メンタル不調の部下との面談での対応について、悩んでいる管理職の方も少なくないでしょう。厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス不調で休業する労働者は全体の約1割に上るとされています。
職場におけるメンタルヘルス問題は、企業にとって大きな損失を招くだけでなく、従業員の人生にも深刻な影響を与える可能性があります。本記事では、メンタル不調を抱える部下との面談における適切な対応方法やメンタル不調を予防するための対策について詳しく解説します。
この記事の監修者
三橋史佳(みつはしふみか)
株式会社人材研究所
青山学院大学卒業後、人事コンサルティング会社の(株)人材研究所に入社。これまで外資系大手企業やIT系ベンチャー企業、創業100年の老舗メーカーなど新卒・中途を問わず様々な企業の採用支援や組織分析に携わる。現在はキャリアコンサルタントの資格を持ちながら、人材研究所マネージャーとして部下を育成しながらコンサルティングに従事。
職場でのメンタル不調の実態
厚生労働省の2022年の労働安全衛生調査(実態調査)によると、メンタル不調で連続1カ月以上休業した労働者がいる事業所の割合は10.6%とされています。
また、労働者に対する「個人調査」の結果によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄があると回答した人は約8割に及びます。
これらのデータが示すように、多くの従業員が仕事で強いストレスを抱えており、企業は従業員の休職による人材損失や生産性低下などのリスクに直面しているといえます。
従業員のメンタルヘルス対策は、もはや「福利厚生」の枠を超え、企業の持続的な成長にとって不可欠な「投資」と言えるでしょう。
メンタル不調の部下との面談【5つの重要ポイント】
メンタル不調を抱える部下との面談は、管理職にとって非常にデリケートな問題です。ここでは、米国人材マネジメント協会のシニアライターであるテレサ・アゴヴィーノ氏の知見を交えながら、面談時に押さえておくべき5つの重要ポイントを紹介します。
事実ベースの対応
メンタル不調の部下と面談を行う際は、憶測ではなく、実際に観察された行動やパフォーマンスの変化といった事実に基づいて対応することが大切です。
たとえば「仕事の進捗が著しく遅くなった」「欠勤の日数が増えてきた」などの事実がある場合、「あなたは疲れているように見える」「気分が悪いの?」といった憶測を含む言葉をかけるのではなく、「最近のプロジェクトの進捗はどうですか?」「何か困っていることがあれば、いつでも相談してください」といった具体的な業務に関することやサポートの申し出を伝えるようにしましょう。
プライバシーを尊重する
メンタル不調の部下のプライバシーを尊重しましょう。メンタルヘルスは非常にデリケートな問題です。本人の許可なく他の従業員に状況を共有したり、噂話をしたりすることは避けるべきです。
メンタルヘルスに関する情報は人事部など、必要最低限の関係者のみで共有しましょう。
適切なサポートや情報を提供する
メンタルヘルスの問題を抱える従業員には、社内外の相談窓口や支援プログラム、メンタルヘルス専門のカウンセラーなどの情報を提供し、適切なサポートを受けられるよう支援する必要があります。
上記のサポートや情報を提供するだけでなく、従業員が安心して相談できる環境作りも重要です。日頃からコミュニケーションを密に取り、相談しやすい雰囲気作りを心がけましょう。
労働環境が適切か判断する
メンタルヘルスの問題を抱える従業員に対しては、業務内容の調整や勤務時間の変更など、状況に応じた配慮を行うことが求められます。
メンタル不調の部下には、医師の診断書に基づき、休職や時短勤務などの措置を検討しましょう。
継続的に面談を実施する
メンタルヘルスの問題を抱える従業員とは、定期的にコミュニケーションを取り、状況の把握を把握し、必要なサポートを提供し続けることが重要です。
