「若手社員にどの研修を受講させるべきかわからない…」
「若手社員に研修を受けさせても効果が感じられない…」
このような悩みを抱える管理職も多いでしょう。若手社員の育成・指導にあてられる時間や人材が限られている中では、必要に応じて研修を活用することが重要です。ただし、研修を受講する上で大切なのは「学んだ内容を実務に活かせるか」であり、毎年決められた研修を受けさせるだけではほとんど効果が得られないかもしれません。
本記事では、若手社員の育成におすすめの研修や、研修を受講する上でよくある課題およびその解決策を紹介します。若手社員の研修を成功させ、会社の将来を担う優秀な人材を育成したい方は、ぜひ参考にしてください。
若手社員の育成におすすめの研修
若手社員を効果的に育成するためにおすすめの研修を紹介します。
ストレスマネジメント研修
ストレスマネジメント研修とは、心身に悪影響をおよぼすストレスと適切に向き合い、対処する方法を学ぶ研修です。
医療サービス事業を営むティーペック株式会社が、入社3年未満の若手社員を対象に実施した調査によると、59.8%が仕事に関する何らかのストレスを抱えていることがわかっています。もちろん、ストレスは人間誰しもが日常的に抱えるものですが、社会人歴が浅い若手社員はまだ耐性が弱く、とくに職場でのストレスを感じやすいのでしょう。
ロチェスター大学のメディカルセンターによると、職場で過度なストレスを長期間受け続けた従業員は、頭痛やイライラなどの症状が現れ、やがては心臓病やうつ病など重度の疾患を患うリスクがあるといいます。このような事態を防ぐため、若手社員にはストレスのコントロール方法を早めに習得させることが重要です。
リーダーシップ研修
リーダーシップ研修とはその名の通り、組織のリーダーとして必要な知識やスキルを学ぶ研修です。
近年では多くの企業が、将来の管理職候補になり得る人材が不足していることに悩んでいるといわれています。HR総研が企業の人事担当者を対象に実施した調査でも、「採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ面」に関する課題として、最も多く挙げられた回答は「次世代リーダー育成」でした(65%)。有望な若手社員に対して早期からリーダーシップ研修を受講させることが、このような課題を解決する糸口になると考えられます。
また、組織開発や人材育成を支援するALL DIFFERENT株式会社の調査によると、リーダーシップを発揮した経験のある若手社員は、仕事で壁に直面しても前向きに捉え、乗り越えようとする傾向が強いとされています。以下は、同調査の結果の一部をまとめたものです。
▼リーダーシップの発揮経験の有無による、仕事で直面する壁に対する捉え方
仕事で直面する壁 | リーダーシップの発揮経験「あり」 | リーダーシップの発揮経験「なし」 |
---|---|---|
仕事の難しさ | 「成長機会」と捉える | 「不安」と捉える |
仕事の量 | 「期待に応えよう」と感じる | 「大変」と感じる |
仕事の飽き | 「期待に応えよう」と感じる | 「我慢・不満・辞めたい」と感じる |
人間関係 | 「期待に応えよう」と感じる | 「我慢・不満・辞めたい」と感じる |
上記の結果を見ても、若手社員にリーダーシップ研修を受講させることは、会社だけでなく本人にとっても有意義であるといえます。
問題解決研修
問題解決研修とは、職場で起こる問題の発見・分析から解決策の実行・評価までの一連のプロセスを体系的に学習し、実践的な問題解決力を養う研修です。
業種や職種に限らず、仕事をする上で何かしらの課題やトラブルに直面することは多々あります。たとえば営業職の場合、古くから付き合いのある取引先から、突然の契約打ち切りを言い渡されるケースもあるでしょう。このような場合に、問題が発生した原因を特定し、適切な解決策を考えて実行する能力は非常に重要だといえます。
もちろん、問題解決力は研修を受講しただけですぐに身につくものではありません。しかし、研修で学んだ内容を普段の仕事で意識的に実践することで、問題解決力は効果的に養われると期待できます。
コミュニケーション研修
コミュニケーション研修とはその名の通り、職場での適切なコミュニケーションの取り方について学ぶ研修です。
世の中にあるほとんどの仕事は、同じ会社の同僚や上司以外に、他部署の社員や取引先など、さまざまな人が関わることで成立しています。そのため、業務を効率よく遂行するためには、効果的なコミュニケーションが必要不可欠です。AI関連のツールを提供するグラマリー社が米国企業を対象に実施した調査によると、ビジネスリーダーの72%が、「職場での効果的なコミュニケーションにより生産性が向上した」と回答しています。
