「新人教育のやり方はこれでいいのか」
「今のやり方で効果あるのか」
「新人教育自体に意味はあるのか」

新人教育に対して、このような疑問を持っている方もいらっしゃると思います。しかし、新人育成は組織の成長に欠かせない要素です。効果的な新人教育を行うことで、従業員のスキルの向上や定着率が向上し、結果として企業全体の競争力につながります。

本記事では、新人育成に注力する重要性と、その効果的な方法について解説します。

新人教育が重要である理由

以下では新人教育が重要である理由について、海外の複数の論文などをもとに解説します。

組織の成長は人材の成長が必須であるため

EHLホスピタリティ・ビジネス・スクールのアンヌ=セリーヌ・デピエレーズ氏によれば、新人育成に注力することが重要である理由は、組織の成長には人材の成長が必要であるからとされています。

新入社員が入社後に研修を通じて基本的な業務スキルを習得することで、業務の効率が向上し、組織全体の生産性が高まるだけでなく、自身のキャリアアップにもつながります。

退職率を軽減させ、採用コスト削減につながるため

新人育成に注力することが重要である理由の一つに、退職率を軽減し、採用コストを削減できる点が挙げられます。

メアリヴィル大学が公開する記事によれば、新人教育を実施することで、新入社員が組織文化に対する理解と適応力を高めることができ、早期離職のリスクを減少させることができるとされています。

たとえば、オリエンテーションやメンター制度を通じて新入社員が会社の文化や価値観を深く理解することで、職場環境に早く馴染み、「働きやすい」と感じるようになります。これにより、離職する可能性が低くなり、企業側は頻繁な採用活動や新人教育にかかるコストを削減することができます。

会社の文化の醸成にも寄与する

新人育成に注力することが重要であるもう一つの理由として、企業文化の醸成にも寄与する点が挙げられます。

先ほどのメアリヴィル大学が公開する記事によれば、社員研修を通じて、新入社員は企業の価値観や行動規範を学び、それに基づいた行動を取るようになるとされています。これにより、企業文化や理念が強化され、新人が早期に企業文化に適応できるようになります。

新入社員のキャリアの基盤を築くため

新入育成に注力することが重要である理由には、キャリアの基盤を築くことが挙げられます。オレゴン州大学が公開する記事によれば、新人教育は新入社員が配属先の部署で活躍するための基礎を築く役割を果たします。

たとえば、入社時に行われるスキル研修などを通じて、業務に必要な知識やチーム内で協力する術を学びます。これにより、新入社員は新しい職場に早期に適応し、自信を持って仕事に取り組めるようになります。

従業員の自立性と自信を向上させるため

新人育成に注力することが重要である理由の一つとして、従業員の自立性と自信を向上させる点が挙げられます。

オタワ大学によれば、研修を通じて業務に必要なスキルや知識を習得することで、自立心と自信が向上するとされています。

たとえば、新人社員が研修を受けることで、業務で直面する課題に対処するためのスキルを身につけ、困難な状況でも自分で解決策を見つけ出せるようになります。これにより、新入社員は主体的にかつ自信をもって業務を進める力を養うことができます。

参考:

Maryville University”Importance of Training and Development for Employees”
EHL Hospitality Business School”Successful employee training: Tips for employers and managers”
Ottawa University”Why is Training and Development Important?”
Oregon State University”Employee Onboarding Process for Supervisors”

新入社員の教育係が抱える悩みとは?

