部下から信頼されることは、業務を遂行する上で欠かせない要素です。今回は部下に信用されることがなぜ重要なのか、また部下から信用されるために何をすべきなのかについて解説します。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
部下から信用されることの重要性
ハーバード・ビジネス・スクール出版の記事によれば、部下は信頼できる上司の元で働くことで、部下は安心して新しい仕事に挑戦したり、自由に意見を表現したりすることができ、結果的に組織内でイノベーションを生み出せるようになるとされています。
また、社員同士の協力やコミュニケーションが自然と生まれ、目標達成もスムーズになります。
実際、ハーバード・ビジネス・レビュー誌が行った調査では、社員同士が互いに信頼しあっている組織では、そうでない組織に比べて、ストレスが74%少なく、仕事へのモチベーションが106%増し、生産性が50%高いことが報告されています。
参考:
Harvard Business School Publishing”Good Leadership? It All Starts With Trust.”
部下からの信用を損なう上司の行動とは?
部下の信頼を損ねる行動には、いくつかの典型的なパターンがあります。それぞれの行動がどのように信頼を損なうか、具体例とともに考察していきます。
秘密を持つ
シアトル市立大学が公開する記事によれば、情報を共有することを避け、意図的に隠すことは、部下の信頼を大きく損なう可能性があるとされています。
例えば、上司が業務の進行状況や、会社の重要な決定事項を一部のメンバーにしか共有せず、他のメンバーには知らせない場合、部下たちは自分が重要視されていないと感じます。
これにより、チーム全体のモチベーションが低下し、結果として仕事の成果にも悪影響を及ぼします。上司は、信頼関係を築くために、できる限りの情報を透明性を持って共有することが求められます。
特に、チーム全員にとって重要な情報については、全員が理解できるように説明し、質問があれば積極的に答える姿勢が必要です。
感情のコントロールができない
同記事によれば、感情のコントロールができず、ストレスフルな瞬間に怒りや苛立ちを部下にぶつけてしまうと、信頼はすぐに崩れるとされています。例えば、ミーティング中に上司が自分の意に沿わない発言をした部下を公然と叱責する場面を想像してみてください。
そのような行動は、他の部下にも不安を与え、上司に対する恐怖心を増幅させる結果となります。これにより、部下たちは自分の意見を自由に言えなくなり、組織内のコミュニケーションが停滞してしまいます。
リーダーシップを発揮するためには、まず自分の感情を適切にコントロールし、冷静な判断を下すことが必要です。感情に左右されず、部下に対して一貫した対応を心がけることで、信頼関係を維持できます。
「ノー」と言えない
同記事によれば、上司がすべてのリクエストに「イエス」と答えることは、一見良いことのように思えるかもしれませんが、実際には信頼を損なう要因になります。
例えば、あるプロジェクトが進行中で、既にチームが忙しい中、上司がノーと言えず、追加の業務を受け入れることで、最終的にすべての仕事が中途半端になってしまうことがあります。
このような状況では、部下たちは上司がキャパシティを理解していないと感じ、不満が募るばかりです。
限界を理解し、必要に応じて「ノー」と言う勇気を持つことは、上司の重要な責務です。また、「ノー」と言うことで、現実的な目標を設定し、チームが成果を出せるようサポートすることが可能になります。
会社のミッションやビジョンと一致しない行動
UPS財団ビジネス・ロジスティクス名誉教授ジェームス・L・ヘスケット氏の記事によれば、上司が会社のミッションやビジョンと一致しない行動を取ることは、部下にとって混乱を招き、信頼を損なう大きな要因となります。
例えば、会社が「顧客第一」を掲げているにもかかわらず、上司が顧客対応を軽視したり、短期的な利益追求を優先するような行動を取った場合、部下たちはそのギャップに不信感を抱きます。
リーダーは、自身の行動を常に会社のビジョンやミッションと一致させ、部下に対して一貫したメッセージを発信することで、信頼関係を築き上げることが重要です。
過度な生産性重視
生産性を重視しすぎることも、部下の信頼を損なう原因になります。例えば、上司が常に成果だけを求め、プロセスやチームメンバーの健康、ワークライフバランスを無視した場合、部下たちは自分がただの「歯車」として扱われていると感じます。
このようなアプローチは、短期的には業績を上げるかもしれませんが、長期的には部下のモチベーションや組織の持続可能性を損なう結果となります。
リーダーは、生産性を追求する一方で、チームメンバーの健康や成長にも配慮し、バランスの取れたマネジメントを心がけることが求められます。これにより、部下たちは安心して働くことができ、信頼感が深まるのです。
過剰な離職率や頻繁に変わる会社方針
組織内で過剰な離職率や継続的な変化が頻繁に起こることも、信頼を損なう要因となります。例えば、短期間で何度もチームリーダーが交代したり、会社方針がコロコロ変わる環境では、部下たちは混乱し、安定感を失います。
このような状況では、部下たちは組織や上司に対して信頼を置けず、将来に対する不安を感じることが多くなります。上司は、変化が必要な場合でも、透明性を保ち、明確なコミュニケーションを行い、部下たちがその変化に適応できるようサポートすることが重要です。また、可能な限り安定したリーダーシップを提供することで、部下の信頼を守ることができます。
曖昧な約束
曖昧な約束を繰り返すことも、部下の信頼を損なう大きな要因です。例えば、上司が部下に対して「後で考えておく」「そのうち対応する」といった曖昧な返答を繰り返すと、部下たちはその約束が果たされることを期待しなくなります。
このような曖昧な対応は、部下たちに不信感を植え付け、上司とのコミュニケーションが疎遠になる原因となります。信頼を築くためには、上司は具体的な約束をし、それを確実に守ることが求められます。例えば部下に対して明確な期限や対応方針を提示し、それを誠実に実行することで、信頼関係が強化されるでしょう。
部下の信用を失うことで起こるリスクは?
