従業員サーベイとは、組織の課題や改善点を明らかにし、組織改善につなげるために有効な方法です。しかし、効果的な従業員サーベイを実施するためには、目的に沿った適切なサーベイの選定や、効果的な質問を設定する必要があります。

この記事では、11種類の従業員サーベイの特徴や実施するメリットと注意点、効果的に実施するための事前準備を詳しく解説します。

組織改善に用いられる従業員サーベイ11種類

サーベイ(survey)とは、「調査、測量」を意味する言葉で、ビジネスではさまざまな分野での問題や課題の全体像を把握するための手法として用いられています。

その中で、従業員へ実施する「従業員サーベイ」とは、職場に対する意識や考え、満足度を把握するための調査です。生産性や離職率といった職場全体の課題や問題を特定し、改善策を検討するために活用されます。

ここでは、組織改善に役立つ従業員サーベイを11種類ご紹介します。

1.従業員態度調査

従業員態度調査(Employee Attitude Surveys)とは、従業員が業務に対して持つ態度や意識、姿勢を把握するために実施される調査です。従業員が会社や業務環境をどのように認識し、どのような姿勢で業務に取り組んでいるのかを明らかにすることで、意欲やモチベーションの傾向などを把握でき、改善につなげられます。

2.従業員意見調査

従業員意見調査(Employee Opinion Surveys)とは、従業員が会社や業務に対して持つ意見や考えを把握するために実施される調査です。従業員の率直な意見をもとに、業務フローの改善や新しい制度の導入、職場環境の整備などに活用されます。

3.従業員満足度調査(ES調査)

従業員満足度調査(Employee Satisfaction Surveys)とは、職場での待遇や職場環境に対する満足度を把握するために実施される調査です。従業員の不満を特定し、より良い職場環境の実現を目的としています。

また、従業員満足度を高めることで提供する商品・サービスの品質を向上させ、業績アップにつなげるためにも活用されます。

4.従業員エンゲージメント調査

従業員エンゲージメント調査(Employee Engagement Surveys)とは、会社や組織、業務や職場のメンバーに対して抱く愛着や貢献意欲を測るために実施される調査です。

エンゲージメントを把握することで、職場の潜在的な問題を発見でき、従業員の離職防止やモチベーション向上を目的とした施策の立案につなげられます。

5.従業員パフォーマンス評価

従業員パフォーマンス評価(Employee Performance Appraisal)とは、従業員の業績や成果、目標への到達度などを測定し、評価することです。従業員の昇進・昇給の判断や人材配置、改善に向けたフィードバックなどを目的として実施されます。

6.360度調査(多面評価)

360度調査(360 Surveys)とは、上司や部下、同僚や取引先など、複数の視点から従業員の強みや弱み、改善点などを評価することです。

特定の評価者のバイアスや主観が反映されないよう、さまざまな立場の関係者から評価することで公平さを保ち、より多角的に評価することを目的としています。主に従業員の業務改善や人材育成の場面で活用される人事評価です。

7.組織評価調査

組織評価調査(Organizational Assessment Surveys)とは、組織の特徴や強み、弱みなどを客観的な視点で測定するために実施される調査です。組織で活躍する従業員の特徴や傾向を把握し、組織改善や自社に適合する人材の採用、効果的な育成のために活用されます。

8.雇用者改善調査

雇用者改善調査(Employer Improvement Surveys)とは、従業員に雇用者(会社)に対する建設的な意見を集め、組織の改善点を見つけるために実施する調査です。従業員の意見をもとに組織の弱みを改善し、より持続可能な組織体制を構築するために活用されます。

9.退職者調査(退職者アンケート)

退職者調査(Employee Exit Surveys)とは、退職者に対して、退職の理由や本音を把握するために実施する調査です。社内の組織体制や人間関係、待遇面など、退職を選択した真の理由を把握し、今後の組織改善や人材採用につなげることを目的として活用されます。

10.従業員福利厚生調査

従業員福利厚生調査(Employee Benefits Surveys)とは、従業員が会社の福利厚生に対して抱く満足度や意見を把握するために実施する調査です。従業員が求めている福利厚生の内容や制度を検討・改善するために活用されます。

