「会社のSNSはどんなときに炎上するの?」
「SNSの使い方について、新入社員にどのように教育すればいいの?」

このような疑問をもつ管理職も多いでしょう。企業のSNSは適切に行うことで業績アップの効果が期待できる反面、使い方を間違えると炎上やトラブルが起こるリスクもあります。SNSの利用者が多いと考えられる近年の新入社員には、とくにこのことをしっかりと教育する必要があるでしょう。

本記事では、企業のSNS運用でよくある炎上パターンや、新入社員にSNS教育をする上で重要なポイントについて解説します。社員にSNSを適切に活用させ、自社の認知度や売上を向上させたい方は、ぜひ参考にしてください。

社外向けにSNSを運営している企業は多い

帝国データバンクの調査によると、近年では多くの企業が、社外向けの情報発信のツールとしてSNSを運営しており、その割合は40.8%に上るとされています。とくに個人消費関連の業種(「小売」「飲食店」「旅館・ホテル」「娯楽サービス」「教育サービス」)では、74.6%もの企業がSNSを活用していることがわかっています。

多くの企業がSNSを運営する目的としては、自社の認知度向上や、商品・サービスのプロモーションなどが挙げられます。以下は、株式会社東京商工リサーチの調査で判明した、SNS運営で得られた効果をまとめたものです。この結果を見ると、SNS運営による業績アップ効果を感じている企業はそれなりに多いことがわかります。

▼Q. SNS運営による効果は次のどれですか?

回答割合
会社イメージが向上した32.2%
自社の製品・サービスのイメージが向上した26.7%
社員間のコミュニケーションが活発になった24.5%
新規顧客を開拓できた23.0%

ただし、企業のSNS運営には、上記のようなメリットだけでなくデメリットも存在します。炎上やトラブルによって、逆に会社のイメージが低下したり、業績が悪化したりする恐れがあることも忘れてはいけません。

参考:

帝国データバンク「企業におけるSNSのビジネス活用動向アンケート」
東京商工リサーチ「企業のSNSアカウント、大企業でも半数が「運用せず」 さらに運用企業の3割が「効果得られない」 2023年「企業のSNS運用に関するアンケート」調査」

新入社員にはSNS運営のリスクを教育する必要がある

SNS運営のリスクはすべての社員が認識しておくべきですが、とくに新入社員には力を入れて教育する方がいいかもしれません。たった1人の社員がSNSを不適切に使用しただけで、会社全体が大きな損害を被る恐れがあることを、まだ理解していない可能性があるからです。

従業員の不適切なSNS投稿により、重大な損害を受けた企業はこれまでに数多く存在します。以下は、全国に展開しているステーキチェーンA社での事例です。

A社の某店舗のアルバイト従業員が、キッチンの大型冷蔵庫に入り込んでいる様子を撮影し、自身のSNSアカウントで投稿。その結果、「不衛生だ」「会社はどんな指導をしているのか」などの批判が殺到。炎上の勢いは止まらず、投稿から約1週間後、A社は同店舗の閉店を決定した。

SNS関連の事業を手がける株式会社コムニコの調査によると、2023年はSNS上で189件の炎上事件が発生したとされています(個人の炎上も含む)。SNSの炎上は決して他人事ではなく、自分の身に降りかかるリスクがあることを教育することが大切といえます。

参考:
PR TIMES「コムニコ、「炎上レポート」2023年版を公開」

【事例付き】企業のSNSでよくある炎上パターン

デジタルリスクマネジメント事業を手がける株式会社エルテスの2023年上期「ネット炎上レポート」をもとに、企業のSNSでよくある炎上パターンを紹介します。

投稿者の個人的な見解を述べる

人によって意見が分かれるようなテーマについて、企業のSNSアカウントで個人的な見解を述べると炎上しやすいといわれています。意見が異なる人にとっては、自分の考えが否定された気持ちになり、不快感を覚えるからでしょう。

とくに以下のような分野は、派閥がはっきりと分かれやすいため、炎上しやすい傾向にあります。

  • 政治
  • 宗教
  • スポーツ

上記に限らず、企業のSNSアカウントでは議論が起こりやすい話題を避け、中立な立場で情報発信することが大切といえます。

▼個人的な見解を述べて炎上した事例

B社の採用担当者が自身の氏名・会社名を明かしたアカウントで、「給与や待遇にこだわりのある人とは働きたくない」「会社の顏となる人事だからこそ、待遇/給与で会社を選ぶ方と働きたいとは思わない」と投稿。「ブラック企業だ」「会社の顔である人事がこんなことを言っていいのか?」などの批判が殺到した。

