「若手社員がうまく育たない…」
「若手社員の指導に割く時間が足りない…」
「せっかく育てた若手社員がすぐに辞めてしまう…」
このような悩みを抱える管理職も多いでしょう。若手社員の適切な指導方法を知ることで、これらの問題は解決できる可能性が高いです。
本記事では、若手社員の効果的な指導方法や、指導する際のコツや注意点について解説します。また、若手育成でよくある課題や、指導方法の参考になる事例なども紹介します。若手社員に適切な指導を行い、優秀な人材を定着させたい方は、ぜひ参考にしてください。
若手社員の指導方法についてよくある問題

以下は、厚生労働省の令和5年度「能力開発基本調査」の結果の一部をまとめたものです。
▼人材育成に関する問題点の内訳(複数回答)
回答 | 割合 |
---|---|
指導できる人材が不足している | 57.1% |
人材を育成しても辞めてしまう | 53.2% |
人材育成を行う時間がない | 47.6% |
鍛えがいのある人材が集まらない | 27.3% |
育成を行うための金銭的余裕がない | 14.5% |
人材育成の方法がわからない | 8.4% |
上記の結果をもとに、若手社員の指導方法におけるよくある問題を紹介します。
指導のノウハウが不足している
若手社員の適切な指導方法がわからず、悩む企業や担当者は多いといわれています。厚生労働省の調査結果でも、「指導できる人材が不足している(57.1%)」「人材育成の方法がわからない(8.4%)」など、指導ノウハウの不足に悩む意見が多数見受けられます。
上記の原因として、主に以下の2つが考えられます。
- 若手の指導ノウハウが社内で共有されていない(例. 指導担当者向けの研修がなく、若手に対して場当たり的な指導しかできない)
- 自分が若手の頃に受けてきた指導方法が通用しない(例. 自分が若手時代に受けた厳しい指導方法だと、今ではハラスメントで訴えられる恐れがある)
以上のことから、若手社員の育成を成功させるには、適切な指導方法を社内で共有・蓄積することが重要といえます。もし、自社だけではノウハウが足りない場合は、外部研修の受講などを検討するのも一つの手です。
指導してもすぐに辞めてしまう
せっかく指導し育てた若手社員が、すぐに辞めてしまうという悩みもよく聞かれます。厚生労働省の調査でも、53.2%が「人材を育成しても辞めてしまう」と回答しています。
厚生労働省が実施した「令和5年雇用動向調査」によると、若手社員(20~29歳)が前職を辞めた理由として、主に以下が挙げられています。
- 労働条件(労働時間や休日日数)が悪い
- 人間関係が好ましくない
- 給料など収入が少ない
- 仕事の内容に興味が持てない
上記のような職場環境は若手社員のモチベーションを低下させ、早期離職につながる恐れがあるため、早急な対処が必要でしょう。
指導に割く時間がない
若手社員を指導する時間の余裕がないことも、人材育成でよく挙げられる問題の一つです。厚生労働省の調査でも、47.6%が「人材育成を行う時間がない」と回答しています。
若手社員の指導に割く時間がない要因として、主に以下の2つが考えられます。
- 人手が不足しており、本当に時間がない
- 時間自体はあるが、無駄な指導に費やしている
前者の場合は、若手育成の重要性を社内で共有し、指導に必要なリソースを割いてもらう必要があるでしょう。どうしても人手が足りない場合は、OFF-JT(職場外の研修やセミナーへの参加)や自己啓発(若手自身の自発的な取り組み)によって、知識・スキルを習得させるのも一つの手です。
後者の場合は、若手社員を「どのような人材に育て上げたい」か目標を設定し、目標を効率よく達成できる指導計画を作成することで、解決できる可能性があります(目標・計画の設定方法は後述)。
若手自身の意欲が低い
若手社員の育成がうまくいかないのは、指導する側だけでなく、指導を受ける若手自身にも問題があるかもしれません。厚生労働省の調査でも、27.3%が「鍛えがいのある人材が集まらない」と回答しています。
若手社員の意欲が低い原因の1つとして、仕事のミスマッチが起きている可能性が考えられます。ミスマッチが起きている状態では、いくら適切な指導をしても、育成が成功する確立は低いでしょう。
おそらく多くの企業では、人事部が採用活動の大部分を担当しているはずです。しかし、人事部が選んだ人材が、必ずしも現場が求める人材と合致している保障はありません。そのため、現場の上司も採用活動に参加し、自分の目で適切な人材を見極めることが重要といえます。
