管理職への昇進は、キャリアアップや高い報酬が期待できる一方、最近では多くの人が管理職になることに対して消極的な姿勢を示しています。責任や負担が増えることへの不安が、その主な理由です。
しかし、一方で管理職のキャリアには数多くのメリットもあります。この記事では、管理職になりたくない理由と、管理職になることで得られるメリットについて詳しく解説します。
管理職になりたくないと答える人は7割以上
2023年に株式会社日本能率協会マネジメントセンターが行った調査によると、77%の人が「管理職になりたくない」と答えています。最も多い理由は「自分は管理職に向いていない」と感じているからです。プレッシャーや責任の大きさが、自分に合わないと考える人が多いようです。
一方で、管理職になりたい人の主な理由は「報酬アップが期待できるから」という経済的な動機が挙げられています。やりがいや責任よりも、報酬面を重視する傾向がうかがえます。
ちなみに、同調査によると、現在管理職を務めている人の半数以上が「今の仕事にやりがいを感じ、管理職を続けたい」と考えています。実際のところは、報酬面だけでなく、仕事自体の楽しさや達成感を感じている人も多いようです。
参考:
【調査レポート】ポジティブな管理職を育てるために人事が押さえたいポイントとは?
「管理職になりたくない」と感じるその背景とは
管理職に対する不安や抵抗感を抱く人が増えている背景には、昇進後に直面する人間関係のストレスや過労など、現実的な問題が多く存在します。以下では、その具体的な要因について見ていきます。
仕事の負担の増大
管理職に昇進すると、仕事の負担が大幅に増えることが大きな問題となっています。パーソルグループの調査では、管理職になったことで残業が増え、価値を生み出す重要な業務に時間を割けなくなっていることが指摘されています。その結果、目先の緊急度の高い業務に追われ、仕事に対する意欲が低下するケースが多く見られます。
さらに、管理職は心身の健康状態も悪化しやすく、調査によると51.1%が高いストレスを感じ、54.7%が疲労を蓄積していると報告されています。
管理職の約23.3%が肥満状態であることも健康への負担を示す一因です。また、これらの健康問題が意欲の低下や高い転職意向にもつながってるとされています。
ストレスと燃え尽き症候群
マサチューセッツ工科大学の記事によると、特に中間管理職に多いのが、長期的なストレスと燃え尽き症候群の問題です。多くの中間管理職は、日々のプレッシャーや終わりの見えない業務の中で、次第に心身ともに疲弊していきます。こうした過酷な職務環境は、やがて「燃え尽き症候群」と呼ばれる状態を引き起こし、働く意欲を著しく損ないます。
参考:
パーソル総合研究所 「中間管理職の就業負担に関する定量調査」
マサチューセッツ工科大学“Middle Managers Are Exhausted. Top Teams Need to Listen.”
管理職になるキャリアにおけるメリットとは?
管理職には責任が伴いますが、キャリア面で多くのメリットもあります。ここでは、エン・ジャパンが行った調査結果をもとに、管理職になる魅力をいくつか紹介します。
給与が上がるケースが多い
管理職になると、給与面で大きな向上が期待できます。例えば、一般社員と比べて基本給が大幅に上がるだけでなく、ボーナスも高く設定されることが一般的です。また、住宅手当や福利厚生の充実など、金銭的なメリットがさらに広がるケースもあります。
「令和4年度賃金構造基本統計調査」によると、管理職の給料は部長級で586.2万円、課長級で486.9万円、係長級で369.0万円とされています。さらに、「令和4年分民間給与実態統計調査」によれば、給与所得者全体の平均年収は458万円であるため、課長級以上に昇進すれば平均年収を上回る収入を得られる可能性も高まります。
家族を養う必要があったり、マイホーム購入などの将来設計を考えたりしている人にとって、昇進による収入の増加は非常に大きな魅力といえるでしょう。特に、家計への貢献が期待されるシーンや、ライフスタイルの向上を望む際に役職者としての収入増は大きな支えとなります。
参考:
成長を実現することができる
