• 「優秀な部下が転職してしまいショックを受けている…」
  • 「最近、部下が立て続けに転職している…」
  • 「これ以上、部下の転職でショックを受けたくない」

このような悩みをもつ管理職も多いでしょう。部下が転職する原因はさまざまですが、上司の心がけ次第で、離職者を減らせる可能性があります。

本記事では部下の転職でショックを受けてしまう理由や、それを未然に防ぐための対策について解説します。部下が長く働ける、魅力的な職場をつくりたい方はぜひ参考にしてください。

部下の転職でショックを受ける理由

部下の転職でショックを受けてしまう理由として、5つのパターンを紹介します。

部下から事前に相談がなかったため

事前に一言も相談なく、部下から突然転職したい旨を伝えられるケースは多いと言われています。上司からすると、「一言くらい相談してくれたらいいのに…」とショックを受けるかもしれません。

転職系メディアを運営する株式会社NEXERが実施した調査によると、転職経験者もしくは転職を検討したことがある人の多くが、転職したい旨を誰にも相談しなかったことがわかっています。以下は同調査結果の一部です。

▼Q. 転職を考えたときに、最初に相談した相手は誰ですか?

回答割合
誰にも相談していない44.2%
交際相手や結婚相手18.2%
10.1%

また同調査では、誰にも相談せずに辞める理由を尋ねたところ、主に以下の回答が得られたとされています。

  • 相談できる相手が周りにいない
  • 反対されるのが嫌
  • 辞める決意を固めたので相談する必要がない

以上のことから、転職を考えている部下の多くは自分で決意を固めており、周りの助言を求めていないことがわかります。

部下の退職理由が自分に原因があるため

上司との関係が悪く、転職を決意する部下も多いと言われています。部下が上司のせいで辞めるとなると、自分のリーダーとしての資質のなさを思い知らされ、ショックを受けるのでしょう。

ビジネス書や実用書などの出版を手がける株式会社かんき出版が、退職経験者を対象に実施した調査によると、退職理由として最も多い回答が「上司との関わりに不満があった」だったとされています。以下は同調査結果の一部です。

▼Q. あなたの退職の決め手となった要因を教えてください。

回答割合
上司との関わりに不満があった35.8%
DX、テクノロジー活用等の遅れを感じた28.3%
働き方に不満を感じた27.4%

部下が上司との関わりで不満をもつ要因としては、以下のようなものが考えられます。

  • 意見やアイデアを聞いてくれない
  • 理不尽な要求をしてくる
  • 威圧的な態度をとってくる

もし、部下との関係性がよくなかったり、部下を雑に扱ったりしている自覚がある場合は、注意が必要かもしれません。

部下が優秀だったため

優秀な部下が転職してしまうと、組織としては大きな損失を被り、その分ショックも大きくなるでしょう。

ミッドランド・テクニカル・カレッジによると、社員が1人離職するごとに発生する損失額は、その社員の給料の1~2倍にもおよぶとされています。この損失額には、生産性の低下によって減少した売上や、新たな社員の採用費などが含まれています。

さらに、辞めた社員の能力が高ければ、損失額はさらに大きくなる可能性もあるとのことです。米国と日本で多少の差はあれど、優秀な人材の退職が大きなダメージになりうることは間違いないでしょう。

とくに若くて優秀な社員は、よりレベルの高い仕事や条件を求めて、積極的に転職する傾向が強いと言われています。ロエイン・ステート・コミュニティ・カレッジによると、優れた学歴と職歴をもつ平均年齢30歳の労働者は、平均で28ヶ月後には転職することがわかっています。また、彼らの95%は、定期的に新しい転職先を探し続けているそうです。

以上のことから、優秀な部下は常によりよい職場を求めており、長く引き留めるには職場環境を改善し続けることが重要といえます。

可愛がっていたため

自分が可愛がっていた部下に、転職したい旨を告げられたときのショックは計り知れないでしょう。

ひいきにしている部下をもつ上司は多いと言われています。経営コンサルティングを手がける株式会社識学が、管理職を対象に実施した調査によると、「会社に特に可愛がっている部下や後輩がいるか」との問いに、約半数が「いる」と回答したとのことです。

しかし、上司から可愛がられている部下自身は、自分だけが優遇されるのを望んでいないかもしれません。オハイオ州立大学の研究によると、上司から優遇されることでプレッシャーを感じたり、同僚から嫉妬されストレスを感じたりする者も一部いることがわかっています。つまり、上司が手塩にかけて可愛がったことが原因で、部下を退職に追いこんでしまう可能性もあるといえます。

上司も人間である以上、多少の好き嫌いは仕方ありませんが、露骨なひいきは避けた方がいいでしょう。

立て続けに退職者がでていたため

短期間で部下の転職が相次ぐと、上司としての自分の管理能力が低さを思い知らされ、ショックを受けるかもしれません。

厚生労働省が公表している「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると、同年の一般労働者の離職率は15.0%にもおよびます。たとえば50人が在籍している部署の場合、7~8人が1年間で退職している計算になります。あくまでも計算上ですが、職場によっては社員が立て続けに離職するケースも十分ありうるでしょう。

