「現代の若手社員はわがままだ」と感じたことはないでしょうか。中国新聞デジタルの記事では、2年連続で新入社員が辞めてしまったことから、貴重な若手を辞めさせないように優しく接することを人事部から求められる事例が紹介されています。

またほかにも、「休日出勤は不可で、困っている人がいても見て見ぬふり」「昼休憩中に話しかけられるのが苦痛で、社内にいない」などの若手社員の事例もありました。

このような近年の若手社員の傾向をみると「わがままだな」と感じる方もいらっしゃるでしょう。以下では、論文を参考にわがままな若手社員の心理について考察していきます。

この記事の監修者

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。

参考:中国新聞デジタル「職場で増えてる?『お菓子配り族』 背景に若手への過剰な気遣い 甘やかす会社に中堅社員モヤモヤ」

若手社員の考え方の傾向

同志社大学が公表している論文「Z世代の価値観タイプの違いによる分類と理解:SDGs働き方、幸福感との関連性を中心に」をもとに、若手社員の価値観について解説していきます。

論文によると、若手社員、いわゆるZ世代は、デジタルネイティブであることが大きな特徴として挙げられます。SNSが身近にある影響から、推しの存在や人とのつながり、多様性の受容に関する考え方がほかの世代よりも強い傾向にあります。また、「理由がないことや理不尽なことには従えない」という意識がシニア世代よりも強い傾向でした。

これらから、現代の若手社員は、社会的なルールや調和を大切に思ってはいるものの、理不尽なことについては疑問を感じ、個人が満足できる自由な生き方を求めていると推察されます。

しかし、社会に出ると理不尽なこともあれば、合理的ではないことにも向き合う場面は多々あります。そのような際に「この仕事は意味がないと思います」といった態度などに、「わがままだな」と感じてしまうのでしょう。

参考:同志社大学「Z世代の価値観タイプの違いによる分類と理解 : SDGs働き方,幸福感との関連性を中心に」

若手社員の労働価値観

ここでは岡山大学が掲載している論文「事業所規模別の若手社員の労働価値観―職務満足に及ぼす要因分析―」を参考に若手社員の労働に対する価値観について解説していきます。

公益財団法人日本生産性本部が新入社員を対象に行った「働くことの意識調査」によると、新入社員が考える働く目的は「楽しい生活をしたい」が 39.6%で最も高くなっています。さらに、「仕事中心」か「(私)生活中心か」という質問は、「(私)生活」が 17.0%、「仕事中心」が6.0%と、差は11.0ポイントとなっています。この結果から、楽しい生活や充実した私生活のために働いているという意識であることが分かります。

また、仕事や職場へのコミットメントが低下しているとされています。具体的には、「職場の上司、同僚が残業していても、自分の仕事が終わったら帰る」の問いに対しての肯定的な回答が、5年前の調査と比べて14.3ポイントで最も高くなっていることが挙げられています。

これまでの世代とは労働に対する意識や熱意が異なるため、「自分の生活ばかり優先してわがままだ」と感じるのではないかと推察できます。

参考:

岡山大学「事業所規模別の若手社員の労働価値観―職務満足に及ぼす要因分析―」

公益財団法人 日本生産性本部「平成31年度 新入社員『働くことの意識』調査結果」

わがままな若手社員の育成方法

では、わがままな若手社員をどう育成していくのが良いのでしょうか。ここでは、労働政策研究・研修機構の論文「育て上手のマネージャーの指導方法:若手社員の問題行動とOJT」を参考に解説していきます。

仕事における成長意欲に欠けている若手社員の場合

まず、成長意欲に欠けている若手社員の育成のポイントについて解説します。先ほどの調査では、仕事よりも生活中心の傾向があると解説しました。

一見して、仕事に対して成長意欲が欠けているように見える若手社員にも期待することで、モチベーションが上がる可能性があります。また、仕事への取り組み方に注目して、改善点を示すことで成果が上がり、やる気につながるといったケースもあります。

