後輩の育成に悩む管理職は多く、「どう指導すればいいのか」「思うように成長してくれない」などと感じる場面も少なくありません。こうした悩みを抱えることは決して特別なことではなく、多くの管理職が同じ壁に直面しています。

本記事では、なぜ後輩の育成が難しいと感じるのか、その理由を整理し、育成に向き合うためのヒントを紹介します。

管理職が直面する育成の課題とストレス

部下の成長を支えることは、管理職の大切な役割のひとつです。しかし、実際には多くの管理職が育成の難しさを感じています。

ソフトスキルの強化に特化した人材育成サービスを提供する株式会社Ed-Worksの調査によると、管理職の約6~7割が「部下・後輩の育成」に課題を感じていることが明らかになっています。

特に、管理職に就いたばかりの人ほど育成の難しさを感じやすく、組織開発や人材育成を手掛けるLL DIFFERENT株式会社の研究機関であるラーニングイノベーション総合研究所の調査によると、約76%の新任管理職が部下の指導に苦労していると報告されています。

管理職が抱える3つの大きな課題

Ed-Worksの調査では、管理職が育成に関して特に悩んでいる点として、次の3つが挙げられています。

  • 部下の成長意欲が低い(37.6%)
  • 育成に割く時間が足りない(36.4%)
  • 効果的な指導方法がわからない(32.2%)

つまり、「部下のやる気を引き出すことが難しい」「育成に十分な時間を確保できない」「どう教えればいいのかわからない」といった悩みが、管理職にとって大きな壁になっています。

また、調査では「部下の成長が実感できないとき」や「部下のモチベーションが上がらないとき」に特に課題を感じる管理職が多いこともわかっています。

フィードバックの難しさ

部下を成長させるためにフィードバックは欠かせませんが、適切な伝え方に悩む管理職も少なくありません。

調査によると、半数以上の管理職が部下への指摘をためらった経験があると回答しており、「部下がどのように受け取るかわからない」「自分の指摘が正しいのか自信がない」といった理由が挙げられています。

また、約7割の管理職が「部下に成長してほしい」と考えているにもかかわらず、実際には指摘をためらった経験がある人が過半数にのぼることがわかっています。伝えたいのに伝えにくいというジレンマが、指導の難しさをさらに深めているようです。

育成責任によるプレッシャーとストレス

部下の成長は、管理職自身の評価にも影響を与えるため、責任の重さを感じている人も少なくありません。

調査では、管理職の4割が「育成のプレッシャーを感じている」と回答しています。部下がなかなか成長しないことへの焦りや、「自分の育成の仕方が正しいのか」といった迷いが、精神的な負担につながることもあります。

また、育成が思うように進まないことで、「自分自身の評価にも影響が出るのではないか」と不安を感じる管理職も多く、これがストレスの大きな要因になっています。

参考:

Ed-Works「部下育成に悩む管理職の実態調査」

PR TIMES「新任管理職の76%が部下育成に苦労」

Web担当者Forum「約7割の管理職が「部下の育成」に苦戦。新任とベテランの悩みを比較【ALL DIFFERENT調べ】」

オフィスのミカタ「部下の育成に悩む人が5割? 部下の成長を願いつつもフィードバックを躊躇…管理職意識調査」

後輩育成が難しいとされる主な背景

管理職にとって、部下や後輩の育成は重要な役割のひとつですが、実際には多くの人がその難しさを感じています。

その背景には、指導スキルの不足や信頼関係の構築の難しさ、マネジメントスタイルの変化への対応など、さまざまな要因があります。

管理職自身の指導スキル不足

部下を育成する立場にある管理職ですが、十分なトレーニングを受ける機会がないまま指導に携わる人も少なくありません。

ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの調査では、新任管理職の60%が「昇進時に十分な研修を受けていない」と回答しており、その結果、昇進後2年以内に約60%が育成に関する課題に直面しているとされています。主な要因として、リーダーシップやマネジメントスキルの不足が挙げられています。

また、ペンシルベニア州立大学の研究では、管理職が適切な指導方法を学ばないまま部下の育成に携わると、指導の仕方に迷いやすく、チームのマネジメントが難しくなることが指摘されています。

特に、自分自身が育成やコーチングを受けた経験がない管理職は、その効果を実感しにくく、積極的に取り入れるのが難しくなる傾向があるといわれています。

信頼関係の不足と心理的な安全性の確保

部下との信頼関係が十分に築かれていないと、いくら指導をしても思うように成果が出ません。

エリンガー氏らの研究では、部下が上司を信頼していなかったり、上司からの指導を受けることに抵抗を感じていたりする場合、指導の効果が大きく低下することが明らかになっています。

