新卒の教育について、以下のような悩みを抱えている方もいるでしょう。
- 新卒を教育しても早期離職がなくならない
- そもそも新卒の教育する理由について理解できていない
- 新卒の教育を成功させる方法が知りたい
本記事では、新卒を教育する目的やメリット・デメリットについて国際ビジネス・マネジメントジャーナルが公開する論文を参考に解説します。さらに、新卒の教育を成功に導く3つの戦略についても詳しく解説します。
新卒を教育する目的とは
新卒の教育は、企業の競争力の強化や定着率の向上が目的です。厚生労働省の「人材育成の現状と課題」によると、「人材の能力・資質を高める育成体系」は企業が競争力を高める上で52.9%の重要事項とされています。
人材育成は「顧客ニーズへの対応」や「従業員の意欲を引き出す人事・処遇制度」等を上回る結果となっており、企業の経営において重要な課題となっていることが分かります。
同調査では、若年層の「離職で人材育成投資が回収できない」が中堅層以上よりも多くの企業で課題とされています。
2022年10月に発表された厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、若年層の早期離職は3割を超えています。
企業は、新卒社員が意欲的に成長できる環境作りや教育プログラムの見直しを実施し、一日も早く新卒社員を一人前に育成することが求められています。
新卒を教育するメリットと課題
新卒を教育するメリットとデメリットについて、国際ビジネス・マネジメントジャーナルが公開するアディスアベバ大学ビジネス経済学部の准学部長であるソロモン・マルコス氏らによる論文を参考に解説します。
新卒教育のメリット
まずは、新卒を教育するメリットについて解説します。
スキルの向上
新卒社員への教育は、業務に必要な業務遂行スキルやビジネススキル、社会人スキルなど、実践的なスキルを身に付けることができます。
新卒社員が自分の仕事についてより多くのことを知り、仕事に生かせるスキルが向上すると自然と自信が高まり、自己効力感とコミットメントを高めることにつながります。
一方、技術の進化に伴い、従業員にはより高度な技術と専門スキルが求められるようになっています。新卒社員の教育において、スキルの向上に焦点を当てることは、変化し続けるビジネス環境への適応や高いエンゲージメントにつなげられるでしょう。
モチベーションの向上
教育は、新卒社員の成長意欲を促し、会社への帰属意識を高めることで、モチベーション向上につながります。新卒社員のモチベーションを高める要因として、主に以下があげられます。
- スキルアップやキャリアアップのサポート
- 明確な目標や会社からの期待の共有
- 業務プロセスの評価
現代の若者は、ワークライフバランスを重視しつつもスキルアップやキャリアアップへの意欲が高い傾向があります。そのため、会社からのスキルアップやキャリアアップのサポートは新卒社員にとってモチベーション向上に大きく影響すると考えられます。
また、上司から新卒社員へ明確な目標や会社からの期待について伝えたり、業務プロセスを正しく評価することは、目標を達成するためのモチベーション向上につながります。
生産性の向上
教育により、新卒社員の従業員エンゲージメントが高まり、結果的に生産性の向上が期待できます。
従業員エンゲージメントが高い従業員は、組織への貢献意欲が高く、自発的に業務に取り組むため、生産性向上につながるとされています。
従業員エンゲージメントを高める具体的な方法として、新卒社員の意見を尊重することや、意思決定の会議への参加があげられます。さらに、業績に応じた報酬や表彰で従業員の貢献を認めたりすることも効果的でしょう。
また、エンゲージメントの高い従業員は離職率が低いため、教育投資を長期的に回収できるメリットもあります。
新卒教育の課題
続いては、新卒を教育するデメリットについて解説します。
教育コストがかかる
新卒社員を一人前に育てるには高い教育コストが必要です。新卒は職務経験がないため、業務に必要な知識やスキルを基礎から教えなければいけません。教育コストは、研修の開発・実施、OJTによる指導、研修担当者の人件費などといった直接的なコストだけではありません。
新卒が一人前に仕事ができるようになるまで、以下のような間接的な費用も含まれます。
- 業務の習熟不足による作業の遅延
- ミスや手戻りの発生
- 指導やサポートに必要なベテラン社員の時間の拘束
- 新卒の離職による採用・教育コストの再発生
高度な専門知識やスキルを要する職種の場合、教育期間は長期に渡り、そのコストはさらに増加します。また、教育内容が時代に合わなくなったり、社員の成長速度と合致しない場合、追加の研修や教材が必要となり、当初の見込みよりもコストが膨らむ可能性もあります。
従業員エンゲージメントの低下
