仕事で成長しない人に悩まされている管理職の方も多いのではないでしょうか。職場に成長しない人がいる場合、その人の性質を知り、各々に合った対策を講じることが必要です。
本記事では、成長しない人の共通点・特徴や適切な接し方を紹介します。また、成長しない人を伸ばすための方法についても具体的に解説しています。
本記事を読み、部下のマネジメントにお役立てください。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
成長しない人の8つの特徴
それでは、成長しない人の特徴を詳しく見ていきましょう。成長しない人の主な特徴は、下記の8つです。
それぞれの特徴について、海外の論文や記事を参考にしながら詳しく解説します。
成長型思考が欠けている
成長しない人の特徴の一つに、成長型思考(成長型マインドセット)が欠如していることが挙げられます。成長型思考とは、「自己の能力・資質は努力をすれば高めることができる」という考え方です。
教育心理学とモチベーションの分野で著名な研究者であるDavid Scott YeagerとCarol S. Dweckの共著論文によると、成長型思考を学んだ生徒は学習意欲が高まったり、困難な課題にも粘り強く取り組んだりできるようになりました。
成長しない人は成長型思考を持っておらず、「能力や性格は固定されたものだ」と思い込み、自らの成長を妨げているケースが多いです。
参考:
Yeager, D. S., & Dweck, C. S. (2012). Mindsets That Promote Resilience: When Students Believe That Personal Characteristics Can Be Developed. Educational Psychologist, 47(4), 302–314. https://doi.org/10.1080/00461520.2012.722805
目標設定ができていない
成長しない人の特徴の一つは、目標設定ができていないことです。
リーダーシップや文化、創造性に関する共同研究を行っているMiriam ErezとIsaac Zidonの論文には、目標設定に関する興味深い実験結果が示されています。
目標達成が難しいと感じるほど、目標を受け入れにくくなる目標を受け入れている場合は、難易度が上がるとパフォーマンスも向上する目標を受け入れていない場合は、難易度が上がるとパフォーマンスが低下する |
明確かつ合理的な目標設定をしている場合、成果を生み出せる可能性が高くなります。
一方で、目標設定が曖昧であったり現実的でない目標を立てていたりするなど、適切な目標設定ができていない人は、成長につなげられないリスクが高まるでしょう。
参考:
Erez, M., & Zidon, I. (1984). Effect of goal acceptance on the relationship of goal difficulty to performance. Journal of Applied Psychology, 69(1), 69–78. https://doi.org/10.1037/0021-9010.69.1.69
時間管理ができない
成長しない人は、時間管理能力が低いという特徴を持っていることがあります。時間管理ができないことによって、人間は時間的プレッシャーを感じます。
認知心理学と意思決定の分野を専門に数多くの重要な研究成果を発表しているA. John MauleとAnne C. Edlandによると、時間的プレッシャーは人間の判断力や感情に影響を及ぼすとしています。
人間は時間的プレッシャーを感じると注意力が散漫になり、情報処理能力が低下するとのことです。また、ストレスや不安を感じたり、焦燥感に駆られたりします。
時間管理ができないと時間的プレッシャーを感じる場面が多くなり、これらのネガティブな影響を受けやすくなります。その結果、成長が阻害されてしまうでしょう。
参考:
Maule, J., & Edland, A. (2009). Effects of time pressure on human judgement and decision making. In J. St. B. T. Evans & K. Frankish (Eds.), Decision making: Cognitive models and explanations (pp. 305-323). Taylor & Francis. https://doi.org/10.4324/9780203444399-23
他責思考がある
成長しない人の特徴の一つは、他責思考を持っていることです。他責思考を持つ人は従業員エンゲージメントが向上しづらく、成長が鈍化する傾向があります。
成長するためには自責思考を持つことが大切です。人材マネジメント分野における世界最大級の専門家団体であるSHRM(Society for Human Resource Management)が公表している記事によると、アカウンタビリティを持つ従業員はエンゲージメントが向上しやすいとしています。
アカウンタビリティとは、自責で物事を考えて行動する意識のことです。アカウンタビリティを持つ従業員はエンゲージメントが高まりやすくなり、自身・組織のパフォーマンス向上にもつなげることができます。
参考:
McCord, S. (2021, October 1). Building a culture of accountability. HR Magazine. https://www.shrm.org/topics-tools/news/hr-magazine/building-culture-accountability
Branham, L. (2012, March 21). Creating employee accountability. SHRM Managing Smart. https://www.shrm.org/topics-tools/news/managing-smart/creating-employee-accountability
Raisanen, K. (2017, February 15). Real employee engagement requires accountability. SHRM Talent Acquisition. https://www.shrm.org/topics-tools/news/talent-acquisition/real-employee-engagement-requires-accountability
対人関係スキルが低い
成長しない人の特徴の一つに、対人関係スキルが低いことが挙げられます。国際的に権威のあるWorld Economic Forum(世界経済フォーラム)の記事によると、対人関係スキルが低い人は、感情的知性(EQ)が低く、キャリアにさまざまな悪影響を及ぼすとしています。
感情的知性が低い人は、他人を非難したり悲観主義を押し付けたりします。また、なかには他人に対して傲慢な態度をとるタイプも存在し、そういった人は自分の能力を見誤っているため、成長しようとしません。
部下とのコミュニケーションにお悩みの方は、以下の記事もご覧ください。
参考:
World Economic Forum. (2016, June 20). The importance of social skills and self-awareness to your career. World Economic Forum. https://www.weforum.org/agenda/2016/06/the-importance-of-social-skills-and-self-awareness-to-your-career/
完璧主義の傾向がある
成長しない人の特徴の一つとして、完璧主義であることが挙げられます。ハーバード大学のサマースクールが運営するブログ記事によると、完璧主義者は失敗を過剰に恐れます。
完璧主義の人は失敗を恐れるあまりに、やるべきことを先延ばしにする傾向があります。先延ばしにした結果、プロジェクトを完遂できなかったり中途半端になったりしてしまい、成長につなげられない可能性が高まります。
参考:
Malloy, A. (2023, June 20). Perfectionism Might Be Hurting You—Here’s How to Change Your Relationship to Achievement. Summer at Harvard. https://summer.harvard.edu/blog/perfectionism-might-be-hurting-you-heres-how-to-change-your-relationship-to-achievement/
フィードバックを生かせない
成長しない人の特徴の一つは、フィードバックを生かせないことです。フィードバックは、本来であれば自身を成長させる絶好の機会となります。
しかし、フィードバックが生かせない人はそのチャンスを逃してしまいます。アメリカ政府が管理している国立医学図書館(NLM)の医学文献データベースに掲載されている論文によると、フィードバックを攻撃的なものだと認識する人が存在します。
フィードバックを攻撃的なものとして捉える人は、感情的になって反発したり、言い訳をしたりする傾向があります。フィードバックを成長の機会と捉えることができず、その結果、ほかの人に後れをとってしまうでしょう。
参考:
Hardavella G, Aamli-Gaagnat A, Saad N, Rousalova I, Sreter KB. How to give and receive feedback effectively. Breathe (Sheff). 2017 Dec;13(4):327-333.https://dx.doi.org/10.1183/20734735.009917
変化を避ける
成長しない人は、変化を避ける傾向がみられることがあります。組織の変化や業務レベルの変化などは自身の成長につなげられるチャンスです。そのため、変化を拒絶した場合、成長できない可能性が高まります。
公立の教育機関であるPortland Community College(ポートランド コミュニティ カレッジ)に属する、Climb Center for Advancement & Learningが運営するブログによると、多くの人は変化を恐れます。
変化を恐れる理由は、既存のやり方に心地よさを感じたり、自分のやり方が最も正しいと信じたりしているからです。そのため、変化が生じることに対して強い抵抗感を覚えます。
参考:
Climb Center for Advancement & Learning “Why Do People Hate Change?”
成長しない部下にはどう接するべき?