また、レーディシュースキー氏の研究では、職場での指導がうまくいかない最大の要因として、「信頼関係が築かれていないこと」が指摘されています。

上司が部下を十分に信頼できずに細かく指示を出しすぎたり、逆に部下が上司に本音を言えない環境では、指導がスムーズに進まず、成長の機会が失われてしまいます。部下が安心して学び、挑戦できる環境を整えることが、育成を成功させる大切なポイントです。

変化するマネジメントスタイルへの適応

管理職の役割が「指示を出して管理する」から「支援しながら育成する」へと変化していることも、育成の難しさにつながっています。

マネジメントやビジネスなど幅広い分野の学術誌や書籍の出版を手掛けるエメラルド・グループの研究によると、従来の「指示・統制型」のマネジメントに慣れていた管理職が、部下の自主性を尊重しながら指導するスタイルへ移行するのは容易ではないとされています。

部下に仕事を任せることに抵抗があったり、つい細かく指示をしてしまったりすることが、部下の成長を妨げる原因になることもあります。

また、国際コーチング連盟(ICF)の研究では、マネジメントスタイルの変化に適応できないことが、育成の停滞につながる可能性があると指摘されています。

管理職が部下の主体性を尊重し、必要なサポートを適切に提供できるようになるためには、新しい指導方法を学び、柔軟に対応する姿勢を持つことが求められます。

参考:

Wharton School (University of Pennsylvania), “Managing to Fail? Why New Leaders Need Training”

University of Wollongong“Managerial coaching: challenges, opportunities and training”

Grace Mccarthy(University of Wollongong)“Challenges of the coaching manager”

Emerald Group“Trust me, I’m manager and coach: Encouraging employees to consider and discover”

Pauline Fatien(Menlo College),Ken Otter(Saint Mary’s College of California)“Wearing Multiple Hats?Challenges for Managers-as-Coaches and Their Organizations”

部下のモチベーションを高める声がけ・取り組み

部下の意欲を引き出し、前向きに仕事へ取り組める環境をつくるためには、上司や先輩の声がけやコミュニケーションが欠かせません。

研究によると、適切なフィードバックやサポートを行うことで、部下のやる気やエンゲージメントが向上することが示されています。

成果を認め、前向きなフィードバックを意識する

上司からの前向きなフィードバックは、それ自体が「評価されている」という実感につながり、部下のやる気を引き出す効果があります。心理学者エドワード・デシー氏の研究でも、上司からの称賛や承認の言葉が、部下の意欲を大きく高めることが確認されています。

「よくやった」「助かっている」といったシンプルな声かけでも、部下は自分の努力が認められていると感じ、仕事に対する前向きな気持ちが強まります。

一方で、否定的なフィードバックばかりでは、部下の意欲をそぐ可能性があります。部下の長所や成果を意識的に見つけ、前向きな言葉で伝えることを心がけることが大切です。

仕事の意味や目的を伝える

単に指示を出すのではなく、その仕事の意義や目的を伝えることで、部下のモチベーションは高まりやすくなります。研究では、リーダーが組織のミッションや価値観と日々の業務を結びつけて語ることで、部下のやる気や使命感が向上することが示されています。

例えば、「このプロジェクトは会社にとって○○という重要な意味がある。あなたの○○なスキルのおかげでプロジェクトが前進していて助かっている」と伝えると、部下は自分の役割と組織の目的がつながっていると実感し、仕事への意欲が高まります。

共感的なサポートを心がける

部下が仕事で困難に直面したとき、頭ごなしに指摘するのではなく、共感的な姿勢を示すことが大切です。

モチベーティング・ランゲージ理論によると、上司が部下の気持ちを理解しながら助言を行うことで、部下の心理的な安心感や帰属意識が高まり、意欲が回復しやすくなるとされています。

例えば、ミスをした部下に対して「なぜ失敗したのか考えよう」ではなく、「大変だったね。どこが難しかった?」と声をかけることで、部下はプレッシャーを感じにくくなり、前向きに改善策を考えやすくなります。

成長の実感を大切にする

人は「自分が成長している」と感じられると、仕事への意欲が高まりやすくなります。

ハーバード・ビジネス・スクールのテレサ・アマビール教授らの研究によると、給与やボーナス以上に、日々の小さな達成や前進が、仕事のやる気を引き出す大きな要因になるとされています。