部下が連鎖的に退職している場合、職場環境に何らかの問題がある可能性が高いため、早急な対応策が必要かもしれません(具体的な対策については後述)。

参考:

CAREER BIBLE「転職を考えた時に最初に相談する相手は家族?上司?転職の相談相手に関する調査結果を紹介!」

HRプロ「大企業の退職理由は「上司との関わりに不満」が最多。約7割が「上司をビジネスパーソンとして尊敬できなかった」と回答」

Midlands Technical College “Measuring the Real Cost of Employee Turnover”

Roane State Community College “This Is The Biggest Reason Talented Young Employees Quit Their Jobs”

PR TIMES「【上司のひいきに関する調査】「上司が特に可愛がる部下・後輩がいる」10名以上の組織で半数超え」

The Ohio State University “Playing Favorites: A Study of Perceived Workplace Favoritism”

厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」p6

部下が転職する原因・兆候

部下の転職が多発している場合、さまざまな原因が考えられます。以下は、厚生労働省の「令和4年雇用動向調査結果の概況」で公表されている、「転職入職者が前職を辞めた理由」の一部です。

原因
労働条件が悪い・残業が多い
・休日が少ない
人間関係がよくない・先輩社員と馬が合わない・職場内で悪口や噂が絶えない
待遇に不満がある・給料が安い
・頑張っても収入が変わらない
仕事がつまらない・何年間も同じような仕事をしている
・仕事の目的や意図がわからない
会社の将来性に不安を感じている・会社が将来倒産しないか心配
・業績が悪いとリストラされそうで不安
家庭の事情で辞めざるを得ない・育児しながら働くのが難しい
・親の介護に専念したい

また、部下が転職を検討している場合、何らかの兆候が見られる可能性があります。以下は、米国の医療教育機関であるアルティメット・メディカル・アカデミーが公表する、「社員が辞めようとしているサイン」です。

兆候
仕事がいい加減になっている・ミスが増えた
・期限を守らなくなった
勤務態度が悪くなる・遅刻が増えた
・ミスをしても謝らなくなった
愚痴や文句を言うことが増えた・先輩の悪口を言うようになった
・上司に口ごたえするようになった
同僚とコミュニケーションをとらない・あいさつをしなくなった
・話しかけてもそっけなくなった
休みがちになる・有給で休むことが増えた
・早退が増えた

部下に上記のような兆候が見られる場合、まずは原因を解明し、職場環境の改善に努めることが重要といえます。

部下が転職する原因や兆候について、より詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

参考:

厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」p14

Ultimate Medical Academy “7 Signs an Employee Is Ready to Leave and How to Change Their Mind”

部下の転職でショックを受けないための対策

部下が転職してショックを受けないために、事前にできる対策を紹介します。

給与や福利厚生を充実させる

給与や福利厚生を充実させると、部下のモチベーションが上がり、離職を防ぐことができます。

とくに近年の若手社員は、仕事に対して経済的な安定性を求める傾向が強いと言われています。産業能率大学が新入社員を対象に実施した調査によると、働く上で重要なこととして、約半数が「仕事内容に見合う報酬が得られること」と回答しています。

また、部下の待遇を改善することで、会社や部署の業績がアップする可能性もあります。カリフォルニア大学バークレー校のハース・ビジネススクールによると、社員の給与を惜しんだ場合、以下のような「隠れた損失コスト」が発生するとされています。

  • 社員の欠勤が増え、生産性が低下する
  • 社員の離職が増え、新たな人材を採用しなければならない
  • やる気のない社員のミスをフォローする

よって、「社員の給与を増やしたことによる業績アップの効果」と「社員の給与をそのままにした場合の損失コスト」を比較し、必要に応じて待遇面を改善することが重要といえます。

部下のエンゲージメントを高める

部下を長く引き留めたい場合は、エンゲージメントを高めることが重要です。エンゲージメントとは、会社や仕事に対する愛着や思い入れを指す言葉です。

社員のエンゲージメントは離職率だけでなく、生産性にも大きく影響すると言われています。ビジネスや教育に関する情報を発信しているEHL Insightsによると、エンゲージメントと生産性には、以下のような関連性があるとされています。

  • エンゲージメントが低い従業員はミスを犯す可能性が18%高く、年間給与の最大34%相当の損失をもたらす
  • エンゲージメントが低いワークグループでは、欠勤率が25%高く、事故が62%多く発生する