指導にかける金銭的な余裕がない
若手社員の指導にかける金銭的な余裕がないケースも珍しくありません。厚生労働省の調査でも、14.5%が「育成を行うための金銭的余裕がない」と回答しています。
まず前提として、若手社員の指導にかけるコストをカットすることは好ましくありません。必要なコストを惜しめば、若手は十分な指導を受けられず、育成が失敗する可能性も高まるからです。
また、ギャラップ社の調査によると、従業員が1人退職するごとに、その給与の半分~2倍相当の損失コストが発生するとされています。このコストには、従業員が退職したことで低下した生産性や、新たな社員を雇う費用も含まれています。つまり、指導コストをカットし、うまく育たなかった若手社員が離職すると、かえって損をしてしまう恐れもあるのです。
若手社員の指導に割く金銭的な余裕がどうしてもない場合は、「人材開発支援助成金」と呼ばれる助成金を活用するのも一つの手です。人材開発支援助成金の受け取り条件や申請方法など、詳細を知りたい方は厚生労働省の公式サイトを確認してください。
参考:
厚生労働省「能力開発基本調査:結果の概要」
厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」
Gallup “This Fixable Problem Costs U.S. Businesses $1 Trillion”
厚生労働省「人材開発支援助成金」
指導にあたって知っておきたい若手社員の特徴

近年の若手社員には、主に以下のような特徴や傾向があるとされています。
- 仕事のやりがいや人間関係を重視している
- 経済的な安定を求めている
- ワークライフバランスを大切にしている
- メンタルヘルスに不安を抱えている
- 転職を肯定的に考えている
若手社員を効果的に指導するためには、上記の特徴を頭に入れておくことが重要です。たとえば、ワークライフバランスを重視する若手にとって、残業が多い職場ではやがてモチベーションが低下する恐れがあります。そのため、極力残業が発生しないよう、チーム内での仕事の割り振りを見直すなどの対策が必要でしょう。
若手社員の特徴について、詳細を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
若手社員の効果的な指導方法

ここまでに解説した内容をふまえ、若手社員を効果的に指導する方法について解説します。
メンターをつける
若手社員にはメンターをつけましょう。メンターとは、業務に必要な知識・スキルを指導するだけでなく、仕事やプライベート上の悩み相談に乗るなど、メンタル面もケアする役割のことです。
先ほども述べたとおり、近年の若手社員はメンタルヘルスに不安を抱えている傾向が強いとされています。そのため、仕事内容や人間関係で過度なストレスを感じていないか、気軽にケアできる存在を身近に置くことが大切です。
米国の非営利教育団体であるエデュコーズによると、メンター制度を成功させるには、以下のような要素が必要とされています。
- 親しみやすく、いつでも相談できること:信頼関係を築くためには、こまめなコミュニケーションが重要
- 若手社員を中心とした関係であること:若手自身の目標達成や問題解決を目的とした関係を築く
- 成功だけでなく失敗も共有すること:自身の失敗から得た教訓も若手にとって重要
- 正直であること:若手の行動や考え方が間違った方向に進んでいると感じたら、遠慮せずに指摘する
メンターは誰にでもできる簡単な役割ではありません。上司は上記の内容をふまえて、メンターに適した人材を選定することが重要といえます。
年齢や立場に関係なく敬意をもって接する
若手社員に対しては、年齢や立場に関係なく、敬意をもって接することが重要です。相手からの敬意を感じられれば、「自分は大切にされている」と実感でき、モチベーションもアップする可能性が高いです。逆に、他者に敬意を払えない人間と信頼関係を築くのは、誰にとっても難しいでしょう。
ドレクセル大学によると、職場で若手社員に敬意を示すには、以下の4点を意識することが効果的とされています。
- 相手の意見を尊重する(例:職場環境の改善案について、若手にも意見を求める)
- 時間を厳守する(例:若手との打合せでも、5分前には準備を始める)
- ネガティブな雑談を避ける(例:噂話をしている社員を見かけたら注意する)
- 相応の責任を負わせる(例:チームの目標達成のためのノルマを、新人にも課す)