11.専門的成長調査

専門的成長調査(Professional Development Surveys)とは、従業員が専門的なキャリアアップを目指す中で、職場が適切な支援や環境を提供しているかを評価するために実施する調査です。職場環境における改善点の発見や、従業員の成長やキャリアアップを支援する具体的な施策の立案などに活用されます。

参考:

11 Types of Employee Surveys

従業員サーベイを実施するメリット

従業員サーベイを実施することで、企業はさまざまなメリットが得られます。ここでは、アメリカのウォルデン大学の記事より、具体的なサーベイのメリットを3つ紹介します。

企業の問題点やリスクの早期発見・解決につながる

従業員サーベイを活用することで、企業が抱える問題点やリスクを早期に発見でき、解決につなげられます。

企業の価値は人材の質に大きく左右されるため、従業員が抱くニーズや会社の将来に対する考えや意見の把握は非常に重要です。日々業務に携わる従業員は、会社の問題点に気づきやすい立場にあります。そのため、従業員の意識や意見、満足度を把握できるサーベイを実施することで、組織の効率化やリスク回避に役立てられます。

サーベイで明らかになった問題点や改善案を積極的に取り入れることで、企業は問題点やリスクが深刻化する前に対処でき、より良い方向へと発展するでしょう。

従業員との信頼関係が深まる

従業員サーベイの実施は、企業が従業員の意見を大切にし、不満や不安を解消しようとする姿勢を示す取り組みと言えます。

サーベイの結果を受け止め、定期的に職場環境の改善を図ることで、従業員は「意見が尊重されている」「改善に向けて行動している」と感じ、会社に対する信頼を深めるでしょう。

従業員と強い信頼関係が築かれることで、従業員の企業の一体感が高まり、モチベーションやエンゲージメント、生産性の向上といったポジティブな影響が期待できます。結果として、企業は組織力や競争力の向上といった成果が得られるのです。

離職率の低下と育成コストの削減につながる

従業員サーベイを実施することで、従業員の定着率を高め、離職率の低下につなげることができます。サーベイを通じて、従業員が会社に対して抱えるニーズや考えを深く理解できるからです。

例えば、サーベイの結果から、従業員がキャリアアップの機会を求めていることがわかれば、社内研修や教育プログラムの充実といった対策を講じることが可能です。ワークライフバランスに関する不満が多く挙げられた場合、柔軟な勤務体制の導入や休暇制度の見直しを検討できるでしょう。

サーベイで得られた従業員の意見を業務や職場環境の改善に活かすことで、従業員の満足度が高まり、優秀な人材の定着につながります。人材を雇用し、育成する必要性が減るため、新たな人材の採用と育成にかかる時間と費用を削減できるのです。

従業員サーベイを実施する際の注意点

従業員サーベイにはさまざまなメリットがある一方、注意点も存在します。先述したウォルデン大学の記事より、従業員サーベイを実施する前に知っておきたい具体的な注意点を3つ紹介します。

過去の状況に捉われ、将来への準備が遅れるリスクがある

従業員サーベイとは、実施された時点での従業員の意識や状況を表した結果と言えます。つまり、過去のある一時点の状況を切り取ったものに過ぎないのです。

そのため、サーベイの結果に捉われすぎると、企業は過去の課題への対応に追われ、未来に向けた準備が疎かになるリスクがあります。企業が持続的に発展するためには、市場の変化や技術の進歩など、将来起こりうる社会の変化やリスクを見越した準備や施策も講じていく必要があります。

過去の組織課題への対応と、将来に向けた準備のバランスが良い取り組みが重要だと言えるでしょう。

サーベイの結果をうまく活用できない

従業員サーベイは、特に従業員数の多い企業や組織で実施する場合、収集した情報量が膨大になり、サーベイの結果をうまく活用できないリスクがあります。多数の従業員の意見や声を分析する中で、結果を誤って解釈したり、多様な意見を適切に具体的な改善に反映できなかったりする可能性があるのです。

例えば、特定の部署で「業務の非効率性」が問題点に多く挙げられたとしても、根本的な原因が、従業員同士の人間関係やコミュニケーション不足にあることを見逃すことが考えられます。

