「若手社員が何を考えているのかわからない…」
「若手社員がすぐに辞めてしまう…」
このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。近年の若手社員には独特の特徴があり、ひと昔前の育成方法では優秀な人材が育たなかったり、早期離職率が高まったりする可能性があります。
本記事では、若手社員の特徴をふまえた上で、効果的な育成方法について解説します。若手社員にとって働きやすい職場づくりを目指したい方は、ぜひ参考にしてください。
なお、若手社員の年齢に厳密な定義はありませんが、本記事では10~20代の社員を若手と想定しています。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
若手社員の特徴
若手社員の主な特徴として、以下の5つが挙げられます。
- 仕事のやりがいや人間関係を重視している
- 経済的な安定を求めている
- ワークライフバランスを大切にしている
- メンタルヘルスに不安を抱えている
- 転職を考えている
上記について、それぞれ詳しく解説します。
仕事のやりがいや人間関係を重視している
日本総研が2022年に実施した意識調査によると、近年の若者は仕事に対し、出世よりもやりがいや人間関係を重視していることがわかっています。以下は、同調査の回答結果の一部です。
質問 | 「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答した割合 |
---|---|
出世・昇進のために働くことが重要だ | 33.0% |
自分の能力やスキルを活かすために働くことが重要だ | 59.2% |
喜びや充足感を得るために働くことが重要だ | 58.3% |
他の人と協力して楽しく働くことが重要だ | 57.8% |
自身の成長や貢献を実感でき、良好な人間関係を築ける風土を作ることが、若手社員のモチベーションを向上するのに重要といえます。
参考:
日本総合研究所「2022 若者意識調査 サステナビリティ、金融経済教育、キャリア等に関する意識」p43
経済的な安定を求めている
若手育成を手がける経営コンサルティング会社・XYZユニバーシティー社の調査によると、米国の若者(Z世代)の66%は、仕事に経済的な安定を求めているそうです。この要因について同社では、自分の親がリーマンショックなどの不況により、お金に苦労している姿を見てきたからではないかと推測しています。
また、産業能率大学が実施した調査によって、日本でも若手社員の多くが経済的な安定を求めていることがわかっています。以下は同調査の結果の一部です。
▼Q. 働く上で重要なことは?
順位 | 回答 | 割合 |
---|---|---|
1位 | 長期間、安心して働けること | 57.4% |
2位 | 仕事内容に見合う報酬が得られること | 47.1% ※過去最高 |
3位 | 仕事を通じて自分自身が成長すること | 38.1% |
以上のことから、会社は若手社員に対し、給与や福利厚生などの待遇面も積極的にアピールすることが重要だといえます。
参考:
SHRM “A 16-Year-Old Explains 10 Things You Need to Know About Generation Z”
産業能率大学 総合研究所「2022年度 新入社員の会社生活調査(第33回)」
ワークライフバランスを大切にしている
若者マーケティング機関であるSHIBUYA109 lab.がZ世代(15~24歳)を対象に実施した調査によると、多くの若者がワークライフバランスを重視していることがわかっています。
Z世代は生まれたときからインターネットやSNSでさまざまな情報に触れており、興味関心が他の世代よりも幅広い傾向が強いです。そのため、仕事だけでなく趣味や家族との時間も重視していると推測できます。
以下は、同調査での回答結果の一部です。
質問 | 「とてもあてはまる」「ややあてはまる」と答えた割合 |
---|---|
ワークライフバランスを大事にしたい | 87.9%(男性82.5%/女性91.4%) |
給料と労働時間が見合っているかできる限り確認している | 71.0%(男性67.4%/女性73.3%) |
上記の結果から、若手社員は企業に対して、仕事とプライベートを両立できるかどうかを厳しく評価していることがわかります。
参考:
PR TIMES「24卒・25卒に聞く!Z世代のキャリア観に関する意識調査」
メンタルヘルスに不安を抱えている
若手社員はメンタルヘルスに不調をきたしやすい傾向があります。
世界的な経営コンサルティング企業であるデロイト社が実施した調査によると、若手社員(Z世代)の46%が職場でストレスや不安を抱えているとされています。
メンタルヘルスの不調の要因としては、仕事内容や人間関係などさまざまな可能性が考えられます。若手社員が過度なストレスを感じないよう、企業や上司が対策を立てることが重要といえます。
参考:
Deloitte “2024 Gen Z and Millennial Survey: Living and working with purpose in a transforming world”
転職を肯定的に捉えている
