「部下が仕事を断るので困っている…」
「仕事を断る部下を懲戒処分できる?」

このような悩みや疑問をもつ管理職も多いでしょう。1人の部下が仕事を断ると、その分の仕事を別の社員が引き受けなければなりません。このように迷惑を被る者が現れないよう、仕事を断る部下は適切に対処することが重要です。

本記事では、部下が仕事を断る理由や、断られたときの対処法について解説します。部下が主体的に仕事に取り組める職場づくりを目指す方は、ぜひ参考にしてください。

部下が仕事を断る理由

以下は、人材派遣業を営む株式会社R&Gが、社会人男女を対象に実施した「やりたくない仕事に関する意識調査」の結果の一部をまとめたものです。

▼Q. やりたくない仕事を振られたらどうするか

回答割合
引き受ける69.8%
理由をつけて断る10.8%
その他19.4%

上記を見ると、会社でやりたくない仕事を課されたとき、仕方なく引き受ける従業員が多い一方で、何かと理由をつけて断る者も少なくないことがわかります。

ここでは、部下が上司から振られた仕事を断る理由を3パターンにわけて紹介します。

手が空いていないから

自分が今取り組んでいる仕事で手一杯の部下は、追加で振られた仕事を断る可能性があります。

一昔前であれば、たとえ手が空いていなかったとしても、上司から振られた仕事は残業をしてでも引き受ける者が多かったかもしれません。しかし、近年では時間外労働に関する規制(36協定など)が厳しくなっており、

就職・転職者向けのサービスを展開するオープンワーク株式会社の調査によると、2012年における月間平均残業時間が46時間だったのに対し、2021年は24時間にまで減少しているといいます。

そのため、物理的に引き受けるのが不可能な場合は、部下が仕事を断るのも無理はありません。逆に、手一杯な部下に対して仕事を無理やり押しつけるのは、ハラスメントに該当する可能性があります(厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」より)。

以上のことから、上司は部下一人ひとりの業務量を把握し、負荷ができるだけ均等になるよう調整することが大切です。

単にやりたくない仕事だから

単に「やりたくない」というわがままで、部下が仕事を断っている場合もあるでしょう。

株式会社R&Gの「やりたくない仕事に関する意識調査」の結果より、以下のような仕事は部下から嫌がられる可能性が高いです。

▼Q. やりたくないのはどのような仕事か

やりたくない仕事の特徴回答割合
時間がかかる22.0%
苦手/強みを活かせない17.2%
メンタルを削られる12.0%
責任・プレッシャーが大きい11.4%
本来自分の仕事ではない9.4%

しかし、会社では常に自分がやりたい仕事ばかりができるわけではなく、ときにはやりたくない仕事に取り組まなければならないケースもあるはずです。たとえば、「残業はしない主義」の営業職社員でも、定時後に取引先の接待をしなければならないときがあるでしょう。

正当に考慮されるべき事情もなく、ただ「やりたくない」という理由で仕事を断っていては、周囲は多大な迷惑を被ってしまいます。このような部下に対しては、上司が毅然とした態度で適切に対処することが重要です(詳細は後述)。

能力が不足しているから

部下が仕事を断る場合、自分の能力に対して仕事の難易度が高く、引き受ける自信がない可能性も考えられます。たとえば、まだ仕事を覚えている最中の新入社員に対して、いきなりプロジェクトリーダーを任せるのは荷が重すぎるでしょう。

もちろん、部下を効果的に育成するために、現状よりもややレベルの高い仕事をさせることは大切です。しかし、従業員の能力から過度に逸脱した仕事を押しつけることは、精神的な負担も大きくハラスメントに該当する恐れがあります(厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」より)。

なお、自分自身を過小評価している部下の場合、仕事を完遂するだけの十分な能力があるにも関わらず、「自信がない」と断るかもしれません。このような事態を防ぐためにも、普段から部下の仕事ぶりを正当に評価し、自身の能力を客観的に把握させることが重要といえます。

参考:

PR TIMES「【やりたくない仕事を乗り切る方法ランキング】社会人500人アンケート調査」

HRプロ「2012~2021年の10年間で「平均残業時間」や「有休消化率」は大幅改善か。調査データからわかる働き方改革の成果とは」

厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」

部下が仕事を断ることで起こる弊害

もし仕事を断る部下がいると、その分の仕事は別の社員が引き受けることになり、従業員間で負荷に偏りが生まれます。

株式会社ビズヒッツが働く男女500人を対象に実施した「職場の不満に関する意識調査」によると、職場への不満について、「労働時間・休日への不満(63人)」「仕事量・内容が不公平(29人)」という回答が多く挙げられました。

また、同社が別で実施した「仕事量に関する意識調査」によると、「仕事量が多いことで仕事の品質に影響が出ることがあるか」との問いに、82.6%が「ある」と回答しています。