管理職は、リーダーシップや意思決定能力を伸ばす絶好のチャンスです。例えば、新しいプロジェクトをチームで立ち上げる際、全体の進行を見守りながら部下を指導したり、各部門と協力して問題を解決する役割を担います。
こうした経験を通して、責任を持って物事を進める力や、組織全体を見渡す視野が身につきます。日常業務での意思決定の場面でも、判断力や交渉力が磨かれ、個人としての成長を実感しやすくなります。
仕事の幅を広げ、多くの経験を積むことができる
管理職になると、日常業務の範囲が広がり、さまざまな分野での経験を積む機会が増えます。例えば、新しいプロジェクトの立ち上げや、他部署との連携、重要な取引先との交渉など、これまで関わることが少なかった業務にも携わるようになります。
このような経験を通して、プロジェクトの全体像を把握する力や、戦略的に考えるスキルを身につけることができます。管理職として得た幅広い経験は、将来的にさらなるキャリアアップや新しい挑戦の土台となり、キャリアの選択肢が広がる大きなメリットだといえるでしょう。
参考:
エン・ジャパン株式会社『「ビジネスパーソン4700人に聞いた 「管理職への意向」調査』
管理職になる前に覚えておきたい仕事のストレスの対処法
管理職になると、責任やプレッシャーが増え、ストレスを感じる場面も多くなるため、ストレスをうまく管理するための具体的な対処法を覚えておくことが重要です。
以下では、ヴァンダービルト大学の記事をもとに、日々のストレスと上手に向き合う方法を紹介します。
ストレスを感じる瞬間を意識する
まず、自分がどんな状況でストレスを感じているのかを意識することが大切です。例えば、特定の会議や上司とのやり取り、仕事の期限など、何が自分にとって不安やイライラの原因なのかを冷静に分析してみましょう。自分のストレスの原因を把握することで、対処法を考える第一歩になります。
ネガティブ思考のリフレーミング
「リフレーミング」とは、物事を違った視点で捉え直す方法です。例えば、失敗したときに「自分はダメだ」とネガティブに考えるのではなく、「次はどうすれば成功するかを学べた」と捉え直すことで、感情が楽になり、より前向きな行動につながります。ネガティブな感情に振り回されず、冷静に対応できる力を養うことができます。
出勤前に落ち着くルーティンを作る
朝の準備が慌ただしいと、1日のスタートからストレスを感じやすくなります。出勤前に、リラックスできるルーティンを作ることで、心を落ち着けた状態で仕事に臨むことができます。例えば、5分間の深呼吸や軽いストレッチなど、自分に合った方法で心を整える時間を取りましょう。
1日の運動量を増やす
日中に適度な運動を取り入れることは、ストレス解消や気分転換に効果的です。例えば、仕事の合間に軽い散歩をしたり、通勤時に階段を使ったりすることで、日々の運動量を増やすことができます。運動はストレス管理に役立つだけでなく、夜の睡眠の質を向上させる効果もあります。
良質な睡眠習慣の構築
十分な睡眠を取ることで、仕事中の集中力や判断力が向上し、ストレスにも強くなります。寝る前にスマホを見ない、規則的な睡眠時間を守るなど、良質な睡眠を確保するための習慣を身につけることが重要です。睡眠不足が続くと、ストレスに対する耐性も低下してしまうため、睡眠を優先しましょう。
退勤後の仕事からの切り離し
仕事が終わったら、意識的に「仕事モード」を切り離すことも大切です。退勤後にリラックスできる時間を設けることで、心身のリフレッシュができます。趣味に時間を使ったり、家族や友人と過ごすことで、仕事のストレスから解放される時間を確保しましょう。
参考:
Vanderbilt University“10 stress management tips to stay focused at work”
まとめ
管理職への昇進には責任や課題が伴いますが、それ以上にキャリアアップや成長、報酬の向上といった多くのメリットがあります。自分にとって大切な価値観を見直し、どのような未来を描きたいのかを考えることで、管理職という道が新たな可能性を広げるきっかけとなるでしょう。
また、ストレス管理や自己成長に取り組むことで、管理職としての役割も充実感を持って楽しめるはずです。自分の成長を楽しみながら、キャリアの新たなステージにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。