「部下は人事評価に納得がいかないと退職してしまう?」
「部下に不満を感じさせない人事評価のやり方は?」

このような疑問をもつ管理職も多いでしょう。人事評価は従業員を公平・公正に評価するための重要な制度ですが、自身の評価に納得いかない部下はモチベーションが低下し、最悪の場合は退職してしまうかもしれません。

そこで本記事では、部下が不満を抱えやすい人事評価の特徴や、納得感を高める評価方法について解説します。部下を適切に評価し優秀な人材の定着を目指す方は、ぜひ参考にしてください。

人事評価に納得いかない部下は退職する?

部下が自身の人事評価に納得がいかず、最終的に退職してしまう可能性は十分に考えられます。「会社や上司から正当な評価が得られていない」と感じている従業員は、モチベーションが低下する傾向にあるからです。Job総研が実施した「2023年人事評価の実態調査」でも、「評価によりモチベーションが下がった経験」について尋ねたところ、78.7%が「ある」と回答しています。

ギャラップ社の調査結果によると、1人の従業員が離職することで発生する損失コストは、その給料の1.5~2倍に相当するとされています。従業員が退職することで、その分生産性が低下するだけでなく、新たな従業員を雇い教育する費用も必要になるためです。たとえば、年収500万円の社員が退職した場合、会社は750~1,000万円相当の損失を受けることになります。

部下が退職するリスクを極力抑えるために、本記事では部下が不満を抱えやすい人事評価の特徴や、納得感を高める評価方法のポイントについて解説します。

参考:

PR TIMES「Job総研による『2023年人事評価の実態調査』を実施 8割が評価に不満 成果と報酬の不均衡で賃金上がらず」

Gallup “This Fixable Problem Costs U.S. Businesses $1 Trillion”

部下が納得いかない人事評価の特徴

Job総研の「2023年人事評価の実態調査」および株式会社識学の「人事評価の“モヤモヤ”に関する調査」の結果をもとに、部下が納得いかない人事評価にありがちな特徴を紹介します。

評価基準が不明確でわかりにくい

従業員が人事評価に納得いかない理由としてとくに多いのが、「評価基準が不明確でわかりにくい」というものです(下記参照)。

▼自社の人事評価に対する不満

  • Job総研の調査:「評価の基準が不透明(45.6%)」
  • 株式会社識学の調査:「評価の基準が不明確(48.3%)」

評価基準が不明確だと、部下はどうすれば高い評価を得られるのかがわからない上に、上司の主観が評価に含まれてしまう可能性が高いです。その結果、部下が自分なりに努力したにも関わらず思ったような評価が得られず、不満を抱えるのだと考えられます。

以上のことから、部下を公正・公平に評価するためには、事前に明確な評価基準を設定し共有することが重要です。また、部下に対してなぜそのような評価を下したのか、理由を具体的に説明できるよう準備しておく必要もあるでしょう。

評価結果が報酬に反映されていない

人事評価でいくら高い評価が得られたとしても、その評価結果が昇給や昇進などの報酬に反映されなければ、部下は不満を抱える可能性が高いです(下記参照)。

▼自社の人事評価に対する不満

  • Job総研の調査:「成果と報酬が見合っていなかったから(51.3%)」
  • 株式会社識学の調査:「評価結果が報酬に反映されない(30.9%)」

カリフォルニア大学バークレー校のハース・ビジネススクールによると、金銭的な報酬とセットで従業員を高く評価することは、彼らの生産性やモチベーションを高め、定着率の向上にもつながるとされています。逆に、上司から高い評価が得られたにも関わらず報酬が伴っていなければ、「評価は見せかけであり、いくら頑張っても意味がない」と考えるのかもしれません。

自己評価と大きく乖離がある

人事評価プロセスにおいて、まずは部下が自己評価を行い、その後上司が詳細な評価を実施する形式を採用している企業も多いでしょう。このとき、部下の自己評価と上司の評価の間に大きな乖離がある場合、部下は納得できない可能性が高いです。

株式会社識学の調査でも、「自社の人事評価について不満に思うこと」として、21.3%が「自己評価と上司の評価に乖離がある」と回答しています。

上司と部下それぞれの評価に乖離が生まれる要因としては、主に以下の2パターンが考えられます。

  • 評価基準が不明確なために、部下が努力の方向性を間違えている
  • 部下の能力が低い割に自信過剰である

上記のうち、前者は事前に明確な評価基準を示した上で、評価理由を具体的に説明することで納得してもらえる可能性があります。一方、後者は常に自分が正しいと考え、他者の意見を受け入れない傾向が強いため、上司がいくら丁寧に評価理由を説明しても効果がないかもしれません。