個人の性格や状況によってアプローチの方法は異なるため、以下では3つの事例をもとにポイントを紹介していきます。

事例①入社5年目:レベルアップのための訓練に意欲がわかない客室乗務員

事実に基づき、意欲がわかない理由を考える

まずは成長意欲がわかない原因について考える必要があります。たとえば、過去の失敗がトラウマになっていたり、他人から批判されることを恐れていたりする場合があります。部下本人も意欲がわかない理由を分かっていないケースもあるため、一緒に考えてみると良いでしょう。

一緒に考えて、成長した姿をイメージさせる

部下の成長意欲を高めるには「自分がどうなりたいか」という想像をさせることも有効です。最初は一人でさせると難しいので一緒に考えましょう。たとえば、「自分一人で今の仕事をそつなくできるようになりたい」という目標があるとしたら、「そのために何ができたほうがいいか」と誘導し、本人に考えさせると良いでしょう。

事例②入社3年目:成果が上がらないものの指導を拒否する保険会社従業員

意欲がわかない現状に共感する

仕事への意欲がない若手社員に「給料をもらっているでしょう」「ほかの人はしっかり目標を決めてやっている」などの正論をぶつけても効果が薄いです。「取り組んでいるのに、成果が出ないのは辛いね」「ノルマがあるのはしんどいよね」と共感し、まずは相手に寄り添うことが必要です。

期待し、成果が上がる方法を考える

将来の成長を期待し、伝えることが重要です。たとえば改善点を指導する場合に「あなたはここを改善すれば成果が出るはず」といった声かけをしましょう。成長意欲がないと決めつけず、期待することで部下のやる気が上がる可能性があります。

事例③入社1年目:就業経験がなく、敬語の使い方も分からない女子新入社員

頑張り方を教える 

意欲がないと思われる若手社員の中には、「頑張り方が分からない」人もいます。「やらない」というよりは、何をどうすれば成果につながるのか分からず、「何もできない」という状況です。このような場合は、成功体験を積ませてあげると良いでしょう。一緒に仕事をし、どうすれば成果につながるのかを教えることで、頑張り方が分かり、行動に移せるようになります。

徐々に任せる 

やってみせていた仕事を、徐々に部下本人に任せてやらせてみましょう。仕事ができるようになると自分自身の成長を感じられ、自信がつきます。また、徐々に任せることで、サポートされている安心感もあります。

自分で考えない若手社員の場合

若手社員に感じることの一つとして、主体性がなく、自分で考えないという問題があります。以下では自分の頭で考えない若手社員に対する指導のポイントを2つの事例を挙げて紹介します。

事例①入社3年目:「どうしたらいいんですか?」と何でも聞いてくる若手社員

自分で考える癖をつけさせる 

主体性がなく、何でも聞いてくる若手社員には、「自分はどうしたらいいと思う?」と逆に質問するのが有効です。最初のうちは戸惑うかもしれませんが、徐々に自分で考えられるようになってきます。

仕事の目的を考えさせる

自分で考える癖がついてきても、初めのうちは考えがずれていることの方が多いです。そのときは、なぜそう考えたのかを分析しましょう。「どうしてそう考えたのか」「目的はいったい何なのか」を明確にすることで、徐々にズレが生じなくなってきます。

事例②自主的に行動を起こすことがない受け身な若手社員

ヒントを与え、考えさせる

主体性のない若手社員に「自分で考えて」と言っても、そもそも考え方が分からないため行動に移しづらいです。そのため、具体的なヒントを出していくと良いでしょう。「こんなやり方もある」「この業務にはこういった意味がある」とヒントや気づきを与えることで、考えやすくなります。

