従業員サーベイは、職場改善や従業員満足度の向上に欠かせないツールとして広く活用されています。しかし、運用方法を間違えると、サーベイが無意味になるばかりか、逆に従業員の信頼を損ねてしまうリスクもあります。

この記事では、従業員サーベイがうまく機能しない理由や、それを防ぐための工夫、さらにサーベイを効果的に活用するための具体的なポイントを解説します。

従業員サーベイで効果が出ない理由

従業員サーベイは職場の改善に役立つ大事なツールですが、期待通りの効果が得られないこともあります。以下では、ハーバードビジネススクールの記事を参考に、その原因となる考えられるポイントを解説します。

職場をよく見せるように回答することもある

従業員がサーベイに回答する際、本当の職場環境をそのまま伝えるのではなく、何らかの圧力により「職場を良く見せなければ」という気持ちが働くことがあります。

たとえば職場環境を良く見せたい上司が「全部良いスコアで回答しておいて」と圧力をかけるなどのケースも0ではありません。

このような状況で「安全性に問題がある」と正直に答えることで、自分の評価に悪影響があるのでは、と不安に思う可能性があります。

正直に回答をすることに対して、抵抗感を感じることがサーベイに悪影響を与えていると考えられます。

匿名でも「正直に言えない」と感じる空気がある

たとえ匿名で実施されたサーベイでも、「本音を伝えにくい」と感じる従業員がいることも、効果が薄くなる理由の一つです。

例えば、「意見を言ってもどうせ何も変わらない」と諦めていたり、問題を伝えることで職場に悪影響が出るのではないか、と不安を感じることが影響しています。

こうした雰囲気の中では、従業員がリスクや問題を低く見積もって回答することが多くなり、職場の現実を正確に把握するのが難しくなってしまいます。

職場文化や業界の特徴で回答の傾向が変わる

職場や業界ごとに、サーベイに対する考え方や姿勢が異なることも結果に影響を与えます。例えば、安全性が重視される石油・ガス業界では、従業員が正直に状況を伝える傾向があるため、調査結果の信頼性が高い場合が多いです。

一方で、安全性があまり注目されていない職場では、サーベイ自体が軽視されがちで、正確な回答を得にくいことがあります。

参考:

DCHAS “Are employee surveys biased? CHAS Journal club, Oct 13, 2021”

従業員サーベイのメリット

従業員サーベイは、職場環境や業務改善に役立つ情報を引き出す重要な手段です。しっかりと計画し実施することで、企業と従業員の両方に大きなメリットをもたらします。以下では、SHRMの記事を参考に、具体的な利点を解説します。

職場改善のきっかけになる

サーベイを通じて、従業員が職場環境や業務についてどのように感じているかを把握できます。得られたデータを活用すれば、職場の問題点や改善のチャンスを特定することが可能です。経営陣にとって、従業員の視点を知ることは、より的確な改善策を講じるための第一歩となります。

従業員の定着率や生産性を向上させる

従業員の意見をもとに具体的な改善が行われると、職場の働きやすさが向上し、離職率の低下や欠勤率の改善といったポジティブな結果が期待できます。

例えば、業務の負担が軽減されたり、コミュニケーションの問題が解消されることで、従業員は仕事に前向きに取り組めるようになります。その結果、生産性や顧客対応力といったパフォーマンス全体の向上にもつながります。

「従業員の意見を大切にしている」というメッセージになる

サーベイを実施すること自体が、従業員に「あなたの意見を尊重している」という前向きなメッセージを伝えます。また、このような取り組みは、従業員の信頼を得るだけでなく、組織全体の士気を高める効果も期待できます。

たとえ小さな改善でも、意見が反映される実感があることで、従業員は組織への帰属意識を強めるでしょう。

管理職が課題を把握しやすくなる

管理職にとっても、サーベイは部門やチームの現状を客観的に把握するための有効なツールです。

例えば、「どの業務が負担になっているのか」「どの部分に改善の余地があるのか」といった課題を具体的に知ることができ、より適切な対応や指導につなげることが可能になります。

参考:

SHRM“Managing Employee Surveys”

