「部下が仕事を抱えすぎて過労気味」と感じている上司も多くいらっしゃるでしょう。

「部下の仕事の効率が悪いだけでは?」と思われることも多いかもしれませんが、原因はそれだけではありません。

本記事では、部下が仕事を抱え込みすぎることによる影響と、それを緩和する方法について、複数の論文などを参考に解説します。

この記事の監修者

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。

部下が仕事を抱えすぎてしまうことによる影響

以下では仕事を抱え込みすぎることによる影響について、マサチューセッツ工科大学が運営するメディアMIT Sloan Managementの記事を参考に紹介します。

健康への影響

過労が続くと、多くの健康問題を引き起こすリスクがあります。例えば心臓発作や脳卒中のリスクが高まり、慢性的な睡眠不足は集中力や記憶力の低下を招きます。その結果、仕事の質も低下することが考えられます。

燃え尽き症候群を引き起こす

長時間労働は、燃え尽き症候群に繋がることが多いです。例えば、平日だけでなく休日も仕事のことを考え続けると、無力感や絶望感に襲われることがあります。この状態が続くと、部下のモチベーションやパフォーマンスの低下にも影響するでしょう。

仕事の質の低下

過剰な仕事の負荷は、仕事の効率が落ちたり、仕事の質が低下したりすることにもつながります。例えば、無理なスケジュールでの仕事は、細部に注意を払う余裕をなくし、結果としてミスの多発や、納期遅れ、質の低い成果物を生むことにもつながるでしょう。

離職のリスク

過剰な仕事の負荷や非現実的な要求は、優秀な人材の離職を引き起こします。これにより、企業は貴重な人材の定着が難しくなり、安定したサービスの提供や、顧客との関係維持に影響を及ぼします。

職務満足度の低下

自分で仕事のスケジュールをコントロールできない場合、職務満足度が低下します。例えば、シフト勤務の従業員が、予測できない残業や突発的な勤務変更により、家庭生活やプライベートの時間を十分に確保できない場合、離職につながるリスクが発生します。

参考:

Massachusetts Institute of Technology”Fixing the Overload Problem at Work”

部下が仕事を抱えすぎる原因

ここでは、部下が過剰に仕事を抱える原因とそれに対する解決策を解説します。

上司による過剰な期待

先述のMIT Sloan Managementの記事によれば、上司が部下に対し、勤務時間外や休暇中も仕事をすることを期待する状況は、プライベートの時間を侵害し、燃え尽き症候群や過労の原因になるとされています。

従業員が適切に休息を取ることなく連日業務に追われると、効率が低下し、仕事の質も落ちる可能性があります。企業は従業員の健康と仕事のバランスを重視する文化を育む必要があります。

変わりやすいスケジュール

柔軟な勤務体系は一見利点に見えるものの、予測不能なシフトや長時間労働は従業員に大きなストレスを与えます。プライベートの計画が立てにくくなると、生活全般が不安定になり、タイムマネジメントが困難になることがあります。

これが業務の効率や成果に悪影響を及ぼすことも少なくありません。管理者は勤務スケジュールを事前に計画し、従業員が自身の時間を有効に使えるよう配慮することが求められます。

非現実的な目標

ハーバード大学文科学学部ハーバード継続教育部門によれば、非現実的な目標が従業員の過負荷の原因となるとされています。従業員が現実的に管理できる以上の仕事を任され、企業が設定した非現実的な目標を追わせるとき、疲労とストレスが蓄積します。

また、このような状況が続くと燃え尽き症候群になったり、病欠を取る日数が増加したりする傾向にあり、チームの生産性に影響を与えることもあります。

部下の役割が不明確

バーンアウトとマネジメントに関する2018年のギャラップ調査によると、バーンアウトの主な原因の一つに「役割の不明確さ」があります。役割が明確でないと、従業員は自身の責任範囲を正確に理解できず、どの業務を優先すべきか、どこで業務を制限すべきかの判断が難しくなり、結果として仕事を多く抱えてしまいます。

部下が休む・仕事を断ることに罪悪感を感じている

ユタ大学が公開する記事によれば、「常に何かをしていなければならない」「仕事を断ってはいけない」という圧力を感じ、仕事を抱え込むと、燃え尽き症候群や仕事の効率の低下を招くとされています。

仕事を断る、休むことに対して罪悪感を感じることは、健康的でバランスの取れた労働環境とは言えません。休暇は健全に仕事を続けるために重要です。

また、「仕事を断ったら嫌われる」という感覚は、「仕事を頑張っている自分を認めてほしい」という欲求が、不健全な形で仕事と結びついている可能性があります。

参考:

Harvard Division of Continuing Education”6 Management Tips for Supporting Employee Wellbeing at Work”

Syracuse University “How to Identify and Address Employee Burnout

Massachusetts Institute of Technology”Fixing the Overload Problem at Work”

Toxic Productivity: Recognize, Resist, Reimagine

仕事を抱えすぎてしまう部下の特徴・性格

仕事を抱えすぎる原因は部下の性格も原因の一つであると考えられます。ジェームス・マディソン大学の記事をもとに、どのような性格が仕事を抱え込みやすいのか、以下で解説します。

人間関係への過度な不安を抱く性格

「仕事を断ることで評価が下がるのではないか」という不安を抱える人は仕事を断りにくい傾向があり、結果として多くの仕事を抱えてしまいます。

断ることに対する不安は自然な反応ですが、それが過度になると、仕事の質や個人の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

