「最近の若手はすぐに辞めてしまう」「どう育成すればいいのかわからない」

企業の経営者や人事担当者、管理職の方々から、このような悩みを多く聞かれます。変化の激しい時代において、企業の未来を担う若手社員の育成は、これまで以上に重要な経営課題となっています。

しかし、旧来の価値観や育成方法が通用しづらくなっているのも事実です。では、どうすれば若手社員の定着率を高め、自律的に成長する組織を作れるのでしょうか?

この記事では、まず国内の調査データから若手社員を取り巻く現状と課題を明らかにします。その上で、「なぜ育成がうまくいかないのか」という根本原因を分析し、海外の教育機関や研究機関で効果が実証されている育成ノウハウを、明日から実践できる具体的な形でご紹介します。

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【データで見る】若手社員の早期退職に悩む企業は少なくない

若手社員の人材育成と若手社員の早期退職は関連しています。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査では、退職理由として「上司・同僚との人間関係」「評価・処遇への不満」と並び、「キャリア成長が望めない」という項目が上位に挙げられています。

また、同調査では、新入社員が上司に期待することとして、「一人ひとりを見て、個別の関わりをしてくれること」「意見や考えに耳を傾け、受け止めてくれること(傾聴・受容)」といった、個別性の高い、丁寧なコミュニケーションを求めている傾向が明らかになっています。

これらのデータから、現代の若手社員は、単に業務スキルを教わるだけでなく、「この会社で働き続けることで、自分はどのように成長できるのか」というキャリアの見通しと、自分という個人に向き合ってくれる「心理的なつながり」を強く求めていることがわかります。

参考:

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2024」の分析結果を発表」

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なぜ若手育成はうまくいかないのか?

若手社員の育成において、担当者が直面している壁は、大きく3つのパターンに分類できます。これらは、良かれと思って行っている施策が、意図せず若手の成長を阻害してしまっているケースです。自社に当てはまるものがないか、チェックしてみてください。

OJTの形骸化と「放置」

多くの企業で育成の主軸となっているOJT(On-the-Job Training)。しかし、その実態は「とりあえず現場に配属して、見て覚えさせる」という、いわゆる「OJTという名の放置」になっていないでしょうか。

現場の先輩社員も自身の業務で手一杯で、新人の育成に十分な時間を割けない。教える内容も担当者によってバラバラで、育成が属人化してしまう。その結果、若手社員は「何を質問していいかわからない」「自分は放置されているのではないか」という孤独感と不安を抱え、成長の機会を失ってしまいます。効果的なOJTには、明確な育成計画と、教える側のトレーニング、そして育成を評価する仕組みが不可欠です。

「べき論」と経験の押し付け

「若いうちは苦労すべきだ」「俺たちの時代はこうだった」といった、上司や先輩の成功体験に基づく「べき論」は、若手社員のモチベーションを著しく低下させる要因となります。育ってきた時代背景や価値観が異なることを理解せず、一方的に自分たちのやり方を押し付けることは、単なる時代錯誤に留まりません。

若手社員は、自分なりの考えや仕事の進め方を否定されたと感じ、挑戦する意欲や主体性を失ってしまいます。育成担当者に求められるのは、過去の成功体験を語ることではなく、若手社員の価値観を尊重し、彼らが自ら答えを見つけられるようにサポートする「コーチング」の視点です。

キャリアパスの不透明性

先の調査データでも示された通り、若手社員は自身のキャリア成長に強い関心を持っています。しかし、多くの企業では「この会社で働き続けて、3年後、5年後にどのようなスキルが身につき、どのような役割を担えるのか」というキャリアパスが具体的に示されていません。

目の前の業務に追われる中で、将来のキャリアが見えない状態は、「このままでいいのだろうか」という漠然とした不安につながります。企業側が、多様なキャリアの選択肢を提示し、社員一人ひとりのキャリアプランニングを支援する姿勢を見せることが、エンゲージメントを高め、長期的な定着と成長を促す鍵となります。