特定の層に配慮がない発信をする

特定の層に対する配慮が足りない発信をすることで、炎上が起こるケースも多々あります。

SNS上では、多種多様な背景や価値観を持つ人々が情報を受け取ります。多くの人にとっては気にならないような些細なことでも、一部の人がその投稿を「差別的だ」「無神経だ」などと不快に感じれば、炎上に発展する可能性があります。

企業のSNSアカウントによる投稿では、あらゆる立場の人を思いやる気持ちを見せることが大切です。

▼特定の層に配慮がない発信により炎上した事例

飲料メーカーC社はSNSアカウントにて、自社商品を飲んでいそうな4種類の女性像を、コメントつきのイラストで投稿。自社商品への親しみをもってもらう目的の投稿だったが、「顧客を悪く書いて何が楽しいのか」「女性蔑視だ」などの批判が殺到した。

自社商品・サービスへのクレームが拡散される

自社の商品やサービスへのクレームがSNS上で拡散され、会社のアカウントが炎上することもあります。

一昔前であれば、商品・サービスに関するクレームは専用の窓口を通じて、企業へ直接伝えるのが一般的でした。しかし、近年ではSNS上で簡単に情報を共有できるようになったことで、知らぬ間に自社の悪評が広がるケースも多いとされています。

このような炎上パターンを避けるために、自社の商品・サービスの質を高め続けることが重要なのはいうまでもないでしょう。

▼自社商品・サービスへのクレームで炎上した事例

飲食チェーンD社の商品にカエルが混入している様子を、購入客がSNS上に動画で投稿。動画は瞬く間に拡散され、同社へ問い合わせやクレームが殺到。最終的には同社が事実を認め、当該商品の一時販売中止を余儀なくされた。

従業員が不祥事を起こす

従業員が不祥事を起こしたことで、会社が炎上に巻き込まれるケースも多々あるといわれています。仮に社員個人が起こした問題であっても、「会社が責任をとるべきだ」と考える人が多いのかもしれません。

社員の不祥事が明るみになるパターンとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 別の従業員からSNS上で内部告発される
  • 会社外での問題行為をSNS上で晒される
  • アルバイトが不適切な行為を自ら撮影し、SNS上にアップする(バイトテロ)

株式会社パーソル総合研究所の調査によると、以下のような職場では、とくに不祥事が起きやすいとされています。

  • 長時間労働を強いられる職場:仕事を回すためにはルールを守っていられない
  • 成果主義が強い職場:成果を上げるために不正せざるを得ない
  • トップダウン型の職場:上層部や周りの不正を見かけても黙認する

そもそも上記のような職場環境は、不祥事の有無に関係なく従業員にとって好ましくない状態のため、早急な改善が必要といえます。

▼従業員の不祥事により炎上した事例

飲食チェーンE社を入社後1ヶ月で退職した従業員が、退職理由(「食品の不衛生な取り扱い」「上司からのパワハラ」など)を社内チャットにて報告。その内容を有名インフルエンサーから暴露された。同社は告発内容を認め謝罪したものの、謝罪文が表面的なものだった点にも批判が相次いだ。

個人情報や機密情報が流出する

会社が所有する個人情報や機密情報が流出し、批判や問い合わせが殺到するパターンもあります。

株式会社東京商工リサーチが上場企業を対象に実施した調査によると、情報漏洩の件数は近年右肩上がりで増えており、2023年には約4,090万人分の情報が漏洩したとされています。重大な情報が流出すると、顧客や取引先企業に多大な損害を与える恐れがあります。また、情報を流出させた会社自体も信頼を失い、大きなダメージを受けるでしょう。

セキュリティのリスクはいつの時代も付きまとうため、常に対策しておくことが重要です。

▼個人情報や機密情報の流出により炎上した事例

女子高生が製菓メーカーF社に勤める父親から聞いた話として、まだ一般公開されていない新商品の写真およびCMの出演タレントをSNS上で流出させた。情報を漏洩させた女子高生本人はもちろん、守秘義務がある情報を安易に家族に漏らした父親にも批判が集まった。