上記を見ると、若手社員に敬意を示すためには、ただ言葉遣いを丁寧にすればいいだけではなく、態度や行動でも示すことが必要だとわかります。
積極的に感謝の気持ちを伝える
若手社員には、上司から積極的に感謝の気持ちを伝えることが大切です。感謝を伝えることで若手のモチベーションが高まり、成長スピードも促進される可能性が高いです。
組織課題の解決に役立つサービスを提供するUnipos株式会社の調査結果でも、「感謝を伝えられる頻度が高い従業員ほど、エンゲージメント(会社への愛着や信頼度)も高い」ことがわかっています。周囲から日常的に感謝されることで、自分が会社に貢献していることを実感でき、「会社を成長させよう」という意欲が高められるのでしょう。
ただし、感謝を伝えることが重要といっても、適当に「ありがとう」と言うだけではあまり意味がないかもしれません。ブリガム・ヤング大学によると、感謝の気持ちを伝えたい場合は、以下の4つのポイントを押さえると効果的とされています。
- 具体的に伝える
- すぐに伝える
- 状況に応じた方法で伝える(口頭やメール、プレゼントなど)
- 小さなことでも伝える
▼(例)若手社員への感謝の気持ち
「今日の会議資料を完璧に準備してくれて本当にありがとうございます。短時間で素晴らしい仕事をしてくれたお礼に、ささやかですが、お菓子を受け取ってください。これからも一緒に頑張りましょう!」 |
ポジティブなフィードバックをこまめに行う
若手社員に対しては、ポジティブなフィードバックをこまめに行うことが重要です。ポジティブなフィードバックをすることで、若手は自分の成長や貢献度を実感でき、モチベーションの向上も期待できます。
以下はギャラップ社が実施した、「フィードバックの内容」と「従業員のモチベーション」との関連性を調査した結果の一部です。
日常的に受けているフィードバックの内容 | 熱心に仕事に取り組んでいる従業員の割合 |
---|---|
ポジティブ | 67% |
ネガティブ | 31% |
上記を見ると、ネガティブなフィードバックが多すぎると、若手社員の育成には逆効果である可能性が高いといえます。
とはいえ、若手社員が何かしら問題を起こしたときなど、ときにはネガティブなフィードバックが必要なケースもあるでしょう。ウォータールー大学によると、ネガティブなフィードバックをする際は、以下のポイントを押さえることが重要とされています。
- 人格ではなく行動に焦点を当てる
- ポジティブな内容も混ぜる
- 具体的に述べる
- 現実的に直せる点だけを指摘する
- 気づいたらすぐに指摘する
▼(例)若手社員へのネガティブなフィードバック
「最近、遅刻が多いように感じています。具体的に、今月だけでも3回、定時を少し過ぎての出社がありました。遅刻は就業規則違反なので、改善していただけると助かります。何か特別な理由がある場合は、ぜひ相談してください。一緒に解決策を見つけましょう。山田さんのこれまでの努力や貢献に感謝していますし、これからも一緒に良い結果を出していきたいと思っていますので、ぜひご協力をお願いしたいと思います。 |
小さな成功体験を積ませる
若手社員には、まず小さな成功体験を数多く積ませましょう。
以下は、企業向けの人材育成事業を手がける株式会社シェイクが、新入社員を対象に実施した調査結果の一部です。調査対象は新入社員ですが、経験の浅い若手社員にもあてはまる傾向だと考えられます。
▼Q. どのようなときにモチベーションが高まるか
回答 | 割合 |
---|---|
誰かから成果や努力を認められたとき | 55.7% |
自分自身の力で目標を達成したり、ものごとをやり遂げたとき | 47.1% |
自分自身の成長を感じたとき | 44.1% |
上記を見ると、若手社員に小さな成功体験を積ませて、自身の成長を実感させることは、モチベーションの向上に効果的だといえます。
ただし、いつまでも小さな成功体験ばかり積ませてしまうと、やがて若手社員の成長が止まる恐れがあるため注意が必要です。スタンフォード大学経営大学院によると、物事を追求するにあたり、「初期段階では小さな目標をクリアすることに集中し、終盤は大きな目標に焦点を当てる」ことが重要とされています。
小さな目標をクリアすることはモチベーションアップに効果的ですが、しばらく続けていると成功に慣れ、やがて目標を達成しても何も感じなくなる恐れがあります。モチベーションを高く維持するためには、適切なタイミングで大きな目標へと焦点を移し、自分の行動に価値を見出させる必要があるといいます。
