最低限の業務しかしない「ぶら下がり社員」は、職場にどのような影響を与えているのでしょうか?その原因を探ると、個人の問題だけでなく、組織側の改善点も見えてきます。

本記事では、ぶら下がり社員の特徴や原因、そして職場環境を整えるための効果的な対策をご紹介します。

ぶら下がり社員とは

ぶら下がり社員とは、職場で主体的に働こうという意欲が低く、与えられた最低限の業務だけをこなす社員を指します。

このタイプの社員は、責任を取ることを避ける傾向があり、昇進やスキルアップへの関心が薄いのが特徴です。一方で、会社の福利厚生や安定した収入に頼り切った姿勢を持っています。

例えば、新しいプロジェクトへの参加を提案されても、「自分の担当ではないから」と断ったり、スキルを磨くための研修や資格取得の機会に消極的な態度を取るケースが挙げられます。

こうした行動は周囲のモチベーションにも影響を与えるため、企業内で問題視されることが少なくありません。

ぶら下がり社員の行動の特徴

ぶら下がり社員と呼ばれる人たちには、特有の行動や態度が見られます。こうしたぶら下がり社員の存在は、個人の働き方だけでなく、職場全体の活力やチームワークにも影響を及ぼすため、特徴を正しく理解することが大切です。

以下に、ぶら下がり社員の具体的な行動の特徴を詳しく解説します。

業務に対して積極的ではない

ぶら下がり社員の最も顕著な特徴は、仕事に対して主体性がなく、与えられた業務だけを最低限こなすことです。新しい挑戦や業務の効率化に取り組む姿勢が欠けており、例えば「この作業の改善策を考えてみる」といった発想があっても行動には移しません。

また、問題が発生しても「自分の役割ではない」と考え、積極的に解決に関わることを避ける傾向があります。この消極的な態度が、他の社員のモチベーションにも悪影響を及ぼします。

職場に適応していない

ぶら下がり社員は、職場のルールや文化に積極的に適応することを避ける傾向があります。例えば、チームで協力する必要があるプロジェクトでも、最低限の役割を果たすだけで、他のメンバーとの連携を深めようとしません。

こうした行動により、同僚や上司とのコミュニケーションが減少し、職場内で孤立することも少なくありません。結果として、ぶら下がり社員は組織全体の一体感を損なう要因となることがあります。

出世や成果を出すことに消極的

ぶら下がり社員は、昇進や評価につながる行動にも興味を示しません。「今のポジションで十分」「責任が増えるのは避けたい」と考え、昇進の機会やスキルアップのための研修を敬遠します。

例えば、リーダー職を打診されても辞退することが多く、成果を上げることへのモチベーションも低い傾向があります。このような態度は、キャリア形成が停滞するだけでなく、周囲からの信頼や評価を下げる要因となります。

ぶら下がり社員が増えることによる組織への影響

ぶら下がり社員が職場に増えると、個人の低パフォーマンスだけにとどまらず、同僚や上司、さらには職場全体に大きな影響を及ぼします。

以下ではそれぞれの具体的な影響について、ボイジー州立大学のダグラス・フェローズ氏の研究をもとに、詳しく解説します。

同僚への影響

ぶら下がり社員がいる職場では、同僚がそのフォローに追われる場面が増えてしまいます。

例えば、ぶら下がり社員の仕事が中途半端な状態で終わっている場合、締め切りに間に合わせるために他のメンバーが急いで修正したり、作業を引き継いだりする必要が生じます。

このような負担が続くと、同僚たちの不満やストレスが増大し、最終的には意欲的な社員も疲弊し、職場全体の生産性が低下してしまいます。

さらに、努力が公平に評価されない環境では、意欲的な社員が「自分だけ頑張っても報われない」と感じ、離職を考えるきっかけにもなりかねません。優秀な人材の流出は、企業にとって大きな損失をもたらします。

上司への影響

ぶら下がり社員の存在は、上司の業務負担を大きく増加させます。例えば、ぶら下がり社員の成果物が低品質であることを見越して、上司は進捗を細かく確認し、場合によっては指示を繰り返す必要が出てきます。

本来なら部下を信頼して任せられる業務も、ぶら下がり社員に対しては「放っておくとミスが増える」「期限を守れないかもしれない」という不安から、上司が直接管理する時間が増えてしまいます。

また、ぶら下がり社員が原因でチーム全体のモチベーションが低下する場合、上司はチーム内の調整や雰囲気改善にもエネルギーを割かざるを得ません。

このような状況は、上司自身の仕事の効率を落とすだけでなく、職場全体の目標達成を妨げる要因ともなります。

職場全体への影響

ぶら下がり社員が増えると、職場の雰囲気がぎくしゃくし、働きやすさが損なわれることがあります。特定の社員だけに負担が集中すると、「なんで自分ばかりがやらなければいけないのか」と不公平感が生まれ、周囲の不満がたまりやすくなります。