エンゲージメントが低い社員は、会社に利益をもたらそうとする意識が低く、結果的に生産性が低下したりミスが増えたりするのでしょう。

以下は同社で提唱している、社員のエンゲージメントを高める方法の例です。

方法
コミュニケーションを促進する・部下の話を積極的に聞き、意見を求める
・部下の仕事ぶりについてフィードバックを行う
スキルアップの機会を設ける・勉強会やセミナーを開催する
・キャリアアップや昇進制度を明確にする
成果を認める・ニュースレターや会議で部下の成果を取り上げる・優れた成績を残した部下にインセンティブを与える
チームワークを強める・飲み会や交流イベントを開催する
・いじめやハラスメントは厳正に対処する
ワークライフバランスを実現する・無理のない仕事量や期限を設定する
・仕事とプライベートに境界線を設ける
社員を大切に扱う姿勢を見せる・部下の勤続記念日を祝う
・部下の意見をもとに、オフィスの改善に投資する

スキルアップの機会を提供する

部下にはスキルアップの機会を積極的に提供しましょう。

ペンシルバニア大学のウォートン・スクールによると、社員のスキルアップには以下のようなメリットがあるとされています。

メリット概要
競争力を維持できるコアスキルの変化が激しい中でも、会社が直面している課題に社内で対処できる
社内に人材パイプラインを構築できる社内から優れたリーダーを育成し、外部のトレーニングや採用コストを削減できる
イノベーションを促進する斬新な商品やサービスを開発する可能性が高まる
会社の信頼性を高める会社が社員のスキルアップのために投資していることの証明となる

社員のスキルアップにはこれだけメリットがある一方で、スキルアップに対して十分な支援ができていない企業は多いと言われています。HR総研が実施した調査によると、スキルアップについて約半数の企業で「会社による支援はない」と回答したとのことです。多くの労働者は自己負担でのスキルアップを強いられており、金銭的余裕がないためにスキルアップを断念する者もいるようです。

逆に言うと、社員のスキルアップを積極的に支援する企業は貴重かつ魅力的であり、離職率の低下につながる可能性があります。

リーダーシップを効果的に発揮する

多くの部下は優れたリーダーを求めていると言われています。

ギャラップ社が世界各国で実施した調査によると、労働者の24%が管理者(上司)に不満を抱き、離職していることがわかっています。その結果、職場の生産性は低下し、さらに離職が起こりやすい組織になるとされています。

一方、シエナ・ハイツ大学によると、優れたリーダーがいる職場には以下のような特徴があるとされています。

特徴概要
コミュニケーションが円滑に行われている誰でも質問や相談、意見を出しやすいオープンな環境を作り出せる
人間関係がよい年齢や役職に関係なく、互いに信頼・尊重し合う文化を醸成している
生産性が高いメンバー全員の長所を把握し、それぞれが得意なタスクを割り当てている
ミスが少ない潜在的な問題を理解し、ミスが起こる前に対処できる
モチベーションが高いメンバー1人ひとりの性格を理解し、それぞれに合った方法でやる気を引き出している
目標やビジョンを共有している会社や組織の長期的な目標・ビジョンを共有し、目指す方向性を統一できている

以上のことから、上司がリーダーシップを効果的に発揮することで、人間関係や生産性を改善でき、部下の離職率も下げられる可能性が高いといえます。

成果を上げた社員を表彰する

部下のモチベーションを高めるために、一定以上の成果を上げた社員を表彰するのも有効かもしれません。

アンケートツールを提供するサーベイモンキー社の調査によると、労働者の82%は「自分の成果を評価してもらえた」ときに、幸福度が高まることがわかっています。第三者から成果を評価されることで、自分の貢献度や成長を実感でき、さらにレベルアップしようという意欲がわくと考えられます。

とはいえ、社員を表彰するにあたって、余計な手間やコストをかけたくない場合もあるでしょう。そこで、ハーバード公衆衛生大学院が提唱する以下の方法であれば、簡単かつ低コストで部下を表彰できます。

  • 優秀な成果を上げた社員を会議や掲示板で発表する
  • 成績優秀者を称えたイベントを企画する
  • 一定以上の成果を上げた社員に有給休暇をプレゼントする
  • チームに対するポジティブなフィードバックを集めて公表する
  • 周りから見える位置に感謝のメモを貼る
  • 陰で支える社員へ感謝状を送る

参考:

産業能率大学 総合研究所「2022年度 新入社員の会社生活調査(第33回)」

Berkeley Executive Education “Why You Should Consider a Raise for Your Employees”

EHL Insights “Employee engagement: The method behind hospitality success”

The Wharton School “5 Reasons to Offer Employees Learning & Development Opportunities”

HR総研「【ミニ調査】ビジネスパーソンのスキルアップに関する実態調査」

Gallup “The Damage Inflicted by Poor Managers”

Siena Heights University “10 Reasons Leadership Is Important in the Workplace”

Survey Monkey “Can employee recognition help you keep them longer?”

Harvard T.H. Chan School of Public Health “No Cost Recognition Ideas”

まとめ

部下の転職でショックを受けてしまう理由や、それを未然に防ぐための対策について解説しました。

大事に育てた部下が転職してしまった場合、そのショックは計り知れないものでしょう。部下が転職する原因はさまざまですが、上司の心がけ次第で、離職率を下げられる可能性は十分あります。

本記事で紹介したポイントをふまえ、部下が長く働ける、魅力的な職場をつくりましょう。