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若手社員の育成に必要な「経験学習モデル」の理解

では、具体的にどのようなアプローチが有効なのでしょうか。その根幹となる考え方が、米国の教育理論家デイビッド・コルブが提唱した「経験学習モデル」です。

これは、「人は経験から学ぶ」というプロセスを体系化したもので、若手の自律的な成長を促す上で非常に重要なフレームワークです。

経験学習モデルは、以下の4つのステップを循環させることで学習が促進されると説いています。

具体的経験 (Concrete Experience)

まずは、具体的な業務に挑戦させます。少し背伸びするくらいの「ストレッチ」な課題を与えることが効果的です。

内省的観察 (Reflective Observation)

挑戦した経験について、「何が起こったか」「なぜうまくいったのか/いかなかったのか」「どう感じたか」を客観的に振り返らせます。ここで重要になるのが、上司による1on1ミーティングなどでの対話です。

抽象的概念化 (Abstract Conceptualization)

振り返りから得られた気づきを、他の場面でも応用できるような教訓や法則、自分なりの「勝ちパターン」として一般化・概念化させます。

能動的実験 (Active Experimentation)

概念化した教訓を、次の新しい課題や実践の場で試してみます。そして、それがまた新たな「具体的経験」となり、サイクルが続いていきます。

多くの育成が失敗するのは、ステップ1の「経験」をさせて、ステップ2以降の「振り返り」や「概念化」を本人任せにしてしまうからです。企業や上司の役割は、この学習サイクルが円滑に回るように、特にステップ2と3を意図的にサポートすることにあります。

このモデルを念頭に置くことで、次に紹介する具体的なノウハウの効果を最大化することができます。

参考:

Kolb, A. Y., & Kolb, D. A. (2021). The Kolb Experiential Learning Profile: A guide to experiential learning theory, KELP psychometrics and research on validity. Experience Based Learning Systems, LLC.

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明日から実践できる若手社員育成の方法

ここからは、海外の大学などでその有効性が報告されている、より実践的な育成ノウハウを紹介します。経験学習モデルを加速させるための具体的なアクションとして、ぜひ取り入れてみてください。

成長を促すフィードバックの技術「SBIモデル」

フィードバックは育成の要ですが、「もっと頑張れ」といった抽象的なものでは行動につながりません。そこで有効なのが、米国の非営利研究機関Center for Creative Leadership (CCL)が提唱する「SBIモデル」です。これは、フィードバックを以下の3つの要素で構成する手法です。

S (Situation): 状況

いつ、どこでの出来事だったかを具体的に特定します。これにより、話の前提が明確になり、相手はフィードバックの内容を思い出しやすくなります。

例: 「先週火曜日の、A社との定例会議の時だけど…」
例: 「月曜の朝イチで君が提出してくれた、あの企画書の件で…」

B (Behavior): 行動

評価や解釈(「良かった」「悪かった」)を挟まず、相手が「実際に行った行動」を、まるでビデオカメラで撮影したかのように客観的に描写します。

例: 「君がプロジェクトの進捗データを説明している時に、各スライドで結論を先に述べてから詳細を話していたね。」
例: 「クライアントから質問があった際、すぐに『確認します』と答える前に、まず相手の質問の意図を『〇〇という認識で合っていますか?』と確認していましたね。」

I (Impact): 影響

その行動が、自分やチーム、顧客、組織にどのような「影響」を与えたかを具体的に伝えます。ここを伝えることで、相手は自分の行動の価値や意味を理解できます。

例: 「その話し方のおかげで、A社の担当者も非常に理解しやすかったようで、『論点が明確で助かります』と言っていたよ。会議がスムーズに進む大きな要因になったと思う。」

例: 「先に意図を確認してくれたことで、認識のズレがなくなり、その後のやり取りが非常にスムーズに進んだんだ。手戻りが防げて、チーム全体の時間短縮に繋がったよ。」

SBIモデルは、単なるコミュニケーションの「テクニック」ではありません。相手への敬意を払い、その成長を真に願うという「マインドセット」があってこそ、その真価が発揮されるのです。ぜひ、日々のコミュニケーションに取り入れてみてください。

参考:

Center for Creative Leadership「A Simple Model for Effective, Actionable Feedback: SBI」

