上司は限られた時間の中で新入社員をできるだけ早く、会社の戦力となる社員として育て上げなければいけません。しかし、実際は日々の業務と並行して教育を行ったり、研修で学んだマネジメントが発揮できなかったりと、新入社員の教育に疲れている管理職の方も多いです。
本記事では、新入社員の教育が疲れる理由について解説します。また、新入社員の教育がうまくいく7つの方法について、米国人材マネジメント協会(SHRM)の記事を参考に紹介します。
新入社員の教育がうまくいかないと悩んでいる管理職の方は、ぜひ参考にしてください。
新入社員の教育が疲れる理由
新入社員の教育が疲れる理由について、経営開発ジャーナル誌が公開するシェブデ大学の経営学教授であるトーマス・アンダーソン氏による論文を参考に解説します。上司は、新入社員の教育について、会社からの期待に応えなければならないプレッシャーや理想的なマネジメントができないストレスなどから疲れを感じている可能性があります。
上司は新入社員の教育において、以下のような会社や部下からの期待に応える必要があり、その過程で自身のあり方を常に考え続けることが求められるため、疲労感やストレスを感じています。
会社からの期待 即戦力化 : 新入社員を早期に組織の戦力として育て上げること組織文化への適応:組織の価値観や目標に適応できる人材を育成すること中長期的な人材育成 : 将来のリーダー候補や中核人材を育成していくこと教育コストの効率化 : 限られた時間と予算の中で効果的な教育を実施すること離職率の低下 : 職場環境の整備やメンタルヘルスへの配慮などを行うこと |
部下からの期待 明確な指示と指導:…業務内容や手順について具体的な指示が欲しいフィードバックと評価…定期的なフィードバックやアドバイスをして欲しいキャリアサポート…キャリア形成に関するサポートを期待している職場への適応…人間関係の構築や職場に馴染めるようにサポートして欲しい相談しやすい雰囲気づくり……気軽に相談できる雰囲気や関係性を築いて欲しい公平な評価と待遇……不当な評価や待遇を受けないことを期待している |
上記のような、会社や部下からの期待に応えなければいけないプレッシャーに加えて、研修と実際の新入社員の教育の現場でのギャップに疲れている場合も考えられます。
たとえば、新入社員の教育のため、管理職を対象としたマネジメント研修が行われることがあります。しかし、研修では「管理職としての理想像」が提示されるものの、実際の新入社員の教育は流動的で、研修で学んだことがそのまま適用できないというギャップが生じます。
上司が新入社員の教育で疲弊しないためには、管理職を対象としたマネジメント研修と現場の乖離を埋めるための組織的な取り組みが必要でしょう。
参考:
新入社員の教育による管理職の疲れを放置するリスク
管理職の疲れを放置するリスクについて、ウォルデン大学が公開する経営学博士のトミー・J・フォイ氏による論文を参考に解説します。
生産性の低下
新入社員の教育によって生じた管理職の疲れは、集中力やモチベーションを低下させるため、効率的な作業が難しくなる可能性があります。疲れが蓄積すると、タスクの完了に時間がかかり、納期に間に合わなくなる可能性が高まります。
また、質を維持するために必要な細部への注意がおろそかになり、仕事の質が低下することもあるでしょう。疲れは仕事への意欲や、質の高い仕事をしようとするモチベーションの低下につながり、結果的に生産性の低下を招く恐れがあります。
コストの増加
新入社員の教育により、管理職に疲れが溜まると、教育体制への不満や業務がスムーズに進まないことへの不安が募り、退職につながる可能性もあります。管理職が退職すると、新たな人材の確保のための採用コストや独り立ちができるまでの教育コストが増加します。
新入社員の教育において、管理職のストレス管理は会社のコスト削減の観点からも重要です。
利益の減少
新入社員の教育による疲れが原因で、管理職の生産性の低下や体調不良による欠勤が増え、企業の利益率が低下する恐れがあります。ストレスが高い職場では、以下のようなコスト増加要因が発生し、結果として利益が減少する可能性があります。
- 欠勤日数の増加…管理職が仕事を休むことが増え、人件費が無駄になる
- 生産性の低下…管理職の集中力やモチベーションが低下し、仕事の効率が落ちる
- 離職率の上昇…管理職の離職により、新規採用やトレーニングのコストが発生する
- 人件費の増加…欠勤や離職により、新たな人材を雇用する必要が生じる
さらに、疲れによる社員の士気低下や離職は、企業の競争力を低下させ、長期的な利益成長を妨げます。新入社員の教育体制や教育を担う管理職のストレス管理は、企業の利益確保のためにも重要といえます。
参考:
新人教育において上司が持つべき5つのマインドセット
新入社員の教育において、上司が持つべき5つのマインドセットについてハーバードビジネスレビューに掲載されているエクセター大学のリーダーシップ研究センターの所長であるジョナサン・ゴスリング氏による記事を参考に解説します。
自身を理解する
