部下との面談でのアイスブレイクで、どんな質問をすればよいか分からず困っている管理職の方も少なくないのではないでしょうか。面談は、部下とのコミュニケーションを深め、信頼関係を築くための貴重な機会です。

この記事の監修者

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。

部下との面談でのアイスブレイクの効果

部下との面談でのアイスブレイクの効果について、アメリカ・フィラデルフィアのドレクセル大学にあるグッドウィン専門学校が公開する、大学院研究科長であるアン・コンバース・ウィルコム氏による記事を参考に解説します。

コミュニケーションの促進

アイスブレイクは、上司と部下のコミュニケーションを促進する効果があります。上司との面談は、どうしても堅苦しい雰囲気になりがちです。アイスブレイクにより、部下の緊張が解けることで、自然と会話が弾みやすくなり、その後のコミュニケーションも円滑に進みます。

たとえば、最近読んだ本や休日の過ごし方など、個人的な情報を共有することで、互いの理解が深まります。また、上司と部下で共通点を見つけるといったアイスブレイクを実施すると、互いに意外な一面を知ることができ、日々の業務では得られない情報を得ることができます。

このように、アイスブレイクは上司と部下が自然にコミュニケーションを取ることができる機会となり、コミュニケーションの促進に繋がります。

信頼関係の構築

アイスブレイクは、上司と部下の信頼関係を構築する効果があります。アイスブレイクを通して共通点や共感できる部分を見つけることで、心理的な距離が縮まり、より自然な形でコミュニケーションを取れるようになるでしょう。

その結果、日々の業務で意見交換や相談がしやすい関係性が生まれ、より強固な信頼関係を築くことに繋がります。

単なる雑談と捉えずに、アイスブレイクを通して相手への理解を深め、信頼関係構築のきっかけとしていきましょう。

創造性と問題解決能力の向上

アイスブレイクは、チームの創造性と問題解決能力を向上させる効果があります。アイスブレイクにより、普段の業務からは見えない上司や部下の一面を発見することで、新しいアイデアが生まれやすくなります。

さらに、リラックスした雰囲気の中でコミュニケーションが活発になることで、自由な発想や意見交換が促進されるでしょう。

アイスブレイクは、チームの創造性と問題解決能力を向上させるための、簡単かつ効果的な方法といえます。

参考:

Anne Converse Willkomm.(2018).The 3 Benefits of Using Ice Breakers.Goodwin College Drexel University.https://drexel.edu/graduatecollege/professional-development/blog/2018/July/The-3-benefits-of-ising-ice-breakers/

アイスブレイクで使える8つの質問

アイスブレイクで使える8つの質問を、フォーブスに掲載されているリーダーシップの専門家であるレイチェル・ウェルズ氏による記事を参考に紹介します。

週末は何をしていましたか?/ 今週の予定は? 

週末の過ごし方や今週の予定についての質問は、一般的な会話の糸口となる質問であり、リラックスした雰囲気を作ることができます。部下は自分のことを話す機会を得ることで、緊張しがちな上司との面談でリラックスすることができます。

例:
上司: 「〇〇さん、週末はゆっくり過ごせましたか?私は、 週末に〇〇に出かけました。」
部下: 「休日は〇〇に行かれたんですね。私は、家で映画を見ました。」
上司:「私も映画鑑賞が趣味です。どんな映画を見ましたか?」

上司が自分のことを話しつつ、自然な流れで部下に質問する形だと、部下が話しやすい雰囲気をつくることができるでしょう。ただし、プライベートの話をしたくない部下もいるため、ハラスメントと感じられないように質問の仕方には気をつけましょう。

最近の楽しみは?

仕事以外の楽しみについて話すことで、相手の人間性や興味関心を理解するきっかけになります。 また、ポジティブな話題を提供することで、明るい雰囲気を作ることが可能になるでしょう。

例:
上司: 「最近の楽しみは何ですか?何か趣味に没頭したりしていますか?」
部下: 「最近は、休日に近所のカフェ巡りをすることが楽しみです。コーヒー豆の違いが少しずつ分かってきたのが楽しいです。」
上司: 「カフェ巡り良いですね。私もコーヒー好きで、よく行くお店があるんだけど、おすすめのお店があったら今度教えてください。」

相手が何に情熱を注いでいるのかを知ることで、その人の人間性をより深く理解することができます。最近の楽しみについての質問は、上司と部下の面接において、気まずさを解消し、人間関係を築くために有効といえるでしょう。

何か新しいことを始めましたか?

