「部下が飲み会に参加してくれない…」
「飲み会をしても部下と全然仲良くなれない…」
「そもそも、飲み会に参加したいのかな?」
このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。部下が職場の飲み会に乗り気でないのには理由があり、上司の気配り次第では部下の心理的なハードルを下げられる可能性があります。
本記事では、飲み会で部下との親睦を深めるために、上司が押さえるべきポイントを解説します。飲み会でコミュニケーションの円滑化を目指したい方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
部下との飲み会で親睦は深まる?
飲み会に親睦を深める効果があるかどうかは、専門家の間でも意見が分かれています。
オックスフォード大学の進化心理学者ロビン・ダンバー教授らの研究結果を見ると、飲み会によって親睦が深まる可能性は十分にあると考えられます。同研究によると、アルコールを摂取することで幸福感をもたらすエンドルフィンが脳内に分泌され、その結果人間関係にもよい影響を及ぼすとのことです。
一方、東京大学の労働経済学者・川口大司教授らの研究結果によると、飲み会に人間関係を良好にする効果があるとは限らないといえます。同研究では飲酒量と所得の関連性について調査しており、両者には関連性が見られないと結論づけています。すなわち、飲酒がビジネスコミュニケーションを円滑化して、所得を向上させる効果はないといえるのです。
では、実際に働く社員は飲み会を必要だと思っているのでしょうか?人材派遣業を営むネクストレベル社が、20代以上の社会人を対象に実施した調査の結果は以下のとおりです。
▼ Q.「飲みニケーション」は必要だと思いますか?
必要 | 必要ない | |
---|---|---|
20代 | 35.1% | 64.9% |
30代 | 35.1% | 64.9% |
40代 | 34.0% | 66.0% |
50代 | 40.0% | 60.0% |
合計 | 35.5% | 64.5% |
上記の結果から、「飲み会は不要」と考えている人が世代を問わず多い一方で、「飲み会は必要」と感じている人もそれなりにいることがわかります。
以上のことから、飲み会で親睦が深まるかどうかは人によって感じ方が異なり、飲み会を開催すれば仲がよくなると考えるのは危険といえます。
参考:
東京大学公共政策大学院「飲める人が稼ぐって本当?アルコール耐性と所得の関係」
HRプロ「“飲みニケーション”は時代遅れ? 年代問わず6割超が「いらない」と回答、「気を遣う」、「お金がかかる」などの声も」
部下が飲み会を嫌がる理由
多くの部下はなぜ飲み会を嫌がるのか、先ほど紹介したネクストレベル社の調査結果をもとに、原因を詳しく解説します。
周りに気を遣うから
部下が飲み会を嫌がる最も多い理由は、「周りに気をつかうから」だとされています。
- 大皿の料理を取り分ける
- 上司のお酒の量を気にしつつ注文する
- 沈黙にならないよう話題を提供し続ける
など、部下が気をつかいがちなシーンは数多くあります。本来はリラックスしながら楽しむはずのお酒の場で、四六時中気を張り続けて疲れてしまう人が多いようです。
もちろん、あくまで社会人の飲み会なので最低限の礼儀・マナーは必要でしょう。しかし上司は部下が気をつかいすぎないよう、以下のような配慮も必要だといえます。
- 注文や料理の取り分けなど、自分でできることは自分でやる
- 「気をつかわなくていい」と呼びかける
- 相手に気をつかわせないよう自分も気をつかわない
勤務時間外に時間を使いたくないから
「勤務時間外に時間を使いたくない」ため、飲み会への参加を嫌がる部下も多いようです。近年の若手社員はとくにこの傾向が強いとされています。
若者マーケティング機関であるSHIBUYA109 lab.がZ世代(15~24歳)を対象に実施した調査によると、約90%の若者がワークライフバランスを重視しているそうです。この結果から、若手社員は仕事終わりの貴重なプライベートな時間を、残業代も出ない飲み会に使いたがらないと考えられます。