株式会社ベネッセホールディングスが実施した調査によれば、新入社員の教育係がよく抱える悩みとして、「自社への定着・早期離職を防ぐこと」が34.7%と最も高く、新入社員が組織に長く留まるための対策に頭を悩ませることがうかがえます。

また、「業務に必要なスキルや知識・マインドの習得」が33.0%で、新人社員が業務に必要な能力を確実に身につけることができるかについて不安を感じています。

さらに、「研修で得たことを配属後に活かすこと」が32.5%で、研修で学んだ内容を実際の業務にどう結びつけるかという点も課題とされています。

このように、現場の教育係は新入社員の研修に多くの課題を感じている現状があります。では効果的な新人教育はどのような方法があるのでしょうか。

効果的な新人教育の方法

以下では効果的な新人教育研修の方法について、サンディエゴ大学が紹介する記事をもとに解説します。

目標設定

効果的な研修を実施するためにも、目標の設定が重要です。自社事業の現状を的確に把握し、必要なスキルや知識を明確にした上で、具体的な目標を策定しましょう。

たとえば、売上を前年比10%向上させるという目標を立てる場合、営業スキルの向上や新たなマーケティング戦略の導入が必要になるかもしれません。

このように、具体的な目標に対応する必要なスキルや知識を定義することが、効果的な研修にする上で不可欠です。

研修方法の選定(クラス形式、ワークショップ形式など)

目標を設定した後は、目標を達成するための研修方法を選定することが重要です。研修方法の選定には、さまざまな要素を考慮する必要があります。

たとえば、マーケティング部門の新人社員に対しては、講義形式で基本的なマーケティング理論を学んだ後、ワークショップ形式で実際のケーススタディを分析させることで、理論を実践に結びつけるスキルを養うことが期待できます。

このように、研修の目標に応じて研修方法を選定することが、新人の成長、ないしは組織の成長に直結します。

「経験者」に対する研修に注意する

研修を受ける社員はすでに社会人として経験を積んでいる場合もあります。新社会人や学生とは異なり、すでに豊富な知識や経験を持っているでしょう。

たとえば、営業経験を積んできた社員に対しては、基礎的なスキルの復習よりも、最新の営業ツールの活用方法や、データドリブンな営業方法を学ばせる研修が効果的である可能性もあります。「これは仕事にも役立ちそうだ」と認識されることで、研修に対する意欲も高まるでしょう。

研修の目標にもとづいた研修内容の作成

効果的な研修を実施するためには、まず目標を明確にし、それに基づいて研修内容を作成することが重要です。

たとえば、会社が新しい製品を販売することが決まっている場合、研修ではまず新しい製品知識を徹底的に習得させることから始めます。その後、実際の市場や顧客層に基づいたプレゼンテーションスキルや交渉スキルを強化するためのOJTを組み込むと効果的な研修になるでしょう。

このように、目標に沿った研修内容を作成することで、研修の効果が最大化されます。どのトピックを重点的に扱うべきか、参加者にとって最も重要な情報は何かを整理することで、研修の全体像が見えてくるでしょう。

研修計画の詳細の最終調整

研修内容を作成したら、次に取り組むべきは詳細の最終調整です。ここで重要なのは、研修の目標を常に確認し、研修内容が目標達成に必要な要素を十分にカバーできているかを確認することです。

たとえば、リーダーシップ研修を計画する際には、参加者が実際にリーダーシップを発揮できる実践的な内容が組み込まれているかを確認し、必要に応じて調整を行うことが効果的です。

研修資料の準備

研修の効果をあげるためには資料の質も重要です。研修をより有意義なものにするためには、講師にとって都合の良い方法ではなく、研修の参加者に焦点を当てることが必要です。

たとえば、複雑な概念をわかりやすく説明するために、動画や図解などを使用することで、受講者が視覚的に理解しやすくなり、研修の成果の向上が期待できます。

研修実施の準備

研修をスムーズに進行させるためには、事前の準備が欠かせません。スケジュールの調整、当日使う電子機器のテスト、資料の印刷など、あらかじめ整えておくことが重要です。研修当日には、まず参加者に研修の基本ルールを説明し、研修に対して何を期待しているのかを明確に伝えましょう。

これにより、研修が円滑に進行し、参加者が集中して学習できる環境を整えることができます。

研修後の評価

研修が終わった直後にフィードバックを求めることで、参加者が新鮮な情報をもとに意見を提供しやすくなります。オンラインアンケートや質問票を利用することで、効率的にフィードバックを収集することができます。