また、コミュニケーションが円滑に行われている職場では、関係者間の相互理解が深まり、良好な人間関係が築きやすいでしょう。その結果、従業員のモチベーション向上や離職率低下などにつながると考えられます。
グラマリー社の別の調査によると、職場でのコミュニケーション不足が原因で、米国企業全体で年間1.2兆ドル、従業員1人あたり12,506ドルの損失が発生しているといいます。若手社員にコミュニケーション研修を受講させ、コミュニケーションの重要性や効果的な取り方を理解させれば、このような損失を避けることができるかもしれません。
ビジネスマナー研修
ビジネスマナー研修とは、言葉遣いや身だしなみ、電話応対方法など、仕事をする上で必要なマナーを学ぶ研修です。
一般社団法人日本能率協会が社会人を対象に実施した調査によると、「相手(社内外含む)のビジネスマナーについて、不快な思いをしたことがありますか」との問いに、48.3%が「ある」と回答しています。先ほども述べたように、世の中に存在する仕事は多くの関係者によって成り立っています。相手を不快にさせないために、最低限のビジネスマナーが必要不可欠であることが、この結果から見て取れます。
とはいえ、現場の上司や先輩社員が若手社員に対し、ビジネスマナーを一つひとつ教えるのは大変です。そのため、若手の入社後できるだけ早めに研修を受講してもらい、ビジネスマナーを体系的に学習させるのが効率的といえます。
専門知識・スキルに関する研修
従業員が業務を遂行するにあたって、業種や職種によっては専門的な知識やスキルが必要になる場合があります。たとえば、製造職であれば機械の使い方や安全・品質の管理方法などを習得しなければならないでしょう。これらの専門知識・スキルを研修で学ばせることで、若手社員を効果的に育成できるかもしれません。
厚生労働省の「能力開発基本調査」によると、人材育成の問題点について、57.1%の事業所が「指導する人材が不足している」、47.6%が「人材育成を行う時間がない」と回答しています。もし、専門知識・スキルの基礎となる部分を研修で体系的に習得できれば、現場で指導する側の負担を軽減する効果が期待できます。
ネットリテラシー研修
ネットリテラシー研修とは、インターネットを安全かつ効果的に利用するための知識やスキルを学ぶ研修です。
帝国データバンクが2023年に実施した調査によると、社外向けの情報発信ツールとしてSNSを活用している企業の割合は40.8%に上るとされています。企業のSNS運営には、自社の認知度向上や商品・サービスのプロモーションなどのメリットが存在します。一方で、不適切な発信によって炎上が起こり、かえって自社のブランドイメージが低下するリスクもあります。以下は、企業のSNSアカウントが炎上したことで、従業員の懲戒解雇まで発展した事例です。
某テレビ局の職員が、特定の政党と政治家に対する誹謗中傷を、誤って自社の公式SNSアカウントで投稿。投稿は即座に削除されたものの、スクリーンショットがすでに拡散されており、大きな批判を浴びた。結果として、当該職員は懲戒解雇された。 |
株式会社コムニコの調査によると、2023年には189件の炎上事件が観測されたといいます(個人アカウントの炎上も含む)。企業のSNS運営が一般的となった今日では、SNSの炎上は決して他人ごとではなく、従業員一人ひとりのネットリテラシーを高めることが重要なのは言うまでもありません。
参考:
T-PEC「メンタルヘルスと人事担当者の役割:企業の管理と対策の重要性【医師監修】」
University of Rochester Medical Center “Managing Work-Related Stress”
HRプロ「HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【人事の課題編】」
PR TIMES「【調査レポート/若手900名回答】リーダーシップの発揮経験がある若手社員ほど、壁にぶつかっても前向きに捉える傾向あり」
Grammarly “The State of Business Communication: New Threats and Opportunities”
PR TIMES「「ビジネスパーソン1000人調査」【ビジネスマナー編】」
帝国データバンク「企業におけるSNSのビジネス活用動向アンケート」
PR TIMES「コムニコ、「炎上レポート」2023年版を公開」
若手社員の研修についてよくある課題
