「人事評価の上司コメントは何を書けばいいの?」

「人事評価では正直なコメントを書いてもいいの?」

このような疑問を抱える管理職も多いでしょう。人事評価における上司のコメントは、部下に対して具体的なフィードバックを提供できる貴重な機会です。上司コメントによって、部下が自身の強みや改善点を認識できれば、その後のキャリアに大いに役立つでしょう。

本記事では、人事評価の上司コメントの効果的な書き方について、例文も交えて詳しく解説します。上司コメントを有効活用して部下の成長につなげたい方は、ぜひ参考にしてください。

人事評価とは

人事評価とは、従業員の成績や貢献度などを評価し、それに基づいて昇進や昇給、配置転換などに関する決定を行うプロセスです。パーソル総合研究所の調査によると、多くの会社では人事評価が6ヶ月~1年ごとに実施していることがわかっています。

人事評価のやり方は会社によって異なりますが、評価の項目や基準を整理した「人事評価シート」を利用しているところが多いでしょう。厚生労働省では、人事評価シートに以下の項目を設けることを推奨しています。

  • 能力ユニット:特定の役割を果たすために必要な職業能力のセット
  • 能力細目:能力ユニットをさらに細かく分割した、具体的なスキルや知識の要素
  • 職務遂行のための基準:能力細目を確実に遂行できるか否かの判断基準となる典型的な行動例や、技能・技術を列挙したもの
  • 自己評価:被評価者自身による評価
  • 上司評価:被評価者の上長による評価
  • 上司コメント:被評価者に対する上長からのコメント

▼(例)人事職の新入社員の評価シート

上記のうち、本記事では「上司コメント」の書き方について、例文も交えながら詳しく解説します。

参考:

厚生労働省「職業能力評価基準導入マニュアル」

人事評価の目的・メリット

会社が従業員に対して人事評価を実施する目的やメリットについて解説します。

部下の強みや課題を把握できる

人事評価では事前に設けた基準に従い、従業員の成果やスキルを評価するため、部下の強みや課題を把握しやすいという利点があります。

例として、とある営業職の部下に「新規顧客の開拓が得意」という強みと、「顧客関係の長期維持が苦手」という弱みがあることがわかったと仮定します。この場合は、契約後の顧客フォローアップ力を強化することが、クレームや契約解除のリスクを減らすことにつながり、チームの業績アップにも効果的だと考えられます。

このように、人事評価によって部下の強み・弱みを明確にし、長所をさらに伸ばす、あるいは短所をピンポイントで克服することで、部下をより効果的に育成できるでしょう。

部下とのコミュニケーションを強化できる

人事評価は、評価内容や今後の方向性について、上司と部下が話し合いながらすり合わせていくのが一般的です。そのため、部下とのコミュニケーションを強化しやすい点も大きなメリットです。

ノースイースタン大学によると、コミュニケーションが円滑に行われている職場では、従業員の生産性やモチベーションが向上しやすいとされています。一方で、米国の企業では従業員間のコミュニケーション不足により、年間1.2兆ドルの損失を被っているという調査データもあるといいます。

言うまでもなく、部下とのコミュニケーションは日頃からこまめに取ることが重要です。人事評価の場で適切なコミュニケーションを取ることができれば、部下との信頼関係が強化され、日常的なコミュニケーションも改善されるでしょう。

部下を公平・公正に評価できる

人事評価は、事前に設けた評価基準に従い、部下を公平・公正に評価しやすい点もメリットの1つです。

リバティー大学の研究結果によると、従業員は評価プロセスが公平かつ正確だと感じることができれば、より高いパフォーマンスを発揮しようと意欲的になることがわかっています。逆に、自身の評価に納得できない従業員は、モチベーションが低下する恐れがあるといいます。

したがって、人事評価の評価基準は、部下にとってわかりやすく明確であることが重要です。例として、部下のPCスキルに関する以下2つの評価基準を比較します。この場合、後者の方が基準の合格ラインが明確であり、部下も自身の評価に納得しやすいでしょう。