このような状態が続くと、チーム内でのコミュニケーションが減り、信頼関係が崩れる原因にもなります。

例えば、他のメンバーが「この仕事も結局自分がカバーすることになる」と感じてしまうと、自然と協力し合う意識が薄れ、「どうせやってくれない」という諦めムードが漂うこともあります。

一方、誰もが自分の役割をしっかり果たしていると、チーム全体がスムーズに動き、職場の雰囲気も明るくなります。この違いは、ぶら下がり社員が職場に与える影響の大きさをよく表しています。

雰囲気が悪化すると仕事への集中力も低下し、職場全体の生産性が下がる可能性があります。明るく協力しやすい環境を保つためにも、ぶら下がり社員の改善が欠かせません。

参考:

https://scholarworks.boisestate.edu/cgi/viewcontent.cgi?filename=0&article=1141&context=mds495_proj&type=additional

どのような会社がぶら下がり社員を生み出しやすいのか?

ぶら下がり社員は、社員個人の問題だけでなく、職場環境や組織の運営方法が大きく影響しています。特に、目標の不明確さや上司のサポート不足、職場でのコミュニケーション不足が重なると、社員は意欲を失い、最低限の仕事しかしなくなる傾向があります。

今回もダグラス・フェローズ氏の研究をもとに、ぶら下がり社員を生み出しやすい会社の特徴について詳しく見ていきます。

目標が不明確な会社

明確な目標が設定されていない職場では、社員が「自分が何を達成すべきか」を見失い、やる気を失いやすくなります。

例えば、「会社全体の売上を伸ばす」という抽象的な目標だけが示され、個々の社員がどのように貢献すれば良いかが具体的に伝えられていない場合、社員は仕事への意義を感じにくくなります。

このような環境では、努力が成果として実感しづらいため、「どうせ頑張っても意味がない」と感じ、ぶら下がり状態に陥る社員が増える可能性があります。

社員のモチベーションを理解していない会社

上司が部下のモチベーションを理解し、適切なサポートを提供しない職場も、ぶら下がり社員を生みやすい環境です。

例えば、挑戦を求めている社員に単調な作業ばかりを任せたり、働き方の柔軟性を重視する社員に長時間の残業を強要したりすると、社員はやる気を失ってしまいます。

また、上司が社員の状況に無関心で、日常的な声かけやフィードバックが少ない場合、社員は「自分は重要視されていない」と感じ、仕事への意欲がさらに低下します。上司の無関心が、ぶら下がり社員の固定化につながる要因となります。

従業員同士のコミュニケーションが不十分な会社

職場でのコミュニケーションが活発でない環境では、社員が孤立しやすくなります。例えば、上司や同僚に相談できる雰囲気がない職場では、社員は不安やストレスを抱えたまま業務を進めることになり、結果的にパフォーマンスが低下します。

孤立した状態が続くと、「自分が何を頑張っても誰も気にしない」といった無力感が生じ、ぶら下がり社員が増えてしまうことがあります。

特に、情報共有や連携が不足しているチームでは、業務の非効率だけでなく、信頼関係の希薄化が進み、職場全体の雰囲気が悪化しやすくなります。

このように、職場環境の問題が複雑に絡み合うことで、ぶら下がり社員を生み出すリスクが高まります。企業が環境を整えるためには、目標設定の明確化や社員個々のモチベーションの把握、そして円滑なコミュニケーションの促進が不可欠です。

参考:

Fellows, D. (2022). How to motivate an underperforming employee. Transcript, IPS/BAS 495 Undergraduate Capstone Projects, Boise State University.

ぶら下がり社員が増えないようにするための対策

職場でぶら下がり社員が増えると、業務効率が低下し、周囲の社員に余計な負担がかかることがあります。この問題を放置すると、チーム全体の士気にも悪影響を及ぼしかねません。

以下では、ハーバードビジネスレビューの記事を参考に、ぶら下がり社員が増えないための具体的な対策を紹介します。

ぶら下がり社員の原因を特定する

ぶら下がり社員の問題を解決する第一歩は、その原因を特定することです。

例えば、「新しい環境に慣れていない」「プライベートでストレスを抱えている」などの一時的な理由がある場合、それを支援することで改善が期待できる可能性があります。

一方で、職務に対する姿勢が根本的に消極的な場合は、根気強い対応が必要となります。

自分の行動を振り返る

ぶら下がり社員の行動に影響を与えている要因として、自分自身の行動も確認しましょう。例えば、「過度に指摘しすぎていないか」「サポートが不足していないか」といった点を振り返ることが重要です。

自分の態度を見直し、協力的な姿勢を示すことで、相手のやる気を引き出せる可能性があります。

直接話し合う

ぶら下がり社員の行動が気になる場合、問題を率直に話し合うことが有効です。「最近、仕事に集中しにくい状況なのでは?」といった形で、相手の状況を確認し、必要に応じてサポートを検討しましょう。