近年の若手社員は1社で長く勤務し続けるよりも、よりよい職場を求めて転職することを肯定的に捉える傾向があります。ビジネス特化型のSNSを運営するLinkedInが実施した調査によると、若い世代の労働者の多くが転職を検討していることがわかりました。以下が世代別の結果です。
世代 | 転職を検討している割合 |
---|---|
Z世代(1990年代後半~2010年代前半生まれ) | 90% |
Y世代(1980年代前半~1990年代後半生まれ) | 92% |
X世代(1960年代後半~1980年代前半生まれ) | 83% |
ベビーブーマー世代(1965年以前生まれ) | 48% |
転職に対するハードルが下がっている現在では、いかに自社の魅力を伝え、若手社員の流出を防げるかが組織運営の鍵といえます。
参考:
Forbes “Younger Generations Want To Change Jobs. Here’s How Employers Can Keep Them”
若手社員のマネジメントに関する管理職の悩み
ここではリクルートワークス研究所の調査結果をもとに、若手社員のマネジメントについて多くの管理職が抱える悩みを紹介します。
自分が若手だった頃と同じように育てられない
自分自身が若手だった頃と同じような指導ができず、適切な育成方法がわからず悩む管理職が多いようです。
ひと昔前であれば、「気合でやれ」「できるまで帰るな」など、根性論的な育成方法もめずらしくありませんでした。しかし、近年では労働者の権利が保護されるようになり、度を超えた指導はハラスメントとみなされる可能性があります。
自分が若い頃には当たり前だったことができなくなり、新たな育成方法を模索しなければならず、頭を抱える管理職が多いと思われます。
若手育成と労働環境改善の両立が難しい
若手育成と労働環境がうまく両立できず、悩む管理職も多いとされています。
若手社員を成長させるためには、ある程度の業務量や責任ある仕事を任せることが必要です。しかし、昨今では長時間労働の是正や休暇取得の推奨など、労働環境改善への意識が高まっています。そのため、「残業時間の削減目標を達成しようとすると、若手を指導するのに十分な時間が確保できない」といった現象が起こりえます。
限られた時間の中で若手を効果的に育成する方法がわからず、四苦八苦する管理職が多いようです。
育った部下が離職してしまう
せっかく一人前に育った部下が離職してしまうことに悩む管理職も多いそうです。
先ほども述べたとおり、近年の若手社員は転職を肯定的に考えています。そのため、今よりもよい職場環境を求めて転職することは自然な流れといえます。
時間とお金をかけ、これから会社の戦力になるはずだった若手社員があっさり辞めることで、落胆してしまうのかもしれません。
参考:
リクルートワークス研究所「大手企業マネジャーの75%が「若手が十分に育っていない」と悩んでいる」
若手社員の特徴をふまえた育成のポイント
若手社員を育成するポイントについて、ハーバード・ビジネス・レビューにて公表されている論文をもとに解説します。
採用前に良好な関係を築いておく
優秀な若手社員が不足している場合は、採用プロセスから見直す方がいいかもしれません。
質の高い人材を集めたい場合は、採用前から応募者に働きかけを行いましょう。採用前に自分がその職場で働くイメージができればミスマッチも起きにくく、入社後のモチベーションも高く維持できる可能性が高いからです。
例として、以下のような工程を設けると効果的とされています。
- 本面接の前に模擬面接を行い、お互いの人となりを知る
- 職場を見学やジョブシャドウイング(仕事をしている社員に密着・観察する)してもらう
どのような仕事をどのような仲間と一緒にするのか、想像しやすいように工夫することが重要といえます。
入社初日は歓迎ムードで迎える
若手社員が入社した初日は、部署全体で歓迎している姿勢を見せましょう。
新しい職場には誰でも不安・緊張を感じますが、若手社員はとくにその傾向が強いです。自分が歓迎されていると感じられれば緊張もほぐれ、モチベーション高く仕事に取り掛かれます。
具体的には、以下のような方法が挙げられます。
- 新入社員へ積極的に話しかけるよう、あらかじめ部署全体に通知しておく
- 新入社員の歓迎会を開く
管理職が犯しがちな間違いとして、「放っておいても新入社員は仕事にすぐ慣れて、何とかやっていけるだろう」と思い込むことが挙げられます。人によっては自分に興味を持ってもらえていないと感じ、早期離職してしまうかもしれません。
メンターをつける
入社後間もない若手社員にはメンターをつけましょう。メンターとは仕事のやり方を教えたり、相談に乗ったりする役割です。
若手社員は仕事だけでなく、職場独自のルールや文化など、非常に多くのことを学ばなければなりません。若手社員を成り行きに任せて放っておくと、自分で解決できずに苦労する場合があります。結果的にモチベーションが低下し、最悪の場合は早期離職につながるかもしれません。
具体的にメンターは若手社員に対し、以下のような働きかけをするのがよいとされています。
- 定期的に1 on 1ミーティングを実施する
- ランチや飲み会に誘う
- 上司や他の同僚との仲を取り持つ
いつでも気軽に相談できるメンターがいれば、仕事が早く覚えられるのはもちろん、孤独感が解消され早期離職を防げる可能性も高いでしょう。
