優秀な社員の離職を防ぐために、企業が取り組むべき施策は多岐にわたります。特に、社員が自分の価値を感じられる評価制度や、適切な仕事の割り振りが重要です。

しかし、これだけでは不十分です。優秀な社員が離職を考える背後には、より深い理由が潜んでいることも多いのです。

では、どのようにして優秀な社員を引き留めることができるのでしょうか?この記事では具体的な解決策や事例を交えながら、優秀な社員が「この会社で働き続けたい」と思うための秘訣を詳しく解説します。

優秀な社員が会社を辞める原因

まずは優秀な社員が辞める理由についてみていきましょう。

自分の価値を認められていないと感じている

アメリカ、バージニア州大学にあるレイモンド・A・メイソン経営大学院の記事によれば、離職の主な原因の一つに社員が自分の価値を認められていない点にあるとされています。

実際に、ギャラップ社の調査によれば、36%の社員が仕事を辞める理由として評価不足を挙げています。社員が適切に評価されず、自分の努力や成果が認められないと感じると、モチベーションが低下し、最終的には離職率が高まる傾向にあります。

特に、企業間での人材獲得競争の激しい現代において、社員の評価不足が退職につながるケースが増えています。

離職防止のためには社員を正当に評価し、適切なフィードバックを行うことが不可欠です。

参考:Raymond A. Mason School of Business”Need to Boost Employee Retention? Make Work Meaningful Again”

社員のレベルにあわない仕事を任されている

カルフォルニア大学の記事によると、社員のレベルに見合わない仕事を任せることは、仕事に対するエンゲージメントを著しく低下させる原因となります。

仕事が難しすぎると、ストレスや不安が増し、社員が疲弊しやすくなります。一方、逆に簡単すぎる仕事が与えられた場合、仕事に対する張り合いを感じることが難しくなります。このような状態が続くと、社員は自身の成長を感じられず、結果として離職に繋がることが少なくありません。

適切な人材配置を行い、各社員の能力やスキルに見合った仕事を割り振ることは、社員のエンゲージメントとパフォーマンスを高めるために非常に重要です。

参考:The Regents of the University of California”How to Keep Your Talent Happy and Improve Employee Retention”

社員の燃え尽き症候群

社員に過度な仕事量が課されると、燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥る可能性が高まります。特に、責任の重い業務を長期間続けることで、心身ともに疲弊し、やがてパフォーマンスの低下や仕事への意欲喪失が見られるようになります。

この状態が長引くと、離職や健康問題に繋がるリスクが増大し、企業にとっても大きな損失となるでしょう。社員が日々仕事に励んでいるように見えても、内心では疲弊しているケースも少なくありません。そのため、定期的に社員とコミュニケーションを取り、現状を把握することが非常に重要です。

企業文化と社員の価値観がマッチしていない

MIT Sloanの研究によると、企業文化が社員の離職率に大きな影響を与えることが確認されています。例えば、社員同士の競争が過剰であったり、透明性に欠ける管理体制が続くと、社員は孤独感を感じ、企業への忠誠心を失うリスクが発生しうるでしょう。

それ以外にもバリバリ仕事をしたい社員が、アットホームな環境にいると物足りなさを感じるかもしれません。このように、企業文化が社員の価値観とマッチしていない場合、モチベーションが低下し、最終的に離職に繋がる可能性があります。

参考:Massachusetts Institute of Technology”Toxic Culture Is Driving the Great Resignation”

優秀な社員の離職を放置すると、どのような影響があるのか?

「離職は一定数発生するものだから仕方がない」という見方もありますが、優秀な社員の離職が発生するとどのような影響をもたらすのかについて解説します。

生産性の低下

南メソジスト大学の論文によると、優秀な社員が離職すると、まず直面するのは生産性の低下です。これまでその社員が担っていた役割やプロジェクトを引き継ぐためには、新たな人材の採用や教育が必要ですが、その間に業務が停滞するリスクがあります。

さらに、熟練した社員が抜けることで、チーム全体のパフォーマンスも低下し、生産性が一時的に落ち込むことが避けられません。

企業成長の停滞

同論文によると、優秀な社員の離職は企業成長の停滞も大きな影響を与えます。優秀な社員は、会社の成長に貢献していることが多く、優秀な社員が退職すると、新しい企業の取り組みなどの推進が難しくなります。これにより、組織全体が既存のビジネスモデルや手法に固執し、新しい機会を見逃す危険性が高まります。特に、変化の激しい業界では、この停滞が致命的な影響を与える可能性があります。