上司は自身の強みと弱みを理解し、自分の指導スタイルが新入社員にどのような影響を与えるかを理解する必要があります。新入社員は上司の言動や行動を参考に成長するため、上司の行動は新入社員の成長に大きく影響します。
上司が自身を理解することで、新入社員にとって適切な指導やフィードバック、適切な距離感でのコミュニケーションが可能になります。たとえば、自身が「短気」であると自覚している上司は、感情的な反応を避け、冷静に新入社員を指導することを心がける必要があります。
また、自身の「経験不足」を認識している上司は、他の上司や先輩社員に協力を求め、新入社員にとってより良い学習環境を提供するよう努める必要があるでしょう。
上司自身が自己理解を深めることで、新入社員に的確な指導やサポートができ、彼らの成長を促進することができます。
分析する癖をつける
上司は、新入社員の教育において、数字による分析だけでなく、物事の本質を見抜く「深い分析」を行うことが大切です。具体的には以下の3つのポイントが挙げられます。
- 他者の分析がどのようなデータや前提に基づいているのかを分析する
- 従来の分析には含まれない定性的な情報も掘り起こして活用する
- 自分自身の思考の偏りや先入観を認識し、客観的な視点を持つ
上司が客観的に分析することで、新入社員の成長を促進する的確なアドバイスや指導ができるようになります。たとえば、新入社員の報告書に誤字脱字が多い場合、単に注意するだけでなく、その原因として集中力の欠如、知識不足などについて分析し、改善策を一緒に考えることが重要です。
日頃から分析する癖を身に着けておくことで、表面的な分析に留まらず、物事の本質を見抜き、より良い意思決定を行うことができるとされています。
多様な価値観を理解する
現代社会では多様な価値観を持つ人材が共存しており、上司は新入社員の価値観を尊重し、理解する必要があります。価値観の押し付けは、新入社員のモチベーション低下や離職につながる可能性があります。
多様な価値観を理解し、受け入れることで、新入社員は安心して能力を発揮し、会社に貢献できるでしょう。上司は、新入社員の仕事に対する考え方やキャリアプランやワークライフバランスに対する考え方を理解しようと努めるべきです。
たとえば、新入社員がワークライフバランスを重視している場合、残業を強制するのではなく、効率的な仕事の進め方を指導するなど、できる範囲で個々の価値観に合わせた対応が求められます。
多様な価値観を理解し、個々の状況に合わせた指導をすることで、新入社員のモチベーション向上と組織への定着を促進できます。
協調性を身に着ける
上司は、新入社員が組織の一員としてスムーズに溶け込めるよう、協調性を身に着けておく必要があります。職場はチームで仕事をする場であり、協調性がないと円滑な業務遂行が難しくなります。
上司が率先して協調的な態度を示すことで、新入社員は職場での人間関係の築き方を学び、チームワークを向上させることができます。上司は、新入社員に他の社員を紹介したり、他部署との交流を促進するイベントを企画したりするなど、積極的に働きかけることが重要です。
また、新入社員が他の社員と意見が衝突した場合、上司が間に入り、双方の意見を尊重しながら解決策を導き出すことで、協調性の大切さを示すことができるでしょう。上司が協調性を身に着けることで、新入社員は職場での人間関係の構築について学びます。
新入社員が協調性について学ぶことで、チームワークが向上し、会社全体の生産性向上につながるでしょう。
行動力を高める
上司自身が率先して行動し、新入社員に行動の重要性と効果を示す必要があります。新入社員は上司の行動から学びを得るため、上司が行動力に欠けていれば、新入社員も行動を起こしにくくなります。
上司が率先して行動することで、新入社員は行動することの意義や効果を実感し、自ら行動を起こすようになります。たとえば、新しいプロジェクトに挑戦する際、上司が自ら率先して情報収集や関係者との調整を行い、進捗状況を共有することで、新入社員はプロジェクトの進め方や行動の重要性を学ぶことができます。
また、上司が困難な課題に直面した際に、諦めずに解決策を探し、粘り強く取り組む姿勢を見せることで、新入社員は困難を乗り越えるための行動力を身につけることができます。
上司自身が行動力を高めることで、新入社員の行動力向上を促し、組織全体の目標達成に貢献することができます。
参考:
新入社員の教育がうまくいく7つの方法
部下の教育がうまくいく7つの方法について、米国人材マネジメント協会(SHRM)に掲載された元人事責任者アルテ・ネイサン氏の記事を参考に解説します。
他社の成功事例を参考にする
他社の優れた教育方法を参考にすることで、自社の教育をより効果的なものにすることができます。他社の成功事例には、自社が直面する課題の解決策や、新たなアイデアのヒントが隠されています。
競合他社の取り組みだけでなく、異業種の成功事例も参考にすることで、視野を広げ、自社に最適な教育方法を構築できます。たとえば、競合他社が新入社員向けに実践的なOJTプログラムを導入し、高い成果を上げている場合、自社も同様のプログラムを導入することを検討できます。