一時的なサポートを提案する際は、「このサポートは◯月まで」と期限を明確にすることが大切です。期限を設けないと、サポートが「当然」と受け取られ、相手が自立するきっかけを失う可能性があります。また、無期限のサポートは他の社員に負担をかけ、公平性を損なう恐れもあります。

期限を設定することで、相手に改善への意識を促し、職場全体のバランスを保つことができます。

役割と責任を明確化する

業務内での役割分担が不明確だと、ぶら下がり社員の行動が目立ちにくくなり、問題が長期化することがあります。そのため、業務の分担や責任範囲を具体的に記載したタスクリストや業務計画を作成し、全員で共有することが大切です。

例えば、「このプロジェクトでは誰が何を担当するか」を明記した表や進捗を記録するフローなどを活用することで、役割の透明性を高めることができます。

また、定期的にミーティングを開き、進捗状況を確認する場を設けると、問題が早期に発見できるため効果的です。

他部署とのつながりを活用して職場環境を改善する

ぶら下がり社員が増えるのを防ぐためには、部署外の同僚や他部門との関係を広げることも一つの方法です。

例えば、他部署のプロジェクトや横断的な業務に参加することで、活発なコミュニケーションや新たな視点を職場に取り入れることができます。

これにより、ぶら下がり社員が孤立しにくい環境を作り出し、積極的な働き方を引き出せる可能性が高まります。また、他部署と連携することで、個々の役割や責任が明確になり、全員が職場全体の目標に向けて動きやすい仕組みを作ることができます。

ぶら下がり社員の仕事を肩代わりしない

ぶら下がり社員の仕事を肩代わりする行為は、一時的には問題が解決したように見えるかもしれませんが、長期的には逆効果です。肩代わりを続けると、ぶら下がり社員自身が責任感を持たなくなり、状況が悪化する可能性があるからです。

また、他の社員に過剰な負担がかかり、不公平感が生まれることで、職場全体のモチベーションが低下する恐れもあります。改善が見られない場合は、上司や人事に相談し、適切な対処を図る必要があります。

参考:

Harvard Business Review“When You’re Stuck Working with a Slacker”

ぶら下がり社員にかかわる際の注意点

職場でぶら下がり社員に対処する際、適切なアプローチを取ることが重要です。感情的な対応を避け、冷静かつ建設的に向き合うことで、不要な摩擦を防ぎ、職場環境を整えることができます。

ハーバードビジネスレビューの記事を参考に、以下では、具体的な注意点を解説します。

問題がなければ放っておく

ぶら下がり社員の行動が実際の業務に大きな影響を与えていない場合は、無理に干渉しないことも一つの選択肢です。

他人の怠慢を必要以上に気にすると、ストレスを感じたり、不要な対立を生む原因になります。業務全体が円滑に進んでいるなら、「見守る」という姿勢も有効です。

相手の立場を考える

ぶら下がり社員の行動には、家庭や職場での困難といった背景がある場合があります。例えば、育児や介護で疲れている、職場での人間関係に悩んでいるなどです。

こうした可能性を考慮し、相手の立場を理解することが大切です。思いやりを持って状況を捉えることで、適切な対応が見えてきます。

対話を大切にする

ぶら下がり社員の行動が自身の仕事に悪影響を及ぼしている場合は、冷静かつ共感的に話し合いを持つことが重要です。

「なぜこのような状況なのか」について興味を持ちつつ、「どうすれば良い方向に進めるか」を一緒に考える姿勢を示すと、相手も心を開きやすくなります。感情的にならず、解決に向けた建設的な対話を心がけましょう。

適切なタイミングを見極める

ぶら下がり社員への対応では、適切なタイミングを見極めることが非常に重要です。対応を長期間放置すると、本人の態度が固定化してしまったり、周囲の不満が蓄積し、職場全体の雰囲気が悪化するリスクがあります。

一方で、焦って感情的に行動を起こすと、相手に防御的な態度を取られ、関係性が悪化する可能性があります。例えば、感情が高ぶったまま注意すると、「責められている」と感じさせてしまい、状況がさらに悪化することもあります。

冷静に状況を観察し、「改善に向けた話し合いがしやすいタイミング」を見計らってアプローチすることが重要です。例えば、業務がひと段落した時や相手が落ち着いている時を選ぶことで、建設的な対話を進めやすくなります。

参考:

Harvard Business Review“サボる、手を抜く「怠慢な同僚」への賢い対処法”

まとめ

ぶら下がり社員の問題は、職場環境やコミュニケーション次第で改善の余地があります。個人を責めるだけではなく、職場全体で取り組むことで、チームの働きやすさが向上します。今回の内容を参考に、誰もが活躍できる職場づくりを目指してみてください。