「部下の教育がなかなかうまくいかない…」

「部下の目標をどう設定すればよいのかわからない…」

上記のような悩みをもつ管理職も多いでしょう。部下の教育を成功させるためには目標設定が必要不可欠ですが、適当に目標を立てるだけではあまり意味がありません。

本記事では、部下の目標の適切な設定方法や注意点について、例文付きで解説します。優秀な人材を育成し業績アップを目指したい方は、ぜひ参考にしてください。

部下の教育に目標設定が重要な理由

部下の教育を成功させるために、目標設定が重要な理由を解説します。

仕事のパフォーマンスが上がるから

目標を持って業務に取り組んでいる部下は、そうでない者よりも「仕事のパフォーマンスが高い」傾向にあるといわれています。目指す方向性がはっきりしている分、自分の成長度合いや課題が把握しやすく、モチベーションも保ちやすいからだと考えられます。

サウスカロライナ大学のボビー・メドリンらの研究結果でも、労働者の目標設定と仕事のパフォーマンスには、以下のような関係があるとされています。

  1. 目標を設定することで、労働者のエンゲージメントが高まる
  2. エンゲージメントが高まると、ポジティブな思考が習慣化される
  3. ポジティブな思考によって、仕事のパフォーマンスが上がる

マラソンに例えるなら、目標を設定しないのは「ゴール地点の場所を知らされないまま走り続ける」ようなものであり、この状態で高いパフォーマンスを保つことは難しいでしょう。ゴール地点を設定し、そこに向かって最短のコースを戦略的に走ることが重要といえます。

フィードバックがしやすいから

目標を設定している部下に対しては、上司から「フィードバックがしやすい」点も大きなメリットといえます。目標が明確に決まっていれば、それを達成するためのより具体的なアドバイスもしやすいからです。

フィードバックを効果的に行うことで、社員のモチベーションや生産性によい影響を与えるとされています。実際に、ギャラップ社が世界中の労働者を対象に実施した調査では、以下のことがわかっています。

  • 過去1週間以内にフィードバックを受けた労働者の約80%は、エンゲージメントが高く熱心に仕事に取り組んでいる
  • 毎日フィードバックを受けている労働者は、優れたパフォーマンスを発揮しようと努力する確率が3.6倍高い

以上のことからも、部下に目標を持たせることで効果的なフィードバックがしやすくなるだけでなく、彼らのモチベーションや生産性の向上にもつながるといえます。

責任感が強くなるから

会社の目標と関連性のある個人目標を設定することで、部下の「責任感を強める」効果が期待できます。

企業向けの経営支援サービスを提供する株式会社YKプランニングの調査によると、「(会社の目標と自分の目標が)どのように紐づいているかを理解できればモチベーションが上がりますか?」との問いに、75.7%が「はい」と回答しています。会社目標と個人目標の関連性を理解することで、自分に求められている役割や期待が明確になり、「自社を成長させたい」という意欲が高まるのでしょう。

以上のことから、部下の責任感を強めるためには、会社の経営方針をもとにした個人目標を設定させることが重要といえます。

教育計画が立てやすいから

部下の目標を設定することで、「教育計画が立てやすい」という利点もあります。目標が決まっていれば、目標達成のためには「どのようなスキルが必要か」、そのためには「どのような学習・訓練が必要か」が明確になるからです。

部下の教育計画を作成することは、法律(職業能力開発促進法第11条)で努力義務として求められています。ほかにも以下のような理由から、部下の教育を成功させるためには、教育計画は必要不可欠なものだといえます。

  • 部下を効率的に教育する手段を見つけやすい
  • 目標を達成するまでの道筋を示すことで、部下のモチベーションを高めやすい

部下の教育計画を作成する具体的な手順などについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

参考:

Bobby Medlin, Ken Green, Jr. (2008). “THE RELATIONSHIP AMONG GOAL SETTING, OPTIMISM, AND ENGAGEMENT: THE IMPACT ON EMPLOYEE PERFORMANCE”,  Allied Academies International Conference, 13(1), 51-56

Gallup “How Effective Feedback Fuels Performance”

PR TIMES「従業員の75%が会社目標と個人KPIの関連性を理解できるとモチベーションアップに!アンケート調査から見える経営者と従業員の意識ギャップとは!?」

e-Gov 法令検索「職業能力開発促進法」

【SMARTの法則】部下の教育に効果的な目標とは?