最終的な目標に到達する前でも、少しずつ上達している部分に目を向けることが大切です。部下の努力や改善点を意識して伝えることで、「頑張りが評価されている」と実感し、さらに前向きに取り組めるようになります。

「前よりもここが良くなったね」「この部分の成長が特に感じられるよ」といった言葉をかけることで、やる気を維持しやすくなります。

参考:

PMC“Fostering Employee Trust via Effective Supervisory Communication during the COVID-19 Pandemic: Through the Lens of Motivating Language Theory”

Greater Good Science Center“Nine Tips for Giving Better Feedback at Work”

組織として取り組むべき人材育成のための施策

部下の育成は、管理職一人の責任ではなく、組織全体で支えていくことが重要です。管理職が指導しやすい環境を整えることで、部下の成長が促進され、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。

以下では、企業が取り組むべき具体的な施策を紹介します。

管理職向けの研修を充実させる

部下を育てるためには、管理職自身が指導スキルを身につけることが大切です。しかし、実際には「どのように教えればいいのか分からない」と悩む管理職も少なくありません。

マッカーシー氏らの研究によると、管理職が部下の成長を促す方法を学ぶことは、組織全体の発展に欠かせない要素の一つとされています。指導方法だけでなく、部下に分かりやすく伝えるスキルや、適切なフィードバックの仕方を学ぶ機会を提供することが求められます。

例えば、実践形式の研修を導入し、部下への声かけの仕方や、状況に応じたアドバイスの方法を学ぶことで、現場で活かせる指導力が身につきます。

育成を支え合う職場環境をつくる

管理職が指導スキルを習得しても、実践しやすい環境がなければ十分に活かせません。そのため、組織全体で育成を大切にする風土をつくることも重要です。

例えば、管理職の評価基準に「部下の成長を支援する取り組み」を含めることで、「育成は組織の価値の一部である」という意識を定着させることができます。

また、部下の成長につながる取り組みを共有し、成功事例を社内で発信することで、良い指導方法を学び合う機会を増やすことも効果的です。

信頼関係を築き、安心して学べる環境を整える

部下の育成がうまくいくかどうかは、上司と部下の間に信頼関係があるかどうかに大きく左右されます。部下が「この人の話なら聞いてみよう」と思える関係があってこそ、指導の効果も高まります。

グレース・ムカーシー氏の研究によると、良い指導者は、部下の話をよく聞き、適切なアドバイスを提供し、成長を支える環境を整えていることが共通しています。上司が部下に関心を持ち、対話を大切にすることで、育成の成果が高まりやすくなります。

また、「まず部下にやらせてみて、必要に応じてフォローする」姿勢を取るためには、管理職自身が「自分で全てをコントロールする」考え方から、「部下の成長を支える」視点に切り替えることが大切です。

経験豊富な管理職が新任管理職をサポートする仕組みをつくる

部下を指導する立場になったばかりの管理職は、育成の方法に戸惑うことが少なくありません。このような不安を減らすために、経験豊富な管理職が新任の管理職を支援する仕組みを整えることが効果的です。

ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの調査によると、社内にこうした仕組みがある企業では、新任管理職の指導力が向上し、孤立感が軽減されることが確認されています。

具体的には、経験豊富な管理職が定期的に相談に乗る場を設けたり、育成の悩みを共有する機会をつくることが有効です。また、管理職同士が学び合い、育成に関する悩みを共有できる場を設けることも、指導力向上につながります。困ったときに気軽に話せる環境があることで、管理職が孤立せず、組織全体の育成力向上にもつながります。

参考:

University of Wollongong“Managerial coaching: challenges, opportunities and

training”

Grace Mccarthy(University of Wollongong)“Challenges of the coaching manager”

Pauline Fatien(Menlo College),Ken Otter(Saint Mary’s College of California)“Wearing Multiple Hats? Challenges for Managers-as-Coaches and Their Organizations*”

まとめ

後輩の育成に悩むのは、多くの管理職が経験することです。思うように成長を促せなかったり、指導の仕方に迷ったりするのは決して珍しいことではありません。大切なのは、一人で抱え込まず、周囲のサポートを活用しながら育成に向き合うことです。

完璧な指導を目指すのではなく、試行錯誤しながら少しずつ関わり方を見直していくことが、後輩の成長につながります。無理なく続けられる方法を見つけながら、育成に取り組んでいきましょう。