一方的に状況を尋ねるのではなく「何か私にできることはありますか?」など、従業員の意思を尊重しながら双方向のコミュニケーションを取ると良いでしょう。
参考:
職場でメンタル不調が出る背景
職場でメンタル不調が出る背景について、リバティ大学ビジネススクールが公開する、経営学博士のローラ・L・ゴフ氏による論文を参考に解説します。
メンタル不調に対する偏見
メンタルヘルスの問題を抱える人に対する偏見は、社会全体に深く根付いています。メンタル不調への偏見により、従業員が自分の状態を隠そうとしたり、助けを求めることをためらったりする場合もあるでしょう。
たとえば「メンタル不調は自分に甘い人がなるものだ」といった誤った考えから、本人の努力が足りないせいだと決めつけられたり、自己管理能力の欠如とみなされたりするといった偏見を持たれる可能性があります。
さらに、メンタル不調に対する偏見の結果として、症状が悪化する恐れもあります。また、パフォーマンスの低下や上司や同僚に対してイライラしたり過剰に反応をしたりといった、職場での問題行動に繋がる可能性もあるでしょう。
会社でメンタルヘルスに関する研修を実施するなど、メンタル不調に関しての正しい知識を持つことが大切です。
雇用の安定性を確保することは、メンタルヘルスの維持において重要な要素といえるでしょう。
上司や同僚の知識不足
上司や同僚のメンタル不調に対する知識不足は、職場でのメンタル不調を引き起こす原因となりかねません。メンタル不調に対する理解は、社会全体でまだ十分ではありません。
メンタル不調への知識不足は、業務の指示やサポートが不十分になり、適切な指導やフィードバックが得られないことがあります。とくに関わることが多い上司や同僚の知識不足は、誤解や偏見を生み、適切な対応を遅らせる原因となります。
職場環境が悪い
長期的で過度なストレスが生じる職場環境では、メンタルヘルスの問題のリスクを高める可能性があります。ストレスの多い職場環境として、長時間労働や上司によるハラスメントなどが挙げられます。
職場環境が悪いと、メンタル不調を起こす要因に加えて、仕事へのモチベーションが低下する恐れもあります。反対に、従業員をサポートする文化や柔軟な働き方、ワークライフバランスを重視する職場はメンタルヘルスが安定する傾向があるといえるでしょう。
参考:
職場でのメンタル不調のサインや兆候
職場でのメンタル不調のサインや兆候について、同論文を参考に解説します。
パフォーマンスの変化
部下がメンタル不調か知るためには、以下のパフォーマンスの変化について注意しましょう。
注意すべきポイント | 具体的な内容 |
仕事のパフォーマンスの低下 | 締め切りを守れない仕事の質が落ちるミスが増える |
集中力の低下 | 注意散漫になるぼーっとしている時間が増える |
モチベーションの低下 | 仕事への意欲が低下する積極性がなくなるなど |
上記のようなパフォーマンスの低下がみられる場合は、部下のメンタル不調の可能性を考慮し、適切な対応が必要です。
行動の変化
遅刻や欠勤の増加、服装の乱れなどの行動の変化もメンタル不調のサインといえるでしょう。メンタル不調になると、生活リズムが崩れたり、身だしなみに気を配れなくなったりすることがあります。
また、対人関係を避けるようになり、孤立することもあります。メンタル不調の行動の変化として以下のサインや兆候があげられます。
注意すべきポイント | 具体的な内容 |
欠勤や遅刻の増加 | 体調不良を訴えることが増える頻繁に遅刻するようになる |
職場での孤立 | 同僚とのコミュニケーションを避ける一人でいる時間が増える |
感情の起伏が激しくなる | 怒りっぽくなる泣き出す急に落ち込む |
身だしなみの変化 | 身だしなみに気を使わなくなる服装が乱れる |
普段とは異なる行動が見られる場合は、メンタル不調の可能性を考慮し、声をかけるなど、早めの対応を行いましょう。