日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が実施した「新人・若手社員のOff-JTに関するアンケート」によると、約85%の担当者が「Off-JTには課題がある」と回答しています。同調査の結果をもとに、若手社員の研修に関してよくある課題を紹介します。
オンライン・オフラインの良さを生かし切れていない
従業員の研修には、特定の会場に参加者が集合して受講するオフライン型と、パソコンやスマホを使ってどこからでも受講できるオンライン型の2種類の形式があります。JMAMの調査によると、オンライン型・オフライン型それぞれの良さを生かし切れずに、研修を実施している企業が多いとされています(下記参照)。
▼Q. Off-JTにどのような課題があると感じていますか
- 集合研修の良さを生かし切れていない(41.0%)
- オンラインの良さを生かし切れていない(35.3%)
オンライン型・オフライン型の研修には、それぞれ以下のようなメリットが存在します。
研修の形式 | メリット |
---|---|
オンライン | ・どこでも受講できる ・交通費や宿泊費などのコストを削減できる |
オフライン | ・参加者と対面で交流できる ・実技演習やグループワークがしやすい |
研修で学習したい内容によって、オンライン・オフラインどちらの形式が若手社員にとって最適なのか、事前に見極めることが重要です。たとえば、業務に必要な専門知識を簡潔に学びたいだけであれば、オンライン型の研修を受講する方が効率的でしょう。一方で、ビジネスマナーのように実技演習を行うことでより理解が深められる研修の場合は、オフラインで受講する方が効果的かもしれません。
職場での行動変容につなげられていない
JMAMの調査によると、若手社員がせっかく研修を受講しても、学んだ内容を実際の業務に生かせていないと感じる企業が多いといいます(下記参照)。
▼Q. Off-JTにどのような課題があると感じていますか
- 職場での行動変容につなげられていない(37.7%)
上記の原因として、研修で学んだ内容と実務に「関連性がない」もしくは「関連性がわかりにくい」ことが考えられます。例として、入社したばかりの新入社員がリーダーシップ研修を受講しても、先輩社員ばかりの職場でいきなりリーダーシップを発揮するのは難しいでしょう。
研修はただ受講するだけでは知識やスキルが定着しにくく、あまり効果が得られない可能性が高いです。そのため、まずは業務を遂行するのに必要な知識・スキルを整理し、その内容に合致した研修だけを受講させることが重要です。
時代に合わせた内容にアップデートできていない
JMAMの調査によると、若手社員の研修を「時代に合わせて内容をアップデートできていない」と感じている企業が多いとされています(36.3%)。
どの業界でも市場は常に変化するものであり、それに伴い研修の内容もアップデートし続けなければなりません。研修内容が毎年変わらなければ、市場の変化に対応できる人材が育たず、会社としても成長しないからです。たとえば、近年はSNSなどの炎上により企業が大ダメージを受ける事例も多発していることから、ネットリテラシーやコンプライアンスの重要性を重点的に伝える必要があるでしょう。
以上のことから、研修はただ実施するだけでなくその効果も測定し、必要に応じて改善を加えることが大切といえます。
若手自身が主体的に学ぼうとしない
若手社員に研修を受けさせても効果が得られない場合、研修内容ではなく彼らの学ぶ姿勢に問題があるかもしれません。JMAMの調査でも、34.0%の担当者が「新入・若手社員が主体的に(研修に)取り組んでいない」と回答しています。
若手社員が研修に主体的に参加しない原因の1つとして、「研修の目的を理解していない」ことが考えられます。「研修をなぜ受講しなければならないのか」「研修を受講することで業務にどのように生かされるのか」がわからなければ、ただ研修を受けるだけになってしまうからです。
以上のことから、若手社員には研修の受講を指示するだけでなく、目的や目標をあらかじめ共有することが重要といえます(例:「今後は一部の業務にAIツールを導入することを検討しています。AIに関する基礎知識やどのようなツールがあるのかを研修で学び、実際の業務にどのように生かすのかを検討してください」)。
予算に余裕がない
JMAMの調査によると、7.4%の企業や担当者が「(研修の)投資予算が確保できていない」点を、若手社員の研修に関する課題として挙げています。この結果を見ると、予算に余裕がなく、若手社員に研修の場を提供できていない企業も少なくないといえます。
産労総合研究所が実施した「教育研修費用の実態調査」によると、従業員1人あたりにかかる年間の研修費用は34,606円であることがわかっています。企業の経営状況によっては、この費用が大きな負担になるのも無理はありません。
