チームで仕事を進める上で、部下に注意をするときもあると思いますが、その際に部下がふてくされる、逆ギレするといった経験をする方もいるでしょう。

今回は注意をした際に部下がふてくされたり、逆切れしてしまったりする理由について、海外のビジネススクールの論文・記事などを参考にしながら解説します。

この記事の監修者

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。

部下とのやり取りに悩む管理職は多い

株式会社ライボが公表している「2024年 上司と部下の意識調査」によると、上司の91.4%が部下への忖度経験「あり」と回答していることがわかりました。

一方で、上司への忖度経験「あり」と答えた部下は全体の71.8%という結果になり、部下よりも上司の方が、部下へ忖度していることがわかっています。

また、上司が部下に忖度する際の具体的な場面は、約60%の方がトラブルやミスが起きたと回答しています。

年功序列が根付く日本では、部下が上司に忖度することは容易に想像がつきますが、ハラスメントに対して厳しくなった昨今、注意する際の発言に気を付ける必要があると感じている方が多いのでしょう。

参考:
株式会社ライボ「Job総研による『2024年 上司と部下の意識調査』を実施 9割が”部下に忖度” 多様性に歩み寄り 招いた困惑の事態」

部下に注意をするとふてくされる、逆切れする。その原因は?

部下に注意すると「部下がふてくされた」「部下が逆ギレした」という経験をされた方も中にはいらっしゃると思います。

「昔では考えられない」と思うかもしれませんが、状況を理解するためにも、注意を受けてそのような態度を取ってしまう方の心理について理解しましょう。

以下では複数の大学の研究をもとに、注意を受けて、ふてくされる、キレてしまう原因について解説します。

注意されて否定するのは心の防御機制のひとつ

フリンダース大学の論文によれば、何かしらのミスをしてしまったときに、人は心が傷つくことを避ける防御機制として他人に責任転嫁したり、責任を否定したり、状況から身を引こうとする行動をとるとされています。

特に、誤りを犯したと感じている人や、社会(会社や上司)から非難されたり、排除されるかもしれないと感じている人に顕著に起きるとされています。

参考:
ScienceDaily”Why people become defensive and how to address it”

プライドが高い

米国の心理療法家ジョン・アモデオ博士は、プライドが高すぎることにより、自分の非を認めることが難しくなるとされています。また、そのプライドの高さは、自己肯定感の低さが原因と述べています。

また、子供・若者白書によれば、「今の自分が好きだ」と答えた人は46.5%と半数以下、また約半数近くの若者が「自分は役に立たないと強く感じる」と回答してます。

過去に行われた同調査では諸外国に比べて、自己肯定感が低いこともわかっています。自分に対する自信のなさから、注意やフィードバックに対して素直になれない若者が一定数いると考えられます。

参考:

Psychologytoday”Why Pride Is Nothing to Be Proud Of |  What We Really Need to Feel Good About Ourselves”

内閣府「令和3年度子ども・若者の状況及び子ども・若者育成支援施策の実施状況(令和4年版子供・若者白書)<概要>」

自己肯定感が低い人は否定されると感情的になりやすい

オックスフォード・アカデミックが公表している論文によれば、自尊心が低い人は、他人から注意・拒絶されることに対して、否定的に反応しやすいとされています。

自尊心が低い人は、自分に対する評価が低いため、他者からの否定的なフィードバックを深刻に受け取りやすいです。その結果、感情的な痛みやストレスを強く感じることがあります。

また、不安感を感じやすい人も注意・拒絶されると否定的な反応を示すとされています。不安感が高い人は、他者の評価や意見に対して過敏になりやすく、否定的な意見に過剰に反応しがちです。

参考:

Gyurak, A., Hooker, C. I., Miyakawa, A., Verosky, S., Luerssen, A., & Ayduk, Ö. N. (2012). Individual differences in neural responses to social rejection: The joint effect of self-esteem and attentional control. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 7(3), 322-331.

注意や指示を聞いてもらうためにできることは?