これにより、次回の改善点を明確にすることができます。

研修の成果の測定

研修の効果を確認するためには、研修後の1ヶ月や四半期ごとに結果を分析することが推奨されます。

研修後に目に見える変化があったかどうか、売上の増加やコストの削減、生産性の向上など、事前に設定した指標に基づいて、研修がこれらの成果にどの程度寄与したかを評価することが重要です。

これにより、研修の効果を具体的に把握し、次回の計画に活かすことができます。

必要に応じた再評価

どんな研修でも同様に、一定期間後に再評価を行うことが重要です。現在の研修が効果を上げているか、改善の余地があるかを見極めます。目標が変わったかどうか、また、これまでの指標の測定方法が適切だったかを再検討し、必要に応じて調整します。こうした再評価のプロセスを定期的に行うことで、研修の質を維持することが可能になります。

参考:University of San Diego”How to Create an Employee Training Plan in 10 Steps”

新人教育で避けるべきこと

以下では新人研修で避けるべき行動について解説します。

事前準備の不足 

新人研修において最も避けるべきことの一つは、事前準備が不十分であることです。新入社員が到着するまでに、必要な資料、オフィス環境の整備などを整えておくことが求められます。

たとえば、資料に不足があったり、初日に使用するパソコンに必要なソフトウェアがまだインストールされていなかったりする場合、新入社員は初日から不安やストレスを感じる可能性があります。

サポートの欠如

新入社員に対するサポートが欠如していることも避けるべきです。特に入社して最初の週は、新しい環境に慣れるために多くのサポートが必要です。

例えば毎日1対1のミーティングを設けて、質問や不安を解消する機会を提供することで、新入社員が安心して仕事に取り組めるようにします。

これが欠けると、新入社員は孤立感を感じたり、業務に対する理解が不十分になったりするリスクがあります。

メンターをつけない

新入社員にメンターを割り当てないことも避けるべきです。メンター制度は、新入社員が業務に早く慣れるために非常に効果的です。経験豊富な社員をメンターとして割り当てることで、職場環境になれるまでサポートすることができます。

メンターがいない場合、新入社員は困ったときに相談する相手がいないため、問題を抱え込みやすくなり、業務への適応が遅れる可能性があります。

新入社員を歓迎しない

新入社員がチームの一員として歓迎されていると感じることは、入社後の職場適応において非常に重要です。

たとえば、初日にチームメンバー全員からの歓迎メッセージやランチ会を企画することで、新入社員は自分が歓迎されていると感じ、職場への親しみやすさを感じることができます。これが欠けると、初日から孤立感を感じる原因となり、モチベーションが低下する可能性があります。

情報不足

最初の週に何をすべきかが明確に伝えられない場合、新入社員に不安を与える可能性があります。研修のスケジュールや業務の流れをあらかじめ説明することで、新入社員は安心して業務に取り組むことができます。

チーム内のメンバー紹介が遅い

新入社員がチーム内で早く馴染めるよう、なるべく早くチームメンバーとの紹介を積極的に行うべきです。

たとえば、初日の午前中にチーム全員とのミーティングを設定し、各メンバーが自己紹介をする時間を設けることで、新入社員が早期に同僚と顔を合わせ、コミュニケーションを取るきっかけを作ることができます。

遅れてしまうと、新入社員が孤立し、職場でのコミュニケーションが滞る可能性があります。早期に紹介を済ませ、信頼関係の構築を促進しましょう。

情報過多

さきほどの情報不足とは反対の注意点ですが、新人教育で一日に大量の情報を詰め込むことは避けるべきです。新入社員が重要なポイントを確実に理解できるよう、研修内容に優先順位をつけ、必要な情報から段階的に提供しましょう。