  • ワードやエクセルなど基本となるツールを的確に使いこなしている
  • ワード・エクセルの理解度テストで90点以上を獲得している

将来の管理職候補を選定できる

先ほども述べたように、人事評価では従業員を公平・公正に評価することができます。そのため、人事評価を通じて優秀な社員を見極め、将来の管理職候補が選定しやすい点も大きな利点です。

企業が持続的に成長し続けるためには、管理職の能力が非常に重要なのは言うまでもありません。しかし、実際には多くの企業が管理職の能力不足に悩んでいるといわれています。HR総合調査研究所が実施した調査によると、人材育成上の課題について、74%の企業が「管理職の能力向上」と回答しています。

人事評価によって将来の管理職候補の目星を付け、対象者に早期から適切な指導・教育を行うことで、優れたリーダーを育成できる可能性が高まると考えられます。

参考:

Northeastern University “12 Communication Skills That Will Advance Your Career”

LU DBA Qualitative Dissertation “Effect of Supervisor Bias on Performance Motivation During Incentive-Based Performance Reviews”

HRプロ「「人事支援サービス【人材育成】に関するアンケート調査」結果報告」

人事評価の上司コメントの効果的な書き方

人事評価の上司コメントについて、効果的な書き方や注意点などを解説します。

評価理由を具体的に述べる

人事評価の上司コメントでは、部下に対する評価理由を具体的に述べることが重要です。

人材サービス業を営むアデコグループが実施した『「人事評価制度」に関する意識調査』によると、全体の62.3%が勤め先の人事評価制度に不満を抱えていると回答しています。以下は、不満を感じる主な理由をまとめたものです。

回答割合
評価基準が不明確62.8%
評価者の価値観や業務経験によって評価にばらつきが出て、不公平だと感じる45.2%
評価結果のフィードバック、説明が不十分、もしくはそれらの仕組みがない28.1%

上記の結果を見ると、上司の評価理由に納得がいかず、不満を抱えている従業員が多いことがわかります。部下に納得してもらうためには、具体的な成果やエピソードを挙げつつ、評価が妥当であることを示す必要があるでしょう。

▼(例)具体的な評価理由

個人目標を120%達成。顧客のニーズを分析し、最適なソリューションを提案する能力は評価に値する。先日実施したA社との提携案件でも、顧客の課題を徹底的に分析し、それに基づいたカスタマイズ提案で契約を獲得した。

改善すべき点は臆さず記載する

部下に対して改善してほしい点は、上司コメントで臆さずに記載することも重要です。仕事をする上で改善すべき点を上司と部下が共有し、一緒に克服していくことが、部下の成長につながるからです。

フロリダ・アトランティック大学によると、従業員に対してよい評価を与えることは悪い評価を与えるよりも、はるかに楽で簡単な仕事だとしています。そして、多くの上司は部下に問題点を伝えるという「不快な仕事」を避け、当たり障りのない評価をする「楽な仕事」を選択するといいます。

部下に対して否定的な評価をすると、ときには部下から反感を買う場合もあるでしょう。それでも、部下の能力向上のため、上司は不快な仕事から逃げるべきではないといえます。

ただし、部下に対するネガティブな評価は、余計な反感を極力抑えるため、伝え方を工夫することも大切です。オープン大学によると、従業員にネガティブなフィードバックを伝える際は、以下のポイントを押さえることが効果的だとされています。

  • 行動に焦点を当てる(人格を否定しない)
  • ポジティブな点も伝える
  • 現実的に改善できる点のみに言及する

▼(例)改善すべき点を記載した上司コメント

個人目標を90%達成。新規顧客に対する初回アプローチに若干の躊躇が見受けられる。フォローアップ力は顧客からも高く評価されているため、もう少し積極的に新規顧客へのアプローチを行うことで、営業成績が向上する可能性あり。

プロセスにも言及する

部下に対する人事評価では、結果だけでなくプロセスにも言及しましょう。

以下は、パーソル総合研究所が実施した「人事評価制度と目標管理の実態調査」の結果の一部をまとめたものです。この結果を見ると、業務を行う上でのプロセスや努力を評価してもらえず、不満を抱えている従業員が多いことがわかります。