例として、「20kgのダイエット」に挑戦するケースを想定します。この場合、初期は「週に1kg痩せる」ことを目標にするとよいでしょう。このまま順調に痩せ、合計15kgの減量に成功したときに、最終目標である「合計20kg痩せる」に焦点をシフトすることで、モチベーションを高く保てるというのです。
ジョブ・クラフティングを促す
若手社員には「ジョブ・クラフティング」を促しましょう。ジョブ・クラフティングとは、仕事のやりがいや満足度を高めるために、労働者が自身の働き方に工夫を加える手法です。
厚生労働省によると、ジョブ・クラフティングに関する研究は過去にいくつか実施されており、従業員のエンゲージメント向上に効果的であることがわかっています。また先ほども述べたとおり、若手社員は仕事にやりがいを求める傾向が強いため、ジョブ・クラフティングがとくに有効に働くと考えられます。
厚生労働省では、ジョブ・クラフティングの具体的な手法として以下の3つを推奨しています。
手法 | 概要 | 例 |
---|---|---|
作業クラフティング | 仕事内容がより充実したものになるよう、業務の量や範囲を変える | 月の売上目標を設定し、売上への影響が大きい顧客から優先的にアプローチしていく |
人間関係クラフティング | 仕事上で関係する人々との関わり方を調整し、サポートやを助言もらい、仕事の満足度を高める | 会議や懇親会など、営業部と開発部がコミュニケーションを取れる機会を定期的に設け、両者の連携を強める |
認知クラフティング | 仕事の目的や意味を捉え直すことで、やりがいを感じながら前向きに仕事に取り組む | 清掃員は単なる「床を掃除するだけの仕事」ではなく、「病院の清潔さを保ち、患者やスタッフに安全で快適な環境を提供する重要な役割」と認識し直す |
仕事だけでなくプライベートにも配慮する
若手社員に対しては、仕事面だけでなくプライベートにも配慮することが大切です。
先ほども述べたように、近年の若手社員は仕事と私生活の両方、すなわちワークライフバランスを重視する傾向が強いといわれています。充実したプライベートを過ごすことができれば、仕事に対する意欲も高まり、結果的にパフォーマンスの向上も期待できるでしょう。
また、若手社員の健康を維持するためにも、ワークライフバランスは非常に重要です。ペパーダイン大学によると、働き過ぎにより疲労が蓄積している従業員は、やがて燃え尽き症候群に陥り、生産性が低下したり私生活に悪影響を及ぼしたりする恐れがあるとされています。
以上のことから、若手社員が長期間にわたって高いパフォーマンスを発揮し続けられるよう、ワークライフバランスに気を配ることも上司の役目といえます。
▼(例)ワークライフバランスに配慮した取り組み
- 1日の業務が終了したら、翌営業日までメールを受信しないシステムを導入する
- 有給取得日数が少ない社員に対し、休暇の取得を促す
- 育児で忙しい社員の在宅勤務を認める
参考:
Educause “The Benefits of Being a Mentor”
Franklin & Marshall College “Why being respectful to your coworkers is good for business”
Drexel University “How to Show Respect in the Workplace”
PR TIMES「感謝を言われる頻度が高い人は従業員エンゲージメントも高いことが判明」
Brigham Young University “The Power of “Thank You””
University of Waterloo “Receiving and Giving Effective Feedback”
PR TIMES「【調査レポート公開】2022年度新⼊社員のリアルと自律をうながす育成のポイント~モチベーションが高まるポイントは「承認」「達成」「成長」~」
Stanford Graduate School of Business “Focus on Small Steps First, Then Shift to the Larger Goal”
厚生労働省「第3節 「働きがい」をもって働ける環境の実現に向けた課題について」
Pepperdine Graziadio Business School “Work-Life Balance: Why it Matters Now More Than Ever”
