若手社員の離職防止に頭を悩ませている管理職の方は多いのではないでしょうか。せっかく採用した人材が定着しないと、採用・教育コストの損失だけでなく、企業イメージの低下にもつながりかねません。

本記事では、ハーバード・ビジネス・レビューなどの論文などをもとに、若手社員が離職する理由や離職防止の対策を紹介します。労働環境の見直しや定期的なフィードバックなど、明日から実行できる内容が満載なので、ぜひ最後まで読んでみてください。

この記事の監修者

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。

若手社員が離職する理由

若手社員の離職防止をする前に、若手社員が離職する理由について知る必要があります。以下では若手社員が離職する理由について解説します。

仕事のストレス

厚生労働省の若者の離職理由によると、転職した理由として「仕事のストレスが大きい」と回答した割合が21.7%となっています。仕事のストレスは、やりがいやパフォーマンスの低下だけでなく、健康に悪影響を及ぼす恐れもあります。

その結果、仕事のストレスを感じた若手社員は、働きやすい職場を求めて離職する可能性が高くなるでしょう。

仕事のストレスの原因は一概にはいえません。労働時間や人間関係、また仕事内容が自分の性格とあっていない、といった点が挙げられます。

若手社員が感じているストレスを把握するためには、個別で密にコミュニケーションをとる必要があります。

引用元:若者の離職理由|厚生労働省

給与に不満がある

また同調査によると、転職した理由について「給与への不満」と回答した割合が26.6%と最も多くなっています。

多くの日本企業では、終身雇用を前提とした年功序列の賃金制度が導入されています。

そのため、若手社員の給与は低く、中間層の給与は高いといった年功序列の賃金制度に不満を感じる若手社員も多いようです。転職サイトなどの普及により、給与体制が良い企業の情報は簡単に得られるようになりました。

昔と比べて転職が当たり前になった昨今において、少しでも給与に不満などがあると転職を検討する可能性が高まり、結果的に離職につながる恐れがあります。

会社の将来性や安定性に不安がある

また、同調査では転職した理由について会社の将来性や安定性に不安があると答えた人が26.6%となっています。会社の将来性や安定性に不安がある若手社員は、給与への不満に続き、離職理由として上位に挙がっています。

会社の将来性や安定性に不安を感じる理由は、主に以下になります。

  • 社内のIT導入の遅れ(=時代に取り残されている)
  • リストラを目の当たりにした
  • 業績が著しくない
  • 新規事業の失敗

上記のような理由から、会社への不信感を募らせたり、会社への将来性に不安を抱く若手社員が少なくありません。会社への将来性や安定性の不安は、より安定した会社への離職を考える若手社員が増える原因となります。

人材育成を支援する株式会社ラーニングエージェンシーが実施した、新入社員3,659人を対象にした調査によれば、6割強の新入社員が「安定した生活」を希望していることがわかりました。

近年の若手は安定志向ともいわれており、そのような背景から安定的に収益を上げている企業が好まれると考えられます。

参考:

【2022年度 新入社員3,659名の働くことに関する意識調査】『安定志向』は過去最高、『リーダー志向』は過去最低

職場の人間関係

1日の大半を過ごす職場での人間関係の悪化は、若手社員が働きづらさを感じるため、離職につながりやすいといえます。職場の人間関係の問題として、パワーハラスメントやモラルハラスメント、セクシャルハラスメントなどが挙げられます。

高圧的な態度の上司や若手社員が孤立しやすい職場は、若手社員の早期離職につながりやすいです。

また、上司側が「普通」と感じていることでも、若手社員の価値観からすれば「普通ではない」と感じることもあるでしょう。例えば、一昔前であれば、部下と飲みに行くことは当たり前でしたが、最近はそのような飲み会も難しくなっています。

この価値観のギャップが若手社員にとっての居心地の悪さにつながっている可能性もあるので、注意が必要です。

キャリアアップの機会がない

若手社員は、会社でのキャリアアップやスキルアップのサポートを求めています。仕事を通じて、キャリアを形成したい若手社員が増えている今、キャリアアップやスキルアップが期待できない企業は離職されやすいです。

若手社員のキャリアアップやスキルアップの要望を把握し、そのための具体的な取り組みを行うことが大切です。自分のキャリアが想像できない会社やスキルアップのサポートがない会社は若手社員に離職される恐れがあるでしょう。

労働時間が長い

多くの若手社員は、できるだけ長時間労働を避けたいと感じているでしょう。残業や休日出勤が当たり前な職場は、ワーク・ライフ・バランスを重視する若手社員にとって大きな負担となります。

ワーク・ライフ・バランスを実現できる環境を求めて、働きやすい職場に転職したいと思う若手社員も少なくありません。長時間労働が当たり前といった風潮は、若手社員の離職率を高める要因といえます。

やりがいを感じられない

さらにハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、仕事にやりがいを感じられない場合、モチベーションが低下し、離職につながる恐れがあるとされています。若手社員は先輩社員と同様に、職場で評価されたいと感じています。

