「新入社員の適切な教育方法がわからない…」
「新人がうまく育たず、すぐに辞めてしまう…」
このような悩みを抱えている管理職も多いでしょう。新入社員を優秀な人材に育て上げ、定着させるために、新人教育が重要なのは言うまでもありません。しかし、実際は新入社員教育について、何かしらの悩みや問題を抱えている企業は多いといわれています。
本記事では、新入社員教育でよくある悩みやその原因、および解決策について解説します。新入社員に効果的な教育を施し、優秀な若手人材を定着させたい方は、ぜひ参考にしてください。
新入社員教育で悩みを抱える企業は多い
新入社員の教育について、何かしら悩みや問題を抱えている企業は多いといわれています。
企業向けの学習プラットフォームを提供するユームテクノロジージャパン株式会社が、管理職を対象に実施した調査によると、「新入社員の受け入れに関して、悩みはありましたか」との問いに、74.0%が「はい」と回答しています。また、企業向けに人材育成支援事業を営む株式会社日本能率協会マネジメントセンターの調査では、教育施策担当者の89.0%が、「新人・若手社員のOJTに課題がある」と感じていることがわかりました。
新入社員を優秀な人材に鍛え上げ、定着させるために新人教育が重要なのは言うまでもないことでしょう。しかし、実際は多くの企業で新入社員がうまく育っていないことが、上記のデータからも見てとれます。
本記事では、新入社員教育でよくある悩みの内容やその原因、および解決策を解説します。
参考:
PR TIMES「【受け入れ先上司の「22卒新人配属」に関する悩み】『コミュニケーションでどの程度踏み込んでいいか分からない…』74%の上司が、新入社員の受け入れに関して悩んで経験あり」
PR TIMES「新人・若手社員の「OJT」に関する調査結果」
新入社員教育でよくある悩み
先ほど紹介したユームテクノロジージャパン株式会社、および株式会社日本能率協会マネジメントセンターの調査結果をもとに、新入社員教育でよくある悩みを紹介します。
コミュニケーションの取り方がわからない
新入社員教育の悩みの中でも非常に多いのが、「コミュニケーションの取り方がわからない」というものです。
ユームテクノロジージャパン株式会社の調査によると、管理職の79.7%が「(新入社員との)コミュニケーションにおいて、どの程度踏み込んで良いかわからない」と回答しています。上司が新入社員とコミュニケーションが取りにくいと感じている要因としては、以下のようなものが考えられます。
- 年齢が離れており話が合わない(例 : 趣味や休日の過ごし方など、共通の話題がない)
- 新人から話しかけてくれない(例 : 仕事の疑問や進捗を自発的に報告してくれない)
- ハラスメントを恐れて言いたいことが言えない(例 : 注意したいことがあるが、訴えられるのが怖くて躊躇してしまう)
上記を簡潔にまとめると、年齢差や時代的な背景から「上司と新入社員がお互いに壁を作っている」ことが、コミュニケーションがうまく取れていない原因になっていると推測できます。この問題を解決するために、まずは上司の方から壁を取り払う努力をすることが重要だといえます(詳細は後述)。
新入社員の能力や人柄が事前にわからない
新入社員の能力や人柄が事前にわからず、新人教育がしにくいと感じている人は多いといわれています。
ユームテクノロジージャパン株式会社の調査でも、管理職の58.1%が「配属される新入社員の特徴(強み・弱み)がわからない」、43.2%が「新入社員の研修での学習内容・状況がわからない」と回答しています。
新入社員の情報を事前に把握できない要因の1つとして、新人の採用活動や研修を人事部任せにしていることが考えられます。人事部に採用や研修を一任すれば、自身の業務に集中しながら、効率的に人材を確保できる点はメリットといえるでしょう。しかし、人事部が採用・教育した人材は、必ずしも現場のニーズに合った人材とは限りません。そのため、配属後にミスマッチが起こり、うまく人材が定着しない恐れもあります。
以上のことから、新入社員の能力や人柄を事前に理解するためには、上司自身も積極的に採用活動や研修に参加することが重要といえます(詳細は後述)。
適切な指導方法がわからない
新入社員の適切な指導方法がわからず、悩む上司や担当者は多いといわれています。