以上の結果から、仕事を断る部下の影響で従業員間の仕事量に不公平が生じると、仕事を押しつけられた側のモチベーションは低下し、生産性も低下する恐れがあると考えられます。こうなると、必然的に他の社員の負担も増えてしまい、職場全体のモチベーションや生産性が低下する悪循環に陥るかもしれません。

参考:

PR TIMES「【職場の不満ランキング】男女500人アンケート調査」

PR TIMES「【仕事量が多い理由と解決策ランキング】男女500人アンケート調査」

仕事を断る部下への対処法

咲くやこの花法律事務所の見解をもとに、仕事を断る部下に対する適切な対処方法を解説します。

断る理由を確認する

まず前提として、労働者は会社と労働契約を結ぶことで、さまざまな権利を手にすると同時に、会社に対して誠実に労働を提供する義務(誠実労働義務)も負うとされています。そのため、上司から振られた仕事を断るのは「業務命令違反」に該当する可能性があり、最悪の場合は懲戒解雇の対象になるといいます(下記参照)。

▼(例)就業規則の懲戒事由

労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。・正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。

とはいえ、仕事を断ることが業務命令違反に該当するかどうかは、その断る理由に正当性があるかによって変わります。したがって、部下に仕事を断られた際はまず理由を確認してから、その後の対応を検討することが重要です。

断る理由が正当な場合は受け入れる

部下が仕事を断る理由に正当性がある場合は、その要望を受け入れた方がいいかもしれません。仕事を断る正当な理由としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 現在抱えている仕事で手一杯で、追加の仕事に取り組む余裕がない
  • 現状の能力に対し、指示された仕事の難易度が高すぎる
  • 体調が悪く、これ以上業務量を増やすことができない
  • 依頼された仕事が、運営上明らかに必要性がない

先ほども述べたように、部下にやむを得ない理由があるにも関わらず仕事を押しつける行為は、ハラスメントに該当する恐れがあるため注意が必要です。

▼仕事を押しつけたことでハラスメントと認定された事例

鉄道会社に勤めるX職員の勤務中の行為に対し、A上司は就業規則に違反する旨を述べて改善を命じたが、Xはこれに応じなかった。そこで、AはXに就業規則の書き写しを命じ、その過程で過剰な心理的圧迫や身体的拘束を加えた。途中、Xは腹痛により病院に行きたい旨を申し出たものの、当初Aはその要請を拒否。Xの胃潰瘍の病歴を知り、ようやくこれを認めた。その後Xは病院で診断を受け、1週間ほど入院するに至った。裁判所は、Aの行為が労働者に肉体的・精神的苦痛を与え、その人格権を侵害する違法なものであるとして、20万円の慰謝料及び5万円の弁護士費用の支払いを命じた。

断る理由が正当でない場合は処分を検討する

部下が仕事を断る理由に正当性がない場合は、業務命令違反とみなし懲戒処分を検討しましょう。たとえば、会社の運営上必要な業務を依頼したにも関わらず、単に「やりたくない」というわがままで拒否した場合は、業務命令違反に該当する可能性が高いです。

とはいえ、部下が上司の指示に従わなかったからといって、反省の機会も与えずいきなり解雇などの重い処分を課すことは、不当だとみなされる恐れがあります。咲くやこの花法律事務所の見解では、従業員に対して処分を下す前に、まず彼らの言い分を聞く「弁明の機会」を与える必要があるといいます。こうすることで、どのような処分が適切か検討しやすくなると同時に、後々裁判などのトラブルに発展するリスクを減らすことができるからです。

本人の言い分を聞いた上で「懲戒処分が妥当」だと判断した場合は、以下のように軽い処分から順に科していくのが一般的とされています。

  1. 戒告・譴責
  2. 減給
  3. 出勤停止
  4. 降格
  5. 諭旨解雇
  6. 懲戒解雇

もし、部下の処分方法の判断に迷う場合は、上長や専門の窓口に相談するのも一つの手です。

▼業務命令違反に対する処分が認められた事例

電機メーカーA社に勤めるX職員に対し、上司は残業をして業務を終わらせることを指示したものの、Xはこれを拒否。A社側は後日、Xに始末書の提出を求めたが、このことで2度にわたり争いが生じた。A社側は、就業規則上の懲戒事由(しばしば懲戒を受けたにもかかわらず、なお悔悟の見込がないとき)に該当するとして、Xを懲戒解雇に処した。Xは不当解雇だと訴えたものの、A社側は就業規則や36協定に基づく合理的な残業命令だと主張。裁判所はA社側の主張を認め、懲戒解雇は権利濫用にも該当せず有効だと結論づけた。

参考:

弁護士法人 咲くやこの花法律事務所「業務命令違反で解雇は可能か?処分時の注意点を解説」

部下に仕事を断られないためのポイント

部下に仕事を断られることがないよう、上司が心がけるべきポイントについて解説します。

業務を平準化する

平準化とは、特定の従業員に負荷が偏らないよう、仕事を適切に割り振ることです。業務を平準化することで、各メンバーがバランスのよい業務量を保ちやすくなり、追加の仕事にも対応しやすくなると期待できます。

また先ほども述べたように、メンバー間で業務量に偏りがあると、チーム全体のモチベーションや生産性に悪影響をおよぼす可能性があります。業務を平準化すれば、このようなリスクも回避できるでしょう。

ただし、職場では人によって立場や能力が異なるため、単に作業量を等分するのではなく、負荷を均一にすることが重要です。ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている論文によると、チームの作業負荷を公平にするためには、以下のポイントをふまえて従業員とコミュニケーションをとることが効果的といいます。

ポイント
仕事を割り当てた理由や期待を伝える「あなたには将来管理職としてチームを引っ張ってほしいので、今回はこのプロジェクトのリーダーを任せたいです」
仕事を多く抱えている従業員には優先順位を知らせる「A社とのプロジェクトは売上への影響がとくに大きいので、優先的に進めてください」
仕事の処理スピードが遅い従業員にはサポートを申し出る「レポートを書くのに3日間もかかっていますね。何か問題がありますか?こちらからサポートできることはありますか?」
やる気がない従業員にはその分評価が下がることを伝える「今のあなたの取り組みでは、残念ながら昇進や昇給は難しいです」

また同論文では、仕事の負荷を常に均一にするのは難しいため、1年を通して全体のバランスが取れればよいとも述べています。

ジョブクラフティングを促す

先ほども述べたように、単に「やりたくない」という理由だけで仕事を断る部下もいます。このような部下に対しては、ジョブクラフティングを促すと有効かもしれません。

ジョブグラフティングとは、仕事のやりがいや満足度を高めるために、従業員自らが働き方に工夫を加えることです。厚生労働省によると、いくつかの先行研究によって、「ジョブクラフティングは従業員のエンゲージメントや自己効力感を高める」効果があることがわかっているといいます。

なお、同省ではジョブクラフティングの具体的なやり方として、以下の3つを提唱しています。

手法概要
作業クラフティング仕事がより充実したものになるよう、業務の量や範囲を調整するタスクを「緊急性」と「重要性」の2軸で分類し、それぞれに優先順位をつける
人間関係クラフティング仕事の中での対人関係を、自分にとってより有益で満足度の高いものに変える若手社員が、経験豊富な先輩社員にメンターを依頼し、月に一度キャリア相談の時間を設ける
認知クラフティング仕事の目的や意味を捉え直すことで、やりがいを感じながら前向きに仕事に取り組むデータ入力は誰でもできる単調作業ではなく、「上層部の意思決定に直結する重要な仕事」だと認識し直す

能力を正当に評価する

先ほども述べたように、自分の能力に対して振られた仕事の難易度が高いと感じた部下は、その仕事を断る場合があります。このような部下は、本来であれば相応の実力があるにも関わらず、自身の能力を過少評価している可能性も考えられます。

そのため、人事評価制度などの場を活用して部下の仕事ぶりを正当に評価し、自分の能力を客観的に理解させることが重要です。なお、人事評価制度を効果的に運用するためには、とくに以下のポイントを意識することが有効とされています。

ポイント概要具体例
部下と共同で目標を設定する具体的な目標が定まることで、評価基準もより明確になる製品Xの製造ラインを担当する部下と、「6ヶ月以内に不良品発生率を2%から1%に削減する」という目標を立てる
プロセスも評価する仕事の成果の出やすさは人によって異なるため、結果だけを評価すると不満を抱える恐れがある研究職は研究の成果だけでなく、スケジュール管理力やプレゼンテーション力も評価対象とする
適切な評価手法を採用する職種や地位によって評価すべき点は異なるため、状況に応じて適切な手法を活用する管理職には「多面評価」を採用し、部下からの評価にも耳を傾ける

人事評価制度の運用方法について、より詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

参考:

Harvard Business Review “Make Sure Your Team’s Workload Is Divided Fairly”

厚生労働省「第3節 「働きがい」をもって働ける環境の実現に向けた課題について」

まとめ

部下が仕事を断る理由や、断られたときの対処法について紹介しました。

部下が仕事を拒むのは単なるわがままとは限らず、「手が空いていない」「能力的にできない」など、正当な理由で断っている場合もあります。そのため、まずは部下が仕事を拒否する理由について確認したうえで、適切に対処することが重要です。また、そもそも部下に仕事を断られないよう、日頃から上司が積極的に対策を講じることも大切です。

本記事で紹介したポイントをふまえ、部下が主体的に仕事に取り組める職場づくりを目指してください。