仕事以外の活動や趣味について尋ねることで、相手の興味関心を広げ、共通点を見つけることができます。「何か新しいことを始めましたか?」という質問で、相手の最近の変化や挑戦について尋ねることで、会話のきっかけを作ることができます。

例:
上司「最近何か新しいことを始めましたか?」
部下「最近は運動不足解消のために、ヨガを始めたんです。まだ初心者ですが、体の柔軟性が少しずつ出てきたように感じます。」
上司「素晴らしいですね。ヨガは体幹も鍛えられるし、集中力もアップすると聞きますよ。何か変化を感じたら、ぜひ教えてください。」

新しい趣味や習い事、習慣など、仕事以外の活動について知ることで、部下の新たな一面を知ることができます。

最近、何か面白いニュースを見ましたか?

「最近、何か面白いニュースを見ましたか?」という質問は、時事問題からエンターテイメントまで、幅広い話題について話すことができます。映画やドラマ、音楽、本など、相手の興味関心を探りながら、共通の話題を見つけ出すことが可能です。

例:
上司「最近、何か面白いニュースを見ましたか? 以前、〇〇(部下の趣味や興味関心)の話で盛り上がりましたよね。何か新しい情報はありますか?」
部下「以前、話した○○についての新しいニュースを見たので共有しますね。」

部下の好きなことや興味を持っていることを覚えておき、それに関連するニュースを話題にすることで、会話が弾みます。

最近読んだ本でおすすめはありますか?

読書の趣味は、相手の知的好奇心や価値観を知るきっかけになります。また、おすすめの本を紹介し合うことで、共通の話題で盛り上がりやすくなります。

例:
上司「最近、読んだ本の中で面白かったものはありますか?」
部下「この前、○○という本を読みました。本の~という部分は、仕事にも活かせそうだと思いました。」

具体的な本の内容や感想を共有することで、お互いの理解を深めることができます。

どこか旅行に行きましたか?

旅行の思い出話は、楽しい気持ちやリラックスした雰囲気を共有するのに最適といえます。

例:
上司「そういえば、〇〇さんは旅行好きでしたよね?最近はどこか行かれましたか?」
部下「最近は行けてないんですが、実は〇〇に行ってみたいなと思ってて…」
上司「〇〇ですか。いいですね。私も行ったことないんですが、いつか行ってみたいと思ってるんですよ。」

旅行に行っていない場合は、旅行の計画や具体的なイメージを共有することで、会話が盛り上がりやすくなります。

最近の出来事で一番良かったことは?

「最近の出来事で一番良かったことは?」という質問は、相手の良い出来事を共有することで、ポジティブな感情を引き出し、明るい雰囲気を作り出すことができます。仕事で達成したこと、プライベートでの嬉しい出来事など、相手が熱意を持って話せる話題を引き出すことが可能です。

成功体験や喜びを分かち合うことで、お互いのモチベーションを高め、チームワークを向上させる効果も期待できます。

例:
上司:「〇〇さん、最近の出来事で一番良かったことって何ですか?プライベートでも仕事のことでもどちらでもいいですよ。」
部下:「最近だと、休日に趣味のロードバイクで、ずっと行きたかった山に登れたことです。景色も最高で、達成感もありました。」
上司:「それは素晴らしいですね。アクティブに過ごしてるんだね。どれくらいの距離を走りましたか?」

「今週はどんな良いことがありましたか?」「最近嬉しかった出来事を教えてください」といったように、相手のポジティブな感情を引き出す問いかけ方を心がけましょう。

何か困っていることはありますか?

仕事に関するサポートを申し出ることで、相手に安心感を与え、信頼関係を築くことができます。相手が仕事で抱えている問題や不安に対して、サポートを申し出ることで、信頼関係を築くことができます。

例:
上司「新しいプロジェクトも始まって忙しいと思いますが、何か困っていることはないですか?」
部下「 Aさん、ありがとうございます。そうですね、新しいプロジェクトは確かに忙しいですが、やりがいも感じています。ただ、新しい顧客とのやり取りで慣れていない部分があります。」
上司「それは不安ですよね。たとえば、過去の顧客との事例を紹介するとか、顧客担当のCさんに話を聞く機会を設けるとか、何か役に立ちそうなことあるかな?」

相手に寄り添い、親身になって話を聞く姿勢を示すことが重要です。具体的な問題解決策を提示したり、相談できる窓口を紹介するなど、相手に安心感を与える具体的な行動を心がけましょう。

ただし、プライベートな問題には踏み込みすぎないように、あくまでも仕事に関する範囲で質問することが大切です。

参考:

Rachel Wells.(2023).8 Best Icebreaker Questions For Work.Forbes.https://www.forbes.com/sites/rachelwells/2023/11/07/8-best-icebreaker-questions-for-work/

アイスブレイクを効果的に活用するためのポイント

アイスブレイクを効果的に活用するためのポイントを、ハーバードビジネスレビューに掲載されている企業のコンサルティングを行っているアクステル・ポール氏の記事を参考に解説する。

個人的な質問をする

面談の前に、個人的な質問を投げかけると会話のきっかけになり部下が話しやすい空気をつくることができます。また、個人的な質問は上司と部下がお互いのことを知る良い機会となり、相互理解を深めることにも繋がります。

アイスブレイクで効果的な個人的な質問は以下のとおりです。

  • ストレス解消法は何ですか?
  • 今、一番興味があることは何ですか?
  • 最近、仕事以外で熱中していることはありますか?