従業員サーベイを実施する際の注意点

上述したSHRMの記事によると、従業員サーベイは、実施するだけで効果が得られるものではありません。やり方を誤ると逆効果になる場合もあるため、以下の点に注意が必要です。

上層部の本気度が問われる

サーベイの結果を効果的に活用するには、上層部が従業員の意見を真剣に受け止め、行動を起こす姿勢を見せることが欠かせません。

例えば、従業員が「業務量が多すぎる」と訴えた場合、経営陣が人員を増やしたり作業手順を見直すなど、改善に取り組む必要があります。

もし、調査後に何のアクションも起こさなければ、「形だけのアンケート」と捉えられ、信頼を失う原因になります。

従業員の意見に基づく具体的な行動が必要

サーベイの結果を放置すると、従業員に「意見を聞いても何も変わらない」という失望感を与えることになります。

例えば、職場の温度管理に不満が寄せられた場合、エアコンの設定温度を調整したり、冷暖房設備の改善に取り組むといった対応が求められます。

意見を無視すると、「自分たちの声は重要視されていない」と感じさせ、職場の士気が低下したり、離職者が増えるリスクを招きます。

誤った期待を生むリスクに注意

サーベイを実施すると、従業員に「これから何かが変わる」という期待を抱かせるものです。例えば、「残業削減」というテーマについて調査した後に特に変化がないと、従業員は「アンケートは形だけだった」と失望する可能性があります。

そのため、実施したテーマについては進捗状況を共有したり、小さな改善でも早い段階で結果を示すことが重要です。

失敗が従業員関係の悪化を招く場合も

サーベイの実施が裏目に出るケースもあります。例えば、匿名のアンケートであるにもかかわらず、回答の内容から特定の従業員が批判されたり、不利益を被ると、職場の信頼関係が一気に崩れる可能性があります。

また、アンケートの結果を単に上層部が自己評価の材料に使うだけで、現場での改善が行われなければ、従業員は調査に対して不信感を抱く可能性も考えられるでしょう。

参考:

SHRM“Managing Employee Surveys”

従業員サーベイを効果的に運用する方法

従業員サーベイを効果的に活用するには、設計の段階から従業員に寄り添い、わかりやすく配慮された内容を心がけることが重要です。以下では、サーベイを効果的に運用するための具体的なポイントを解説します。

アンケートの目的を明確にする

まず、「何を知りたいのか」「何を得たいのか」を明確にします。例えば、「従業員の仕事に対する満足度を測りたい」のか、「特定の部門での問題点を探りたい」のかをはっきりさせることで、調査内容に一貫性が生まれます。目的が曖昧だと、質問が散漫になり、得られたデータを活用しづらくなります。

簡潔でわかりやすい質問を作成する

質問はシンプルかつ明確にしましょう。例えば、専門用語や難しい表現を避け、すべての従業員が理解できる言葉で書くことが大切です。また、質問数を最小限に抑えることで、従業員が回答しやすくなり、正確な情報が集まりやすくなります。

二重の意味を含む質問は避ける

1つの質問で2つの話題を扱うのは避けましょう。例えば、「職場の安全性と福利厚生に満足していますか?」というような質問では、どちらについての意見なのかが不明瞭です。このような質問をすると、回答の意図を正確に把握できなくなります。

従業員の参加を促す工夫をする

サーベイの設計や結果の分析に従業員を関与させることで、調査への関心が高まり、積極的な参加が期待できます。

例えば、アンケート内容の一部を従業員の代表に確認してもらうなど、従業員の声を事前に反映する方法があります。また、調査結果に対するフィードバックを丁寧に行うことで、信頼関係がさらに深まります。

適切な質問形式を選ぶ

例えば、「職場の安全性を10段階で評価してください」のように、選択肢が決まっている形式の質問を使用することで、回答を数値化しやすくなります。自由記述の質問は最小限に留め、負担を軽減しましょう。

質問内容に自由度と行動可能性を持たせる

管理層が実際に行動できる質問を設計することも重要です。例えば、「部署ごとの仕事量の公平性についての意見を教えてください」という質問は具体的で、改善のためのアクションが明確になります。