では、上記で紹介したような部下に注意・指示を聞いてもらうためにはどのような話し方を意識するべきかについて、複数の論文をもとに解説します。

まずは自分の行動を見つめなおす

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によれば、部下に注意をするとふてくされたり、逆ギレされたりすると、「気難しい部下を持ってしまった」と思ってしまうかもしれませんが、そのようなときでもまずは自分の行動を振り返ることが重要とされています。

相手を変えようと先に考えるのではなく、自分の行動を振り返ってみて、改善できるところを考えてみましょう。

「どう考えても部下のほうが悪い」と思うときもあると思いますが、まずは自分の行動から見直すことで解決策が見えてくる場合もあります。

問題が起きたときは事実確認からする

注意したときに部下が反抗的な行動をとると、つい責任を追及したくなりますが、しっかりと事実確認をしましょう。

従業員と個別に話す時間を設け、責任を追及することではなく、何が間違っていたかを理解し、一緒に解決策を見つけることが重要とされています。

例えば、「起こってしまったことは仕方がないので、どのような経緯でこれらの問題が起こったのか、一緒に確認しましょう。」という流れで話を進めるのがよいでしょう。

また、解決策もトップダウンで決めつけるのではなく、従業員も巻き込みながら一緒に解決策を考えるようにしましょう。

非言語的表現と表情に注意する

カリフォルニア大学バークレー校が公表している記事によれば、発言の内容だけでなく、その言い方も重要とされています。

たとえば、ポジティブな感情表現(うなずきや微笑み)を伴うネガティブフィードバックは、ネガティブな感情表現(しかめ面や狭めた目)を伴うポジティブフィードバックよりも受け入れやすい傾向があります。

例えば、先ほどの例のように「起こってしまったことは仕方がないので、どのような経緯でこれらの問題が起こったのか、一緒に確認しましょう。」と言いながらも、相手の話をうなずきながら聞くことで、部下はより安心して話すことができます。

また、「具体的にどの部分で課題があったと感じていますか?」と穏やかな口調で尋ねることで、部下は意見を言いやすくなります。

フィードバックの意図をしっかり伝える

フィードバックを始める前に、その目的を伝えることで、受け手の防御を低くすることができます。「なぜこのフィードバックをするのか」を明確にすることで、受け手はその意図を理解しやすくなります。たとえば、「〇〇さんがさらに良い結果を出す上で、思ったことがあって少しお話したいのだけれど、今時間あるかな?」と伝えることで、部下も「ただ頭ごなしに注意されているわけではない」と理解することができます。

成果を強調する

注意するだけでなく、部下がその仕事において、どのように貢献しているかについて具体的なフィードバックを提供しましょう。

進捗や成果を認識することで、モチベーションを高める効果があります。例えば、「今後はこのようなことが起きないように注意していこう。でも、○○○さんがリサーチを担当してくれたおかげで、データ収集が非常にスムーズに進みました。この調子でお願いします。」とあわせて伝えることで、モチベーション向上にもつながります。

ネガティブな話はプライベートで行う

ネガティブなフィードバックは一般に個別に行い、ポジティブなフィードバックは公の場で行うことが推奨されます。プライベートな場でのネガティブフィードバックは、受け手の恥ずかしさや抵抗感を減らす効果があります。

全員が見える場やオンラインチャットツールのグループ内での注意や指示などは、なるべく避けるようにしましょう。

参考:

Harvard Low School “Managing Difficult Employees, and Those Who Just Seem Difficult”

University of California, Berkeley”Nine Tips for Giving Better Feedback at Work”

部下に注意をする際に避けるべきことは?

一方で指示を出す際に避けるべき行動についても解説します。

非難ばかりすることを避ける

何かトラブルが起きたときなどは、人間が持つバイアスにより、他人の内的要因にあると考える傾向があるとされています。

たとえば仕事でミスやエラーが起きた際に「○○さんが怠慢だからだ」「気が緩んでいるからだ」と相手の内面の要因に注目しがちです。

一方で、自分の行動によってミスが起きたときは、外的要因に注目する傾向があるとされています。たとえば「私がこの仕事で遅れが出たのは、会社の動きが遅かったからだ」と外部に要因を求めます。もし、このような癖がついてしまっている場合は改めるようにしましょう。

ネガティブな言い方は避ける

ロンドンビジネススクールの記事によれば、部下に注意をする際は皮肉、非難、攻撃、叱責をなるべく避けて、相手を尊重したコミュニケーションを意識することが重要とされています。

特に注意をする側は感情的にならないことが重要であり、もし「今少し感情的になっているかも」と思った場合、冷静になるまで待つようにすすめています。

一方的な指示を避ける

先ほど紹介したロンドンビジネススクールの記事によれば、一方的に注意をするやり方をさけるべきとされています。一方的ではなく、会話を持つようにしたり、質問なども受けたりすることが重要です。

たとえ、部下に非があったとしても、一方的に注意をして終わるのではなく、部下の言い分も聞くように心がけましょう。

参考:

London Business School 2024 “Leadership spotlight: How to give critical feedback well”

まとめ

部下に注意をする際は、上司にとって気力も体力も使うものですが、それらを効果的に実施することで、チームのパフォーマンスの向上が期待できます。

部下をうまく注意できないなと思う方は、本日紹介した方法をぜひ試してみてください。