部下や新人社員に仕事を教える際にストレスを感じる方もいらっしゃると思います。

その重要性と効果的な指導方法について知りたい方も多くいらっしゃるでしょう。本記事では、新人教育の課題や重要性、そして成功のための具体的な方法について解説します。

新人に仕事を教える際にストレスを感じる原因

新人教育は多くの企業にとって重要な課題ですが、同時に教育担当者にとって大きなストレスにもなっているケースもよくあります。以下では、新入社員に仕事を教える際にストレスを感じる主な原因について、独立行政法人労働政策研究・研究機構の調査をもとに解説します。

研修の方向性が定まっていない

労働政策研究・研究機構の調査結果によると、約3割の企業が明確な人材育成や能力開発の方針を持っていないとされています。この割合は2016年の18.2%から29.6%へと大幅に増加しています。

特に深刻なのは小規模企業の状況です。従業員9人以下の企業では、実に42.2%が人材育成の方針を定めていないことが明らかになりました。これは、日々の業務に追われる中で、長期的な人材育成戦略を立てることの難しさを反映していると考えられます。

教育担当者と社員間に温度差がある

教育担当者の悩みの一つに、研修に対する温度差があることが挙げられています。企業側は社員が自発的に取り組むことを期待する傾向にありますが、実際に主体的に取り組んでいる従業員の割合はわずか13.8%にとどまっています。

このように、温度差があると教育担当者も張り切って取り組みにくい状況になると考えられます。

指導する教育担当者の不足

人材育成における重要な課題の一つとして、教育担当者の不足が挙げられます。この問題は多くの企業で見られ、効果的な人材育成を妨げる要因となっています。

この課題は、新入社員や若手社員の成長を遅らせるだけでなく、組織全体の知識やノウハウの継承を困難にし、長期的には企業の競争力低下につながる恐れがあります。

人材育成を行う時間がない

多くの企業が直面している人材育成の課題の一つに、十分な時間の確保ができないという問題があります。

特に中小企業では、限られた人員で多岐にわたる業務をこなす必要があり、研修やOJT(実務を通じた訓練)の時間を確保することは容易ではありません。

さらに、短期的な成果を求められる経営環境下では、長期的視点に立った人材育成への投資が後回しにされがちです。この「時間がない」という課題は、結果として従業員のスキル向上の機会を奪い、企業の将来的な競争力低下につながる恐れがあります。

人材を育成しても辞めてしまう

人材を育成しても辞めてしまうという問題は、教育担当者にとって大きなストレス要因となっています。入念な準備を重ね、時間と労力を費やして教育しても、その社員がすぐに退職してしまうことで、「せっかく労力をかけたのに」と無力感を味わうことになります。

この状況が続くと、「どうせ教えてもすぐに辞めてしまうのだろう」という後ろ向きな考えが広がり、人材育成に対する意欲が低下してしまいます。

参考:

独立行政法人労働政策研究・研修機構「3割の企業が人材育成・能力開発の方針を定めず『人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査』(企業調査、労働者調査)」

仕事を教えることの重要性

仕事を教えることに対してストレスを感じるものの、企業にとっては非常に重要な業務ともいえます。以下では、オレゴン州大学が公開する記事をもとに、新入社員を教える事の重要性について解説します。

キャリアの基盤を築く

新入社員や部下の成長は、組織の未来を左右する重要な要素です。社員が仕事を完全に習得しないままでは、新しく任せる仕事を遂行することができません。そのため、社員が今後会社で活躍するうえで、仕事を適切に教えることは非常に重要です。

上司や先輩社員は、新入社員や部下に対して単に業務を指示するだけでなく、その仕事の意義や全体像を理解させることが大切です。また、段階的に責任ある仕事を任せていくことで、彼らの能力と自信を着実に育てていくことができます。

生産性を高める

仕事を教え、新入社員や部下がその仕事をマスターすることでチーム全体の生産性が向上します。確かに、仕事を教えるのは最初は億劫に感じるかもしれません。時間と労力がかかり、自分の業務が滞るのではないかと心配になることもあるでしょう。

