論文を参考に解説します。

この記事の監修者

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。

1on1ミーティングとは1対1で行う面談

1on1ミーティングとは、部下一人ひとりと個別で面談をすることです。1週間や1か月に1度など定期的に開催することで、進捗状況や優先順位などの共有が可能です。

また、業務連絡以外に部下の成長支援や信頼関係の構築に繋がります。実際に、厚生労働省が発表している職場の学び直しに関する資料でも、学びが継続できるような伴走支援として、1on1ミーティングが推奨されています。

また、リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、アンケートに回答した企業の約7割が1on1ミーティングを施策として導入しています。この調査結果から、1on1は人材マネジメントにおいて非常に重要な施策であることが分かります。

1on1ミーティングの効果

多くの企業で導入されている1on1ミーティングですが、どのような効果があるのでしょうか。アメリカのコンサルティング企業ギャラップ社の調査によると、有意義な1on1ミーティングは、上司が社員のエンゲージメントに影響を与える最も効果的な方法とされています。

社員のエンゲージメントは、企業のあらゆる業務の生産性に直接関与するため、1on1ミーティングは非常に重要であると考えられます。

また、マット・メイベリー氏が「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載している論文によると、1on1ミーティングは、業務に必要なリソースを確保するための戦略的な「タイムアウト」と表現されています。

「タイムアウト」とは、バスケットボールやバレーボールなどのスポーツでよく使われる用語で、プレイを一時的に停止し、戦略を練り直すための時間を指します。

1on1は通常の業務連絡以外に、チームとの深い絆を育むための有効な手段と言えるでしょう。

1on1ミーティング導入の課題

1on1ミーティングは、管理職になったばかりの人だけでなく、長年リーダーシップを発揮してきた人にとっても、難しい場合があります。リクルートマネジメントソリューションズの調査では、1on1導入後の課題として、「上司の面談スキルの不足」や「上司負荷の高まり」と回答した割合がどちらも40%を超えていました。

1on1ミーティングの導入というと、一見簡単そうに感じますが、効果的な1on1を実施するためには、上司の面談スキルの向上や負荷を軽減する支援が必要と推察できます。

評価面談との違い

1on1ミーティングと混同されがちなものに評価面談があります。以下は、1on1ミーティングと評価面談の違いを表にまとめました。

1on1ミーティング評価面談
目的成長支援や信頼関係の構築業務実績の評価
内容業務の進捗、キャリアプラン、悩みなど幅広いテーマ評価項目をもとに実績評価
主体部下主体上司主体
頻度年2回程度1週間~1ヶ月に1回程度
雰囲気カジュアルフォーマル

評価面談は上司が主体で、評価項目をもとに過去の実績からの評価を伝える場とされています。そのため、フォーマルな雰囲気であることが多いです。

一方で1on1ミーティングは、部下の話が主体となり、幅広いテーマで展開していきます。成長支援や信頼関係の構築が目的であるため、本音を話しやすいリラックスした環境であることが望ましいです。

参考:

厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「【調査発表】1on1ミーティング導入の実態調査」
Gallup “In New Workplace, U.S. Employee Engagement Stagnates”
Harvard Business Review “How to Lead Your First One-on-One Meeting”
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「【調査発表】1on1ミーティング導入の実態調査」

1on1で話すことを考えるときに重要なのは目的

1on1で話すことを考える際、重要なのは目的です。目的を明確にすることによって話す内容が考えやすいでしょう。アメリカの従業員マネジメントプラットフォームを提供する企業クアルトリクス社の記事によると、1on1の目的として以下が挙げられます。

  • 信頼関係を構築する
  • 業務パフォーマンスとエンゲージメントを高める
  • 帰属意識を育てる

それぞれについて解説します。

信頼関係を構築する

1on1は、信頼関係を構築するために有効な手段です。定期的に1対1で率直に話し合えることで、上司と部下の信頼関係を築きます。お互いを信頼し合っている環境であれば、1on1だけでなく業務中でも話しやすくなり、連絡や報告、相談などがしやすいでしょう。

業務パフォーマンスとエンゲージメントを高める

1on1は、社員の業務パフォーマンスやエンゲージメントを高められます。

ハーバード・ビジネス・レビューによると、「上司と1on1の時間をほとんど、あるいは全く取っていない社員は、そうでない社員と比較すると、仕事に集中していない可能性が高い」と述べられています。