また、異業種で効果的な研修方法としてeラーニングが活用されている場合、自社でもeラーニングの導入を検討し、研修の効率化や費用削減を図ることができます。他社の成功事例を参考にすることで、時間とコストを節約しながら、効果的な新入社員の教育を開発できます。
新入社員のニーズを理解する
教育は、新入社員のニーズと合致していなければ効果がありません。新入社員のニーズをアンケートや面談を通じて、的確に把握することが重要です。従業員のニーズを理解することで、彼らが本当に必要としている知識やスキルを習得できる教育を実施できます。
研修内容が従業員のニーズと合致していれば、学習意欲の向上に繋がり、研修の効果も高まります。たとえば、新入社員が営業部に配属される場合、営業に必要な基礎知識やスキルを習得するための研修が不可欠です。
新入社員のニーズに合致した研修を提供することで、研修の効果を最大化し、新入社員の成長を促進できます。
経営目標との整合性を図る
新入社員の教育は、経営目標達成に貢献するものでなければいけません。研修内容が経営目標と整合しているかを確認することが重要です。研修は、新入社員のスキルアップを通じて、組織全体の生産性向上や業績向上に貢献する役割を担っています。
研修内容が経営目標と整合していれば、研修の効果が組織全体の成果に直結しやすくなります。たとえば、企業が顧客満足度向上を経営目標に掲げている場合、新入社員向けに顧客対応スキル向上のための研修が効果的といえるでしょう。
研修を通じて新入社員の顧客対応スキルが向上すれば、顧客満足度の向上に繋がり、ひいては経営目標達成に貢献できます。経営目標との整合性を意識した教育方法を実施することで、組織全体の成果向上につなげることができます。
企業文化に組み込む
新入社員の教育を一時的なものとして捉えるのではなく、企業文化として定着させることで、継続的な人材育成を実現できます。新入社員の教育を企業文化に組み込むことで、新入社員は常に学習する姿勢を保ち、継続的にスキルアップを図ることができます。
また、研修を通じて企業の価値観を共有することで、組織の一体感を醸成できます。また、研修の成果を人事評価に反映させることで、新入社員の学習意欲を高めることができます。
研修を企業文化に組み込むことで、継続的な人材育成を促進し、組織全体の成長につなげることができます。
改善し続ける
ビジネス環境は常に変化しており、新入社員の教育も変化に合わせて改善していく必要があります。教育方法が時代に合わなくなると、新入社員は必要な知識やスキルを習得できず、教育の効果が低下します。
そのため、定期的に研修内容を見直し、改善することで、常に最適な研修を実施するようにしましょう。たとえば、ITスキルの研修を実施する場合、技術の進歩に合わせて研修内容をアップデートする必要があります。古い技術に関する研修は意味がなく、最新の技術に関する研修を提供することで、実践で役立つスキルを身に着けることができます。
新入社員の教育を継続的に改善することで、変化するビジネス環境に対応し、新入社員の成長をサポートできるでしょう。
効果の測定
新入社員の教育の効果を測定することで、教育方法の改善点や課題を明確化し、より効果的な教育が可能になります。教育の効果を測定することで、目的を達成しているか、費用対効果に見合っているかを客観的に評価できます。
教育後にアンケートを実施し、新入社員の満足度や学習成果を評価することで、研修内容の改善点を特定できるでしょう。また、研修で習得したスキルが実際の業務でどの程度活用されているかを追跡調査することで、研修の費用対効果を検証できます。
研修効果の測定と分析は、教育の質の向上に不可欠であり、会社の目標達成や成長に貢献するでしょう。
ビジネスとして運営する
新入社員の教育は、明確な目的を設定し、ビジネスとして運営する必要があります。新入社員の教育をビジネスとして運営することで、費用対効果を意識した運営が可能になり、教育の効果を最大化することができます。
明確な目的を設定し、その達成度合いを評価することで、研修の質を継続的に向上させることができます。新入社員の教育の目的を「新入社員の早期戦力化」と設定した場合、研修終了後に新入社員がどの程度の業務をこなせるようになったかを評価指標として設定できます。
目標達成度合いを評価し、改善点を洗い出すことで、より効果的な新入社員の教育を構築できます。また、研修にかかる費用と、研修によって得られる効果を比較し、費用対効果を検証することで、研修への投資を最適化できます。
参考:
まとめ
新入社員の教育で上司が疲弊する原因は、会社や新入社員からの期待に応えなければならないプレッシャーや理想のマネージャー像とのギャップ、研修内容と現実の乖離などです。新入社員の教育は日々の業務と並行して行われることが多く、上司のストレス管理と教育体制の整備が重要です。
上司の疲弊は、上司本人だけでなく会社にとってもマイナスです。会社全体で新入社員の教育体制を整備し、上司のストレス軽減をサポートすることで、効率的な人材育成を実現しましょう。