しかし、長期的な視点で見ると、この投資は大きな見返りをもたらします。仕事を習得し、自立して業務をこなせるようになれば、チーム全体の作業効率が飛躍的に向上します。また、彼らが成長することで、より複雑な業務や新しいプロジェクトに取り組むことが可能になり、組織全体の能力が底上げされます。

職場に馴染むことができる

職場に馴染み、メンバーとうまく連携をとりながら仕事を進めていくためには、各個人が自分の役割をしっかりと果たせるようになることが不可欠です。そのために教育が必要です。

新入社員や異動してきたばかりの社員が仕事を習得するまでには、確かに時間がかかるかもしれません。

初めは業務の遂行に時間がかかったり、ミスが発生したりすることもあるでしょう。しかし、この過程は避けて通ることはできません。

指導と教育を通じて、徐々に仕事のスキルを身につけていくことで、個人は自信を持って業務に取り組めるようになります。これにより、チームの一員としての自覚が生まれ、他のメンバーとの協力関係も築きやすくなります。

従業員の定着率を改善する

従業員の定着率を改善することは、多くの企業にとって重要な課題です。この課題に対する一つの有効な方策として、仕事を丁寧に教えることが挙げられます。

確かに、従業員に時間をかけて仕事を教えても、その従業員がすぐに退職してしまうのではないかという懸念は存在します。

しかしながら、実際には仕事を丁寧に教えることで、従業員の定着率が向上する可能性が高いと考えられています。

つまり、仕事を丁寧に教えることは、単なるスキル伝達以上の意味を持ちます。それは従業員との信頼関係を築き、彼らの帰属意識を高める重要な機会となるのです。

次の新入社員の教育係になるケースもある

部下や新入社員が仕事を覚え、その業務をマスターすることで、次の段階として新入社員の教育係になるケースがあります。これは組織の成長と効率化において重要な役割を果たします。

仕事を教わる側から教える側へと役割が変化することで、教育担当者の負担も軽減されるでしょう。結果として、自分の業務に集中することができ、組織全体の生産性が向上することが期待できます。

参考

Oregon State University “Employee Onboarding Process for Supervisors”

仕事を教える際に必要なことは?

効率的に仕事を教える際には適切な準備が欠かせません。ここでは、部下や新入社員に仕事を教える際に必要な具体的なステップと、それぞれの重要性について詳しく説明します。

事前に情報共有をすること

新入社員が円滑に業務を開始できるようにするためには、情報の共有が重要です。新しい仕事を教える際、その業務に関連するあらゆる情報や資料を事前に共有することが不可欠です。

新しい仕事を始める際は当然ながら、分からないことが多くあります。しかし、事前に十分な情報が共有されていれば、自ら調べ、仕事を進めることができます。

また社員の中には、頻繁に質問することに躊躇を感じるかもしれません。上司や先輩社員に迷惑をかけているのではないかと心配したり、知らないことを露呈することに恐怖心を感じたりすることもあるでしょう。

事前に情報共有しておくことで、こうした不安感も払拭することができます。

指導する内容を事前に決める

新入社員の指導を効果的に行うためには、指導内容を事前に決めておくことが重要です。この準備により、指導する側は伝えるべき情報を整理し、仕事の内容をより的確に伝達することができます。

「行き当たりばったり」の指導を避けることができ、新入社員にとっても理解しやすい環境を作り出します。

日々の業務に追われて周到な準備ができない場合もあるでしょう。しかし、そのような状況でも、最低限、指導のフローを考えておくことが重要です。特に重要なのは、新入社員の視点に立って考えることです。彼らにとって何が難しいか、どのような順序で情報を提供すれば最も理解しやすいかを想像し、それに基づいて指導計画を設計することが大切です。

どのスキルが不足しているかを明確にし、仕事を教える

新入社員や部下に仕事を教える際に、スキル不足を的確に把握し、それに応じた指導を行うことが非常に重要です。

業務プロセスの中で新入社員がどの部分に苦手意識を持っているか、あるいはどの部分で躓いているかを注意深く観察する必要があります。これにより、個々の社員の強みと弱みを明確に理解し、それぞれの状況に合わせたカスタマイズされた指導を提供することができます。

参考:
Bradley University. “The Role of a Corporate Trainer in Educating the Workforce”

仕事を教える際に必要なマインドセットとは?