さらに、「同僚に比べて2倍の頻度で上司と1on1を行っている社員は、仕事に集中していない可能性が67%低い」という結果が出ています。

また、ギャラップ社の調査によると、エンゲージメントの高い社員は、そうでない社員に比べて、パフォーマンスと生産性が高く、業務の成果に良い影響を与えることが示されています。

帰属意識を育てる

1on1は、帰属意識を育てるという目的にも効果的です。上司と1on1の機会が少ない社員は、組織の方針に対する共感が薄れ、帰属意識を感じにくい傾向があります。1on1ミーティングは、社員を育成し、仕事への貢献と会社が目標を達成することの間のつながりを意識づける上で重要です。

参考:

Qualtrics XM “One on One Meetings with Employees: The Complete Guide”

Harvard Business Review “What Great Managers Do Daily”

Gallup “The Benefits of Employee Engagement”

1on1で話すことの話題例

では1on1ミーティングで具体的にどのようなことを話せばいいでしょうか。ウォッシュバーン大学が公開している論文「100+ Questions for Better 1-on-1s with Your Direct Reports」をもとに1on1で話を展開する際に役立つ話題について紹介していきます。

この話題例は、1on1ミーティングでそのまま使える質問集であると同時に、上司自身が効果的な質問を考えるためのヒントにもなります。状況や部下の個性に合わせて、質問をアレンジしたり、独自の質問を追加したりすることで、より有効な1on1ミーティングを実施できます。

最近の調子について聞く

1on1ミーティングをおこなう際に、いつも調子や最近の出来事について尋ねると、会話が進みやすいです。形式的に始めるのは退屈に感じるかもしれませんが、主題となるテーマへ話を展開しやすくなります。また、部下の気分の変化についても把握できるでしょう。

調子や体調についての質問例
  • 調子はどうですか?
  • 最近何かありましたか?
  • 何から話したいですか?

仕事の満足度

仕事への満足度についての質問は、深刻な問題になる前の早期発見に繋がり、離職防止になるでしょう。質問に対しての回答が肯定的であっても、表面的である場合があります。深い問題がないか、さらにフォローアップの質問をしていくことが必要です。

仕事の満足度についての質問例
  • 今の自分の役割についてどう思いますか?
  • 得意な業務と苦手な業務は何ですか?
  • ほかの業務でやってみたいことはありますか?

キャリアプラン

キャリアプランについても話すと良いでしょう。キャリア目標を明確に持っている人もいれば、どうすればよいのか分からない人もいます。どちらであっても、長期的に従事してもらうためにキャリア形成についての話は必要です。

キャリアプランについての質問例
  • 仕事上で習得したいスキルはありますか?
  • 3年後自分はどうなっていると思いますか?
  • 直近の業務上の目標は何ですか?

会社に感じていること

会社について思っていることも質問してみましょう。社内構造に関する課題やその改善策が分かる可能性があります。また、企業の方針や経営戦略などは一社員では分かりづらい部分があるため、説明をする機会として使うのも良いでしょう。

会社について感じていることの質問例
  • 会社として改善するとしたら、何を改善しますか?
  • この会社で一番の問題点は何だと思いますか?
  • 会社としてやったほうがいいなと思うことはありますか?

プライベート

雑談やプライベートな話をすることは、信頼関係を構築する上で重要です。私生活について尋ねることで、人として気にかけていることを示せます。業務に関する話ばかりでは固くなってしまい、本音を話しづらくなってしまいます。

ただし、プライベートな内容を話したくない人が存在することも注意が必要です。話しやすい内容として、以下のような質問があります。

プライベートについての質問例
  • 仕事以外のことはどうですか?
  • 仕事と私生活のバランスは取れていますか?
  • 最近元気がないように感じますが、何か話したいことはありますか?

参考:WashburnUnivercity “100+ Questions for Better 1-on-1s with Your Direct Reports”

効果的な1on1にするためのポイント

効果的な1on1にするために気をつけるべきこととは何でしょうか。レベッカ・ナイト氏の論文「How to Make Your One-on-Ones with Employees More Productive」をもとに1on1を実施する際のポイントを解説していきます。

継続的な実施

1on1ミーティングの頻度は必ずしも重要ではありませんが、継続的に実施することは重要とされています。

これは、部下のためだけでなく上司のためにもなり、定期的なミーティングがあると分かっていれば、日常業務において「絶え間ない質問攻め」をされる可能性が低くなります。適切な頻度が分かるまで調整しながら探してみると良いでしょう。