ユームテクノロジージャパン株式会社の調査によると、管理職の47.3%が「(新入社員の)適切な指導方法がわからない」と回答しています。また、株式会社日本能率協会マネジメントセンターの調査でも、新人教育の問題点として「指導にバラツキがある(63.6%)」「指導側の意識や能力が不足している(42.0%)」などが挙げられました。
新入社員の指導方法に悩む原因として、主に以下の2つが考えられます。
- 自分が新人の頃と同じような教育ができない(例. 自分は新人時代に上司・先輩から厳しく指導されたが、同じことを今するとハラスメントになりかねない)
- 新人教育のノウハウが社内で共有されていない(例. 周りに新人教育の経験者がおらず、指導方法について誰にも相談できない)
以上のことから、誰もが新入社員を適切に教育できるように、今の時代に合った新人教育のノウハウを社内で共有することが大切だといえます。
指導する時間の余裕がない
新入社員の指導を担当する社員は、自分の通常業務に加えて、新人の教育にあたらなければなりません。そのため、「新人を指導する時間の余裕がない」点も、悩みとして挙げられる悩みです。株式会社日本能率協会マネジメントセンターの調査でも、教育施策担当者の64.7%が「指導側に余裕(時間)がない」と回答しています。
指導側に時間がない要因の1つとして、社内に新入社員教育の重要性が根付いておらず、新人を教育するための十分なリソースが割かれていないことが考えられます。この場合は、まず新入社員教育が会社の成長のために、いかに重要であるかを全社員に理解してもらう必要があるでしょう。
もう1つ考えられる要因として、新入社員の教育に割く時間自体はあるが、無駄な時間を多く費やしてしまっている可能性があります。したがって、新入社員教育の効率的なノウハウを、上司や担当者に共有し実践させることが重要だといえます。
すぐに辞めてしまう
新入社員がすぐに辞めてしまい、人材が定着せず悩む企業も多いといわれています。
以下は、厚生労働省が公表している、新規大卒就職者の3年以内離職率の調査結果をまとめたものです。年によって多少差はあるものの、例年3割以上の若手社員が短期離職していることがわかります。
入社年 | 3年以内離職率 |
---|---|
平成28年 | 32.0% |
平成29年 | 32.8% |
平成30年 | 31.2% |
平成31年 | 31.5% |
令和2年 | 32.3% |
若手社員の短期離職と新入社員教育には、密接な関係があるとされています。経営コンサルティング事業を営むウィンハーストグループの調査でも、「適切な新人教育を受けた従業員は、3年後も組織に留まる可能性が58%高くなる」ことが判明しています。新入社員時代に十分な教育を受けることで、自分が大切に扱われていることを実感でき、「会社の成長に貢献しよう」という意欲を高めるのでしょう。
また、若手社員の短期離職の原因となりうる要素は、新入社員教育だけではありません。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、若手社員の離職理由として、主に以下の4つが挙げられています。
- 労働条件(労働時間や休日日数)が悪い
- 人間関係が好ましくない
- 給料など収入が少ない
- 仕事の内容に興味が持てない
上記の要素も、新入社員のモチベーションを低下させ、短期離職の原因になりうるため注意が必要です。
参考:
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」
新入社員教育の悩みを解決するポイント
新入社員教育でよくある悩みを解決するために、上司や担当者が意識すべきポイントを紹介します。
指導とハラスメントの境界線を理解する
新入社員を教育する際に、指導とハラスメントの境界線を理解することが重要です。
新入社員がルールを守らないなどの問題行動を起こした場合は、上司として指導する必要があるでしょう。しかし、近年ではハラスメントの基準が厳しくなっており、訴えられることを恐れて部下に注意できない上司が多いといわれています。
このような事態を防ぐためには、どういう行為がハラスメントに該当するのかを知る必要があります。厚生労働省では、以下の3つの要素を満たす行為をハラスメントと定義づけています。
- 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
- 業務の適正な範囲を超えて行われること
- 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること
上記は言い換えれば、「業務上必要な範囲内であれば、上司が部下を指導するのは問題がない」ことを意味しています。自分の指導方法がハラスメントに該当しないか判断できない場合は、専門の窓口や担当者に相談するのも一つの手です。
▼(例)指導とハラスメントの境界線
境界線 | 例 |
---|---|
指導の範囲内 | 遅刻した新人に対し、遅刻した理由を尋ね、「遅刻は就業規則違反だから二度としないように」と注意する |
ハラスメントに該当 | 遅刻した新人に対し、「役立たず」「給料泥棒」など、人格を否定するような暴言を吐く |
フレンドリーに接する
上司は新入社員に対して、フレンドリーに接することが重要です。新人とのコミュニケーションが取りやすくなり、生産性やモチベーションの向上が期待できるからです。
若者向けのマーケティング事業を営む僕と私と株式会社が、Z世代(18~27歳)を対象に実施した調査によると、仕事上の不満・悩みとして「悩みを相談できる相手がいない」ことが多く挙げられています。つまり、新入社員の多くは、上司に対して質問や相談がしにくいと感じていることが推測できます。
また同調査では、理想の上司像について、「友達のように接してくれる」人が求められていることがわかっています。このことから、上司が新入社員に対してフレンドリーに接することは、コミュニケーションを円滑にする有効な手段だと考えられます。
ただし、上司と新入社員が親密になりすぎることも好ましくありません。米国人材マネジメント協会(SHRM)によると、上司と部下の関係性が過度に親密だと、部下の仕事ぶりに対して客観的な評価がしにくくなるとされています。また、一部の部下とのみ親密な関係性になることで、ほかの社員から嫉妬されてしまう恐れもあるでしょう。
したがって、新入社員とは気軽に質問・相談できるフレンドリーな関係性を目指しつつ、上司と部下としての一定の距離感を保つことも大切です。
▼(例)新入社員とフレンドリーな関係を築く施策
- 上司から積極的にあいさつをする
- 雑談の時間を設ける
- ポジティブなフィードバックを行う
採用活動や研修を人事部任せにしない
新入社員の採用活動や研修は人事部任せにせず、現場の上司自ら積極的に参加することが大切です。新入社員の強みや課題を事前に知ることができ、より効果的な育成計画を立てやすくなります。
組織に優秀な若手の人材が不足している場合は、とくに採用プロセスの見直しを検討した方がよいかもしれません。ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている論文によると、従業員には採用活動の時点で、自分がその職場で働くイメージを持たせることが重要とされています。入社前から仕事のイメージができていれば、人材のミスマッチが起きにくく、入社後もモチベーションを高く維持できる可能性が高いからです。
採用活動ではただ面接に参加する以外にも、以下のような働きかけを行うとより効果的かもしれません。
- 本面接の前に模擬面接を行い、お互いの人となりを知る
- 職場見学やジョブシャドウイング(仕事をしている社員に密着・観察する)してもらう
新入社員の採用活動や研修をすべて人事部任せにしてしまうと、すべて人事部任せにしてしまうと、優秀な人材が定着せず、結果的に自分の負担が増える恐れもあるため注意が必要です。
指導者側の教育も実施する
新入社員教育を成功させるためには、「新人を指導する側」の教育も実施しましょう。新入社員教育の効果的なノウハウが共有されていれば、「適切な指導方法がわからない」などの問題は解決できる可能性が高いです。
スタンフォード大学医学部によると、指導者側への教育は以下の流れで実施するのが効果的とされています。
ステップ | 例 |
---|---|
1. 新人教育の目標を定める | ・営業関連の業務を1人で行えるようにする ・チームの売上を10%アップさせる人材に育て上げる |
2. 目標達成に向けた計画を作成する | ・6月までは先輩社員の商談に同行させ、実際の営業現場を体験させる ・月に1度ロープレ練習会を実施し、営業スキルに関するフィードバックを行う |
3. 新人教育に関するノウハウ共有やアドバイスを行う | ・OJT研修に参加する ・上司と定期的にミーティングを行う |
4. OJT教育の成果を評価する | ・営業の業務はおおむね1人で行えるようになった ・売上にはまだほとんど貢献できていないが、成約率は徐々に上がってきている |
