部下を抱える管理職の方の中で、1on1を苦痛に感じている人も多いのではないでしょうか。本記事では、上司と部下それぞれの視点から、1on1が苦痛に感じられる理由を解説します。
さらに、ハーバード・ビジネス・レビューの記事を参考に、効果的な1on1の実施方法を紹介します。1on1を苦痛に感じずに、部下の成長と組織目標達成につなげるためのヒントが満載です。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
1on1が苦痛に感じる理由【上司・部下別】
1on1は、組織において重要なコミュニケーションツールとして注目されています。しかし、適切な進め方によって大きな効果が期待できる一方で、上司や部下の双方にとって苦痛に感じるケースも少なくありません。
株式会社リクルートの調査によると、1on1を導入した企業の課題として「上司の面談スキルの不足」「上司の業務負荷の高まり」「部下の満足度の低下」などが挙げられており、これらの理由から苦痛に感じる人もいるようです。
引用:1on1ミーティング導入の実態調査|株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
1on1をより効果的に実施するためには、上司と部下それぞれの視点から、1on1が苦痛に感じる理由を理解することが重要です。
ハーバード・ビジネス・レビューによるノースカロライナ大学の経営学教授、スティーブン・G・ロゲルバーグ氏らによる記事を参考に、上司と部下、それぞれの1on1が苦痛に感じられる理由を解説します。
上司が苦痛に感じる理由
上司が1on1を苦痛に感じる理由について解説します。
何を話せばいいのか分からない
1on1で何を話せばよいか分からないことに苦痛を感じている人もいます。多くの管理職は、日々の業務に加えて、1on1のための準備や時間を割くことに苦労しており、時間を作れたとしても、何を話すべきかわからないと思っている人も少なくないようです。
気まずい沈黙が続くことに苦痛を感じ、さらに悪いことに、咄嗟に評価面談に変わってしまい、1on1の効果を十分に発揮できない事態に陥る可能性もあります。
部下が積極的でない
1on1で部下が積極的でないことに、苦痛を感じる上司もいます。1on1は上司が一方的に情報を伝える場ではなく、双方向のコミュニケーションを通して課題解決や成長を促す場です。
しかし、部下が受動的な態度で参加し、上司からの指示や質問を待つばかりの場合、上司は1on1の意義を見出せず、苦痛に感じることがあります。
準備する時間がない
管理職は、日々時間に追われており、1on1の準備に十分な時間を割けない場合があります。1on1の効果を得るためには、事前に部下と議題や実施目的を共有する必要があります。
準備不足のまま1on1を実施すると、意図した結果が得られず、苦痛を感じることがあります。
部下が1on1を苦痛に感じる理由
部下が1on1を苦痛に感じる理由について解説します。
上司が自分のキャリアに興味がないと感じる
上司が自分のキャリアに興味がないと感じるため、1on1を苦痛に感じている人がいます。1on1の本来の目的は、1対1の面談を通して部下の成長をサポートすることです。
しかし、上司が1on1の中で仕事を任せてきたり、会話が業務の詳細に集中したりすると、部下は上司が自分のキャリアのサポートをしてくれないと感じてしまうのです。
部下のキャリアに興味がないと感じる上司の言動は以下のとおりです。
- 「で、今日の進捗はどう?」(いつも業務の確認ばかり…)
- 「他に何か報告することは?」(私の話、聞いてる?)
- 「君のキャリアプランは後で聞こうか」(後回し…?)
- 「とりあえず目の前の仕事を頑張ろう」(私の将来は…?)
- 「君の成長は期待してるよ」(具体的にどう?)