皆を満足させようと努力する性格

「皆の役に立ちたい」といろんな仕事を巻き取ってしまい、仕事を抱え込んでしまうケースもあります。

誰かを幸せにすることは素晴らしい目標ですが、全員を常に満足させることは不可能です。このような心理状態は、他人の感情に過度に責任を感じることから生じ、結果的に疲弊を招きます。

自分自身の限界と感情を考慮し、無理なく対応できる範囲で、ほかの社員をサポートするバランスを見つけることが重要です。

そのため自分・相手双方の感情や意見を尊重するアサーティブコミュニケーションのスキルを高め、自己主張と他者尊重のバランスを保つことが長期的な人間関係の健全さにつながります。

自分の中の判断基準が曖昧

自分の中の判断基準が曖昧な人や新人は、自分に何が求められているのか、何を断るべきかを識別するのが難しいことがあります。

このような状態は、他人に依頼されたときに何でも受けてしまうため、多くの仕事を抱えてしまう傾向があります。それがストレスや燃え尽き症候群を引き起こす可能性があります。

この場合、上司が明確な職務範囲を明確に示してあげることが重要です。

JAMES MADISON UNIVERSITY”Counseling Center: People Pleasing”

部下のメンタルの不調のサインは?

部下が仕事を抱え込んでしまい、精神的に不調になると、組織全体に影響を及ぼす可能性があります。しかし、一人一人の部下がどれほど仕事を抱えているのかを常に正確に把握するのも簡単ではありません。

そのため、部下のメンタルの不調のサインをなるべく早く察知する必要があります。

バークレー・エグゼクティブ・エデュケーションによれば、以下は、部下が精神的な問題を抱えている可能性があるときに見られる兆候とされています。

  • 高い離職率
    精神的な不調が原因で、離職が頻繁におこる傾向があります。
  • 頻繁な病欠: 精神的にすぐれない状態が続くと、身体的な健康問題にもつながり、病欠が増えることがあります。
  • チームが目標達成に苦戦する: 精神的な不調はチーム全体の協調性や効率を低下させ、目標達成が困難になります。
  • 生産性の低下: メンタルヘルスの問題は、集中力の欠如やモチベーションの低下を引き起こし、生産性が著しく低下することがあります。
  • 仕事上のミスや手抜きが増える: 精神的な圧力が高まると、ミスが増えたり、業務への注意力が散漫になることがあります。
  • 感情が不安定: 従業員の感情が不安定であるか、極端な感情の波がある場合、仕事における問題が潜在している可能性があります。

これらの兆候が見られる場合は、部下のメンタルヘルスに問題がある可能性が高いため、早急に適切な対策を講じる必要があります。

参考:

Berkeley Executive Education”The Impacts of Poor Mental Health in Business”

部下が仕事を抱えすぎないための対処法

部下が仕事をかかえすぎないようにするための対策について、マーケット大学の情報をもとに以下で解説します。

問題の根本を理解する

部下が抱える行動問題の原因を理解し、解決することが、問題解決の第一歩です。定期的にストレスチェックを行い、異変が見えている場合には個別面談を通じて精神支援を行いましょう。その他、問題の根本となっている箇所を突き止め、どうしたら解決に近づけるかを部下とともに一緒に考えることが重要です。

 フィードバックを歓迎する

部下からのフィードバックは、職場の問題を解決し改善するための貴重な情報源です。例えば、チームメンバーから「自分の仕事が遅れている原因は、明確な役割分担がないからです」という意見が出た場合、そのフィードバックをもとに役割分担を見直す対策が重要です。

明確な指示をする

部下が仕事を抱え込みすぎないようにするためには、部下が求められていることを上司が正確に指示をする必要があります。

例えば、 新しいマーケティングキャンペーンを開始する際に、各メンバーに「市場調査を担当するAさんは、次の2週間で競合分析を完了してください」、「Bさんは、次の1週間で広告のクリエイティブコンセプトを3案提出してください」といった具体的なタスクと期限を設定します。

これにより、部下は自信を持って業務に取り組むことができ、無駄な混乱や誤解を避けることができます。また、達成すべき目標とその期限が明確であることで、部下自身も時間管理や優先順位付けを効率的に行うことができます。

期待と結果を明確にする

行動の変化を促進するには、目標や期待を明確にし、計画を具体的に立てることが必要です。計画には、達成すべき具体的な目標、明確な期限、そして進捗状況の定期的な評価を習慣化しましょう。

たとえば、営業チームが月末までに新規顧客を10件獲得するという目標を設定します。この目標に向けて、各メンバーに「Aさんは次の1週間で5件の新規リードを獲得してください」、「Bさんは次の2週間で5件の商談を設定してください」と具体的なタスクと期限を設定します。

これにより、部下は自分が達成すべきこととその期限を正確に理解し、効率的に仕事を進めることができます。

参考

 Marquette University”The thriving workplace: how to deal with difficult employees”

まとめ

本記事では、部下が仕事を抱えすぎることによる様々な問題点と、それらを解決するための方法を紹介しました。過剰な仕事の負荷は、従業員の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、職務満足度や生産性の低下、高い離職率など、組織全体のパフォーマンスにも影響を与えます。

そのため、少しでもメンタルの不調のサインを感じた場合はなるべく早く対策をとるようにしましょう。