▼Q. 目標管理制度への主な不満

不満回答割合
自分の仕事ぶりが目標管理ではうまく反映されない45.8%
自分の努力が十分に評価に反映されていない42.0%
売上や数値目標ばかりでプロセスが十分に反映されない40.1%

会社が利益を求める存在である以上、仕事は過程よりも結果が重要なのは言うまでもありません。しかし、すべての従業員を結果だけで平等に評価するのが難しいケースもあります。

たとえばルート営業の場合、それぞれの部下が担当する取引先企業によって、仕事の難易度は大きく異なるでしょう。このような状況でプロセスをまったく評価しないのは、従業員に不公平感を生じさせ、モチベーションが低下する原因になるかもしれません。

参考:

Adecco Group「「人事評価制度」に関する意識調査」

Florida Atlantic University “PERFORMANCE APPRAISALS and the PERFORMANCE MANAGEMENT PHILOSOPHY”

The Open University “Giving and receiving feedback”

パーソル総合研究所「人事評価制度と目標管理の実態調査」

【職種別】人事評価の上司コメントの例文

ここまで解説した内容を踏まえ、人事評価の上司コメントの例文を職種別に紹介します。

営業職のコメント例文

営業職は「売上金額」や「獲得契約数」など、従業員の成果を数字で表しやすい点が特徴的です。そのため、部下の具体的な成績を考慮した評価コメントを記載するとよいでしょう。

また、先輩社員の商談同行やロープレ練習会への参加など、プロセス面で評価すべき点がある場合はその点にも言及しましょう。

▼【例文】営業職の上司コメント

売上金額は目標+20%、新規獲得契約数もチームトップと、今期は素晴らしい成果を上げたといえる。また、先輩社員の商談同行やロープレ練習会への参加など、営業スキルを積極的に学び、実践しようとする姿勢も評価に値する。今後はフォローアップのスピード感や質を改善することで、さらなる成績向上が期待できる。

販売職のコメント例文

販売職も「成約数」や「売上金額」など、従業員の成績が明確に評価しやすいといえます。そのため、部下の具体的な成果をふまえた評価コメントを作成しましょう。

また、コミュニケーション力や商品知識など、販売職として必要不可欠な能力・スキルを身に着ける努力をしている場合は、その点も評価するとよいでしょう。

▼【例文】販売職の上司コメント

売上目標は90%、成約目標は85%と、惜しくも目標達成には至らず。しかし、前年同期比で売上は+30%、成約数は+20%と、スキルは着実に向上していることが見て取れる。とくに、深い商品知識を活かした提案力は高く評価できる。また、ロープレへの積極的な参加など、スキルアップに真摯に取り組む姿勢も見受けられる。今後は表情や声のトーンなど、非言語コミュニケーションの能力を磨き、売上および成約目標の達成を期待したい。

事務職のコメント例文

事務職はデータ入力や書類作成、電話応対など、企業のバックオフィス業務を担当する職種です。

事務職は営業職や販売職と異なり、売上額や成約数などの指標がないため、明確な評価がしにくいと感じるかもしれません。しかし、実際は「正確性」や「スピード・効率」など、定量的に評価できる要素もあります。

また、「コミュニケーション力」や「協調性」など、定性的な要素についてもコメントに含めるとよいでしょう。

▼【例文】事務職の上司コメント

データ入力や書類作成における正確性は非常に高く、ミスの少なさが際立っていた。また、タスクの処理スピードも向上しており、平均処理時間が前期比で10%短縮された。電話応対や社内外でのコミュニケーションにおいても、迅速かつ丁寧な姿勢が評価できる。一方で、業務の優先順位付けに関しては、改善の余地がある。とくに、複数のタスクを同時に管理する際に、一部の業務が遅延する傾向が見られた。タスクの管理方法を見直し、優先順位を明確にすることで、さらにスムーズな業務遂行が期待できる。