個人と会社のアカウントを間違える

個人のSNSアカウントで発信するはずの内容を、誤って会社のアカウントで投稿することで炎上が起こる場合もあります。

Twitter(X)やInstagramなどのSNSは、1つのデバイスで複数のアカウントを管理可能です。そのため、個人と社用のスマホを分けていない会社の場合、個人と会社のアカウントを間違えるリスクは十分考えられます。

以下は、総務省が公表している、主要SNSの年代別の利用率をまとめたものです(一部省略)。

SNS10代20代30代40代
Twitter(X)54.3%78.8%55.5%44.5%
Instagram70.0%73.3%63.7%48.6%
Facebook11.4%27.6%46.5%38.2%
TikTok66.4%47.9%27.3%21.3%

上記の結果を見ると、新入社員の多くが該当するであろう10~20代は、ほかの世代と比べてSNSの利用率が高いことがわかります。SNSの利用者が多い分、新入社員が会社のアカウントを誤って操作する可能性も高くなるため、とくに注意が必要かもしれません。

▼個人と会社のアカウントを間違えたことで炎上した事例

テレビ局G社の社員が、特定の政党および政治家に対する誹謗中傷を、誤って会社のアカウントで投稿。投稿はすぐに削除したものの、スクリーンショットが瞬く間に拡散し炎上。投稿した社員は懲戒解雇処分となった。

参考:

PR TIMES「2023年上期「ネット炎上レポート」を発表」
PR TIMES「企業の不正・不祥事の実態と防止・改善策に関する調査を発表」
東京商工リサーチ「2023年の「個人情報漏えい・紛失事故」が年間最多 件数175件、流出・紛失情報も最多の4,090万人分」
総務省「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書<概要>」

新入社員のSNS教育における重要ポイント

農林水産省が公表している情報をもとに、新入社員のSNS教育における重要なポイントを解説します。

SNSで炎上しやすい話題を知る

新入社員には、SNSで炎上しやすい話題を教育することが重要です。炎上しやすいテーマがわかれば、その話題を極力避けて発信することで、炎上するリスクを下げられるからです。

一般社団法人SNSエキスパート協会では、SNSで炎上しやすい話題として「炎上さしすせそ」を提唱しています。

▼炎上さしすせそ

  • さ:災害・差別
  • し:思想・宗教
  • す:スパム・スポーツ・スキャンダル
  • せ:政治・セクシャル(含LGBT)
  • そ:操作ミス(誤投稿)

上記の中でも、とくに災害や戦争を連想させる投稿は、「不謹慎だ」と炎上しやすいため注意が必要とされています。

▼災害・戦争を連想させ炎上した事例

H社の公式SNSアカウントが、8月9日に「なんでもない日おめでとう」と投稿。しかし、8月9日は長崎に原爆が投下された日付であり、「なんでもない日じゃない」「日本の公式がする投稿じゃない」と炎上。同社は該当の投稿を削除し、謝罪した。

SNS教育を定期的に実施する

新入社員へのSNS教育は一度だけでなく、定期的に実施することが大切です。何度も教育を施すことで、SNSの適切な使い方が定着しやすくなるからです。

また、人々の価値観の変化により、SNSにおける炎上のトレンドは年々変化していくと予想されます。以下は、株式会社エルテスが調査した、2021~2023年のSNSの炎上トレンドをまとめたものです。

炎上トレンド事例
2021年・バイトテロ
・「批判」と「表現の自由」のせめぎ合い
・過去の不適切行為の掘り起こし
とあるVTuberの容姿が「性的誇張がなされ、不適切である」として、某団体が運営側に抗議。抗義に対して、運営側はキャラクターの使用取り下げを実施。この対応に対して、「なぜ取り下げたのだ」と運営側への批判が殺到した。
2022年・コンプライアンス違反の拡散
・Webサイトの情報のサイレント削除や修正
企業のロゴが描かれた社用車での危険な運転の様子がSNSで拡散され、会社に批判が殺到した。
2023年・従業員の内部告発
・内部関係者による情報漏洩
飲食チェーンを退職した従業員が、退職理由(「食品の不衛生な取り扱い」「上司からのパワハラ」など)を社内チャットにて報告。その内容を有名インフルエンサーから暴露され、同社に批判が相次いだ。

