優秀な人が辞める連鎖が止まらない、そんな悩みを抱えている上司もいるでしょう。優秀な人の退職は、企業にとって大きな損失です。優秀な人が退職すると、退職連鎖が起きたり、残った社員のモチベーションが低下するなど、会社全体の生産性が低下する恐れもあります。
本記事では、優秀な人が辞める理由と、退職の連鎖を防ぐための具体的な方法を、ハーバード・ビジネス・レビューの記事などを参考に解説します。
優秀な人が辞める理由とは

優秀な人が辞める理由について、モロイ大学が公開するビジネススクール教授であるモーリーン・マッケンジー・ラッペル氏らによる論文を参考に解説します。
上司との関係の悪化
上司と部下の関係は、部下の仕事へのモチベーションに大きく影響します。上司と部下が良好な関係であれば、仕事の内容や福利厚生などに多少の不満があっても働き続けることができます。
しかし、上司と部下の関係が悪化すると、仕事におけるあらゆる不満を我慢することが難しくなり、退職したい気持ちが強くなります。上司と部下の関係が悪化する原因として、フィードバックやコミュニケーションの不足、スキル向上やキャリアアップに関する十分なサポートの欠如が挙げられます。
特に若い世代は、継続的なフィードバックやサポートが必要と感じています。また、上司からの感謝や称賛の言葉は、部下の仕事へのモチベーション維持に大きく影響しています。上司は、部下と日頃からコミュニケーションを密にし、相互理解を深める努力が不可欠といえるでしょう。
成長機会の不足
優秀な人は、常に自身の成長を求めているため、今の仕事で成長の限界を感じると、転職を視野に入れ始める可能性が高くなります。会社は、社員にキャリアパスを示し、スキルアップのための研修や、昇進の機会などを積極的に提供する必要があります。
また、個々の社員のキャリア目標を理解し、それに合わせた成長機会を提供することで、優秀な人の退職を防ぐことができます。
給与や福利厚生への不満
優秀な人は、自身の市場価値を高く評価しており、それに見合った待遇を求める傾向があります。給与への不満は、必ずしも退職の直接的な原因ではありません。しかし、給与に満足していれば多少の不満は我慢できても、給与に不満があると、他の不満も大きく感じられ、退職を考えるきっかけになる可能性があります。
給与や福利厚生が、優秀な人の退職の直接的な原因となることは少ないものの、他の不満と組み合わさることで、退職の決定打となる可能性があります。
会社は優秀な人に見合った給与を与える必要があります。さらに、優秀な人にとって、魅力的な福利厚生を提供することで、優秀な人の退職を防ぐことができるでしょう。
退職連鎖が企業に与える影響とは

同論文を参考に、退職連鎖が企業に与える影響について解説します。
退職連鎖が起こる理由
退職連鎖とは、一人の社員の退職をきっかけに、他の社員も続けて退職してしまう現象です。同僚が退職すると、残った社員は「もっと良い環境で働けるのではないか」「今の会社にいても成長できないのではないか」といった疑問が湧き上がり、今の状況を悪く感じてしまう傾向があります。
さらに、退職した同僚が、より良い条件の会社に転職した場合、その情報は残された社員にとって大きな刺激となります。結果として、転職活動への意欲が高まり、退職の連鎖へと発展していくのです。
特に、会社への愛着心が低い社員は、優秀な人の退職に流されやすい傾向があります。会社への愛着心を高めるには、職場環境の改善や、社員同士の良好な関係構築などが重要となります。
退職連鎖を止めるべき理由
優秀な人は、会社の業績に大きく貢献するため、退職は業績の低下に直結する可能性があります。優秀な人の退職による退職連鎖を止めるべき理由は、主に以下の3つです。
- 人材確保のためのコストがかかる
- 知識や経験といった資産を失う
- 退職連鎖が起こる
優秀な人の退職は、新たな人材確保のための採用や研修など一人前の仕事ができるまでの採用コストや教育コストがかかります。そのため、人材の維持は、会社にとって費用対効果が高いといえるでしょう。
また、優秀な人は、会社にとって貴重な知識や経験を保有しています。優秀な人の退職は、これらの資産の喪失を意味し、会社全体の能力低下につながる可能性があります。
先述のとおり、優秀な人の退職は、他の社員のモチベーション低下やさらなる退職の連鎖を引き起こす可能性があります。これは会社に悪影響を及ぼし、企業全体の士気を低下させる要因となります。