以上のことから、上司は部下のプライベートも考慮しながら飲み会をセッティングする必要があるといえます。どうしても仕事をする上で部下との飲み会が必要と感じる場合は、勤務時間内に開催するのも一つの手です。
参考:
PR TIMES「24卒・25卒に聞く!Z世代のキャリア観に関する意識調査」
お金がもったいないから
飲み会の参加費が自腹の場合、「お金がもったいない」という理由で、飲み会への参加をためらう部下も多いようです。とくに若手社員だとお金に余裕がない場合が多く、飲み会に一度参加するだけでも大きな負担になってしまいます。
上司は部下の金銭的な負担を減らせるよう、以下のような対処が必要かもしれません。
- 部下よりも多めに支払う
- 役職によって参加費に傾斜をかける
- 参加費を経費で落とせるよう会社に交渉する
大人数が苦手だから
部下が飲み会へ参加したがらない場合、元々の性格が内向的で「そもそも大人数で集まることが苦手」という可能性もあります。
人間の性格は個性であり、すぐに改善するのは難しいです。内向的な部下がいる場合は、無理に大人数の飲み会には参加させず、別途少人数の飲み会を開催するなどの配慮が必要かもしれません。
部下との飲み会で上司が注意すべきポイント
部下との飲み会で親睦を深めるために、上司が注意するべきポイントを解説します。
参加を強制しない
業務とみなされる飲み会(取引先との接待など)を除いて、部下に飲み会への参加を強制しないようにしましょう。パワーハラスメントとみなされたり、残業代を請求される可能性があるからです。
以下のとおり、厚生労働省が公表している「パワーハラスメントの定義」にて、飲み会への参加強要はパワーハラスメントにあたる恐れがあると書かれています。
企業において実際に生じたパワーハラスメント又はそれが疑われたケースの考え方 ・しつこく飲み会に誘う、職場の懇親会を欠席するに当たり理由を言うことを強要する。 |
また、ベリーベスト法律事務所によると、飲み会への強制参加は業務時間とみなされ、残業代を請求される可能性もあるとされています。
以上のことから、部下を飲み会に誘う際は以下の2点を意識しましょう。
- 任意参加である旨を伝える(例:「予定が空いている方で集まるけど、よかったら来ない?」)
- 断られても理由を聞かない(例:「そっか、また今度来てね!」)
参考:
ベリーベスト法律事務所「飲み会に強制参加させると残業代が必要? 企業が知っておくべき注意点」
相手の話を積極的に聞く
飲み会では自分だけが話すのではなく、部下の話も積極的に聞きましょう。
以下は、酒造メーカーの福徳長酒類が実施した「会社の先輩・上司との飲みニケーション」に関する調査結果の一部です。
Q. あなたがこれまで会社の先輩や上司と飲んで嫌な思いをしたのはどんなことですか?
順位 | 回答 | 割合 |
---|---|---|
1位 | 仕事と関係がない過去の武勇伝を延々と聞かされた | 36.9% |
2位 | 仕事上の武勇伝や自慢話を延々と聞かされた | 36.7% |
上記の結果を見ると、興味のない上司の話を一方的に聞かされるのは、部下にとって苦痛であることがわかります。
バンガー大学の従業員支援プログラムCare Firstが公表する資料によると、相手と親密な関係になるには、相手の話を積極的に聞く「アクティブ・リスニング」が有効とされています。アクティブ・リスニングでは、以下の4点を意識しましょう。
- 相手の話に集中する
- 相手の話に関心を示す(例:適度に相づちを打つ)
- 相手の話を途中で遮らない
- 相手の話が複雑な場合は、自分が理解した点を要約する(例:「それは〇〇ってこと?」)
参考:
Bangor University “Communication – The importance of listening”
説教をしない
飲み会で部下に対して説教しないようにしましょう。説教は部下から嫌われるだけでなく、最悪の場合パワーハラスメントとみなされる可能性があります。
以下は、酒造メーカーの沢の鶴が20代・30代の若手社員を対象に実施した意識調査の結果の一部です。
◆職場の飲み会ではどのような飲み会に参加したいと思うか
順位 | 回答 | 割合 |
---|---|---|