部下は、上司に自分が何を目指して努力しているのか、何が得意なのかを知ってほしいと思っています。
そのため、業務連絡ばかりの1on1は、自分のキャリアに対する関心が低いと感じられ、苦痛に感じてしまうのです。
自分の意見に興味がないと感じる
1on1で、意見を発信しても上司が興味なさそうにしていると、部下は自分の意見に興味がないと感じてしまいます。上司が部下の意見に興味がないと、部下は1on1を苦痛と思うだけでなく、本来の1on1の効果を得ることもできません。
たとえば、部下が意見を発信したときに、上司が以下のような反応を見せる場合、部下は自分の意見に興味がないと感じてしまう可能性があります。
- 部下「業務効率が落ちていることが気になっています。」
- 上司「よくあることだから気にしないで」(無関心)
- 部下「新技術を勉強し始めました!」
- 上司「そうなんだ」(無反応)
- 部下「B案の方が効率的じゃないですか?」
- 上司「まあ、そう思うならそうだと思うよ。」(曖昧)
- 部下「メンバーとの意思疎通に苦労していて…」
- 上司「で、結論何が言いたいの?」(結論重視)
- 部下「最近、チームの雰囲気が良くないんです。」
- 上司「時間がないから、また今度」(遮断)
時間を割いて1on1を実施しても、上司が部下の意見に興味がなかったり尊重しない態度をとっていたりすると、部下は1on1を苦痛に感じてしまいます。
詰められることや怒られることが苦痛
1on1で上司から、詰められたり、怒られることに苦痛を感じる部下もいます。本来、上司と部下の対話の場である1on1で、詰められたり怒られたりすると、1on1が苦痛になり、消極的になる部下も少なくありません。
1on1で、上司が部下に詰めたり怒ったりする言動は以下のとおりです。
- 売上目標未達の責任を問い詰め、「君は何をやっていたんだ?」
- ミスの多さに声を荒げ、「何度言ったらわかるんだ!」
- 報告の遅れに苛立ち、「報連相は基本だろう!」
- 指示と違う行動に呆れ、「なぜ指示通りにできないんだ?」
- 成長が見えないことに失望し、「いつになったら一人前になるんだ?」
特に、問題提起に対して、上司から具体的な解決策や改善方法の提案が無い場合は、部下はただ詰められているだけと感じ、1on1を苦痛に感じてしまう可能性があります。
1on1は、上司と部下が互いに協力し、課題を解決するための場であることを理解することが重要です。
参考:
Alisa Cohn.(2022).So Your Boss Is Always Canceling Meetings Last Minute.Harvard Business Review Homehttps://hbr.org/2022/07/so-your-boss-is-always-canceling-meetings-last-minute
【目的と導入背景】1on1のメリット
上司と部下、それぞれの1on1が苦痛な理由が分かったところで、1on1本来の目的やメリットを理解しておきましょう。株式会社リクルートマネジメントソリューションズによる1on1ミーティング導入の実態調査に基づいて、1on1の目的やメリットについて解説します。
1on1の本来の目的
1on1は、上司と部下の1対1で行う面談で、部下の抱えている悩みやキャリアについて、定期的な対話を繰り返し、部下の成長を促すことが目的です。
1on1は、上司からの一方的な話を聞くだけでなく、お互いの意見を言えるような場にすることが重要です。最低でも週に1回から月1回の頻度で、1on1を実施すると良いとされています。
部下の悩みや不安を聞いたり、キャリアについての要望を聞くことで、部下の成長を促すだけでなく、上司との信頼関係の構築にも役立ちます。
1on1の導入が進んでいる背景
同調査によると、1on1を導入している企業は、全体の約7割とされています。
引用:1on1ミーティング導入の実態調査|株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
また、2022年時点での同調査では、導入時期について全体の約6割が「3年以内」と回答しています。これらの調査結果から、1on1の導入が進んでいる背景として、以下の2点が挙げられます。
- 2010年以降のリモートワークの普及による部下との交流の機会の減少
- 飲み会やランチ会など、非公式なコミュニケーション機会の減少
上記のように、従来のコミュニケーション手段が減少し、部下との密なコミュニケーションが難しくなったため、1on1の導入が加速していると考えられます。
1on1を導入して得られるメリット
同調査によると、1on1を導入して得られるメリットとして最も多い回答は「上司と部下のコミュニケーション機会が増えた」となっています。
引用:1on1ミーティング導入の実態調査|株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
部下の考えていることや悩んでいること、キャリアについて話し合い、部下が成長できるように支援することで、上司と部下の信頼関係の構築や部下の成長による組織力の強化につながります。
1on1が上手くいっていない5つの理由
せっかく1on1の時間を取っていても、いまいち効果を感じられない人は、1on1が上手くいっていない可能性があるので要注意です。
1on1がうまくいっていない5つの理由について、ハーバードビジネスレビューによるリーダーシップコーチのジェン・ダリー氏によるアドバイスなどに基づいて解説します。
これから解説する1on1が上手くいっていない5つの兆候に当てはまる人は、後に紹介する「1on1が苦痛にならない5つの方法」を試してみてください。
頻繁にキャンセルされる
上司から1on1が頻繁にキャンセルされたり、延期されたりする場合、1on1が上手くいっていない可能性があります。1on1が頻繁にキャンセルされることは、優先度が低いとみなされているサインといえます。
頻繁にキャンセルされることで、部下は「1on1は重要視されていない」と感じ、上司との信頼関係が損なわれる可能性があります。
業務連絡になっている