人事職のコメント例文

ここでいう人事職には、採用活動や人材育成、労務管理などの業務が含まれます。

人事職もバックオフィス業務を担当する職種のため、明確な評価がしにくいと思われがちです。しかし、採用活動担当であれば「採用人数」や「費用対効果」、人材育成担当の場合は「パフォーマンス向上度」や「定着率」など、定量的に評価できる点も多数存在します。

また、「コミュニケーション力」や「問題解決力」など、定性的な要素も評価コメントに含めるとなおよいでしょう。

▼【例文】人事職の上司コメント

募集から内定までのプロセスを効率化し、平均採用期間を20日に短縮したことで、費用対効果を昨年比で20%向上させた点は高く評価できる。一方で、内定辞退率は昨年とほぼ変わりないため、採用後のフォローアップに関してはまだ改善の余地があると思われる。引き続き採用プロセスの効率化を目指しつつ、内定辞退を防ぐ施策を提案・実施してほしい。

製造職のコメント例文

製造職は「生産効率」や「不良率」など、従業員の仕事ぶりを定量的に評価しやすい職種です。したがって、評価コメントに具体的な数字を含めることで、評価理由に説得力を持たせられるでしょう。

また、「安全意識」や「課題解決力」などの定性的な要素も、コメントに残しておくとなおよいかもしれません。

▼【例文】製造職の上司コメント

生産ラインの最適化により、昨年度比で生産効率を10%改善し、稼働率を85%から93%に引き上げた点は大いに評価できる。また、課題解決力にも優れており、機械トラブルの際は迅速に原因を特定し、1日で正常稼働に戻した対応が印象的だった。
今後は不良率を改善し、さらなる生産性の向上を目指したい。

研究職のコメント例文

研究職は「特許の取得数」や「論文の被引用数」など、定量的な評価が比較的しやすい職種です。ただし、研究の分野・テーマによって難易度や成果の出やすさに大きな差があるため、定量的な評価指標だけでは公平・公正な評価は難しいでしょう。

したがって、「スケジュール管理能力」や「プレゼンテーションスキル」など、研究者として必須の定性的な要素も評価することが重要です。

▼【例文】研究職の上司コメント

新たな食品保存技術に関する特許を出願できた点は評価に値する。また、プレゼンテーション力にも優れており、社内発表では複雑な技術をわかりやすく説明し、参加者から高い評価を得ていた。今後は後輩社員の教育にも力を入れ、チーム全体の技術力向上に貢献してほしい。

企画職のコメント例文

ここでいう企画職とは、商品の企画・開発や広報・PR、営業企画などの業務が含まれます。

企画職には「費用対効果(ROI/投資収益率)」や「顧客満足度」など、定量的な評価指標がいくつか存在します。しかし、企画職の優劣を定量的な指標だけで判断するのは難しく、「独創性・革新性」や「データ分析力」、「コミュニケーション力」など、定性的な指標もチェックする必要があります。

したがって、評価コメントには定量的な要素と定性的な要素をバランスよく含めることが重要といえます。

▼【例文】企画職の上司コメント

戦略的なプランニングと優れたコミュニケーション力により、ブランド認知度の向上に大いに貢献した。とくに新製品「エナジードリンクX」のキャンペーンでは、インフルエンサーとの効果的なコラボレーションでオンライン上の消費者反響を大きく引き出し、SNSフォロワー数を35%増加させることに成功した。今後の課題としては、効果測定の精度向上が挙げられる。具体的なKPIを設定し、それをリアルタイムで追跡する仕組みを構築することで、PR活動のROIをさらに明確にし、戦略を最適化することが求められる。

まとめ

人事評価における上司コメントの効果的な書き方について、例文も交えて解説しました。

人事評価の上司コメントでは、具体的な評価理由を述べることで、部下の評価に対する納得感を高めることができます。また部下にとっても、上司コメントによって自身の強みや改善点を認識できれば、その後のキャリアの方向性が定めやすくなるでしょう。

本記事で紹介したポイントをふまえて、上司コメントを有効活用し、優秀な人材の育成・定着に役立ててください。