カリフォルニア大学によると、部下の教育を成功させるためには、「SMARTの法則」に従って目標を設定するのが効果的とされています。ここでいうSMARTとは、以下の英単語の頭文字をとったものです。

  • Specific(具体的な)
  • Measurable(測定可能な)
  • Achievable(実現可能な)
  • Relevant(関連性がある)
  • Time-Bound(期限がある)

上記について、具体例を挙げながら詳しく解説します。

Specific:具体的な目標

部下の目標は、何をどのように達成したいのか、「具体的に」設定することが重要です。具体的なゴールを設けることで、目標達成に必要な行動やステップが理解しやすくなります。

具体的な目標を設定するためには、以下の「5W」を意識するのがよいとされています。

  • Who(誰が・誰と)
  • What(何を)
  • When(いつ)
  • Where(どこで)
  • Why(なぜ)

上記の要素をできるだけ多く盛り込むことで、目標の内容もより具体的になるでしょう。

▼(例)具体的な目標

現在のプロジェクトで必要なスキルを身に着けるため、3ヶ月以内にオンライン講習と社内研修を受講し、プログラミング言語Pythonの基礎習得を目指す

Measurable:測定可能な目標

部下の目標は、どれだけ達成できているか「測定可能な」ものにしましょう。目標の達成度が測定できれば、部下の成長度合いや改善点などを、上司からもフィードバックしやすいからです。

例として、「3ヶ月以内にプログラミング言語Pythonの基礎習得を目指す」という目標は、

  • 習得度確認テストで90%を獲得する
  • Pythonを用いた簡易プログラムを作成し、80点以上の評価を得る
  • 上記を3ヶ月以内に達成する

などが評価指標として挙げられるため、測定可能な目標であるといえます。

なお、定量的な指標(売上高や成約率など)が設定できない目標の場合でも、定性的な指標(顧客満足度やアンケート結果など)を用いて評価できる場合があります。たとえば、「社員の業務満足度を向上させる」という目標であれば、「満足度調査を年に2回実施し、5段階評価で平均スコア4.0以上を獲得する」などの指標によって、測定できる目標へ改良できます。

Achievable:実現可能な目標

部下の目標は「実現可能な」ものを設定することが重要です。明らかに実現不可能な目標だと、最初から達成が見込めず、かえってモチベーションが低下する恐れがあります。

たとえば、入社後1ヶ月しか経っていない新入社員に対し、いきなり「新規顧客を月に20件獲得し、売上を10%アップさせる」という目標は、無謀である可能性が高いでしょう。一方で、「1日に30件以上新規顧客に架電・メールでアプローチし、月に5件以上アポイントをとる」などの目標であれば、入社したての新入社員でもクリアできるかもしれません。

なお、目標が簡単すぎる場合も、成長や学びが得にくいため好ましくないとされています。部下の能力やレベルを考慮し、「ギリギリ達成できそう」な目標を設定すれば、部下はモチベーション高く努力し続けられ、結果的にスキルの向上も期待できます。

Relevant:関連性がある目標

部下の目標は、会社の目標や戦略と「関連性がある」ものを設定しましょう。先ほども述べたように、会社と個人の目標のつながりを理解している社員は、モチベーションが高い傾向にあるからです。

たとえば、「新しい商品・サービスのリリース」を目指す場合は、その商品・サービスが会社全体の目標・戦略と一致していなければなりません。よって、以下のような目標が適切だといえます。

▼(例)関連性がある目標

2025年3月までに、ウェアラブルデバイス市場における自社のシェアを5%増加させるため、新しいスマートウォッチ製品をリリースする

上記のように、目標の達成が組織全体の成功に寄与することが明確であれば、社内のリソースを優先的に配分される可能性も高いです。

Time-Bound:期限がある目標

部下の目標には「期限がある」ことが重要です。期限を設けることで緊迫感が生まれ、目標達成に向けた計画や戦略を立てやすくなります。

例として、「新しいスマートウォッチ製品をリリースする」という目標を設定したと仮定します。もし、この目標に対して期限を設けなければ、開発業務がズルズルと先延ばしされ、その間に他社に先を越されることも起こりかねないでしょう。一方で、「2025年3月までに」と明確に期限を設ければ、限られた時間の中ですべきタスクが明確になり、結果的に目標を達成できる確率も高くなるといえます。

参考:

University of California “SMART Goals: A How to Guide”

部下の目標を設定する際の注意点

部下の目標を設定する際の注意点について解説します。

目標は部下と一緒に立てる

部下の目標は、上司と部下が一緒に考えて立てることが重要です。

以下は、パーソルキャリア株式会社が一般社員を対象に実施した調査結果をまとめたものです。

質問回答(割合)
自分自身で個人目標を立てることについて、自信ありますか?自信がない(60.7%)
会社で立てた目標について、自分の意見や要望・希望はどれくらい反映されていると思いますか?反映されていない(48.3%)
会社で行う目標設定の方法に課題を感じていますか?感じている(74.7%)