部下から信頼されていない場合、情報共有の障害となることが多く見られます。社員は安心して情報を共有できないため、重要な情報を隠したり、自分に有利な情報やリソースをため込んだりする傾向が強くなります。
このような状況では、組織全体の意思決定が遅れたり、誤った判断が下されたりするリスクが高まります。信頼感の高い組織を育成することは、組織の健全な運営において極めて重要な課題です。
参考:
City University of Seattle”Six tips to build trusting relationships in the workplace”
Harvard Business School Working Knowledge”Why Is Trust So Hard to Achieve in Management?”
部下からの信用を獲得するためにできることとは?
部下からの信頼を得るためには、上司の普段のふるまいが非常に重要です。以下のポイントを実践することで、従業員が安心して働き、最大限の能力を発揮できる職場環境を築くことができます。
情報共有を徹底する
ハーバード・ビジネス・スクール出版の記事によれば、上司が情報を定期的に共有することは、部下との信頼を築くための基盤になるとされています。例えば、業務の進捗状況や会社の方針変更について、全員に対して透明性を持って説明することで、部下たちは自分が組織の一員として尊重されていると感じることができます。
これにより、部下たちは不安を感じることなく、自分の意見やアイデアを率直に共有できる環境が生まれます。信頼関係の構築には、上司がいかに透明性を持って情報を伝えるかが鍵となります。
自分の弱みも見せる
ハーバード・ビジネス・スクール出版の同記事によれば、上司が自分自身の強みだけではなく、弱みなどを示すことも、信頼を得るために重要です。これは自分の強みや弱みを理解し、それを部下と共有することを意味します。
例えば、過去に上司が失敗した経験を部下に共有し、「私と同じ失敗をしないでくださいね」とその教訓を共有することで、部下たちは「○○さんも失敗するときがあるんだ」「正直に自分の弱みを話してくれる」と上司に対する信頼を深めることができます。
また部下たちは自分も安心して失敗を恐れずに挑戦できると感じるでしょう。
部下の成長に関心を抱き、サポートする
アメリカン国立大学の記事によれば、部下の成長をサポートすることは、仕事に対するエンゲージメントや業績を高めるために不可欠とされています。
例えば、スキル開発のための研修を用意したり、1on1で業務の進捗をモニタリングすることで、部下たちは自分のキャリアパスに対する自信を持つことができます。
上司が部下の成長を支援する姿勢を見せることで、部下たちは自分が重要な存在として認識され、モチベーションが向上します。成長の機会を提供することは、部下の満足度を高め、組織全体のパフォーマンスを向上させる効果があります。
自ら行動で示し見本となる
上司が自分の行動に責任を持ち、間違いを認め、改善を追求する姿勢を見せることで、部下たちはその姿勢を見習おうとします。このようなリーダーシップを発揮することで、チーム全体にポジティブな影響を与え、信頼感が深まるでしょう。
上司が模範を示すことで、部下たちは自分たちも高い倫理観と責任感を持って行動するようになります。これは、信頼関係の強化につながり、組織の成長にも寄与します。
これらのポイントを実践すれば、従業員が満足し、性能を最大限に発揮できる職場を作り出すことができます。信頼はリーダーシップの根幹であり、信頼を築くためには、透明性、本物性、信頼性、成長の奨励、そして模範を示すリーダーシップが不可欠です。
参考:
Harvard Business School Publishing”Good Leadership? It All Starts With Trust.”
American National University”How to Be a Supportive Boss”
まとめ
部下からの信頼を高めることは、仕事をスムーズに進めるうえでも重要です。しかし、部下からの信頼はすぐに構築できるものではなく、日々の積み重ねが重要になります。
部下からの信頼が少し足りていないと感じる方は今回紹介した方法をぜひ試してみてください。