1位 | あまりお金がかからない | 40.1% |
2位 | 説教する人がいない | 39.4% |
3位 | 短時間で終わる | 36.7% |
上記の結果を見ると、若手社員の多くは飲み会での説教を求めていないことがわかります。
また、労働問題を専門に取り扱うベンナビ労働問題によると、飲み会で以下のような説教をした場合、パワーハラスメントに該当する恐れもあるとのことです。
- 相手の人格を否定・侮辱する発言
- 長時間の説教
普段は部下に対して敬意を払えている人でも、酔うと気が大きくなり高圧的な態度をとる可能性があります。飲み会の目的はあくまで部下との親睦を深めることなので、お酒を飲みすぎないよう注意しましょう。
参考:
沢の鶴 SHUSHU Light「若者世代の「価値観」と「コミュニケーション」に関する調査2022」p14
ベンナビ労働問題「そこまで言う⁉忘年会での上司による説教に法的な問題はないのか弁護士に聞いてみた」
相手が不快になる話題を避ける
飲み会で部下のことをよく知りたいからといって、何でもかんでも詮索するのは避けましょう。
リーダーシップについて配信するリーダーズ・メディアによると、以下のような話題は人によっては不快に感じるため、避けた方がいいそうです。
- お金(給料や貯金)
- 政治・宗教
- 外見(身長や体重)
- ゴシップ
- 性的な話
同氏によると、以下のような明るい話題を振り、共通点を見つけたらそこから掘り下げていくのがいいとされています。
- 家族・ペット(例:「かわいい犬だね!名前は何?」)
- 趣味(例:「休日は何をしているの?」)
- 旅行(例:「週末に旅行するならどこがおすすめ?」)
- エンタメ(例:「好きな番組は?」)
- スポーツ(例:「昨日のサッカーの試合は見た?」)
- 出身地(例:「地元のどこが好き?」)
- 食べ物・料理(例:「あそこの新しい食堂はもう行った?」)
参考:
Leaders Media “How to Build Work Relationships Using Small Talk Topics”
適切な距離感を保つ
飲み会で部下と仲良くなることは大切ですが、距離感が近くなりすぎないよう注意しましょう。
インディアナ大学の経営学者ケネス・ハリス氏が発表した論文によると、上司と部下の関係性は悪すぎても良すぎても、部下にとってストレスになるとされています。関係性が良すぎると、部下は常に上司の期待に応えなければならないとプレッシャーを感じ、大きなストレスになるようです。
飲み会は仕事上のコミュニケーションを円滑にするための手段であり、部下と友達になるためのイベントではありません。
- 飲み会は頻繁に開催しない
- 二次会には参加しない
- 上司として注意すべき点は注意する
など、あくまで上司と部下の関係であることを忘れずに振る舞いましょう。
参考:
飲み会だけにこだわらない
部下との親睦を深められる手段は、飲み会だけではありません。部下が飲み会への参加を嫌がる場合は、別のイベントを実施するのも一つの手です。
例として、普段から部下と積極的に雑談するのも有効でしょう。カンザス大学経営学助教授のパトリック・ダウンズ氏らが発表した論文によると、職場での雑談は親睦を深めるだけでなく、協調性や仕事終わりの幸福感をアップさせる効果もあるとされています。ただし、雑談には集中力を途切れさせるマイナスの効果もあるため、短時間で済ませるよう注意が必要だそうです。
他にも1 on 1ミーティングやランチ会など、部下との仲を深める手段は数多くあります。飲み会はあくまで親睦を深める手段に過ぎないため、うまくいかない場合は別の手段を試すことも重要でしょう。
参考:
まとめ
部下が飲み会を嫌がる原因や、部下との飲み会で上司が注意すべき点について解説しました。
職場の飲み会を苦痛に感じる部下は多いとされていますが、上司の心配り次第では、部下の心理的な負担を減らせる可能性があります。また、部下がなかなか飲み会に参加してくれない場合は、ランチ会や1 on 1ミーティングなど、別のイベントを開催すると有効かもしれません。
本記事で紹介したポイントをふまえ、部下との親睦を深めてコミュニケーションの円滑化を目指しましょう。