以上の結果から、多くの部下は目標を設定するにあたって、以下のように考えていると推測できます。

  • 個人目標を自分だけで設定するのは難しい
  • かといって、会社や上司に目標を勝手に決められるのも嫌

したがって、目標を設定する際は、部下任せにしたり会社・上司が勝手に決めたりせずに、一緒になって考えることが望ましいといえます。

タスクではなく最終結果に焦点を当てる

カリフォルニア大学によると、部下の目標を設定する際は、タスクではなく最終結果に焦点を当てることが重要です。タスクに重点を置いて目標を立てると、目標の数が増えすぎてしまう恐れがあるからです。

例として、営業職を務める中堅社員が、以下のような目標を設定したと仮定します。

  • 新規顧客に毎日10件以上架電する
  • 来月までに100社分の顧客リストを作成する
  • 毎月開催されるチームのロープレ練習会に参加する
  • 上司と毎週進捗を共有する

上記を見ると、細かなタスクも目標に含めているために、全体の目標数が多くなってしまっていることがわかります。この場合は、上記のタスクを実行することで期待できる「最終結果」を目標にすることで、解決する可能性が高いです。

▼(例)最終結果に焦点を当てた目標

次の四半期までに新規契約を20件以上獲得し、チーム単体の売上10%アップを目指す

適切にフィードバックを実施する

部下の目標は立てたら終わりではなく、進捗や達成度を適切にフィードバックすることが重要です。先ほども述べたとおり、効果的なフィードバックは、社員のモチベーションや生産性によい影響を与えるといわれています。

マサチューセッツ・グローバル大学によると、部下のやる気を最大限に引き出すには、以下の6点を意識してフィードバックを行うことが大切とされています。

  • フィードバックすべきことがあればすぐに実施する
  • 定期的にフィードバックを行う(最低でも月に1回)
  • 周りに聞かれないよう1対1でフィードバックする
  • 会社・組織の目標に紐づいたフィードバックを行う
  • 一方的に意見を述べるのではなく、部下と対話する
  • ネガティブなフィードバックにも、ポジティブな言葉を添える

▼(例)効果的なフィードバック

「最近、チームリーダーとして遅くまで頑張っていますね。ありがとうございます。昨日のミーティングで、新規プロジェクトの進捗が少し遅れていると言っていましたね。このプロジェクトは、部署の売上に大きく関わる重要な仕事です。どうすれば問題が解決するか、一緒に考えましょう。」

参考:

パーソルキャリア株式会社「< 1,200名のビジネスパーソン対象「目標」に関する調査 >「会社で立てた目標※1」を「すべて覚えている」と回答した一般社員はわずか2割!」

UMass Global “How to give feedback that is productive for your employees”

【職種別】部下の目標例

ここまでに解説した内容をふまえ、部下の教育に効果的な目標例を、職種別に紹介します。

営業職の目標例

▼(例)営業職の目標

役職目標
新入社員・3ヶ月以内に先輩社員の同行なしで、1人で商談を行えるようにする
・1日30件以上新規顧客に架電・メールでアプローチし、月に10件以上アポイントをとる
中堅社員・月に新規顧客を10件以上獲得し、チームの単体売上20%アップを目指す
・3年以内にチームリーダーを務め、5年以内にチーム単体で年間売上2億円を達成する

製造職の目標例

▼(例)製造職の目標

役職目標
新入社員・1ヶ月以内に安全衛生講習を受講し、理解度テストで90点以上を獲得する
・1年以内に品質検査時間を10%短縮するための改善策を2つ提案する
中堅社員・3ヶ月以内に生産ラインのボトルネックを特定し、改善策を実施して生産効率を15%向上させる
・6ヶ月以内に材料費を5%削減するための新しいサプライヤー契約を2件締結する

人事職の目標例

▼(例)人事職の目標

役職目標
新入社員・3ヶ月以内に自社の採用プロセスを理解し、10件以上の面接にアシスタントとして参加する
・6ヶ月以内に人事関連の社内文書を整理し、新しい従業員ハンドブックを作成する
中堅社員・6ヶ月以内に社員エンゲージメント調査を実施し、エンゲージメントスコアを前年より15%向上させる
・1年以内に離職率を減少させるための施策を実施し、定着率80%以上を目指す

まとめ

部下の教育に効果的な目標の設定方法について、例文付きで解説しました。

部下の目標を設定することは、モチベーションのアップや生産性の向上、責任感の醸成などの効果が期待できるといわれています。ただし、適当に目標を立てるだけではあまり意味がなく、いくつか押さえるべきポイントや注意点があります。

本記事で紹介した内容をふまえて、部下の目標を適切に設定し、優秀な人材の育成を目指してください。