「部下」と聞くと自分よりも年下の社員を思い浮かべますが、中には年上の部下がいることもあります。
年上の部下がいると「どのように指示をすればいいのか」「もっとこうしてほしいけど、どう伝えたらいいのかわからない」と悩む方も多いでしょう。
今回は、年上の部下と働く方に向けて、効果的なコミュニケーション方法や避けるべき行為について紹介します。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
年上の部下がいる人の割合
サイボウズ株式会社が実施した調査では、30〜50代の会社員のうち約20%が年下の上司と働いていると報告されています。
従業員数が2000人以上の大企業ではその割合が30%近くに達しており、今後、年功序列から成果主義への移行や定年の延長によるシニア社員の増加に伴い、年下の上司の下で働くケースがさらに増えることが予想されています。
また、同調査では「年下の上司」と「年上の部下」の76%が「相手との仕事はやりやすい」と答えています。
この結果を見ると、「部下が年上であっても問題はない」と考えられますが、他の調査では異なる結果が出ています。次の章で詳しく解説します。
参考:
サイボウズ株式会社「年下の上司に聞く『年上の部下へのマネジメント』調査」
年下の上司から指示をされたときの年上の部下の心境
エン・ジャパン株式会社が実施した調査によると、年下の上司の下で働いた経験のある人の約60%が「仕事がしにくい」と感じています。
多くの人が「若さゆえに経験が浅いのではと不安になる」や「年下に命令されると、言い方によっては気分が良くない」といった、年下の上司に対する否定的な意見を持っています。
また、仕事がしにくい理由として最も多かったのは「人の使い方が下手」(66%)という回答でした。このことから、年下の上司がマネジメント経験不足であり、さらに年上の部下をどのように扱えばよいのか戸惑っていることがうかがえます。
加えて、「知識・知見が少ない」(45%)、「人の意見を受け入れない」(43%)、「人望がない」(42%)といった理由も多く挙げられています。これらの結果から、年下の上司が年上の部下を効果的にマネジメントする際に直面する課題が浮き彫りになります。
このような現状の背景には、年功序列の廃止や実力主義が徐々に組織内で浸透する中で、年下の上司が増えているものの、年齢による経験の差やコミュニケーションのギャップが、上司と部下の関係に影響を与えていると考えられます。
参考:
エン・ジャパン株式会社「ミドルの6割が年下上司の元で働いた経験あり。実際に働いた感想は…??―『ミドルの転職』ユーザーアンケート集計結果―」
年上の部下と円滑にコミュニケーションをとるには?
米国でリーダーシップの育成を支援するグレート・オン・ザ・ジョブのCEO兼創設者であるジョディ・グリックマン氏は、ハーバード・ビジネス・レビューの記事で、若い管理職が年上の部下をマネジメントする際の課題について論じています。
グリックマン氏は、ミレニアル世代がリーダーシップの役割を引き受ける傾向が増えていると強調し、経験や権威の不足による困難を指摘しています。また、グリックマン氏は年上の部下をマネジメントするには、以下が重要であると述べています。
- 自信を持つ
- 常に意見を受け入れるオープンマインドで接する
- 学ぶ姿勢を持ち続ける
それぞれについて以下で詳しく解説します。
自信を持つこと
グリックマン氏は、年上の社員を管理する立場になった際には、まず自分に自信を持つことが重要であると述べています。たとえ「本当に自分にこの役職が務まるのか」と自分に対して疑念があっても、それをチームには見せず、強い姿勢で臨むことが大切だと言います。
日本企業の多くでは、年功序列の文化が根強く残っているため、若い上司が年上の部下を管理することは簡単ではないでしょう。
しかし、「このように進めていきます」や「次のステップはこのように進める予定です」といった形で、自信を持ってコミュニケーションを取ることが求められます。
グリックマン氏は、このように自信を持って話すことで、年上の部下も信頼するようになると述べており、まずは自分が知っている、または経験のある分野からリードしていくと、自信を持ちやすいとアドバイスしています。
常に意見を受け入れるオープンマインドで接すること
自信を持ちながらも、常に意見を受け入れるオープンマインドでいることが重要です。ただし、これは「どういう方向性で進めればいいですか?」と方向性をそのまま求めるのではなく、「私はこのように進めるつもりですが、〇〇さんはどんな意見をお持ちですか?」と自分の意見を共有した上で、意見を求めるようにしましょう。
また、上がってきた意見に対しては受け入れながらも、「○○さんの意見はこういった解釈であっていますか?」と確認を求めながら議論を進めていくことが重要です。
意見やアドバイス、フィードバックを求めることは、許可や指示を求めることとは異なります。
このように、発言の機会をつくり、全体でアイデアを共有しつつも、最終的にリーダーシップを発揮するのは自分であることを忘れないようにしましょう。
学ぶ姿勢を持ち続ける
最後に、上司や部下などの同僚から定期的にフィードバックを求め、学ぶ姿勢を持ち続けることが重要です。
リーダーシップを発揮する際には時に自分が主体となって仕事を進めることも必要ですが、定期的に他人の意見を受け入れながら、常に学ぶ姿勢を持ち続けることを意識しましょう。
周りからフィードバックをもらうためにも、常に改善したいと考えていることを周囲に知らせましょう。フィードバックを受け入れる姿勢を示すことで、よりフィードバックをしやすくなります。
参考:
Harvard Business Publishing “Leading Older Employees”
Harvard Business Publishing “When You’re Younger Than the People You Manage”
年上の部下と仕事をする際の注意点
以下では、年上の部下と仕事をする際の注意点について解説します。
権力を振りかざす行動
年上の部下は、年下の上司よりも豊富な経験や知識を持っていることが多いため、「私が上司なので言うことを聞いてください」と、権力や知識を振りかざして、自分の思い通りに動いてもらおうとすることは効果的ではありません。
上司は年上の部下に対して、自主性を尊重する方法で接する必要があります。たとえば、定期的にフィードバックを求めたり、上司や部下からの意見を積極的に仕事に取り入れることが推奨されています。
放置気味にしてしまう
若い上司が年上の部下と働く際の問題の一つに、年上の部下の反応を恐れて、マネジメントを避けることがあります。これは仕事に必要なコミュニケーションを避けることにつながり、業務上の大きな問題です。
個人的な距離を過度に置きすぎることも避けるべきです。適度な関係性、距離感を築き、信頼を得ることが重要です。
職場でのカジュアルな交流(例えば、ランチやコーヒーブレイク)を通じて、個人的な関係を築き、リラックスして意見を共有しやすくなる雰囲気をつくるようにしましょう。
年上の部下の意見を無視しない
「馬が合わない」と感じて、年上の部下の助言や知識、意見を無視することは避けるべきです。
年上の従業員は長年の経験を通じて豊富な知識を持っていることが多くあります。これらの知識や意見を無視することは、組織全体の利益を損なう恐れがあります。年上の従業員の意見を尊重し、積極的にアイデアを取り入れることで仕事が前に進むこともあり、またその社員のモチベーション向上にもつながります。
参考:
まとめ
年上の部下を効果的に管理するためには、意見を無視せず、尊重し、積極的に取り入れることが重要です。年上の従業員は豊富な経験と知識を持っており、これを活用することで組織全体の利益につながります。
今回紹介した方法を取り入れることで、年上の部下とのコミュニケーションが円滑になり、より良いチームワークと成果が期待できます。