本質的な問題が解決されないことで、サーベイの結果が効果的に活用されないリスクがあるのです。

こうしたリスクをふまえ、企業はサーベイの結果を多角的に分析し、活用方法を事前に検討することが求められます。

目的・説明の共有が不十分の場合、不信感につながる

従業員サーベイが適切に扱われなかったり、事前の活用方法の説明が不十分だったりする場合、従業員の不信感につながるリスクがあります。

サーベイの目的や結果の活用方法について十分に共有されないと、従業員は「なぜこのようなサーベイを行うのか」「回答はどのように扱われるのか」といった疑問や不安を抱えることになります。

また、サーベイの結果が公表されなかったり、改善に向けた取り組みが実施されなかったりする場合も、従業員は「自分の意見が尊重されていない」と感じ、会社への不信感を募らせるかもしれません。

こうしたリスクを防ぐには、サーベイの目的や活用方法を従業員へ十分に説明し、結果をもとにした改善への取り組みを示すことが重要です。

参考:

Employee Surveys: A Few Pros and Cons | Walden University

従業員サーベイの回答率はどれくらいが目安?

従業員サーベイを実施する際、どれくらいの回答率を目指すべきでしょうか。『Employee Engagement 2.0』の著者ケビン・クルーズ氏の記事によると、企業規模による回答率の目安は次の通りです。

▼企業規模別:従業員サーベイの理想的な回答率従業員数が500人未満の企業:約80%~90%従業員数が500人以上1,000人未満の企業:約70%~80%従業員数が1,000人以上の企業:約65%~80%

一方で、100%の回答率を達成することが、必ずしも組織の健全性を示すとは限りません。完璧な回答率には、むしろ懸念すべき理由があります。その理由は以下の通りです。

  • 回答の強制:従業員に回答を強制することで、率直な意見や意思表明が妨げられる可能性がある
  • データの偏り:特定の部署や職位から回答を収集しておらず、データが偏っている可能性がある
  • 表面的な回答:多くの人が同じような内容を回答し、実態が正確に反映されていない可能性がある

こうした回答の場合、データの信頼性と利用価値に疑問が生じます。サーベイの回答率を高めることも重要ですが、回答の量よりも質に重点を置くべきなのです。

上記の点をふまえて、従業員が率直に意見を述べられる環境が整っているか、サーベイの目的や匿名性が十分に説明されているかなどを確認し、質の高い回答が得られるサーベイを実施しましょう。

参考:

What is a Good Employee Engagement Survey Participation Rate? – LEADx

組織改善でサーベイを実施する際のデメリット

従業員サーベイの設計や実施方法によっては、期待した効果が得られない可能性があります。ここでは、アメリカのパブリックリレーションズ研究所(Institute for Public Relations)の記事より、従業員サーベイを実施する際のデメリットを3つ解説します。

従業員の意識や実態を把握できる質問が重要

従業員サーベイの注意点に、従業員の行動や意識に関する情報を十分に引き出せない質問が設定されている場合が挙げられます。

例えば「会社の戦略や方向性に関する情報を得るには誰に相談しますか?」という質問では、多くの従業員が「上司」と回答するでしょう。しかし、この回答では表面的な情報しか得られず、従業員の現状や組織の問題などが把握できません。

そのため、例えば「上司とのコミュニケーションで改善してほしい点があれば、具体的に記載してください」など、上司とのコミュニケーションの状況や、改善する方法を尋ねる質問に加えることが効果的です。

従業員の具体的な現状や実態が把握できる質問を設計しましょう。

調査結果を活用するための明確な計画が必要

従業員サーベイの調査結果を活用するための計画が立てられておらず、単に「結果を集めるだけ」に終わり、改善につながらないケースにも注意が必要です。

従業員サーベイを実施する真の目的とは、組織改善です。そのためには、従業員サーベイの実施前に、調査結果を活用する具体的な計画を策定しましょう。例えば、「サーベイの調査結果をもとに、まずは各部署の管理職が改善策を提案し、経営会議で優先順位を決めて実行する」といった一連の流れを計画するのが効果的です。