上記のように、炎上のトレンドが年々変化するのに伴い、SNS教育の内容もアップデートしていく必要があるといえます。

アカウントを複数人で運用する

会社のSNSアカウントは複数人で運用し、投稿内容をお互いにチェックする体制にしましょう。仮に1人が不適切な投稿を作成しても、他のメンバーが確認し内容を修正すれば、炎上を未然に防げる可能性が高いです。

また、SNSの運用担当者は、できるだけ属性(年代や性別)が異なる社員で構成するのが望ましいとされています。多様な立場の社員がチェックすることで、誤った情報を発信していたり、特定の層を不快にさせる内容になっていたりしないか、判断がしやすいからです(例:運用担当者に女性社員を加え、女性を軽視していると誤解される内容になっていないか、女性目線で確認させる)。

SNS利用に関する規則を制定する

SNSの利用に関する規則を制定し、新入社員をはじめ全社員に共有することが重要です。SNSを利用する際の制限・禁止行為や、規則を破ったときの処分内容を明確にすることで、社員がより慎重にSNSを利用するようになると期待できます。

労働問題.comでは、社員のSNS利用をより効果的に管理・指導するために、就業規則・ガイドライン・誓約書の3つで規定することを推奨しています(下表参照)。

規定方法目的・盛り込む内容(例)
就業規則SNS利用に関するルールを法的に遵守させる①社内外を問わず、会社の信用を損なう、もしくは会社に損害を与える使い方を禁止する
②もし①に違反した場合は、懲戒処分の対象とする
ガイドラインSNS利用に関する具体的なルールを示す
・適用対象者
・SNS利用時の注意点
・トラブル発生時の対応法
・ガイドラインに違反した場合の取り扱い
誓約書SNS利用に関する就業規則やガイドラインを理解し、それに同意したことを公式に確認する

炎上後の対応方法を決めておく

新入社員には、万一SNSで炎上してしまった場合の対応方法も教育しておきましょう。

どれだけ気をつけていても、SNSで予期しない炎上が発生するケースはどうしても起こり得ます。しかし、炎上後に迅速かつ適切な対応ができれば、損失を最小限に食い止められる可能性が高いです。

▼適切な対応で炎上を最小限に抑えた事例

製菓メーカーI社の商品に虫が混入しているとの情報が、写真とともにSNS上で拡散され話題に。同社はすぐに調査を実施し、商品の製造時期と投稿日時の前後関係より、虫が製造過程以後に混入したものであると発表。また、虫の混入経路や人体への害などについても、詳細な説明を行った。結果、炎上は短時間で収束。冷静で的確な対応に称賛の声も多く見られた。

農林水産省の情報によると、炎上時は批判の内容や広がり方によって、以下のような対応方法をとるのが効果的とされています。

批判内容対応方法
明らかに妥当ではない・無視する
・無視しない場合は、事実関係を確認・公表する
・ユーザーへの批判・反論をしない
妥当か分からない人気ネットメディアに非掲載
人気ネットメディアに掲載・迅速に謝罪する
・事実関係を確認・公表する
・言い訳や隠ぺいをしない
・ユーザーへの批判・反論をしない
明らかにこちらに非がある

上記を先ほどのI社の事例に当てはめると、「(製造過程以後に)商品に虫が混入している」という自社に非がないクレームに対し、投稿者を批判することなく、事実関係だけを的確に述べていることがわかります。その結果、炎上を素早く収束させただけでなく、事後対応の素晴らしさから、逆に自社の株を上げることができたと考えられます。

参考:

農林水産省「統計分析が明らかにする炎上の実態/対策とネットメディア活用方法」
株式会社エルテス「総集編「2021年の炎上トレンドと2022年のトレンド予測」を発表」
株式会社エルテス「2022年の炎上トレンドと2023年の炎上予測|ネット炎上レポート総集編」
労働問題.com「社員のSNSを禁止して炎上被害を防止する方法(ガイドライン・書式あり)」

まとめ

企業のSNS運用でよくある炎上パターンや、新入社員にSNS教育をする上で重要なポイントについて解説しました。

企業のSNS運営にはさまざまなメリットがある反面、不適切な使い方により炎上してしまうと、かえって自社のイメージや業績を低下させるリスクもあります。SNSの利用者が多いであろう近年の新入社員には、とくにこのことをしっかりと教育する必要があるでしょう。

本記事で紹介したポイントをふまえ、SNSを適切に活用し、自社の認知度や売上アップに役立ててください。