仕事を教え、成果をだすためには、指導者のマインドセットに大きく左右されます。以下では効果的な指導に必要な心構えや考え方を紹介し、建設的なフィードバックの与え方や問題への対処法など、具体的なアプローチについて解説します。

ネガティブなフィードバックも必要

効果的な新人教育において、ポジティブなフィードバックだけでなく、ネガティブなフィードバックも重要な役割を果たします。言いにくい場面もありますが、足りていない部分の指摘や時には叱責を含むネガティブなフィードバックは、従業員の成長に不可欠な要素です。

新入社員や部下の成長を思いやる批判は、強いチームを育て上げるための重要な一歩となります。

しかし、ネガティブなフィードバックを効果的に行うには、適切な方法と場所を選ぶことが重要です。公の場でのフィードバックは、対象となる従業員を不必要に傷つけたり、チーム内の雰囲気を悪化させたりする可能性があります。そのため、ネガティブなフィードバックを行う際は、必ず1対1の個別面談の形で実施することが推奨されます。

問題が継続して発生する場合は迅速に対応

教育不足により問題が継続して発生する場合、迅速な対応が不可欠です。人手不足や時間がないことを理由に教育を後回しにすることは避けるべきです。問題が持続する場合、早急な対処が重要となります。

部下に適切に仕事を教えることは、短期的には時間を要しますが、長期的には大きな利益をもたらします。

例えば、頻発するミスに対し、根本的な原因を特定し適切な教育を提供することで、長期的にはミスを減少させ、業務の質と効率を向上させることができます。

忙しい時こそ、問題の根本的な解決と部下の育成に注力することが、組織の持続的な成長につながります。

個人の性格ではなく、行動に焦点をあてて指導する

新人や部下に仕事を教える際、フィードバックは不可欠です。しかし、その方法には注意が必要です。効果的な指導では、個人の性格ではなく、具体的な行動に焦点を当てることが重要です。

例えば、「あなたは怠惰だ」といった性格批判ではなく、「この報告書の提出が3日遅れました」と具体的な行動を指摘します。これにより、改善すべき点が明確になり、建設的な議論が可能になります。

また、ポジティブなフィードバックも同様です。「あなたは頭がいい」ではなく、「この問題解決方法は非常に効果的でした」と具体的な行動を評価します。

このアプローチは、個人攻撃を避け、業務改善に焦点を当てることで、より効果的な学習と成長を促進します。

明確で具体的に例を示して問題点を伝える

業務改善を目指して問題点を指摘する際は、曖昧な表現を避け、明確で具体的な例を示すことが重要です。

例えば、「この報告書の質を上げる必要がある」という漠然とした指摘ではなく、「報告書の第2セクションにデータの分析が不足しています。具体的には、売上高の推移グラフとその解釈を追加してください」というように、具体的な改善点を示します。

これにより、部下は何をすべきか明確に理解でき、効果的に改善に取り組むことができます。また、具体例を示すことで、上司の期待値も明確になり、コミュニケーションの齟齬を防ぐことができます。

明確で具体的なフィードバックは、学習と成長を促進し、業務の質を向上させる強力なツールとなります。

長所も同時に伝えることで安心感を与える

仕事を教える際、問題点の指摘だけでなく、長所も同時に伝えることが重要です。これにより、円滑なコミュニケーションを実現し、相手に安心感を与えることができます。

例えば、「この報告書の構成は非常に論理的でわかりやすいです。ただ、データの分析をもう少し深めると、さらに説得力が増すでしょう」というように、長所と改善点をバランスよく伝えます。

このアプローチには複数のメリットがあります。まず、相手の自信を損なわずに改善点を伝えられます。また、長所を認識することで、相手の強みを活かした成長を促すことができます。さらに、上司と部下の信頼関係を強化し、オープンなコミュニケーション文化を育むことにもつながります。

参考:
Harvard Division of Continuing Education”How to Give Negative Feedback to Employees”

まとめ

仕事を教えることは単なるスキル伝達ではありません。それは、組織の文化を形成し、生産性を向上させ、長期的な成功の基盤を築く重要な過程です。

決して容易な道のりではありませんが、メンバー一人ひとりの成長が、やがて組織全体の発展につながるのです。