部下の仕事以外の部分を知ることによって、相手への理解が深まり、より良い人間関係を築くことに繋がります。堅苦しい雰囲気を和らげ、リラックスした状態で会議に臨めるようになり、自由な意見交換が促進されるでしょう。

会議のテーマと関連付ける

アイスブレイクは、単なる場つなぎではなく、会議のテーマにスムーズに入れるような内容にしましょう。面談のテーマについて考えるきっかけとなるような、軽い質問や課題を投げかけることで、参加者の意識を自然と面談に向けることができます。

アイスブレイクの質問と面談のテーマに関連性を持たせることで、参加者は「これから始まる面談になぜアイスブレイクが必要なのか」を理解しやすくなります。

チームワークに関する会議であれば、「チームで仕事をする上で大切にしていることは何ですか?」といった質問が良いでしょう。また、新商品のアイデアを出し合う会議であれば、「最近、印象に残った広告や商品はありますか?」などの質問が効果的です。

このように、会議の目的に沿った質問をすることで、参加者は自然と会議の内容に意識を向けることができます。

短時間で終わらせる

アイスブレイクは、ダラダラと時間をかけずに、5分程度で終えるように意識しましょう。アイスブレイクは、あくまでも面談を円滑に進めるための導入であり、面談の本題ではありません。

時間が長すぎると、参加者の集中力が途切れてしまい、逆効果になる可能性もあります。アイスブレイクを短時間で終わらせる方法は、主に以下になります。

  • 時間を決めておく
  • タイマーを使う
  • 話が盛り上がりすぎたら、区切りをつけて次の議題へ移る

短時間で終わらせるためには、事前に時間配分をしっかりと行い、時間管理を徹底することが大切です。アイスブレイクを短時間で終えるためのポイントを抑えて、会議の目的に合ったアイスブレイクを効果的に活用することで、より活発で有意義な会議を実現できるでしょう。

人材研究所のコメント

コロナ禍を経てリモート勤務が継続する中、毎日部下の様子を直接確認することが難しいと感じる管理職の方もいらっしゃると思います。

実際、ある企業の管理職研修で、部下がストレス過多になっていないか、逆にサボっているのではないかなど心配が募るという悩みを抱えている方が一定数いることが分かりました。しかし、面談で気になる点ばかりを尋ねると、事情聴取のように受け取られ、部下から煙たがられてしまいます。

そのため、研修では、部下の話にしっかりと耳を傾け、様々な角度から質問をしつつ「私はあなたのことを大切に考えている」という姿勢を示すことの重要性をお伝えしました。その結果、研修終了後数か月経ってから、以前よりも会話量が増え、日常的に相談を受けやすくなったというケースがあったとうかがいました。 

参考:

Paul Axtell.(2019).Make Your Meetings a Safe Space for Honest Conversation.Harvard Business Review.https://hbr.org/2019/04/make-your-meetings-a-safe-space-for-honest-conversation

まとめ

アイスブレイクは、部下とのコミュニケーションを促進し、信頼関係を築くために効果的です。部下との面談でのアイスブレイクでは、部下がリラックスして話せるよう、プライベートな話題を取り入れたり面談のテーマに沿った質問をすることがポイントです。

アイスブレイクはあくまで面談の導入として活用するものなので、時間は5分程度に留め、スムーズに本題に移行しましょう。これらのポイントを踏まえ、アイスブレイクを効果的に活用することで、部下とのより良いコミュニケーションを実現し、信頼関係を築ける面談を目指しましょう。

人材研究所のコメント

 アイスブレイクにおいて記事にある質問をより効果的にするために、「ソーシャルスタイル理論」を取り入れることも推奨します。「ソーシャルスタイル理論」とは、人の言動を4つのスタイルに分類することで、自分のコミュニケーションスタイルを理解し、相手に合わせた対応方法を選択するための手助けとなる理論です。 

例えば、結論から聞きたいタイプには、会議の目的やテーマに沿ったアイスブレイクを、雑談を好むタイプには日常の出来事や休日の過ごし方などを質問すると良いでしょう。 

ある企業では、「ソーシャルスタイル理論」を導入したことで、これまでなんとなく行っていたアイスブレイクが、相手に応じたテーマを考えるようになり、面談がより活発になりました。さらに、担当上司から共有される情報もより具体的になりました。