また、1on1を継続的に実施する上で、注意すべきこととして、以下2つが紹介されています。

  • 時間通りにミーティングを開始すること
  • 土壇場でキャンセルしないこと

忙しい日々の業務の中で、忘れてしまったり、遅れてしまったりする場合もあるかもしれませんが、部下からの信頼の損失に繋がってしまうため気をつけるべきです。

事前にテーマを決め、共有する

理想としては、事前に議題を共有しておくと良いでしょう。しかし、日々の業務や時間的な制約から、なかなかそうもいかない場合が多いです。現実的な目標としては、2人がそれぞれ話し合いたい内容を箇条書きにしておきましょう。

お互いのリストを比較し、ざっくりと時間配分をして、最も重要な内容をカバーできるようにすることが推奨されています。

ミーティングに集中する

1on1ミーティングの時間は、ミーティングに集中することが重要です。ミーティングを一つの仕事として捉えるのではなく、「貴重なコミュニケーションの時間」と考えると良いでしょう。

可能であれば、電話や端末の通知を切り、会話が中断されないようにしましょう。電話や連絡で会話を止めてしまうと、相手のことを気にかけていない、電話のほうが大切だと思わせてしまう可能性があります。

ポジティブに始める

1on1ミーティングの冒頭で「成功体験を共有すること」が推奨されています。たとえば、日常の業務で助かったことや周りから評価されていることなどを伝えると良いでしょう。1on1ミーティングを始めるにあたって、ポジティブなエネルギーを生み出すことができるので、非常に大切です。

感謝を伝える

ミーティングの締めくくりも、始め方と同じように、ポジティブなものにしましょう。感謝の気持ちを込めて締めくくることがおすすめです。長々と大げさな感謝の言葉を述べる必要はなく、相手の目を見てゆっくりと「ありがとう」と伝えることが重要です。

「肯定的な言葉」は部下にとって大きな意味を持ちます。わざわざ「本心でないこと」や「偽善的なこと」は言うべきではないですが、日頃から評価している部分があれば伝えると良いでしょう。

参考:Harvard Business Review “How to Make Your One-on-Ones with Employees More Productive”

1on1ミーティングの進め方

ここでは、実際の1on1ミーティングの進め方について、マット・メイベリー氏の論文「How to Lead Your First One-on-One Meeting」をもとに紹介していきます。

事前準備

1on1ミーティングを実施するにあたって、まずは事前準備が必要です。ここでは例として、チームメンバーと週1回のミーティングの準備をしていると仮定します。

以下では、週1回のミーティングを想定していますが、先述した通り、1on1の頻度は企業によって大きく異なります。チームが大きい場合は、2週間に1回または月に1回のミーティングを行い、その間に短時間の非同期チェックインを行うことを選択することもできます。

スケジュールの確保

1on1を行う事前準備として、まずスケジュールを確保しましょう。スケジュールをたてる際は、二人とも余裕のある時間帯に設定することがおすすめです。予定を押さえることとあわせて、1on1を行う場所も用意しておきましょう。集中してミーティングが行えるように、対面でもリモートでも、邪魔が入らない場所を用意する必要があります。

テーマの設定

効果的な1on1にするためには、事前にテーマを設定しておくと良いです。事前に設定しておくと、ミーティング当日に何を話せばいいか困ることがないでしょう。雑談だけで時間が過ぎてしまったというトラブルも防げます。1on1ミーティングの流れとして、以下の構成が役立ちます。

  • 近況報告
  • 主なテーマ
  • フィードバック
  • 次の目標

また、設定したテーマを共有しておくことも重要です。

前回の議事録の見直し

初めてのミーティングでない場合は、前回のミーティングの議事録を見返しておくのがおすすめです。部下の進捗状況を把握することができ、課題などを再確認できるためです。

また、ミーティングの前にはメモやWordなどを準備しておき、今後の目標やフォローアップしたい質問などを記録しておきましょう。そうすることで、次回の1on1ミーティングの際に、進捗確認がしやすくなります。

1on1ミーティング

事前準備を整えて、ミーティングを実行しましょう。ミーティングを行う際は、的確な質問をすることと、共感を示しながら聞き手になることを意識しましょう。

オープンマインドでミーティングに臨み、部下が話しやすい環境にしていくことが大切です。

近況報告

まずはアイスブレイクとして、雑談を交えて会話すると良いでしょう。日常会話を通じて部下の近況などを知ることもできます。いきなり本題に入ってしまうと、本音を話しづらい雰囲気になってしまうため注意が必要です。