若手社員の指導方法を実践する際のコツ・注意点

若手社員に対する指導方法を実践する上で、上司が押さえておくべきコツや注意点について解説します。
指導計画を作成する
若手社員を効果的に育成するためには、事前に指導計画を作成しておくことが重要です。
目標を設定し、目標達成に向けた指導方法やスケジュールをあらかじめ決めておくことで、若手を効率よく育成できる可能性が高いです。ハーバード大学の研究でも、明確で具体的な計画(専門能力開発計画など)を作成した3%のMBA卒業生は、残り97%の合計の約10倍収入を得ていることがわかっています。
リンデンウッド大学では、従業員の指導計画をより効果的なものとするため、以下の5つの項目を含めることを推奨しています。
項目 | 概要 | 例 |
---|---|---|
目標 | 「SMARTの法則」に沿って目標を設定する・S:specific(具体的) ・M:measurable(測定可能) ・A:achievable(達成可能) ・R:relevant(関連性のある) ・T:time-bound(期限付き) | 3ヶ月以内に、月15件以上の新規契約を獲得できるようにする |
方法 | ・OJT ・OFF-JT ・自己啓発 など、指導方法を決める | ・毎月末に定例会議を開催し、進捗や課題を振り返る ・隔週でロープレ練習会を実施し、改善点を洗い出す |
進捗 | 目標の達成度やスケジュールなど、進捗を記録する | ・4月は合計9件の契約を獲得 ・5月12日にロープレ練習会を実施予定 |
予算・コスト | 研修費や教材費、人件費など、指導にかかるコストを確認する | 上司や先輩社員、本人の人件費:約60万円 |
評価基準 | 指導の効果を測定するため、評価基準を設ける | ・月に15件以上の新規契約を獲得できているか ・上記を3ヶ月以内(6月末)までに達成できているか |
若手社員の指導計画の作成方法について、詳細を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
メンターに対する指導も実施する
若手社員の育成を成功させるためには、メンターに対しても指導を実施することが大切です。
先ほども述べたとおり、若手社員の適切な指導方法がわからずに悩む企業は多いといわれています。メンターが効果的なノウハウを理解していれば、このような問題は解決できると考えられます。
以下は、ミシガン州立大学が提唱している、メンターの指導方法の一例です。
- メンター向けの研修に参加し、ノウハウを学ぶ
- 上司とメンターで定期的に面談を実施し、若手指導の進捗を共有する
- 他のメンターとの交流機会を設け、アイデアを交換し合う
上記を見ると、上司は若手指導をメンターに丸投げするのではなく、一緒に育てていく意識をもつことが重要といえます。
採用活動を人事部任せにしない
先ほども述べたように、指導を受ける若手社員自身に成長しようという意欲が見られない場合、仕事のミスマッチが起きている可能性があります。このような状況を防ぐため、現場の上司も採用活動に参加し、意欲的な若手を自らの目で選ぶことが重要です。
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている論文によると、入社後のミスマッチを避けるためには、選考の時点で「自分がその職場で働いているイメージ」を応募者にもたせる必要があるとされています。同論文では、その方法の例として「職場見学」や「ジョブシャドウイング(実際に働く社員に1日密着・観察する)」が挙げられています。
また、その他の手段として、カジュアル面談を実施するのも有効かもしれません。カジュアル面談とは、その名の通りリラックスした雰囲気の中で、企業側と応募者が情報交換を行う場のことです。カジュアル面談は通常の採用面接と異なり、選考ではなく相互理解を深めるためのものなので、入社後のミスマッチを防ぐ効果が期待できます。株式会社学情が20代の若手社員を対象に実施した調査でも、69.5%が「(カジュアル面談に参加したことで)企業理解が進み、志望度が上がった」と回答しています。
待遇面を見直す
給料や福利厚生など、若手社員の待遇面に問題がないか確認しましょう。先ほども述べたように、若手社員は仕事に経済的な安定を求める傾向があるからです。