プロジェクトの進捗状況などの表面的な話題ばかりになっていると、1on1の本来の効果を得ることができません。業務連絡になっている原因として、1on1の目的を理解していないことや議題を共有していないことが考えられます。
上司と部下が深い議論や本音の意見交換ができない場合、それは信頼関係が構築できていないサインであり、1on1本来の効果を発揮できていないと言えます。
1on1の目的達成や信頼関係の構築のためにも、1on1を有効に活用することが重要です。
上司だけが話している
1on1が上司からの一方的な指示や情報伝達になってしまっている場合、部下が不満を感じている可能性があります。1on1は、ただの面談とは異なり、部下の成長のために上司と部下が話し合いをすることが重要です。
しかし、上司だけが一方的に話していて、部下が積極的に意見やアイデアを言えない雰囲気は、オープンなコミュニケーションが不足しているサインでもあり、1on1が上手くいっているとはいえません。
改善が見られない
1on1で話し合ったにも関わらず、具体的な行動の変化や改善が見られないケースがあります。 1on1は単なる会話の場ではなく、部下の成長や成果につなげるためのものです。
たとえば、目標達成のために新しいスキル習得の必要性を話し合ったのに、その後も行動に移せていない状態が続いていることなどが挙げられます。
1on1での会話が、具体的な行動や成果に結びついていない場合は、改善が必要です。
時間切れで終わってしまう
1on1がいつも時間切れで終わってしまうことも、1on1が上手くいっていない兆候といえます。時間切れになるのは、1on1の時間が短すぎるか、議題設定が適切でないことが原因として考えられます。
たとえば、部下のキャリアプランについてじっくり話し合いたいのに、現状の業務報告だけで時間いっぱいになってしまうといった状況は、時間配分を見直す必要があるサインです。
事前に議題を共有し、内容を絞ることで、より充実した1on1を実現できます。
参考:
1on1が苦痛にならない5つの方法
1on1は、上司にとっても部下にとっても負担が少なく、有意義な時間となるようにしたいものです。そこで、1on1が苦痛にならない5つの方法を米国人材マネジメント協会によるアドバイスに基づいてご紹介します。
最低でも月に1回は実施する
少なくとも月に一度は1on1を実施し、上司と部下のコミュニケーションを継続的に図ることが重要とされています。継続的にコミュニケーションを取ることで、些細な問題や疑問を早期に解決できるだけでなく、信頼関係を築きやすくなります。
忙しくて1on1の期間が空いてしまうときは、近況報告など短い時間でもコミュニケーションを取るように心がけましょう。定期的な1on1は、上司と部下の良好な関係の基盤となります。
目標を明確化する
1on1では、従業員のキャリアや目標を明確化し、上司と部下の間で共有することが大切です。目標を共有することで、日々の業務や評価が目標達成にどうつながるのかが明確になり、部下のモチベーションの向上にも役立ちます。
目標達成のための具体的な行動計画を立てたり、進捗状況を定期的に確認したりするのも効果的です。上司と部下が、キャリアや目標を共有すると部下の成長意欲や仕事へのやりがいを高め、良い信頼関係を築くことができます。
お互いにフィードバックをし合う
上司から部下へのフィードバックだけでなく、部下から上司へのフィードバックも積極的に行いましょう。双方向のフィードバックは、相互理解を深め、より良い関係を築くために不可欠です。
上司「チーム全体への指示の出し方について、何か改善点があれば教えてほしい。」
部下「ありがとうございます。最近は新しいメンバーも増えたので、タスクの進捗状況を共有する場があると、よりスムーズに業務が進められると思います!」
上司「今回の提案資料、構成がわかりやすくて良かったよ。特に顧客ニーズを的確に捉えている点は評価できるね。」
部下「ありがとうございます!以前、上司から頂いたアドバイスを参考に作成しました。」
お互いに率直に意見を交わせることは、信頼関係の構築ができている証拠です。ネガティブなフィードバックをする場合には「ここは良かったよ!」など、良い点も一緒に伝えるとよいでしょう。
時間配分を意識する
時間配分を見直したり、事前に議題を共有して内容を絞ったりすることで、より効果的な1on1を実現できます。限られた時間の中で、1on1でしかできない重要な議題に集中して話し合いましょう。
事前に議題を共有する際に、それぞれの議題にかける予定時間もお互いに共有しておくと、スムーズな進行に役立ちます。
時間を有効活用することで、密度の濃いコミュニケーションを実現できます。
部下の話に耳を傾ける
上司は、部下の意見や考えに耳を傾け、共感を持って理解しようとすることが大切です。部下が安心して、話せる雰囲気をつくることで、部下の本音を引き出し、課題解決や成長を促すことができます。
相手の言葉にしっかりと耳を傾け、うなずいたり、適切な質問を投げかけたりすることで、積極的に耳を傾けている姿勢を示しましょう。
部下の話に耳を傾け、共感し、理解しようとすることが、信頼関係構築の第一歩です。
1on1は信頼関係を築くための重要な対話の場ですが、活用しきれずに社員の負担となってしまうことがあります。あるクライアントでは1on1が形骸化し、上司と部下の双方が負担に感じていました。匿名アンケートでは「上司が話しすぎて部下が話しにくい」という問題が指摘され、対策として、外部からメンタリングのスペシャリストを招き上司が傾聴における受容や共感の姿勢を体験・実践する場を設けました。その結果、1年後の再アンケートでは「上司の聴き方が改善された」「1on1が楽しくなった」とのポジティブな反応が得られたケースがあります。
参考:
まとめ
1on1を苦痛に感じる理由は、上司と部下でそれぞれ異なります。1on1を苦痛に感じないようにするには、1on1の本来の目的やメリットを理解することが大切です。
1on1が苦痛にならないための方法として、目標を明確にしたりお互いにフィードバックをし合ったり、時間配分を意識して取り組んだりといったことが挙げられます。
1on1で苦痛を感じないための取り組みを行なうことで、上司と部下の信頼関係を強化し、部下の成長と組織力の強化が期待できます。