社員の士気低下

優秀な社員が離職すると、残された社員の士気にも悪影響が及びます。特にその離職が突然のものであったり、会社が適切な対応を取らなかった場合、他の社員が自分の将来について不安を感じることが多くなります。

また、信頼されていた同僚が去ることでチーム全体の結束力が低下し、結果として生産性や協力体制にも悪影響を与える可能性が高まります。このような士気の低下が続くと、さらなる離職や業務の停滞を招くリスクがあります。

社員が競合他社に移ることによる顧客の流出

ユタ州立大学の論文によると、優秀な社員が競合他社に移籍した場合、特に営業やカスタマーサポートのような顧客との接点が多い職種において、顧客の流出が現実的な問題となります。

長年築き上げてきたノウハウを持つ社員が競合他社に移るケースも起こりかねません。これにより、売上の減少や市場シェアの縮小という深刻な影響を受ける可能性もあるでしょう。

製品情報の流出

さらに、優秀な社員が離職する際に懸念されるのは、製品や技術に関する情報の流出です。特に、研究開発や商品企画に携わっていた社員が他社へ移る場合、企業の独自技術やノウハウが競合他社へ渡るリスクが高まります。このような情報流出は、競争力の低下や市場における優位性の喪失につながり、企業にとって取り返しのつかない損失を招くことがあります。

離職が発生するたびにコストがかかる

社員の離職が発生するたびに、企業はさまざまなコストを負担することになります。新しい社員を採用し、訓練するプロセスには多大な時間と資金が必要であり、これには求人活動や面接、採用手続きだけでなく、新人が業務に完全に適応するまでの教育期間も含まれます。

実際、新しい社員を雇用し訓練するコストは、その社員の月給の6~9倍にのぼるとされており、これが頻繁に繰り返されると企業の財務状況に大きな負担を与えます。

参考:
Gardner, T. M., Van Iddekinge, C. H., & Hom, P. W. (2018). If you’ve got leavin’ on your mind: The identification and validation of pre-quitting behaviors. Journal of Management, 44(8), 3231–3257. https://doi.org/10.1177/0149206316665462

UMass Global“Business leaders explain how professional development benefits help with employee retention”

事前に防ぎたい。優秀な社員が会社を辞める兆候

優秀な社員が辞める際に、どのような行動を取ることが多いのか、気になる方も多いかと思います。ウタ大学の論文によれば、以下の行動に6つ以上あてはまると、8割の確率で退職するといわれています。

それぞれについて詳しく解説します。

会議での建設的な意見が減少する

優秀な社員が退職を考え始める際、組織内で見られるいくつかのサインがあります。その中でも、会議での発言が減少することは、退職前の兆候としてよく見られる行動です。

普段から積極的に参加し、アイデアを出していた社員が急に意欲を失い、発言が減ると、職場への関心やエンゲージメントが低下している可能性があります。

長期プロジェクトへのコミットメントをためらう

優秀な社員が退職を考え始めると、長期にわたるプロジェクトへの関与を避ける傾向が見られることがあります。従来なら意欲的に取り組んでいたはずのプロジェクトに対し、急に慎重な姿勢を見せたり、責任を引き受けることをためらう場合は、注意が必要です。

やや控えめな態度になる

仕事の意欲だけでなく、態度にも変化が現れることがあります。積極的にコミュニケーションを取っていた社員が、突然控えめな態度を取るようになり、会議や日常のやり取りでも発言が減少するのは、組織との関係が希薄化しているサインかもしれません。

昇進に対する興味が薄れる

また、昇進やキャリアアップに対する興味が薄れてくることも退職の兆候です。意欲的に昇進を目指していた社員が、突然その関心を失い、昇進機会を追求しなくなる場合、その背景に退職の意図があることが考えられます。

上司の期待に応える意欲が減少

社員が退職を考え始めると、上司の期待に応えたり、評価を得たりするための行動が減少することがあります。上司の期待に応えようと積極的に働いていた社員が、その意欲を失い、評価に無関心になる場合、職場へのモチベーションが低下している可能性があります。

上司や管理職との社会的交流を避ける

さらに、上司や管理職との社会的な交流を避けるようになることも、退職の兆候の一つです。ランチや社内イベントなどに積極的に参加していた社員が、突然そのような機会を避け始める場合、組織との距離を感じ始めているかもしれません。