サーベイ結果を分析し、改善策を実行に移すことで、従業員の満足度や組織のパフォーマンス向上といった組織改善につながります。

一部の従業員に合わない質問は効果が薄い

従業員の中には、サーベイの質問内容が自分の業務や環境に当てはまらない場合があります。そうした質問が多いと、サーベイ全体の回答率や回答の質が低下する可能性があります。

例えば、「社内の情報共有ツールに追加してほしい機能は何ですか?」という質問では、そもそも対象の情報共有ツールを使っていない従業員は、現状の機能を把握していないため、具体的な意見が出せません。

効果的な質問を設計する際は、回答する従業員の業務内容や利用状況を考慮することが大切です。回答する従業員が答えやすく、具体的な改善につながる質問を設定しましょう。

参考:
Why Engagement Surveys Neither “Engage” Nor “Inform” in Any Meangingful Way

サーベイを効果的に実施するための事前準備

効果的な従業員サーベイを実施するには、事前準備が重要です。先述したパブリックリレーションズ研究所の記事より、従業員サーベイ実施するためにすべき準備を3つ紹介します。

改善につながる効果的な質問を設定する

従業員サーベイの質問は、従業員の行動や意識に関する有益な情報を引き出せるものでなければ効果が期待できません。

例えば、「仕事に対するモチベーションを高めるために、どのような支援が必要ですか?」といった質問は、従業員の具体的なニーズを把握し、効果的な改善案を検討するのに役立ちます。

一方で「仕事にやりがいを感じていますか?」という抽象的な質問が多いと、従業員の実態や要望が把握できず、組織改善につなげることが難しくなります。

質問を設計する際は、「従業員の実態や要望を引き出せるか」「具体的な改善策を検討できるか」を確認し、内容を精査しましょう。

調査結果を活用した具体的な計画を策定する

従業員サーベイの実施前に、調査結果を活用した後の具体的な流れを考えて、計画を策定しましょう。

従業員サーベイの結果を集めるだけでは、組織改善には至りません。また、従業員に「回答は本当に活用されるのだろうか?」と不信感を与えるリスクがあります。

例えば、以下のような流れを事前に定めておくとスムーズに従業員サーベイの結果を改善策に活用できるでしょう。

▼従業員サーベイ実施後の具体的な計画の例結果の分析と課題の優先順位付け:従業サーベイの結果から人事部が課題の優先順位を整理・分析し、改善案を検討する改善案の決定:人事部が提案した改善案を経営会議で共有し、実行する施策を決定する改善策の実行:決定した施策を各部門の年間計画に含めて実施する進捗管理:施策の進捗を定期的に確認する成果の評価:施策の効果を確認するためにサーベイ再度実施し、次の改善点を検討する

このように、サーベイ結果を活用するための一連のフローを事前に計画することで、調査結果をスムーズに組織改善につなげられます。

社内で結果の活用方法を統一する

経営層から現場の従業員まで、組織全体で従業員サーベイの結果と活用方針を共有し、全社的に統一された改善策を実行しましょう。結果の解釈や改善策の内容が部門ごとに異なると、従業員の混乱や不信感を招き、組織全体の改善につながりません。

例えば、経営会議でサーベイ結果を共有し、組織全体の課題と改善の方向性を確認したうえで、各部門が連携して施策を推進するといった流れが効果的です。

部門間で統一された改善策を講じることで、従業員の信頼獲得や効率的な組織改善につながります。

参考:
Why Engagement Surveys Neither “Engage” Nor “Inform” in Any Meangingful Way

まとめ

従業員サーベイとは、従業員の意識や満足度、エンゲージメントなどを把握し、組織改善を目的に実施される調査のことです。

従業員サーベイを実施することで、組織の潜在的な問題やリスクの発見、従業員との信頼関係の強化、離職率の低下などのメリットが期待できます。一方で、過去の課題に捉われ過ぎたり、結果を活用する明確な計画が不十分だったりすると、期待した効果が十分に得られないこともあります。

サーベイを効果的に実施するには、改善につながる質問の設定や結果を活用する明確な計画の策定、社内での活用方法の統一などの事前準備が重要です。適切なサーベイを実施し、組織改善を図ることで、継続的な成長と発展を実現させましょう。