「新卒が最近全然仕事に来なくて困っている。」

「新卒が休みがちになるのを防ぐにはどうすればいいの?」

このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。新卒の欠勤が続く場合はさまざまな原因が考えられ、適切な対処法も異なります。

本記事では、新卒が仕事を休みがちになる原因や、それを未然に防ぐ方法について解説します。新卒にとって働きやすい職場環境をつくりたい方は、ぜひ参考にしてください。

新卒が休みがちになる原因

新卒が仕事を休みがちな場合に、考えられる主な原因を解説します。

人間関係がうまくいっていない

新卒が仕事を休みがちになった場合、職場の人間関係がうまくいかず、悩みを抱えている可能性があります。

求人情報サイトを運営する株式会社ビズヒッツの調査によると、新卒1年以内に転職した理由として最も多かったのが「人間関係が悪い」だそうです(全体の約31%)。学生時代であれば馬が合う友人とだけ付き合っても問題なく過ごせますが、社会人になるとそうはいきません。特に新卒は周りの協力がないと仕事を進めにくいため、人間関係がよくないとストレスも大きくなると考えられます。

以下のような状態になっていないか、上司は新卒をよくチェックすることが重要といえます。

  • 直属の上司からハラスメントを受けている
  • 同僚にいじめられている
  • 教育担当とそりが合わない

もし上記の状態になっている場合、仲がうまくいっていない両者の言い分を聞いた上で、改善策を考えるのがよいでしょう。関係改善が難しい場合は、配置転換や人事異動も検討するといいかもしれません。

参考:

PR TIMES「【新卒1年未満の転職理由ランキング】381人アンケート調査」

やる気がない

新卒が仕事を休む頻度が高い場合、仕事へのやる気がなくなっている可能性が考えられます。

人事向けのメディアを運営する@人事が実施した調査によると、入社後半年以内に「辞めたい」と考えた経験がある新卒の割合は、56.7%にものぼるとのことです。同調査では、新卒が「入社後に感じたネガティブなギャップ」についても調査しています。以下は、その結果の一部です。

▼入社前と入社後のネガティブなGAPは何ですか?

ギャップの種類割合回答例
業務時間・量について32.6%思ったよりも拘束時間がながい / 常に定時退社だと思っていたが違かった
業務について17.0%業務マニュアルが無く非効率 / 雑用が多い
会社について15.1%残業が少ないと働いていない認定される / 参加できる研修が少ない

以上の結果から、入社直後はやる気に満ちあふれていても、日が経つにつれて理想と現実のギャップを目の当たりにして、モチベーションが下がる新卒が多いと推測できます。

新卒のモチベーション低下を防ぐためにも、アンケートや面談を定期的に実施し、悪い兆候が見られる場合は早急に対処した方がよいでしょう。

参考:

@人事「新入社員の本音を大公開。アンケート結果から見えた早期離職の傾向と対策」

責任感が強すぎる

新卒の性格がまじめで責任感が強すぎる場合も、休みがちになる可能性があります。

広島大学の杉浦義典准教授らの研究によると、責任感を過剰に感じやすい人は、心配や強迫傾向(例:「ミスを恐れて繰り返し書類などを確認する」など)が強いとされています。さらに悪化すると、全般性不安症や強迫症など、日常生活に支障をきたすほどの精神疾患になる恐れがあるそうです。

このようなタイプは、周りに助けを求めるのが苦手な傾向にあります。そのため、普段から以下のような声かけをして、周囲から積極的にフォローすることが重要ですf。

  • 「〇〇で何か困っていることはない?」
  • 「失敗は誰にでもあるから気にしなくていいよ」

参考:

広島大学「【研究成果】過剰な責任感が、心配や強迫傾向(確認の繰り返し)を強める ~共通したメカニズムを世界ではじめて解明~」

プライベートで問題を抱えている

仕事や職場環境では特に問題がないのに休みがちな場合は、プライベートに問題を抱えている可能性もあります。

同じ新卒でも、人によって仕事以外の生活は大きく異なります。たとえば、小さな子どもがいる社員の場合、子どもの急な病気で仕事を休まなければならないことも多いでしょう。以下は、東京女子医科大学の野原理子氏らによる、保育園児の年間病欠日数を調査した研究結果です。

年齢0歳1歳2歳3歳4歳5歳
病欠日数19.3日12.8日8.9日7.0日6.5日5.4日

上記を見ると、0~1歳の子どもがいる社員であれば、月に1回程度のペースで仕事を急に休まなければならない可能性があることがわかります。

他にも親の介護など、私生活での問題はさまざまな可能性が考えられるでしょう。部下のプライベートの懸念事項も把握しておき、もしものときは周りでサポートできる体制を整えておくことが重要といえます。

参考:

野原 理子・冨澤 康子・齋藤加代子 (2017)「保育園児の病欠頻度に関する研究」東京女子医科大学雑誌第87巻第5号146~150 (2017)

認定NPO法人ノーベル「子どもは年間で何日病気で休む?」

新卒が休みすぎている場合はまず原因を解明する

新卒が休みすぎていると感じた場合は、頭ごなしに注意・指導するのではなく、まずは原因を解明しましょう。

社員が仕事を休んでいる理由はさまざまなケースが考えられ、それぞれ適切な対処法も異なります。たとえば、ただ単に学生気分が抜けず、ズル休みを繰り返しているだけの場合は、厳しく指導するのも有効でしょう。しかし、もし精神的に病んでいる結果休みがちな場合、きつく注意すると余計に体調を崩してしまう恐れもあります。

とくに近年の若者は、メンタルに不調をきたしやすい傾向が強いです。世界的な経営コンサルティング企業であるデロイト社の調査によると、若手社員(Z世代)の46%が「職場でストレスや不安を抱えている」ことがわかっています。この世代はSNSの利用時間が長く、不安をあおるような情報にも数多く触れていることが原因と考えられるそうです。

新卒が休みがちな場合は、まず話し合いの場を設け、相手の話をよく聞いた上で適切な対処法を一緒に考えましょう。

参考:

Deloitte “2024 Gen Z and Millennial Survey: Living and working with purpose in a transforming world”

新卒が休みがちになるのを防ぐポイント

新卒が休みがちになるのを未然に防ぐポイントについて解説します。

就業規則に欠勤時の対応方法を明記する

社員の欠勤に関する就業規則を整備することが重要です。

労働基準法では、欠勤について明確な定義がありません。そのため、社員は欠勤時にどのように対応すべきか、必要な対応を怠った場合どのようなペナルティを受けるのかなどを、就業規則に記載する必要があるとされています。

社会保険労務士の松本事務所によると、以下のような内容を就業規則に明記しておくのが望ましいそうです。

  • やむを得ない事情で欠勤する場合は、所定の手続きを踏み事前に届け出る
  • 突然の病気やケガで欠勤する場合は、当日業務開始時間までに届け出る
  • 欠勤した日数分の賃金は支払わない(有給休暇に切り替えた場合を除く)
  • 欠勤の連絡や手続きを怠った場合は、懲戒処分の対象となる

また、社員と欠勤に対する認識を合わせるためにも、実際に就業規則と同様の状況になった場合は、規則どおりに対応もしくは処罰することが求められます。

参考:

社会保険労務士 松本事務所「就業規則の条文例(遅刻、早退、欠勤等)」

社員のメンタルヘルスケアを行う

社員のメンタルヘルスケアを定期的に実施しましょう。

新卒が休みがちな場合、仕事内容や人間関係によるストレスが原因で、精神状態がよくない可能性があります。先ほども述べたように、近年の若手社員はとくにストレスへの耐性が弱く、メンタルヘルス不調に陥る傾向が強いです。