会社は、優秀な人を適切に評価し賞賛し、福利厚生を継続的に見直して整え、優秀な人が働きやすく、やりがいを感じられる環境をつくることが重要です。
優秀な人が辞めがちな職場の特徴

優秀な人は、自身の能力を最大限に発揮できる環境を求めています。職場環境に不満を感じると、より良い条件を求めて転職してしまう可能性が高まります。同論文を参考に、優秀な人が辞めがちな職場の特徴について解説します。
職場環境が悪い
職場環境が悪いと、優秀な人は退職を考えるようになります。先述したとおり、職場環境の中でも、上司と部下の関係悪化が職場環境悪化の大きな要因とされています。上司が部下に適切なフィードバックを与えず、スキル向上や業務のサポートを怠ると、部下は不満を募らせ、職場環境全体をネガティブに捉え始めます。
上司への不満が募ると、仕事へのモチベーション低下につながり、結果的に職場全体の不満に耐えられなくなり、退職を考えるようになってしまいます。
職場環境の悪化は、優秀な人にとって大きなストレスとなり、より良い環境を求めて転職へと駆り立てられるのです。
成長をサポートしない
優秀な人は、現状維持に甘んじることなく、常に自身の成長を求めています。そのため、社員の成長をサポートしない会社は、優秀な人が辞めやすいといえます。
たとえば、昇進の機会が限られていたり、スキルアップのための研修制度が整っていなかったり、新しいことに挑戦できる機会が少なく、日々同じ業務ばかりを任されたりする場合も、成長意欲の高い人材にとっては大きな不満となります。
上司の育成が不十分な職場
※会社の育成システムに問題があるといった内容です
上司のマネジメントスキル不足は、優秀な人の退職に間接的に影響を及ぼします。上司は優秀な人材を維持する最前線に立つ存在であり、適切な教育を受けることが最も効果的かつ低コストな人材戦略といえます。
管理職としての教育を十分に受けていない上司は、部下のモチベーションを高めたり、適切なフィードバックを行ったりすることができません。
また、上司が部下との関係構築の重要性を理解していない場合、部下は職場に居づらさを感じ、退職を選択する可能性があります。部下を育成するために必要なスキルは以下のとおりです。
- マネジメント
- コミュニケーション
- リーダーシップ
- ロジカルシンキング
- 目標管理能力
上記のスキルを習得するためには、企業が管理職向けの研修プログラムを実施し、管理職の育成スキルを強化する必要があります。
参考:
優秀な人を辞めさせないための5つの方法

優秀な人を辞めさせないための5つの方法について、ハーバードビジネスレビューに掲載されているウェイル・コーネル医学部の准教授であるルース・ゴティアン氏による記事を参考に解説します。
感謝の気持ちを示す
優秀な人は、成果を出すことに集中しており、賞賛を求めてアピールすることは少ない傾向があります。しかし、優秀な人も自身の成果や努力が認められ、称賛されることを強く望んでいます。優秀な人への感謝の気持ちを示すためには、具体的な成果に対して賞賛することが重要です。
たとえば、優秀な人の仕事ぶりの例として、難しい業務へ献身的に努力したり、トラブルに対する策を講じたり、部下のサポートをしたりして期待以上の成果を出すことがあげられます。大きな成果に比べて、見過ごされがちな小さな成果に対しても、具体的に称賛しましょう。
称賛は必ずしも公にする必要はありません。感謝の言葉や心のこもったメモ、ミーティングや朝礼での表彰など、個人の好みに応じた適切な方法を選ぶことが重要です。
成果や努力への称賛は、本人のモチベーション向上だけでなく、チーム全体にも好影響を与えるとされています。
チャレンジの機会を与える
優秀な人は現状に満足せず、常に成長を求めているため、チャレンジの機会を与えることが大切です。優秀な人は、困難な課題や新しい役割を通じて、自身の能力を伸ばすことを望んでいます。
そのため、優秀な人にとって魅力的な機会を提供するには、まず強みや情熱、長期的な目標を深く理解する必要があります。定期的な面談や日常的な会話を通して、優秀な人が持つ関心や伸ばしたい領域を把握し、それに合った挑戦的な業務を任せると良いでしょう。
単に難しい業務を任せるだけでなく、成功に必要なリソースや裁量権を提供することが重要です。