カリフォルニア大学バークレー校によると、従業員は「自分が会社から評価されている」と感じたときに、モチベーションがアップすることがわかっています。そして同学では、社員の仕事ぶりや成果を効果的に評価する方法として、金銭や休暇などの報酬で報いることを推奨しています。
ただし、ハーバード・ビジネススクールによると、従業員にただお金を渡すだけでは単なる金銭取引とみなされる可能性があり、モチベーションの向上効果は薄いといいます。同学では、報酬と一緒に感謝の気持ちも伝えることが、何よりも重要だとしています(例:優秀な成績を収めた社員にインセンティブとともに感謝状を送る)。こうすることで、従業員はより会社から「必要とされている」「評価されている」と感じられ、「会社のために尽くそう」という意欲が高まるとされています。
AIを活用して指導を効率化する
若手社員を指導する人手や時間がどうしても足りない場合は、AIを活用するのも一つの手です。
近年はAIの進化が目覚ましく、さまざまな業務効率化ツールが提供されています。これらのツールを活用すれば、低コストで効率よく若手社員を指導できるかもしれません。
▼新人指導にAIを活用した事例
リース事業やファイナンス事業でさまざまなサービスを提供するリコーリース株式会社では、コールセンターに入る問い合わせの内容も多岐にわたる。対応には豊富な知識や的確な状況判断が必要なため、新人スタッフの育成に多くの時間を費やしていた。そこで同社では、教育トレーナーの代わりにスタッフの質問に常時答えてくれるチャットボットシステム「RICOH Chatbot Service」を導入した。その結果、導入後半年でトレーナー1人あたりの指導時間が月3時間削減。また、トレーニングを受ける側も、後処理時間(お客様対応後の後処理に要する時間)が1名あたり月5時間削減された。 |
参考:
Central Connecticut State University “Why a Professional Development Plan is Essential for Success”
Lindenwood University “Planning for Employee Development”
Michigan State University “Best Practices for Mentors and Mentees in Academic Settings”
Harvard Business Review “The Key to Retaining Young Workers? Better Onboarding.”
PR TIMES「「カジュアル面談に参加し、志望度が上がった」と回答した20代が7割に迫る」
Berkeley Executive Education “Why You Should Consider a Raise for Your Employees”
Harvard Business School “Forget Cash. Here Are Better Ways to Motivate Employees”
Ricoh「新人育成と処理効率アップに貢献!「RICOH Chatbot Service」がコールセンターのナレッジ管理を一新」
【指導方法の参考に】若手社員の育成事例

若手社員の指導方法の参考として、人材育成に成功した企業の事例を紹介します。
ヤフーの「1on1ミーティング」
ヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)では、2012年の新体制発足と同時に、「1on1ミーティング」を導入しました。1on1とは、原則週1回30分、上司と部下が対話する制度です。
当時、ヤフーでは「人材開発企業になる」ことを目指す中で、「上司と部下のコミュニケーションが不足しているのでは?」という課題が挙げられていました。そこで、コミュニケーション不足を解消する施策の1つとして、1on1が始まったといいます。
1on1の目的は、「部下が自身の経験を具体的に言葉にする中で内省し、成長に結びつける」ことです。1on1における上司の役割は「部下の成長の支援」であり、「自分の考えやアドバイスを先に言わず、部下の話を最後まで聞く」ことが求められます。
たとえば、部下が「チームメンバーと意見がぶつかり、時々険悪な雰囲気になる」と述べたと仮定します。このとき、上司は自らの主観を加えずに、「周囲との協調がうまくいっていないんだね」などと、部下の発言を言い換えるとよいでしょう。もし、言い換えた内容の意味合いが異なれば、部下は言葉を修正し、さらに掘り下げて問題の本質を探るようになります。これをくり返し、部下自らが問題の対処法を思いついて上司に宣言し、行動に移すことができれば、1on1は部下にとって貴重な成長機会になるといいます。