また、追加の資料は、個人のペースで学習できるように配慮することも重要です。これにより、新入社員が情報量に圧倒されることなく、効果的に学ぶことができます。

役割や期待が曖昧

新入社員に対して役割や期待を明確に伝えることは、自信を持って業務を遂行するために不可欠です。

たとえば、初日に具体的な役割や期待される業務内容を説明し、加えて期待される成果や成功指標についても資料などで共有することで、新入社員が自分の役割を理解しやすくなります。

不明点があればすぐに解決できる環境を整えることも重要です。

指導不足のまま重要な責任を割り当てる

新入社員を十分な指導なしに即戦力として扱うことは避けるべきです。たとえば、仕事を任せる前に、必要なスキルや知識を習得するための研修や、経験豊富なメンバーとのOJTを実施することで、新入社員が自信を持って業務に取り組むことができるようにします。

これが欠けると、ミスが増えたり、ストレスを感じる原因となることがあります。

参考:EHL Hospitality Business School”Successful employee training: Tips for employers and managers”

効果的な新人教育を実施するためのポイント

以下では効果的な新人教育を実施するためのポイントについてEHLホスピタリティ・ビジネス・スクールの記事をもとに解説します。

新入社員のスキルレベルを把握する

各新入社員のスキルレベルは異なるため、場合によっては一律の研修ではなく、個別のスキルレベルに応じた研修が求められます。

たとえば、新入社員の中にはすでに特定のソフトウェアに精通している人もいれば、基本的な操作から学ぶ必要がある者もいるでしょう。こうした違いを把握するために、入社前にスキルテストを実施し、その結果に基づいて個別の研修プランを作成することで、各従業員が最適なレベルで学習し、スキルを向上させることができます。

ITツールなどの活用

効果的な研修を実施するための適切なITツールなどを導入することも重要です。

たとえば、eラーニングプラットフォームを導入し、場所を選ばずにトレーニングを受講できる環境を整えることで、研修の効率を大幅に向上させることができます。ITツールなどが不十分であれば、場合によっては非効率になり、効果が低下する可能性があります。

各新入社員の特性を理解する

新人教育を成功させるためには、各従業員の視点、スキルなどを深く理解することが重要です。

たとえば、初日に個別面談を行い、各新入社員の過去の経験や得意分野、学びたい内容をヒアリングすることで、研修計画をより効果的なものに調整することが可能です。

スキルのギャップの特定

従業員が持つスキルと今後求められるスキルの間にどのようなギャップがあるかを特定し、それに基づいた具体的なトレーニング計画を策定することが大切です。これにより、従業員が必要なスキルを効率的に習得できるようになります。

継続した学習を実施

新人教育は一度で終わりではなく、継続的な学習が重要です。たとえば、毎月の勉強会や仕事に関連するセミナーに参加させることで、従業員が常に最新の知識をアップデートできるようになります。

フィードバックと評価

新人教育において、定期的な評価と従業員からのフィードバックは、研修の質を向上させるために不可欠です。フィードバックを通じて、どの部分が効果的であり、どこに改善の余地があるのかを把握することで、研修内容を常に改善することができます。

また、従業員にとっても、自分の進捗を確認し、次のステップに向けた明確な目標を持つことが可能になります。

進捗と改善の追跡

従業員の進捗を詳細に記録し、それを基に評価とフィードバックを行うことで、研修の改善につなげることができます。進捗の追跡は、個々の従業員がどのように成長しているかを示し、研修の効果を評価するための重要な指標となります。

このプロセスを通じて、必要な調整を加え、従業員のスキル向上に寄与するようにします。

EHL Hospitality Business School”Successful employee training: Tips for employers and managers”

まとめ

新人教育は企業の成長に不可欠です。効果的な新人教育を通じて、従業員のスキル向上や定着率が向上し、結果として企業全体の競争力を強化できるでしょう。本記事では、新人教育の重要性と効果的な実施方法を解説しました。各社員のスキルレベルに応じた個別の研修や、継続的な学習計画の策定が成功の鍵といえます。新人教育を見直し、企業の成長を促進しましょう。