自信過剰型の社員の適切な対処方法を詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

プロセスを一切評価しない

会社が利益を追求する存在である以上、従業員は結果を出すことが最も重要なのは言うまでもありません。しかし、結果ばかりに目を向け、部下の仕事への取り組み姿勢や努力を一切評価しなければ、不満が強まる恐れがあります。パーソル総合研究所が実施した「人事評価制度と目標管理の実態調査」でも、人事評価制度に関する不満として、以下の意見が多く見受けられたといいます。

  • 「自分の努力が十分に評価に反映されていない」(42.0%)
  • 「売上や数値目標ばかりでプロセスが十分に反映されない」(40.1%)

そもそも、同じ部署の社員でも取り組む仕事はそれぞれ異なり、難易度にも差がある可能性が高いです。たとえば研究職の場合、研究する分野やテーマによって、成果の出やすさが違ってくるはずです。このような状況でもプロセスを無視し、結果だけに着目して人事評価を実施してしまうと、当然評価に納得がいかない社員も出てくるでしょう。

参考:

HRプロ「4割以上が自社の人事評価に不満。「評価基準の不明確さ」や、「リモートワークへの不適応」が要因か」

パーソル総合研究所「人事評価制度と目標管理の実態調査」

部下の納得感を高める人事評価のポイント

部下の納得感を高め、退職を防ぐための人事評価のポイントを解説します。

初めに目標を設定し共有する

評価期間の初めに、まず上司と部下で目標を設定し共有することが重要です。目標を決めることで努力の方向性が定まり、評価基準も明確になりやすいからです。

例として、「ワード・エクセルの理解度テストで90点以上を獲得する」という目標を設定したと仮定します。このとき、合格ラインが「理解度テストで90点以上獲得すること」と明確なため、参考書で操作方法を学んだり、過去問を確認したりなどの対策が取れるでしょう。これが「PCソフトの基本操作方法を習得する」などのあいまいな評価基準だと、具体的に何をどう取り組めばよいのか、部下は理解できないかもしれません。

なおカリフォルニア大学では、より明確で効果的な目標を設定するために、以下の5つの要素を含んだ「SMART目標」の作成を推奨している

  • Specific(具体的な)
  • Measurable(測定可能な)
  • Achievable(実現可能な)
  • Relevant(関連性がある)
  • Time-Bound(期限がある)

▼SMART目標の例

3ヶ月以内にワード・エクセルの基本操作方法を習得し、理解度テストで90点以上を獲得する

部下の目標の設定方法について、より詳細を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

適切な評価手法を選択する

以下のように、人事評価にはさまざまな評価手法が存在します。部下をより公平・公正に評価するためには、これらの中から状況に応じて適切な手法を選択する、もしくは組み合わせることが重要です。

  • 自己評価:成果やスキルなどを自分自身で評価する
  • 多面評価(360度評価):上司や同僚、部下など、複数の関係者が評価を行う
  • 行動評価:結果だけでなく、そこに至るまでの具体的な過程や行動を評価する
  • 目標管理(MBO):具体的な目標を上司と部下で設定し、その達成度によって評価を行う
  • パフォーマンス評価:業務に必要な知識やスキルを、適切に活用できているか評価する

たとえば、「自己評価」と「多面評価」を組み合わせることで、自信過剰気味の部下は自身の能力を客観的に把握できるようになるかもしれません。また、研究職のような人によって成果の出やすさに差がある職種の場合、「行動評価」や「パフォーマンス評価」を行うことで、結果が出ていない社員に対しても正当に評価が行えるでしょう。

優れた成果やスキルは積極的にほめる

人事評価を行う際、部下に優れた成果やスキルがある場合は、積極的にほめることでモチベーションアップの効果が期待できます。株式会社サーベイリサーチセンター(SRC)が実施した「職場における『ほめる効果』に関するアンケート」によると、「ほめられるとやる気が高まるか」との問いに、80.6%が「高まる」と回答しています。

とはいえ、適当に「すごいね」「頑張ったね」とほめるだけでは、かえって部下を不快にさせてしまうかもしれません。SRCの調査でも、上司のほめ方に関して36.8%が不満を抱えており、その理由について40.9%が「口先だけでほめる」と回答しています。