コミュニケーションの変化
メンタル不調になると、職場でのコミュニケーションにも変化が現れます。感情のコントロールが難しくなり、イライラしやすくなったり、攻撃的になったりすることがあります。
メンタル不調の部下のコミュニケーションの変化は以下のとおりです。
- 口数が減る
- 会話の内容がネガティブになる
- 些細なことで怒り出す
- 指示に対して反抗的になる
上記のようなコミュニケーションの変化が見られる場合は、本人の気持ちを尊重しつつ、相談しやすい雰囲気作りや専門機関への相談を促すなど、適切なサポートが必要でしょう。
参考:
メンタル不調を予防するための対策
職場におけるメンタル不調を防ぐためには、職場環境の整備や個人のセルフケアなど、多角的なアプローチが重要です。
メンタル不調を予防するための対策を、アメリカ心理学会が公開するセントメアリーズ大学の組織心理学教授であるケビン・ケロウェイ氏による論文を参考に解説します。
職場での対策
職場全体でメンタルヘルスを重視した環境を作ることは、従業員の不調を防ぐ上で重要です。ここでは、職場でできる対策について解説します。
上司が適切な対応をする
上司の行動は、部下のメンタルヘルスに大きな影響を与えるため日頃から気を付けなければいけません。同論文では、部下の心身ともに満たされた状態であるウェルビーングを高めることが、メンタルヘルス向上に効果があるとされています。
上司は、部下のウェルビーングを高めるために、日頃から以下の対応について注意すると良いでしょう。
- 部下の意見に耳を傾ける
- 部下と双方向のコミュニケーションを取る
- 部下の強みや才能を認めて成長を促す
- チームで共通の目標を掲げ、チームワークを強化する
上司による積極的なサポートは、部下のメンタル不調を防ぎ、健康的な職場環境を作る上で欠かせない要素です。
職場環境の見直し
メンタル不調の発生要因となる職場環境の問題点として、過剰な仕事量やタイトな納期、ハラスメント、人間関係の悪化などが挙げられます。これらの問題を放置すると、従業員のストレスが増大し、メンタル不調のリスクが高まる可能性があります。
問題改善のために、まずは現状における課題を明確化し、従業員の意見を聞きながら、業務量や締め切りの調整、ハラスメント防止対策、チームワークを促進するための取り組みなどを実施していく必要があります。
個人での対策
メンタル不調を防ぐためには、職場環境の改善だけでなく、個人でできる対策も重要です。ここでは、メンタル不調を予防するための個人でできる対策について解説します。
職場の人間関係を良好にする
職場での人間関係は、メンタルヘルスに大きな影響を与えます。日頃から上司や同僚と積極的にコミュニケーションを取り、良好な関係を築くよう心がけましょう。
職場で悩みや不安を共有できる上司が同僚がいることで、ストレスを軽減できる可能性があります。
適切な相手に相談する
悩みや不安を一人で抱え込まず、信頼できる人に相談したり、専門家のサポートを受けることも大切です。
会社の産業医やカウンセラー、外部の相談窓口、また心療内科・精神科などを活用し、自分にあった方法でサポートを受けましょう。
参考:
まとめ
職場におけるメンタルヘルス不調は、労働者個人だけでなく、組織全体のパフォーマンスや生産性にも影響を及ぼす可能性があります。企業は、従業員のメンタルヘルスの重要性を認識し、職場環境の改善や従業員へのサポート体制の充実など、積極的に取り組んでいく必要があります。
部下を持つ管理職は、日頃からコミュニケーションを密に取り、部下の変化にいち早く気づくことが大切です。メンタル不調の兆候が見られる場合は、本人のプライバシーに配慮しながら、業務の調整や相談窓口の紹介など、適切なサポートを行いましょう。
メンタルヘルス対策は、企業全体で取り組むべき重要な課題です。従業員一人ひとりが安心して働き続けられるよう、積極的に対策を進めていきましょう。