厚生労働省が公表する「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によると、メンタルヘルスは以下の「4つのケア」が重要とされています。

ケアの種類実施者実施事項
セルフケア社員自身・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解・ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き・ストレスへの対処
ラインによるケア管理監督者・職場環境等の把握と改善・労働者からの相談対応・職場復帰における支援、など
事業場内産業保健スタッフ等によるケア産業医や保健師などの社内スタッフ・具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案・個人の健康情報の取扱い・事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口・職場復帰における支援、など
事業場外資源によるケア外部の機関や専門家・情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用・ネットワークの形成・職場復帰における支援、など

実際の事例として、「NALYSYS(ナリシス)モチベーション管理」を使用すると、社員一人ひとりの性格とモチベーションを可視化できます。これにより、各社員に合ったマネジメントを現場の上司が行えるようになり、メンタルヘルス不調も未然に防ぎやすくなるのです。

社員のメンタルヘルス不調を未然に防止し、もし異変が見られた場合は適切な処置が受けられる体制を整えることが重要といえます。

参考:

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

Sanpo Navi「〈企業事例:株式会社クレスコ様〉ストレスチェック「Co-Labo」を活用し、きめ細かなメンタルヘルス不調対策を実施」

柔軟な勤務形態を認める

社員のワークライフバランスを向上させるため、フレックスタイム制のような柔軟な勤務形態を認めるのも有効かもしれません。就職サイトを運営する株式会社学情が20代社会人を対象に実施した調査によると、8割以上の回答者が、フレックスタイム制を導入する企業に「魅力を感じる」と回答したそうです。

仕事だけでなくプライベートも重視する近年の若手社員にとって、働く時間やタイミングを必要に応じて調整できるのは魅力的だと推測できます。また、子育てや介護で忙しい社員でも、柔軟な働き方が認められれば仕事も続けやすいでしょう。

新卒が自社に魅力を感じれば、働くモチベーションもアップし、休みがちになるのを防げる可能性が高いです。

とはいえ、職場によっては業務の都合上、各々が好き勝手な時間で仕事をされると不都合が起こる場合もあるでしょう。そのため、

  • コアタイム(1日の中で必ず勤務しなければならない時間帯)を設ける
  • 利用できるのは週に2回まで
  • 利用する際は事前に申請が必要

などの規則を設ける必要があるかもしれません。

参考:

PR Times「7割の20代が、フレックスタイム制を導入する企業は「志望度が上がる」と回答。「柔軟に働けると、生産性が上がる」の声」

社員のエンゲージメントを高める

社員のエンゲージメントを最大限に高めましょう。エンゲージメントとは、会社や仕事に対する社員の愛着や思い入れを指す言葉です。

ギャラップ社が長年実施してきた調査によって、社員のエンゲージメントが高いと離職率が下がるだけでなく、企業の業績や生産性もアップすることがわかっています。エンゲージメントが高まることで、社員一人ひとりの自社に貢献しようとする意識も強くなるからだと考えられます。

以下は、オレゴン大学が推奨する「社員のエンゲージメントを高める方法」の例です。

方法
お互いに認め合う文化を職場に根付かせる・仕事を手伝ってもらったら感謝の気持ちを伝える
・相手の成果を褒める
コミュニケーションを最優先する・相手のサポートを申し出る
・飲み会などの交流イベントを企画する
専門的なスキルを磨かせる・自分の強みを知って強化する
・勉強会やセミナーを開催する
健全なワークライフバランスを確立させる・無理のない仕事量や期限を設定する
・仕事とプライベートに境界線を設けさせる
自分自身を大切にする・十分な睡眠と運動を心がける
・一日の中でこまめに休憩時間を設ける

上記を見ると、社員一人ひとりのエンゲージメントを高めるには、組織全体で取り組むことが重要といえます。

参考:

Gallup “What Is Employee Engagement and How Do You Improve It?”