一方で、回答が活用しづらい質問や不要な項目は排除するようにしましょう。

質問は中立的な表現にする

質問文は偏りのない中立的な表現を心がけましょう。例えば、「職場でのサポートが不十分だと思いませんか?」ではなく、「職場でのサポートに満足していますか?」とすることで、回答者に先入観を与えずに意見を集めることができます。

匿名性と機密保持を徹底する

従業員が安心して本音を伝えられるように、調査の匿名性を確保しましょう。例えば、「回答は集計後に匿名で報告されます」と明確に説明したり、外部業者を利用してデータを管理することで信頼性を高める方法があります。

これにより、従業員は自分の意見が守られると感じ、率直な回答が期待できます。

参考:

SHRM“Managing Employee Surveys”

サーベイを成功させるための準備とその後の対応

従業員サーベイを成功させるには、実施前の準備と結果を踏まえた対応が欠かせません。調査をスムーズに進めるためには、事前に目的を周知し、得られたフィードバックを活用したフォローアップを丁寧に行うことで、従業員との信頼関係を築き、職場の改善につなげることができます。

サーベイ実施前に従業員全員へ目的を説明する

サーベイを効果的に進めるには、調査の目的を全従業員にわかりやすく伝えることが大切です。監督者や管理者への事前説明が完了したら、従業員にもアンケートの意図や期待される結果を理解してもらえるよう、適切な手段で情報を共有しましょう。

目的を説明する際には、以下のような方法が効果的です。

  • ミーティングや朝礼で直接説明する
  • 社内のお知らせやメールで情報を共有する
  • ポスターや配布資料でポイントを簡潔に伝える
  • 新人研修や説明会の場で目的を説明する

例えば、「今回のサーベイは職場環境をさらに良くするための意見を集めるものです」といった具体的な意義を、朝礼やミーティングで直接説明すると、従業員の理解が深まり、調査への協力を得やすくなります。

フィードバックをもとにした対応が信頼を生む

サーベイの結果をどう活用するかは、従業員の信頼を得る上で極めて重要です。ただ調査を実施するだけで終わらせるのではなく、その結果を元に具体的な行動を取ることで、従業員に「意見が尊重されている」という実感を持ってもらうことができます。

例えば、アンケート実施時に「結果をもとに各部署で改善計画を立てる予定です」と事前に伝えることで、従業員は調査への期待感を持ちやすくなります。

また、結果が出たら早い段階で分析内容を共有し、「リモートワークの環境に不満が多いことがわかりました。これを受けてITサポートを強化します」といった具体的な対応を示すことが重要です。

迅速かつ誠実な対応を行うことで、従業員は「自分たちの声が活かされている」と感じ、組織に対する信頼を深めることができます。

結果をわかりやすく共有して透明性を高める

サーベイ結果を従業員と共有する際は、内容を簡潔に整理し、透明性を意識することがポイントです。良い点だけでなく、課題も正直に伝えることで、従業員に信頼感を与えることができます。

例えば、「チームワークに満足している従業員が多い一方で、作業量に対する不満もあることがわかりました」と、具体的な結果を簡潔に説明します。その際、グラフや図表を活用すると視覚的にわかりやすくなり、理解が深まります。

さらに、「作業量の改善に向けて、業務フローの見直しを進めます」といった具体的な行動計画を示すことで、従業員は結果がただの報告で終わらず、実際の改善につながると感じられるでしょう。

正確で誠実な情報共有を心がけることで、従業員の信頼を得るだけでなく、組織全体の透明性を高めることができます。

まとめ

従業員サーベイは、職場の課題を見つけ、従業員の声を反映して環境を改善するための大切な手段です。ただし、実施するだけでは効果は得られません。目的を明確にし、得られた結果に基づいて具体的な行動を起こすことで、初めてその価値が発揮されます。

サーベイを通じて従業員に「意見が尊重されている」と感じてもらうことは、職場の信頼関係を深める大きな一歩です。その積み重ねが、職場環境の改善だけでなく、組織全体の成長やエンゲージメント向上につながります。

従業員の声を活かし、より良い職場づくりを進めるために、今回の記事が少しでも役立てば幸いです。