また、部下の成果や仕事ぶりを褒めたり、部下が普段の会話で言っていたことに興味を示したりすると、信頼関係を築く土台になります。たとえば、「先日提出してくれた資料がとても見やすかった」「先週末行くと言っていたキャンプはどうだったの?」のように会話を展開すると良いでしょう。

ただし、誰かに響くことが、ほかの部下にも響くとは限りません。人によってコミュニケーションのアプローチ方法は変える必要があります。

1on1ミーティングの主なテーマについて話す

アイスブレイクの後は本題に移りますが、部下の話に集中して耳を傾けることで、部下を大切に思っていること、関心があることを伝えられます。前回の1on1ミーティングを振り返り、進捗状況を確認しましょう。

また、本題として設定したテーマについて質問を投げかけることで、会話が展開しやすいです。たとえば、仕事の満足度に関するテーマで話すのであれば「直近で一番成果を感じた仕事は何ですか?」「挑戦してみたい仕事はありますか?」という質問をしてみると良いでしょう。

会話の中で部下に気づきを与えられるような誘導やフィードバックを心がけましょう。

フィードバック

フィードバックは何を言うかだけでなく、どのように言うかも大切です。

注意や指摘など批判的なフィードバックをする場合は、部下個人の性格や能力などではなく、行動や業務上の問題に焦点を当てるようにしましょう。

たとえば、「今週、あなたは少し怠惰なところがあります」と言うのは個人の性格・能力を対象としています。これを「顧客とのミーティングに2回遅刻していましたが、遅刻は相手の時間を軽視しているように見られます」と客観的な意見を述べることで、相手にも的確に伝わるようになります。

次に、改善のために部下が実行できる、明確で具体的なステップを示しましょう。期待することとサポートする姿勢を示すことが重要です。たとえば、「提案資料の内容がとても良いので、遅刻して信頼を落とすのはもったいない」「遅刻を減らすためのツールとして、予定の数分前にリマインダーを設定するのがおすすめです」のように伝えましょう。

また、部下にもフィードバックを求めると、相手を尊重していることを示せます。

ほかにも、ジェニファー・ポッター氏の論文「How to Give Feedback People Can Actually Use」では、フィードバックをする際気をつけるべきポイントとして以下が挙げられています。

  • 全体像に焦点を当てる
  • 組織の価値観に沿っている
  • 解釈ではなく、事実に基づく
  • ポジティブなものとネガティブなものの両方を含める
  • 行動パターンに焦点を当てる
  • 影響と結びつける
  • 優先順位をつける

振り返り

1on1ミーティングを振り返る際には、コーチングの視点が必要です。部下一人ひとりのファイルやフォルダを作成し、コミュニケーションの好みや仕事の優先順位などをメモしておくと良いでしょう。メモがあると、変化するニーズに合わせてアプローチを調整しやすくなります。

フォローアップ

1on1ミーティング後は、話した内容のポイントをまとめたフォローアップメールを送信しましょう。約束事を文書化することで、双方が進捗状況を把握できます。1on1ミーティングで約束したことを実行に移せないと、信頼を失ってしまいます。迅速に対応しましょう。

人材研究所のコメント

上司にとって1on1は部下の本音を引き出す非常に重要な業務の一つです。ある会社では、ある上司が1on1を部下の業務スキル育成の場としてのみ設定し、常に日頃の業務に関する話のみをテーマに実施していましたが、なかなかアドバイス通りに動いてくれないという悩みを持っていました。

部下にもインタビューをしてみると、人間関係や中長期的なキャリアのこと、上司がこれまでにやられてきた努力などもっと幅広くアドバイスを聞きたいし話したいと思っており、前向きに1on1に臨み切れていないことがわかりました。

そこで、部下と上司が交互にテーマを設定するようにしたところ、上司の方から「自分は部下をわかっているようでわかっていなかった、アドバイスの仕方も変わったし部下の動きも良くなった」という声をいただくようになりました。このことから色々と伝えたくなってしまう気持ちも十分に理解できますが、部下の話に耳を傾け信頼関係を築くことが、実は1on1では重要であったりするのです。 

参考:Harbard Business Review “How to Lead Your First One-on-One Meeting”

まとめ

1on1で話すことを考える際に重要なことは、目的を明確にすることです。目的を見据えることによって、自ずと話すべき内容が分かるでしょう。また、自分で考えるだけでなく、部下にも話したい内容を聞き、すり合わせしておくのがおすすめです。

1on1は普段の業務的な会話と異なり、1対1でゆっくりと会話ができる時間です。無計画に始めるのではなく、話すことを事前に考えておくことで、有効な1on1が実施できるでしょう。