University of Oregon “Employee Engagement: Employee Strategies”

適切にフィードバックを実施する

新卒に対して、適切にフィードバックを行いましょう。とくにポジティブなフィードバックはモチベーションアップに効果的で、休みがちになるのを防げる可能性が高いです。

HR系のソフトウェアを提供するクリアカンパニー社の調査によると、意欲的な労働者の43%は「最低週1回は上司からポジティブなフィードバックを受けている」とのことです。第三者から褒められることで自分の成長を実感でき、さらにレベルアップしようという意欲がわくのだと推測できます。

たとえば、新卒が以下のようなプラスの働きをした際は、その都度褒めるのがよいでしょう。

  • 同僚を手助けした
  • よいアイデアを思いついた
  • 以前と比べてスキルが向上した

仮にネガティブなフィードバックをする場合でも、よい点を一緒に伝え、成長を実感させることが重要といえます。

参考:

ClearCompany “How to Give Constructive Employee Feedback at Work”

休みすぎている新卒を減給・解雇できる?

欠勤が続いている新卒は減給・解雇できるのか、法的な観点から解説します。

休んだ日数分の減給は可能

新卒が休んだ日数分の給料は、法律上では減給が可能です。

労働基準法上では、欠勤時の賃金カット額の計算方法について特に規定されていません。厚生労働省によると、1日あたりの賃金額を計算し、欠勤1日につきその金額を減給するのが一般的とのことです。

たとえば、月給30万円・月平均の所定労働日数が20日の場合、1日欠勤するごとに1万5千円ずつ減額できる計算になります。

ただし、有給休暇を取得して仕事を休んだ社員に対して減給するのは、労働基準法に違反するため注意が必要です(下記参照)。

▼労働基準法附則第136条

使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

参考:

厚生労働省 東京労働局「Q3.欠勤1日に対する賃金カット額はどのようにして計算すればよいでしょうか?」

e-Gov法令検索「労働基準法」

休みが多いからといっていきなり解雇は難しい

欠勤が続いている社員を解雇できるかは明確に決まっておらず、状況によって判断が分かれます。

ベリーベスト法律事務所の見解では、社員の欠勤が労働契約または就業規則で定められた解雇事由や懲戒事由にあてはまる場合は、解雇できる可能性があるとされています。ただし、いくら解雇事由・懲戒事由にあてはまっていたとしても、いきなり解雇するのは懲戒権・解雇権の濫用として無効となる可能性が高いとも述べています(下記参照)。

▼【事例】日本ヒューレット・パッカード事件

会社の了承を得ずに約40日間欠勤を続けた社員Xに対し、会社は諭旨退職処分とした。Xは本件処分は不当であるとして、処分撤回を求めて会社側を訴えた。これに対し最高裁は、「精神的不調により欠勤を続けている労働者に対して、使用者は医師による健康診断を実施する等の対応をとるべきであり、このような対応をとらずになされた本件処分は無効である」と判断した。

もし無断欠勤など不当な欠勤が続く場合は、まず戒告やけん責などの軽い懲戒処分を行い、それでも続くようなら減給や解雇などの重い処分が妥当とのことです。また、欠勤の原因が体調不良である場合は、回復するまで休職を提案するのも一つの手とされています。

参考:

ベリーベスト法律事務所 池袋オフィス「体調不良で欠勤が多い社員……解雇や減給は可能?」

国立国会図書館デジタルコレクション「日本ヒューレット・パッカード事件」

まとめ

新卒が仕事を休みがちになる原因や、それを未然に防ぐ方法について解説しました。

新卒が休みがちな場合、さまざまな原因が考えられます。新卒の休みが多いからといって頭ごなしに注意・指導するのではなく、まずは休んでいる原因を明らかにしてから対処法を考えましょう。

本記事で紹介した内容をふまえ、新卒にとって働きやすい職場づくりを目指してください。