先ほども述べたとおり、適切な新入社員教育が実施できている組織では、人材の定着率も高くなる傾向にあるといわれています。新入社員を一人前の戦力として育て上げるのはもちろん、短期離職を防ぐためにも、関係者間で新人教育のノウハウを共有することは重要だといえます。
新入社員教育の具体的な方法や注意点について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
教育時間を短縮するシステムを導入する
新入社員教育に割く時間や人員がどうしても足りない場合は、教育時間を短縮できるシステムを導入するのも一つの手です。
ここで、世界的なアパレルブランドであるルルレモンの事例を紹介します。ルルレモンでは幅広い商品を取り扱っており、新入社員は商品に関する知識を覚えるのに多くの時間を費やさなければなりませんでした。そこで同社では、当時最新のAIモデルを活用した「ルルレモン AIチューター」を開発し、新人教育に活用しました。AIチューターは、AIからの質問に回答することで、商品知識の理解度を測るとともに、不足している知識も補える仕組みになっています。このシステムを導入したことで、同社では新入社員教育にかかる時間の短縮に成功したとされています。
近年ではAIの進歩も相まって、さまざまな企業が社員教育を効率化するシステムやツールを提供しています。新入社員教育に割けるリソース不足で悩んでいる方は、これらの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
エンゲージメントを高める
優秀な若手人材を定着させるために、新入社員のエンゲージメントを高めるよう意識しましょう。エンゲージメントとは、会社や仕事への熱意・愛着などを表す指標です。
一般的には、従業員のエンゲージメントが高いほど、離職率は低くなりやすいといわれています。以下は、株式会社リクルートマネジメントソリューションズが実施した、労働者のエンゲージメントに関する調査結果の一部です。この結果を見ても、エンゲージメントが高いほど社員は幸福度が強く、会社に適応できており、離職意向は低いことがわかります。
▼幸福感・適応感・離職意向とエンゲージメントの関係性(1~6で評価)
項目 | エンゲージメント高群 | エンゲージメント低群 |
幸福感 | 3.78 | 2.79 |
適応感 | 4.25 | 3.04 |
離職意向 | 3.12 | 3.97 |
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている論文によると、従業員のエンゲージメントを高めるには、以下の3点を意識するのが効果的とされています。
- 従業員の行動と関心を結びつける(例:個人の仕事と会社の目標が、どのように関連しているかを示す)
- 仕事のストレスを軽減し、より楽しいものにする(例:ジョブローテーションを行い、従業員の興味・関心がもっとも大きい仕事を見つける)
- 時間のゆとりを生み出す(例:業務時間外のメールを受信しないシステムを導入する)
参考:
PR TIMES「Z世代の理想は「友達のように接してくれる」上司。1,000人に聞いた、働き方に関するリアル」
SHRM “Should Managers Be Friendly with Employees?”
Harvard Business Review “The Key to Retaining Young Workers? Better Onboarding.”
Stanford Medicine “Training and Skills of Mentors”
PR TIMES「【調査発表】高いワーク・エンゲージメントは、離職意向低下や個人の幸福感向上につながることが明らかに「ワーク・エンゲージメント」実態調査 結果を発表」
Harvard Business Review “How Companies Can Improve Employee Engagement Right Now”
まとめ
新入社員教育でよくある悩みや、その解決策について解説しました。
多くの企業では、新入社員を教育するにあたって、何かしら悩みや問題を抱えているといわれています。適切な新人教育が行われていない会社では、優秀な人材が育たないだけでなく、離職率も高くなる可能性があるため、早急に対策が必要かもしれません。
本記事で紹介したポイントをふまえ、新入社員に効果的な教育を施し、優秀な若手人材の定着を目指してください。