当初はごく一部の社員の間でのみ実施されていた1on1ですが、その後徐々に社内で浸透していき、やがてヤフー全社の文化として根付きました。1on1を導入したことで、社内でのコミュニケーションが円滑になり、業務効率や生産性の向上などの効果が得られたとされています。
サントリーの「サントリー大学」
大手飲料メーカーのサントリーホールディングス株式会社では、2015年4月に企業内大学「サントリー大学」を開校しました。「大学」といっても実際に校舎があるわけではなく、グループ内で実施されている人材育成プログラムの総称を指します。
サントリーの企業理念の1つに「Growing for Good」というものがあります。これは「人として、企業として、社会のために成長し続けること。成長し続けることで、社会を良くする力を大きくしていくこと」を表す言葉です。このように、サントリーでは社員の「成長」を重視しており、理念の浸透と成長機会の提供を目的として、サントリー大学は開校されたといいます。
サントリー大学には、以下3つの学部が設けられています。
- グローバル学部:グローバル人材の育成を目的に、英語学習のプログラムやグローバルキャリアに関するコンテンツを提供している
- デジタル学部:「デジタルマーケティング人材」「IT人材」「データ人材」の育成を目的に、ITやデータ活用に関するプログラムを提供している
- 100年キャリア学部:「人生100年時代」に対応できるマインドセット・スキルセットを身につけることを目的に、とくに40代以上の社員向けのプログラムが充実している
とくにグローバル学部には「海外トレーニー制度」があり、グローバル人材の候補となる若手社員を、サントリーグループの各海外拠点へ派遣しています。近年では、この制度によって年間約20名が派遣されており、海外トレーニー経験者の約75%が国内のグローバル事業へ従事しているそうです。中にはトレーニー期間が終了した後に、そのまま海外駐在に移行する社員もいるといいます。
サイボウズの「ハイブリッドワーク」
ソフトウェアの開発・販売を手がけるサイボウズ株式会社では、社員一人ひとりにとって働きやすい会社を実現するため、「ハイブリッドワーク」を採用しています。ハイブリッドワークとは、従業員が「オフィス勤務とテレワークを自由に選択できる」働き方です。
元々サイボウズは、毎日オフィスに出勤するのはもちろん、残業や休日出勤も当たり前にある、いわゆる「昭和の働き方」が横行している会社でした。その結果、2005年には離職率が28%に達し、人材確保が大きな経営課題となっていました。この状況を打開するべく、同社では「従業員の働きやすさ」を向上させるためのさまざまな施策を実行し、2010年には一部の社員を対象にテレワークを試験的に導入し始めたといいます。
2011年には東日本大震災が発生し、多くの社員がテレワークを余儀なくされました。このときに、大部分の業務がテレワークでできることが判明し、テレワークの本格運用が社内で定着することになったそうです。そして2018年には、各メンバーが働き方を自ら自由に宣言できる「新・働き方宣言制度」がスタートしたのです。
▼(例)働き方の宣言
- 毎日10~19時にオフィスで働く
- 午前中はテレワーク、午後はオフィスに出社する
- 水曜日はテレワーク、残り4日は時短でオフィスに出社する
上記のような施策の結果、最大28%まで達していた離職率が、近年では3~5%にまで低下したといいます。
参考:
ダイヤモンド社「ヤフーの1on1―部下を成長させるコミュニケーションの技法」
マピオンニュース「社員全員が「サントリー大学」の学生として学ぶ、サントリーが考える人材開発」
THE HYBRID WORK「離職率28%、採用難、売上低迷。ボロボロから挑んだサイボウズのハイブリッドワーク10年史」
まとめ
若手社員の効果的な指導方法や、指導する際のコツや注意点などについて解説しました。
「うまく育たない」「指導する時間がない」「すぐに辞めてしまう」など、若手社員の育成で悩みを抱える企業は多いといわれています。若手社員の適切な指導方法を知ることで、これらの問題も解決する可能性が高いです。
本記事で紹介したポイントをふまえ、若手社員の指導を成功させ、優秀な人材の定着を目指しましょう。