 新しいアイデアを提案しなくなる

業務における改善のためのアイデアを提案しなくなることも、社員が会社を辞めるサインです。普段は積極的に新しい提案をしていた社員が、急に沈黙し、現状維持に固執するような態度を見せる場合、帰属意識が薄れている可能性があります。

必要最低限の仕事しかせず、積極的に働かなくなる

退職を考え始めた社員は、仕事への積極的な姿勢が見られなくなり、必要最低限の業務しか行わなくなることがあります。自主的に取り組んでいた追加のタスクやプロジェクトに対しても関心を示さなくなり、チームや会社への貢献度が明らかに低下します。

研修などへの参加に興味を示さない

通常、スキル向上やキャリアアップに関心があった社員が、研修やトレーニングの機会に対して急に興味を失う場合も、離職の兆候の一つです。自己成長に対する意欲が減退し、会社での長期的なキャリアプランを考えなくなることが、退職の意向を反映している可能性があります。

労働生産性が低下する

最後に、明らかな生産性の低下が見られる場合も警戒が必要です。以前は効率的に高い成果を出していた社員が、突然ミスを増やし、納期に遅れることが多くなるなど、仕事に対する集中力が欠けるようになります。このような行動の変化は、職場への関与が薄れ、退職を視野に入れている可能性を示唆しています。

参考:

Utah State University”USU Study Identifies Signs That Can Indicate an Employee is About to Leave”

優秀な社員の離職を防ぐためにできることは?

優秀な社員の離職を防ぐために、どのような対策があるかについて以下で解説します。

社員エンゲージメント調査実施

社員の離職を防ぐために、効果的な方法が社員エンゲージメント調査です。この調査を通じて、社員から直接フィードバックを集め、管理職やリーダーが社員の状況を理解し、それに応じた対策を講じることが可能になります。

さらに、ビッグデータを活用することで、社員のエンゲージメントを効果的に測定し、特に離職リスクの高い社員を早期に特定することが期待できます。

調査の結果を基に改善策を講じることで、社員の満足度を高め、企業としての競争力も向上させることもできるでしょう。

昇進やボーナスの支給

離職リスクが高い社員には、昇進のチャンスやボーナスの支給を提供することが効果的です。具体的には、リーダーのポジションや新しいプロジェクトへの参画機会を提供することで、社員は自分の成長が会社の中で評価されていると感じ、離職の意欲が低下する可能性があります。

また昇進や報酬だけでなく、社員に自律性を持たせることが重要だと考えられています。

柔軟な働き方ができる環境づくり

加えて、社員に柔軟な働き方を提供することも離職防止には欠かせません。リモートワークやフレックスタイム制を導入し、社員がワークライフバランスを保ちながら働ける環境を整えることが、長期的な定着に繋がります。特に、職務における自律性や柔軟性を高めることが、社員の満足度やモチベーションの向上に直結します。

ポジティブな職場文化の構築

ポジティブな企業文化を構築することは、社員の離職防止に直結する重要な要素です。特に、社員にとって仕事の意義や意味を伝えることは重要です。仕事に対して自分自身の貢献が会社や社会にどのように影響を与えるかを実感できると、仕事への意欲が高まり、長く会社に留まる動機となります。

そのためにも、継続的なコミュニケーションが欠かせません。定期的なフィードバックや1on1のミーティングを通じて、社員の意見を尊重し、状況を理解することが必要です。これにより、社員は常にサポートされていると感じ、自分の成長や職場の状況に対して前向きな姿勢を持つことができます。

参考:

Gardner, T. M., Van Iddekinge, C. H., & Hom, P. W. (2018). If you’ve got leavin’ on your mind: The identification and validation of pre-quitting behaviors. Journal of Management, 44(8), 3231–3257. https://doi.org/10.1177/0149206316665462

University of Southern California”Using Psychology to Retain Top Talent”

Mendonsa, K., Stolberg, M., Viswanathan, V., & Crum, S. (n.d.). Predicting attrition – A driver for creating value, realizing strategy, and refining key HR processes. Southern Methodist University

まとめ

優秀な社員の離職が続くと、組織に影響をもたらします。優秀な社員の流出を防ぐためにも、離職の理由を把握し、本日紹介した施策を実施してみてください。

優秀な社員が組織に貢献し続けることで企業の持続的な成長が実現できるはずです。