若手社員を効果的に育成するために、研修は必要不可欠なものです。研修に割く予算の余裕がどうしてもない場合は、助成金の制度を活用するのも1つの手です(詳細は後述)。
参考:
PR TIMES「9割超が「Off-JTの見直しを検討」と回答。オンラインの活用が進む」
若手社員の研修を成功させるポイント
ここまでの内容をふまえた上で、若手社員の研修を成功させるためのポイントについて解説します。
研修の目標を設定する
若手社員にはただ研修を受講させるだけでなく、研修を通じてどのように成長してほしいのか、目標を設定することが重要です。目標が定まれば、それをクリアするために若手社員がより主体的に研修に参加するようになると期待できるからです。
とはいえ、漠然とした目標を立ててしまうと、目指す方向性も不明瞭になるためあまり意味がありません。イェール大学によると、明確でわかりやすい目標を設定するためには、「SMARTの法則」に従うことが有効だといいます。SMARTの法則では、以下の5つの要素を目標に含めることが求められています。
- Specific(具体的な)
- Measurable(測定可能な)
- Achievable(実現可能な)
- Relevant(関連性がある)
- Time-Bound(期限がある)
▼(例)SMART目標
安全衛星研修終了後1週間以内に、現場での危険箇所を3ヶ所以上特定するとともに、具体的な改善策も提案する |
目標の設定方法について、より詳細を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
研修の効果を評価する
研修は受講したら終わりではなく、若手社員にとってどれだけ役に立ったのか、その効果まで測定することが重要です。研修の成果を明確に把握できれば、内容の改善もしやすいからです。
サンディエゴ大学によると、研修の効果を測定する方法としては「カークパトリックモデル」を用いるのが一般的とされています。カークパトリックモデルでは、研修の効果を以下の4つのレベルに分割し、それぞれについて評価を実施します。
レベル | 評価内容 | 評価方法 |
1. 反応 | 受講者は研修に対してどのような反応を示したか? | ・受講者アンケート |
2. 学習 | 受講者はどのような知識やスキルが身についた? | ・理解度テスト ・パフォーマンステスト |
3. 行動 | 受講者はどのように知識やスキルを業務に生かした? | ・フィードバック面談 ・上長アンケート |
4. 結果 | 研修によって会社にどのような効果がもたらされた? | ・効果測定チェックリスト ・ROI測定 |
カークパトリックモデルを用いるメリットとして、研修の効果を段階的に評価することで、問題点が見つけやすい点が挙げられます。たとえば、エクセル研修を受講した社員の反応が上々だったとしても(レベル1)、後日実施した理解度テストで点数が取れていなければ(レベル2)、「エクセル研修は需要があるものの、研修内容は改善する必要がある」という評価ができるのです。
助成金の制度を活用する
若手社員の研修に割く予算の余裕がどうしてもない場合は、「人材開発支援助成金」と呼ばれる助成金制度を活用するのも一つの手です。
人材開発支援助成金とは、事業主が従業員に対して職務に関連する職業訓練などを実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。助成額は会社の規模や雇用形態、コースなどによって異なります。たとえば、「人材育成支援コース」であれば、研修の実施による助成額は下表のとおりです。
なお、人材開発支援助成金の受け取りには条件があり、育成計画書などの書類の提出も必要です。助成金の詳細な申請方法については、厚生労働省の公式サイトを確認してください。
参考:
Yale University “Hit the mark when you set SMART goals”
University of San Diego “The Kirkpatrick Training Evaluation Model”
厚生労働省「人材開発支援助成金 (人材育成支援コース) のご案内」
まとめ
若手社員の育成におすすめの研修や、研修を実施する上でよくある課題およびその解決策を解説しました。
若手社員に対して毎年決められた研修を受講させるだけでは、育成効果がほとんど得られないかもしれません。研修で学んだ内容を実務に活かすことが大切であり、そのためには会社や上司が積極的に働きかける必要があります。
本記事で紹介したポイントをふまえ、若手社員の研修を成功させ、会社の将来を担う優秀な人材の育成・定着に役立ててください。