いつまでも成長しない部下に対して、イライラすることもあるでしょう。しかし、ただ叱責したり放置したりするのは得策ではありません。
適切な対応をしなければ、部下の未来をつぶしてしまったり、退職に追い込んでしまったりする末路をたどるおそれがあります。成長しない部下がいる場合には、まずは成長しない原因を探りましょう。
前項でご紹介したとおり、成長しない人の特徴は8つあります。自分の部下がどの特徴に当てはまるのかを知り、なぜ成長しないのかを分析してください。
そして、一人ひとりの特徴に合った指導を行いましょう。次の項では、成長しない人を伸ばすための具体的な方法を解説します。
成長しない人を伸ばすための6つの方法
成長しない人を伸ばすための方法は、主に下記の6つです。
成長させる6つの方法について、海外の論文や記事を参考にしながら詳しく解説します。
信頼関係を構築する
企業において、信頼関係を構築していることは多方面でポジティブな効果が期待できます。信頼性が高い職場であれば、部下にも良い影響が与えられて、成長につなげられる可能性が高いです。
経営学の分野において世界的な権威を有するハーバード・ビジネス・パブリッシング(HBR)が公開している記事では、信頼性は組織の重要な基盤となるといいます。
記事には、信頼性の高い企業は信頼性が低い企業と比較して、従業員エンゲージメントや仕事への意欲、生産性などが高いという結果が出ていることを示しています。
また、同記事はリーダーが信頼関係を築くための方法についても言及しています。その方法は大きく分けると「透明性を保つ」「信頼性を保つ」「信頼できる行動をとる」の3つです。具体的な方法は下記の表のとおりです。
カテゴリー | 具体的な方法 |
透明性を保つ | 情報をオープンかつ率直に共有する 定期的なフィードバックを提供する オープンなコミュニケーションを奨励する |
信頼性を保つ | 自己認識から始める 弱みを見せる 成長の過程を受け入れる |
信頼できる行動をとる | コミットメントを履行する 専門知識を確立する 誠実さと公平さを示す |
リーダーが上記にあるような努力を行うことで、成長しない人のパフォーマンスを向上させられる可能性が高まるでしょう。
参考:
Harvard Business Publishing(HBR) “Good Leadership? It All Starts With Trust.”
共感を示す
成長しない人を伸ばすためには、共感を示すことが大切です。
上司が部下に対して共感を示すことで部下がポジティブな感情を抱くようになり、ひいては仕事のパフォーマンス向上につながります。
グローバルな情報管理に関する研究の査読付き学術雑誌であるジャーナル・オブ・グローバル・インフォメーション・マネジメント(JGIM)の編集長を務めるNed Kockらが発表している論文によると、リーダーにあたる人が部下の状態を理解し、共感を示すと、部下は自分が尊重されているように感じます。
このことは部下に安心感を与えて、リーダーや職場に対して肯定的な感情を生み出します。
ポジティブな感情を抱くようになった部下は仕事に対する満足度が上がり、仕事への努力をするようになり、結果的にパフォーマンスの向上につながるとのことです。
参考:
Kock, N., Mayfield, M., Mayfield, J., Sexton, S., & De La Garza, L. M. (2019). Empathetic leadership: How leader emotional support and understanding influences follower performance. Journal of Leadership & Organizational Studies, 26(2), 217–236. https://doi.org/10.1177/1548051818806290
努力したことを褒める
成長しない人を伸ばすコツは、能力ではなく努力を賞賛することです。努力を褒めることによって固定思考から抜け出し、成長思考を育むことができます。
倫理的なリーダーシップに関する研究を行うノートルダム大学デロイト倫理リーダーシップ・センターが公表している記事に、成長思考を促進させるフィードバック方法について言及があります。
従業員を賞賛する際、その人の才能や能力自体を褒めてしまうと、固定思考に導いてしまうおそれがあります。成長思考を促進させるためには、その人が行った努力について褒めましょう。
そうすることで、成長しない人が持つ固定思考を解きほぐすことが可能です。
参考:
Notre Dame Deloitte Center for Ethical Leadership “Four Feedback Strategies that Drive Performance and Ethical Behavior”
失敗は悪ではないことを伝える
成長しない人のなかには、失敗することを極度に恐れる特徴を持つ人もいます。
そのようなタイプの部下に対しては、「失敗することは悪いことではない」と伝えましょう。
ノートルダム大学デロイト倫理リーダーシップ・センターの同記事によると、固定思考を持つ人は失敗に対して過剰なコンプレックスを抱いている傾向があり、失敗を何としてでも避けようとするといいます。しかしそのような忌避行動は成長を妨げる一因になります。
リーダーは、失敗を恐れる部下に対して、自分が経験した失敗談と失敗から学んだことを伝えましょう。「失敗しても大丈夫」ということを伝えて、失敗に対する極度の恐怖心を取り除くことが大切です。
部下への伝え方にお悩みの場合は、下記の記事もご覧ください。
年上の部下への対応方法や新人への対応方法など、パターン別の情報も掲載しています。
参考:
Notre Dame Deloitte Center for Ethical Leadership “Four Feedback Strategies that Drive Performance and Ethical Behavior”
SMARTゴールを設定させる
成長しない人は、目標設定がうまくできていない可能性があります。
成長しない人に対してサポートを行い、SMARTゴールを設定させることで、成長促進が期待できます。
「SMARTゴール」とは、目標達成を確かなものにするための方法です。
マサチューセッツ大学グローバル(UMass Global)のSMARTゴールに関する記事によると、SMARTゴールの「SMART」は、「Specific(具体的な)」「Measurable(測定可能な)」「Achievable(達成可能な)」「Relevant(関連性のある)」「Time-bound(期限付きの)」という単語の頭文字をとって呼んでいるもので、以下のポイントを意識して目標設定することが重要とされています。
項目 | 内容 |
Specific(具体的な) | 達成したい目標を、具体的に・明確にする |
Measurable(測定可能な) | 目標の達成レベルを定量化する |
Achievable(達成可能な) | 目標が一定期間内に達成できる合理的な内容かどうかを検討する |
Relevant(関連性のある) | 設定する目標が、大目標や自身の価値観に沿ったものかを確認する |
Time-bound(期限付きの) | 目標を達成するための合理的な締め切りを設定する |
成長しない人のSMARTゴールの設定を手伝い、部下のパフォーマンス向上を目指しましょう。
参考:
University of Massachusetts Global “The Importance of Setting Goals in the Career Development Process”
段階的なフィードバックを行う
成長しない人を伸ばすためには、段階的にフィードバックを実施することが必要です。
SMARTゴールを設定させたあとは、適宜進捗を確認し、フィードバックを行いましょう。
段階的にフィードバックを行うことで、部下は現時点での達成度合いを確かめたり、達成できた小目標を認められたりします。
また、フィードバックの際には必要に応じて先述の「共感を示す」「努力したことを褒める」「失敗は悪ではないことを伝える」の点を意識してください。
フィードバックがさらに効果的なものになるでしょう。
まとめ
本記事では、成長しない人の特徴や能力を伸ばすための方法をご紹介しました。
成長しない人にはそれぞれ異なる特徴があります。職場に成長しない人がいる場合は、一人ひとりのタイプを知ることが大切です。そして、その人と信頼関係を築いたり、各人に合わせた指導をしたりしましょう。
フィードバックでは「何を言うか」だけでなく、「誰が言うか」も重要です。あるクライアントでは、半年に1回の評価面談で部下にフィードバックを行っていましたが、なかなか成長の兆しが見られず、上司は悩んでいました。そこで、半年に1回の面談ではなく、隔週で「1on1」の形でこまめにコミュニケーションを取り、信頼関係の構築に重きを置きました。その結果、部下は徐々に本音や弱みを打ち明けるようになり、部下の状況を把握した上で業務支援やフィードバックがしやすくなりました。このようにフィードバックを成長促進につなげるためには、まずは「この人から言われることは納得できる」と思ってもらえる環境を作ることが重要です。