また、進捗状況を把握し、必要なサポートを提供することで、会社が優秀な人の成長を真剣に考えていることを示すことができます。
優秀な人が情熱を注げる分野で能力を発揮できる環境を整えることが、優秀な人の定着につながります。
明確なキャリアパスを提示する
優秀な人は高い目標を設定し、努力を成果につなげたいと考えています。そのため、優秀な人を惹きつけ続けるには、明確なキャリアパスの提示が不可欠といえます。
優秀な人は、漠然とした将来像ではなく、具体的なキャリアパスを求めています。 単にスキルを習得するだけでなく、そのスキルがどのように昇進につながるのかを知りたいと思っています。
そのため、定期的なキャリア面談を通して、次のステップや必要なスキル、目標などを明確に示す必要があります。優秀な人の野心や目標を深く理解し「どんなチャレンジにワクワクするか」「どんなスキルで成果を向上できるか」といった質問を通して、将来の成長について共に考えることが重要です。
具体的な目標設定や、目標達成へのサポート体制を整えることで、会社が優秀な人の成長に真剣に取り組んでいることを示したり、更なる成長意欲を高め、会社への愛着心を高めることにつながります。
裁量を与える
優秀な人は、能力を信頼され、自律的に仕事を進めたいと考えています。自律的とは、与えられた裁量の中で、自身で考えて行動できることです。優秀な人は、細かく管理されることを好まないため、できる範囲で裁量を与え、優秀な人に問題解決や業務遂行を任せると良いでしょう。
ただし、ただ任せるだけでなく、最初に明確な期待値を共有することが重要です。達成すべき結果を明確に示し、その過程は彼らに委ねることで、自律性と責任感を高められます。
定期的な進捗確認は必要ですが、それは管理ではなくサポートのために行うべきです。「あなたならできると信じている」といった言葉をかけることで、彼らの独立性を尊重し、モチベーションを高めることができるでしょう。
会社の価値観と一致させる
優秀な人は、自身の価値観と会社のミッションの一致を求めており、会社と個人の価値観が一致すると、優秀な人のエンゲージメントが向上し、創造性や生産性も高まる傾向があります。
優秀な人にとって、自身の価値観を仕事で実践できる環境は、大きなモチベーションとなります。そのため、優秀な人の仕事への情熱を理解し、会社全体の目標とのつながりを明確にする必要があります。
「仕事で最もエネルギーを得る部分は何か」「会社で一番共鳴するミッションは何か」といった質問を通して、彼らの価値観や仕事の意義を探ると良いでしょう。上司は、優秀な部下が意義のある仕事に取り組めるよう導く必要があります。
参考:
社員のモチベーションを維持する方法

退職者が続く職場では、残された社員のモチベーションが低下する恐れがあります。退職連鎖を防ぐためにも、残された社員のモチベーションを維持することが大切です。
社員のモチベーションを維持する方法について、ハーバードビジネスレビューに掲載されているエグゼクティブコーチであるレベッカ・ザッカー氏による記事を参考に解説します。
信頼できる体制を構築する
退職者が続くと、残された社員は不安を感じ、会社の将来に疑問を抱く傾向があります。不安定な状況を解消するために、上司は部下が会社を信頼できる体制を構築する必要があります。
具体的には、会社の方向性や戦略、そして上司自身の立場について、明確かつ正直に伝えることが重要です。曖昧な情報や先延ばしは、不安を増幅させるだけなので避けるべきでしょう。
たとえば、「近いうちに分かる」ではなく、「〇日までに情報を集めて共有する」のように、具体的な行動とスケジュールを示すことで、信頼感を高めることができます。
また、リーダー自身の去就についても、率直に伝えることが大切です。もし残留するのであれば、はっきりとその意思を表明することで、チームに安心感を与えられます。
変化の激しい時代において、不確実性は避けられません。しかし、上司が透明性のある情報発信と誠実な対応を心掛けることで、部下の不安を軽減し、安定した土台を作ることができます。
ヒアリングをする
退職者の増加に伴い、残された部下の業務負担が増加する可能性があります。そこで、上司は個々の状況を把握し、適切なサポートをするために、積極的にヒアリングをしましょう。
定期的な面談や 普段の会話を通して、以下のようなヒアリングを行いましょう。
- 部下が現在どのような業務を抱えているか
- 困っていることは何か