メアリー・ワシントン大学によると、部下のモチベーションを高めるためには、以下のポイントを押さえてほめることが重要といいます。

  • 具体的にほめる
  • 正直にほめる
  • チームではなく個人に焦点を当ててほめる
  • 成果に応じてほめ方を調整する

▼(例)人事評価における部下へのほめ言葉

今期の営業成績は目標を大幅に上回っており、本当に素晴らしかったです。あなたの粘り強い交渉力と顧客ニーズに応じた提案ができるスキルには、いつも感心しています。とくに、A社へのプレゼンは非常に説得力があり、大型契約を成立させた要因の1つだと思います。

改善すべき点も臆さず伝える

部下を一人前の人材に育て上げるためには、長所を伸ばすのはもちろん、ときには短所を克服させる必要もあるはずです。そのため、人事評価ではただ部下を褒めるだけでなく、改善すべき点も遠慮せず伝えることが大切です。

ただし、やみくもに部下のダメな点を伝えてしまうと、モチベーションを低下させたり反感を買ったりする恐れがあります。ハーバード大学によると、従業員の気分を損ねることなくネガティブなフィードバックを伝えるには、以下のポイントを意識することが重要といいます。

  • 人格を否定せず、行動に焦点を当てて注意する
  • 批判的な言葉遣いを避け、やわらかい口調で伝える
  • 一方的に伝えるだけでなく、相手の意見も聞く
  • ネガティブな点だけでなく、ポジティブな点にも言及する
  • 今後のサポートを約束し、一緒に改善を目指す

▼(例)人事評価におけるネガティブな点の伝え方

いくつかの案件において、フォローアップの頻度が少し足りないように感じました。たとえばB社とのプロジェクトでは、進捗報告が遅れたことで先方を不安にさせてしまったようです。もう少し密なコミュニケーションを心掛けることができれば、よりよい関係が築けるのではないかと思います。契約の獲得数は目標を達成できているので、フォローアップ力を改善すれば、成績はさらにアップすると考えられます。それが多くのクライアントからの信頼を得る一因だと思います。フォローアップのやり方について、何か困ったことや不安な点があれば、私も全面的にサポートするのでいつでも相談してください。

評価結果を昇給・昇進に反映する

先ほども述べたように、人事評価での評価結果が報酬に反映されず、不満を抱えている従業員は多いといわれています。そのため、部下の評価結果に応じて、昇給や昇進を検討することも重要です。

ただし、部下を昇給・昇進すること自体に、モチベーションをアップさせる効果があるとは限りません。「マズローの欲求段階説」によると、人間の欲求は以下の5段階で構成されており、下位の欲求が満たされると次の上位の欲求を追求するようになるとされています(1→5の順にレベルが高くなる)。

  1. 生理的欲求:生存に必要な基本的な欲求(食事、睡眠、空気など)
  2. 安全欲求:身の安全を確保したいという欲求(物理的な安全(住居、健康)、経済的な安定(職業、所得)など)
  3. 社会的欲求:何かしらの社会集団に所属したいという欲求(家族、友人、会社など)
  4. 承認欲求:他者から認められたいという欲求(SNSの「いいね」、人事評価など)
  5. 自己実現欲求:自身の潜在能力を最大限に発揮したいという欲求(独立・起業、社会貢献活動など)

上記を見ると、報酬によって満たされるのは「安全欲求」であり、より高レベルである「承認欲求」が満たされるわけではないことがわかります。したがって、報酬はあくまで「評価結果が見せかけではない」ことを示すものであり、まずは人事評価で部下を高く評価することが、モチベーションアップに効果的だといえます。

参考:

University of California “SMART Goals: A How to Guide”

サーベイリサーチセンター「SRC自主調査004「職場における『ほめる効果』に関するアンケート」」

University of Mary Washington “When and How to Give Recognition”

Harvard University “How to Give Negative Feedback to Employees”

まとめ

部下が不満を抱えやすい人事評価の特徴や、部下の納得感を高める評価方法について解説しました。

「会社や上司から正当な評価が得られていない」と感じる従業員は、モチベーションが低下しやすいとされています。そのため、自身の人事評価に納得いかない部下は、最終的に退職してしまう可能性も十分に考えられるでしょう。

本記事で紹介したポイントをふまえ、部下を公平・公正に評価し、優秀な人材の定着を目指してください。