この時重要なのは、答えを教えたり、手を出したりしないことです。あくまでも本人が考え、行うことで考え方や自主性が身につきます。

フィードバックを与え、励ます 

自主性をもって考えたアイデアに対し、フィードバックをしましょう。フィードバックの際は、「この発想は面白いね」「この点はもう少し深く掘り下げてみよう」といったように良い点と改善点の両方を伝えると良いです。繰り返すことで、自分で考えることの面白さや喜びを感じられるようになるでしょう。

参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「育て上手のマネジャーの指導方法 : 若手社員の問題行動とOJT(特集 人材育成とキャリア開発)

不平不満ばかりの若手社員の場合

なかには、職場でなにをするにも不満ばかりで、言うことを聞かない若手社員もいるでしょう。

オランダの経営学者であり、精神分析家や組織変革の教授であるケツ・ド・ブリース氏の論文によると、不満を言うことは悪いことばかりではないようです。自分の懸念点を明確化でき、ストレスを軽減する効果もあります。しかし、慢性的な不満は本人だけでなく、周りの同僚にも悪い影響を与えることが分かっています。ネガティブな感情や考え方に反応をしていると、「投影同一視」と呼ばれるプロセスを通じて感情が伝染してしまいます。このような若手社員が職場にいる場合には、以下のような対応をすると良いとされています。

明確な線引きを伝える

不満を言う癖がついてしまっている若手社員に対してアクションを起こしても、効果がないか、あってもわずかです。なぜなら、解決策を探すよりも、自分の置かれている状況のマイナス面に固執し続ける可能性が高いからです。

そのためまずは、考え方を変えたほうが部下のためになることをはっきりと伝える必要があります。

目的をもってポジティブな変化をもたらすために言う不満は有効ですが、どうにもならないことを繰り返し言うのは建設的ではないことを伝えましょう。

参考:Harbard business review “Managing a Chronic Complainer”

若手社員を成長させるために気をつけるべきこと

ここまではわがままな若手社員の育成方法とポイントについて解説してきましたが、成長を促すために気をつけるべきことはあるのでしょうか。以下では、論文をもとに若手社員を成長させるために気をつけるべきことについて解説します。

フィードバックの伝え方

若手社員を成長させるためにはフィードバックが非常に重要です。パトリック・テアン氏の論文によると、部下が生産性とモチベーションを高く保ち、共通の目標達成に向けて成果を上げるには、優れたコミュニケーションスキルを発揮し、成長に必要なフィードバックを提供しなければならないと述べられています。

批判的なフィードバックは、苦手な人も多いでしょう。嫌われてしまうかもしれないとついつい避けてしまいがちですが、一方的に伝えるのではなく、相手の立場に寄り添いながら改善を促すことで、部下の成長や信頼関係の構築に繋がります。

参考:Harbard Business Review “How to Give (and Receive) Critical Feedback”

メンタルヘルスへの配慮

メンタルヘルスは見た目では分かりづらいですが、業務を続ける上で非常に重要な部分です。国立長寿医療センター研究所疫学研究部が行った調査によると、多くの事業所がうつや自律神経失調症などのストレス性疾患の労働者を抱えていることが分かりました。また、長期休業者に関する集計から、うつは長期休業に至ることが多いことが示唆されています。

もちろん、ほとんどの社員が仕事上で何らかの負担を抱えているため、お互いに配慮するべきではありますが、若手社員は、業務としてできないことも多く、指摘されることが多い立場です。伝え方やコミュニケーションの量など配慮してあげると良いでしょう。

参考:産業衛生学雑誌「事業所におけるメンタルヘルス事例の実態とケアの実施状況」

まとめ

若手社員をわがままと感じる理由として、若手社員の世代と管理職世代の価値観にギャップがあることが推察できます。しかし、そのようなわがままな若手社員の成長を促すためには、「わがままだから」「やる気がないから」と一概に決めつけず、成長を期待することが必要です。

価値観にギャップのある若手社員を育てることは、非常に大変ですが、成長すれば企業にとって貴重な資産となりえます。このコラムで紹介した内容を参考に、わがままな若手社員との付き合い方を考えてみてはいかがでしょうか。