- 業務の優先順位はどう考えているか
部下の意見に耳を傾けることで、業務の偏りや過剰な負担を早期に発見し、適切な対策を講じることができます。また、部署全体の業務量と処理能力を把握することも重要です。もし作業量を超えている場合は、部下と協力して優先順位を見直したり、リソースの追加を検討する必要があります。
自分たちの意見が尊重され、業務の割り振りや優先順位に反映されていることは、部下のモチベーションや主体性を高めることにつながります。
自律性を高める
メンバーの自律性を高めることで、モチベーションを高めることができます。自律性とは、自分で業務の進め方、スケジュールなどをコントロールできる状態を指します。上司は、部下にタスクを割り当てるだけでなく、「いつ」「どこで」「どのように」仕事を進めるかについて、裁量を与えるようにしましょう。
たとえば、リモートワークの導入やフレックスタイム制の活用など、会社が対応できる範囲で、柔軟な働き方を促進することで、部下の自主性を高めることができます。
また、意思決定に関しても、部下の意見を積極的に取り入れることが重要です。プロジェクトの選択やチーム編成など、可能な範囲で部下に決定権を与えることで、責任感とモチベーションを高めることができます。
部下の反論を許容する
部下が自由に意見を述べられる雰囲気づくりを心掛け、特に「反論」を許容する姿勢が重要となります。部下は、上司の指示や提案に対して、疑問や反対意見を持つかもしれません。しかし、上下関係や立場を気にして、本音を言えないケースも多いでしょう。
このような状況では、誤った判断や非効率な作業につながりかねません。上司は、部下に「ノー」と言う権利があることや、反論や異議を表明しても良いことを明確に伝えましょう。そして、実際に反論があった際には、相手の意見に耳を傾け、真摯に受け止めることが重要です。
反論を許容する文化は、一朝一夕には築けません。上司が率先して反対意見を求め、建設的な議論を促すことで、部下の心理的な安全性を高め、会社全体の結束力を強めることができます。
部下が働きやすい環境を作る
退職者が増えると、残された社員の業務負担が増えるため、上司は、上層部や他部署からの要求やタスクを精査し、部下が働きやすい環境を作ることが大切になります。
具体的には、上層部や他部署からの依頼に対して、必要に応じて断ったり、優先度の高いタスクが終わり次第取り掛かったりする必要があります。安易にさまざまなタスクを引き受けてしまうと、部下の負担が増え、モチベーション低下や更なる退職につながる可能性があります。
部下が働きやすい環境をつくるには、まず部署のキャパシティを正確に把握することが重要です。そして、受け入れるタスクと断るタスクの明確な基準を設け、チーム全体で共有しましょう。
「今はリソースが不足しており、このタスクを引き受けるのは難しい」といったように、具体的な理由を添えて断ることで、相手への配慮を示しつつ、部下を守ることができます。
良好な関係を築く
退職が続いている職場では、残された社員の間に不安や孤独感が蔓延しやすくなります。上司は、残された社員と良好な関係を築くことで、このようなネガティブな感情を払拭し、モチベーションを維持する必要があります。
良好な関係を築くためには、仕事上の連携だけでなく、よりプライベートな会話を取り入れることが効果的です。たとえば、会議の冒頭でアイスブレイクとして雑談を取り入れたり、部下とのランチを開催することで、社員同士のコミュニケーションを促進しましょう。
職場に親しい仲間がいると感じられれば、仕事へのモチベーションが高まり、困難な状況にも立ち向かいやすくなります。リーダーは、残された社員と良好な関係を築くことで、退職の連鎖を防ぎ、組織全体の活性化を図ることができるのです。
参考:
まとめ
優秀な人が辞めることは、会社にとって大きな損失となります。また、優秀な人の退職により、退職連鎖が起きると人材確保のための採用コストや教育コストがより大きくなってしまいます。
優秀な人の退職を防ぐためには、上司との関係構築やキャリアパスの提示、できる範囲で裁量を与えることなどが有効といえます。万が一、優秀な人が退職した場合には、残った社員のモチベーションや会社への愛着心を高めることに注力しましょう。
優秀な人がやりがいや成長を感じられる環境や福利厚生を整えて、優秀な人の退職連鎖を食い止め、企業の成長を守りましょう。