ルールを明確に伝える
会社には社内規則以外にも、職場独自のルールや暗黙のルールが設定されている場合があります。これらのルールは、最初に若手社員へ明確に伝えておきましょう。
また、ルールを伝える際は、そのルールが必要な理由も一緒に述べるのが好ましいとされています。たとえば「職場では携帯電話の利用を禁止」というルールがある場合、
- 製造現場では携帯電話を使うと危ない
- お客様から見たら失礼
など、携帯電話の使用を禁止する理由まで伝えておくのです。
上司にとっては当たり前のルールでも、若手社員にとっては非合理的に感じる場合もあります。若手社員にルールを無理やり押しつけると不満がたまり、モチベーションの低下にもつながりかねないので注意しましょう。
キャリアプランを伝える
上司は若手社員に対し、最初にキャリアプランをはっきりと伝えておきましょう。明確に伝えておかないと、若手社員は自分がなぜ今の仕事をしているのか意図が理解できず、よりやりがいのある仕事を求めて辞める恐れがあるからです。
上司がいくら意図を持って仕事を割り振っていたとしても、若手社員がその意図をくみ取ってくれるとは限りません。「〇年後には△△になってほしいから、今は◇◇しよう」といった形で、若手社員に対する期待や計画を言葉で伝えることが重要といえます。
いい仕事をさせる
若手社員には、やりがいのある「いい仕事」をさせましょう。ここでいう「いい仕事」とは、以下のような仕事です。
- 十分な賃金が支払われる
- あらかじめ決められた時間で働ける
- スキルアップや昇給が見込める
- 上司や同僚と良好な関係が築ける
逆に「悪い仕事」とは、給与が高いだけの仕事や、誰でもできる仕事とされています。若手社員が自分の価値を認識し、将来への希望を感じられる仕事を振ることが重要といえます。
場合によっては、若手社員に「悪い仕事」を頼まないといけないこともあると思います。そのような時でも仕事の意図や身に着くスキルなどを伝えて、「いい仕事」化させることを意識しましょう
質問しやすい文化をつくる
若手社員が気軽に質問・相談しやすい文化をつくりましょう。わからないことはその都度質問すれば仕事を早く覚えられ、結果的に職場全体の生産性が上がる可能性が高いです。
多くの若手社員は周囲に気を使いすぎて、質問したり助けを求めたりすることに躊躇しがちです。とくに仕事が忙しく焦りが感じられる職場や、同僚への敬意がない職場だと、「忙しそうだから質問したら申し訳ない」「嫌な顔をされるから質問しにくい」と考え、より質問や相談を躊躇するかもしれません。
そのため、以下のように若手社員が質問・相談しやすい雰囲気を、部署全体で普段からつくっておくことが重要といえます。
- 「いつでも質問してね」と日頃から伝える
- 質問に対して頭ごなしに否定したり、馬鹿にしたりしない
プライベートにも配慮する
先ほども述べたとおり、若手社員はワークライフバランスを重視するため、仕事だけでなくプライベートにも配慮しましょう。
たとえば小さい子どもがいる若手社員の場合、急な病気や学校行事などで仕事を抜けなければならない可能性があります。そのようなときに休めない職場や、周囲から嫌そうな顔をされる職場だと働きづらいと感じるでしょう。
若手社員のプライベートにも配慮し、もしものときは部署全体で助け合える環境をつくることが重要といえます。
年齢やスキルに関係なく敬意を払う
年齢やスキルに関係なく、すべての社員がお互いに敬意を払える職場づくりを心がけましょう。従業員が尊敬し合っている職場は若手社員にとって魅力的であり、離職率も低下するとされています。
たとえば同僚同士のいじめや、上司から部下へのハラスメントを見かけた場合、管理職は厳重に対処しなければなりません。職場内の無礼な行為を許容してしまうと、全体の士気が下がり、生産性の低下や離職率のアップにつながる可能性があります。
国籍による差別のない職場をつくる
従業員の国籍によって、労働条件や仕事内容を差別してはいけません。たとえば、以下のような外国人労働者への不当な差別を見かけた場合、管理職は厳重に対処する必要があります。
- 単調な作業だけを割り振る
- 日本人よりも給与を安くする
- 法律で定められた労働時間よりも長く働かせる
帝国データバンクが国内企業を対象に実施した調査によると、2023年10月時点で外国人労働者の数は200万人、雇用事業所数は30万カ所を上回っているそうです。今後も国内での外国人労働者は増えると予想されるため、国籍に関係なくお互いに尊重しあえる職場をつくることで、生産性アップや離職率低下につながるとされています。
参考:
Harvard Business Review “The Key to Retaining Young Workers? Better Onboarding.”
帝国データバンク「外国人労働者の雇用・採用に対する企業の動向調査」
まとめ
若手社員の特徴や育成する際のポイントについて解説しました。
若手社員は企業の未来を担う非常に重要な人材です。しかし、近年の若手社員は転職を肯定的に考えており、放っておくとよりよい職場を求めて離職する可能性が高いとされています。
本記事で紹介した育成ポイントをふまえ、若手社員にとって働きやすい職場づくりを心がけましょう。