新卒社員は入社当初に高い従業員エンゲージメントを示しますが、教育段階で低下する可能性があります。
教育内容が一方的で、新卒社員が自分のスキルを試す場がないなど実践的ではない場合、学習意欲の低下や不信感を招き、従業員エンゲージメントを損なう原因となります。
また、教育期間が長引いたり、研修内容が実践と乖離していると、新卒社員は「会社で成長できない」「自分の仕事に意味を見出せない」と感じ、従業員エンゲージメントが低下しかねません。
さらに、フィードバックや評価が不足すると、新卒は自分の進捗状況や会社への貢献度が分からず、モチベーションを維持することが難しくなり、従業員エンゲージメントの低下に拍車がかかる恐れがあります。
参考:
新卒社員が抱えやすい悩み
新卒社員が抱えやすい悩みについて、ギャラップ社が公開する記事を参考に解説します。働きやすい環境は、新卒社員のモチベーションを高め、定着率向上にも貢献します。新卒社員の教育を行う際に、新卒社員が抱えやすい以下の悩みについてフォローしてあげると良いでしょう。
- 人間関係の構築
- 新しい技術や働き方へのプレッシャー
- 過度な労働
- ワークライフバランス
- キャリアアップ
新卒社員は、社内の人間関係の構築が難しいと感じたり、新しい技術や働き方に対応できるだろうかといった悩みを抱えやすいです。また、現代の若者はワークライフバランスを重視し、過度な労働や休日出勤を嫌がる傾向があります。
企業は、新卒社員が職場で孤立しないように、上司との1on1の実施や他部署との交流の機会をつくるなど人間関係を構築する場を提供しましょう。また、ワークライフバランスを実現できるように、労働時間や職場環境の見直し、福利厚生を整えるといったことが必要となります。
若手社員が抱えやすい悩みに対応できる職場環境を整えることで、若手社員のモチベーション向上により早期離職防止につながります。
若手社員が抱える悩みについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
参考:
新卒の教育を成功に導く3つの戦略
新卒の教育を成功に導く3つの戦略について、ハーバードビジネスレビューに掲載されているドミニカン大学ブレナン経営大学院の経営学教授であるアンジャリ・チョードリー氏らによる記事を参考に解説します。
個別目標と柔軟な働き方を取り入れる
新卒社員と上司が話し合い働き方を調整することで、生産性が向上します。ワークライフバランスを重視する新卒社員には、従来の画一的な働き方は魅力的とはいえません。
新卒社員、一人ひとりのニーズや状況を理解し、可能な範囲で新卒の個性を生かすような機会を提供すると良いでしょう。
たとえば、スキルアップを目指す新卒社員には、以下のようなスキルアップ研修を実施することで、モチベーションを高めることができます。
- コミュニケーション研修
- ITリテラシー研修
- プレゼンテーション研修
- ロジカルシンキング研修
新卒社員一人ひとりのニーズに応じた目標設定や柔軟な働き方の調整は、新卒社員の満足度と組織の成果向上につながります。
透明性のあるコミュニケーションを心掛ける
会社の意思決定について透明性のある説明を行い、新卒社員との信頼関係を構築することで、会社への帰属意欲を高められます。会社の意思決定について不明瞭な状況は、部下が会社に対して、不安や不信感を抱いてしまいます。
会社は、社員へ「なぜその決定に至ったのか」といった背景や理由を明確に伝えることで、理解と共感を得ることが大切です。
コスト削減策を実施する際には、その必要性や目的、部下への影響を丁寧に説明することで、ネガティブな感情を軽減できます。さらに、成功事例や今後の展望を共有することで、組織の未来への希望を共有し、会社全体の一体感を生み出すことができます。
スキルアップのサポートを行う
新卒社員のスキルアップを支援することで、会社全体のスキルレベルを高めることができます。新しい働き方やビジネスモデルへの適応には、社員のスキルアップが不可欠です。
研修やOJT、メンター制度などを活用し、必要なスキルを習得できる環境を整備することが重要です。デジタル化が進む職場では、新卒社員にデジタルスキル研修を提供することで、新しいツールやシステムへの適応を支援できるでしょう。
また、異業種交流会への参加を促すことで、新たな知識や人脈を獲得する機会を提供できます。新卒社員の教育への投資は、組織の成長と持続可能性を高めるための重要な役割といえます。
参考:
まとめ
新卒の教育は、会社の競争力の強化や定着率の向上が目的とされています。しかし、新卒の教育にはメリットとデメリットがあるため、それぞれについて理解しておかなければいけません。
新卒社員の教育を成功に導くためには、ワークライフバランスの実現や個別の目標設定、スキルアップのサポートなどが重要になります。
新卒の教育を強化し、会社の競争力を高め、長期的に活躍できる人材を育成しましょう。