上司からのフィードバックが少なかったり、自分の役割や目標が定かでない場合、やりがいを感じられなくなります。やりがいを感じられない職場は、離職率が高くなるといえます。

また先ほどの株式会社ラーニングエージェンシーの調査によれば、楽しくてやりがいのある仕事を求めており、かつ社会貢献への意欲も高い傾向があるとされています。離職を防止するためにも、若手社員の価値観に沿ったキャリア設計が必要になるでしょう。

参考:

Kimberly Gilsdorf,.Fay Hanleybrown. Dashell Laryea.(2017).How to Improve the Engagement and Retention of Young Hourly Workers.Harvard Business Review.https://hbr.org/2017/12/how-to-improve-the-engagement-and-retention-of-young-hourly-workers

厚生労働省:若者の退職理由

若手社員の離職防止のための対策

若手社員の離職防止のための対策について、ハーバード・ビジネス・レビューによるマサチューセッツ大学アマースト校の社会学教授らへのインタビューをもとに解説します。若手社員の離職防止といっても、さまざまで具体的に何をしたらよいか悩む人もいると思います。

まず、ここで解説する6つの対策を実施してみましょう。

若手社員の社内での人間関係を広げるサポートをする

社内の人間関係を広げることは、若手社員の離職防止に役立ちます。所属部署や同僚だけでなく、他部署でも人間関係を広げることで、以下のようなメリットがあります。

  • 社内の情報が多く得られる
  • 多様な考え方ができる
  • 問題が起こったときのサポートが得られる

社内の人間関係を広げ、若手社員が職場に馴染みやすくすることで、会社への愛着がわき、離職防止につながります。

目標や役割を明確に伝える

若手社員に目標や役割を具体的に伝えることで、自分が会社に存在する意義を実感でき、離職防止につながります。自分の目標や役割が曖昧な場合、自分が会社に貢献できていないと感じモチベーションが低下します。

そのため、上司は以下のように若手社員に目標や役割を明確に伝えることが大切です。

声掛けの例:
〇〇さん、この資料作成を通して、正確に情報をまとめるスキルを磨いてほしいです。期限内に質の高い資料を提出することが、クライアントからの信頼獲得に繋がる重要な役割となります。

上司から定期的に目標や役割を確認することで、若手社員は期待されていると感じ、その結果、離職防止につながることが期待できます。

定期的なフィードバック

若手社員への定期的なフィードバックは、悩みや不安を一人で抱える時間を減らせるため、離職防止に役立ちます。若手社員には、定期的にフィードバックを実施し、仕事への順応状況や抱えている課題、疑問に思っていることがないかなどを確認します。

声掛けの例:
〇〇さん、この仕事にも慣れてきたようだね。何か困っていることや、疑問に思うことはあるかな?私も一緒に考えるので、小さなことでも遠慮なく言ってください。

定期的なフィードバックをすると、若手社員の悩みが大きくなる前に、解決法や改善策を提案することができます。悩みや不安を抱えると、ストレスや生産性の低下に伴い、離職につながる恐れがあります。

定期的なフィードバックの実施と同時に、相談できる体制を整えることが離職防止のために重要なポイントです。

労働条件や待遇に柔軟性を持たせる

ワーク・ライフ・バランスを重視する若手社員の離職防止には、労働条件や待遇に柔軟性を持たせることが重要です。不本意な残業や休日出勤、年功序列の賃金制度などは、若手社員のモチベーション低下の原因となります。

適切な人事評価や賃金制度、残業削減により、働きやすい環境をつくり若手社員の離職を防ぎましょう。

キャリアアップをサポートする

若手社員は、仕事を通じてスキルアップをし、キャリアアップができる機会を求めています。キャリア形成を重要視する若手社員は、キャリアアップができる会社に魅力を感じ、離職する恐れがあります。

離職を防ぐためには、主に以下の方法が挙げられます。

  • スキルアップの研修やトレーニング環境をつくる
  • 社内でロールモデルを見つける
  • キャリアプランを立てる

社内で、自分の目指すべき先輩社員がいると、目標ややるべきことが明確になりモチベーションが向上します。たとえば、キャリアデザイン研修を実施し、キャリアプランを立てさせることも若手社員のビジョンを明確に持たせることができ、離職防止に有効といえます。

入社後のミスマッチを防ぐ

採用時の情報と入社後のギャップが大きいと、離職につながりやすくなります。採用時の情報発信では、入社することで得られるメリットや良いことだけではなく、厳しさや経営状況にも言及しましょう。

良い部分だけでなく、入社後にギャップを感じるかもしれない部分も発信することが大切です。会社の良い面と悪い面を理解した上で、入社するとギャップが少なく、離職防止につながります。

参考:

Donald Tomaskovic.Devey and Reyna Orellana.(2022)The Key to Retaining Young Workers? Better Onboarding.Harvard business review.https://hbr.org/2022/05/the-key-to-retaining-young-workers-better-onboarding

Kimberly Gilsdorf,.Fay Hanleybrown. Dashell Laryea.(2017).How to Improve the Engagement and Retention of Young Hourly Workers.Harvard Business Review.https://hbr.org/2017/12/how-to-improve-the-engagement-and-retention-of-young-hourly-workers

若手社員の離職防止の必要性

若手社員から次世代のリーダーを育てたいと考えている企業も多いはずです。しかし、「優秀な若手社員から辞めていく」と悩む企業も少なくありません。

以下では若手社員の離職が慢性化することによる影響を解説します。

若手社員の離職で悩む企業は多い

厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)によると、新卒就職者の3年以内の離職率は31.5%とされています。事業所規模別の就職後3年以内離職率と離職率の高い上位5産業は以下の表のとおりです。

【事業所規模別の就職後3年以内離職率】

事業所規模高卒就職者大学卒就職者
5人未満60.5% 55.9%
5人~29人51.7%48.8%
30人~99人43.4%39.4%
100人~499人35.1%31.8%
500人~999人30.1%29.6%
1,000人以上24.9%25.3% 

【離職率の高い上位5産業 – 高卒就職者 】

順位業種名就職率
1宿泊業・飲食サービス業60.6%
2生活関連サービス業・娯楽業57.2%
3教育・学習支援業53.5%
4小売業47.6%
5医療、福祉45.2%

【離職率の高い上位5産業 – 大学卒就職者】

順位業種名就職率
1宿泊業・飲食サービス業49.7%
2生活関連サービス業・娯楽業47.4%
3教育・学習支援業45.5%
4医療、福祉38.6%
5不動産業、物品賃貸業36.1%

引用元:新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)|厚生労働省

若手社員の早期離職は、過去20年と比べても大差ありません。企業にとって、若手社員の離職防止は長年の課題となっています。

若手社員の離職に伴う企業の損失

若手社員の離職は、採用・教育コストの損失だけではありません。企業イメージの低下や残された社員のモチベーションにも悪影響をもたらします。

若手社員の離職による企業の損失について、英国を本拠地とするコンサルティング会社であるPwC (PricewaterhouseCoopers) のレポートに基づいて解説します。

採用・教育コストの損失

従業員一人当たりの平均的な採用コストは、約200万円とされています。 新卒社員の採用コストはさらに高くなるといわれており、企業の損失も多く発生します。加えて、教育にかかったコストも無駄になってしまいます。

また、欠員が生じている期間は、そのポジションの仕事が滞り、企業全体の生産性も低下する恐れがあります。

企業イメージの損失

優秀な人材の流出は、企業全体のイメージを損なう恐れがあります。近年、SNSや口コミサイトで、企業の情報は容易に知ることができます。

特に、ネガティブな情報は拡散されやすく、離職者が多いといった情報は企業にとってマイナスイメージになります。

社員のモチベーションの低下

離職が相次ぐと、残された社員のモチベーションやエンゲージメントが低下する恐れがあります。離職者が多い職場や会社に対して、残された社員は不信感を抱くでしょう。

さらに、退職による一人当たりの業務負担が増加するため、離職が続いてしまう恐れもあります。

人材研究所のコメント

ここ数年、若手の離職防止においてインフォーマルネットワークの重要性が増してきています。インフォーマルネットワークとは組織上直属の関係にない社員とのつながりのことで、例えば他部署の同期や、席が後ろの隣の課の係長、採用時にお世話になった現場社員リクルーターなどがあげられます。

採用時に現場社員にリクルーターを依頼していたある会社では、直属の上司と馬が合わなかった際に、中途採用者はそのまま離職することが多いが新卒採用者は「(リクルーターだった)○○さんのチームに異動したい」という声が多く、他の部署やチームに知り合いがいることが離職の防止につながっていました。こうした斜めの関係にある人間関係を構築しておくのも離職防止に有効です。 

参考:
O’Connell, M., & Kung, M. (2007). Employee Turnover & Retention: Understanding the True Costs and Reducing them through Improved Selection Processes. Industrial Management.https://www.researchgate.net/publication/211392097_The_Cost_of_Employee_Turnover

まとめ

若手社員は、労働環境への不満ややりがいのなさ、キャリアアップの機会がないことが理由で離職することが多いです。若手社員の離職防止の対策として、ワーク・ライフ・バランスに配慮した労働環境の見直しや、定期的なフィードバックの実施が挙げられます。

若手社員を孤立させないために、社内の人間関係を広げることも大切です。また、キャリアアップのサポートとして、ロールモデルを見つけたり、研修を実施することも効果的です。

若手社員の離職は、採用・教育コストの損失だけでなく、企業イメージの低下にもつながります。若手社員の離職防止をすることで、長期的に会社に寄り添う人材を定着させることができるでしょう。