やらされ感からの脱却「ジョブ・クラフティング」

若手社員が「この仕事は自分にとって意味がある」と感じることは、エンゲージメントに直結します。オランダ・アムステルダム自由大学(Vrije Universiteit Amsterdam)のサブリーヌ・エル・バルーディ氏らによる研究によると、「ジョブ・クラフティング」は、社員が自らの意思で仕事の捉え方や進め方を主体的に変えていくアプローチとされています。

具体的には、ジョブ・クラフティングは以下の3つの側面から仕事を見直し、再構築することを促します。

タスク・クラフティング (Task Crafting)

担当業務の範囲や進め方を工夫します。例えば、定型業務を自動化するツールを独学で作成したり、新しい分析手法を取り入れたりするなど、仕事の内容そのものを主体的に変化させます。

リレーショナル・クラフティング (Relational Crafting)

仕事で関わる人々との関係性を工夫します。普段あまり話さない他部署のキーパーソンと積極的にランチに行く、メンターを見つけてアドバイスを求めるなど、人間関係の質と範囲を広げます。

コグニティブ・クラフティング (Cognitive Crafting)

仕事の意味や目的の捉え方を変えます。例えば、単なるデータ入力作業を「会社の重要な意思決定を支えるための土台作り」と捉え直すことで、仕事のやりがいや社会的な意義を再認識します。

上司は、1on1などを通じて「今の仕事で、もっと面白くできそうな部分はないか」「誰と関わると、仕事がやりやすくなりそうか」といった問いを投げかけ、社員自身がジョブ・クラフティングを実践するきっかけを作ることが重要です。

参考:

El Baroudi, S., & Khapova, S. N. (2017). The effects of age on job crafting: Exploring the motivations and behavior of younger and older employees in job crafting. In R. Benlamri & M. Sparer (Eds.), Leadership, innovation and entrepreneurship as driving forces of the global economy (pp. 485–505). Springer. https://doi.org/10.1007/978-3-319-43434-6_42 

挑戦を奨励する「心理的安全性」の醸成

「チームの心理的安全性」という言葉を生み出したハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー C. エドモンドソンによれば、心理的安全性とは、メンバーが失敗や疑問を安心して共有できる状態を指します。

これを高めるには、ミスを責めず「何を学んだか」と問いかける姿勢が大切で、率直な意見を歓迎し、異なる視点に耳を傾ける文化づくりが求められます。

リーダー自身が失敗を開示し、学びを共有することで、継続的な改善とチームの成長が促されます。心理的安全性が高いチームは、エンゲージメントや創造性、パフォーマンスも向上するとされています

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「心理的安全性とは何か、生みの親エイミー C. エドモンドソンに聞く」

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若手育成を「仕組み」にするための3ステップ

最後に、これまで紹介したノウハウを場当たり的なもので終わらせず、組織的な「仕組み」として定着させるための3つのステップをご紹介します。

ステップ1:期待役割の明確化と目標設定

まず、会社として若手社員に「いつまでに、どのような状態になってほしいのか」という役割を明確に定義します。その上で、本人と上司が1on1などで対話し、個人のキャリア志向も踏まえた目標(KGI/KPI)を設定します。目標は、SMART(具体的、測定可能、達成可能、関連性、期限)を意識して立てることが重要です。

ステップ2:育成施策のポートフォリオ設計と実行

設定した目標を達成するために、どのような育成施策が必要かを設計します。OJT、Off-JT(研修)、1on1ミーティング、メンター制度、eラーニングなどを組み合わせ、個々の社員に最適化された育成のポートフォリオを組みます。ここで紹介したSBIモデルやジョブ・クラフティングといったノウハウを、各施策の中に具体的に組み込んでいきます。

ステップ3:定期的な効果測定と計画の見直し

育成は「やりっぱなし」では意味がありません。3ヶ月や半年に一度、目標の達成度やエンゲージメントの変化(パルスサーベイなどで測定)、本人の満足度などを定期的に測定します。その結果に基づき、育成計画を柔軟に見直していくことが、施策の効果を最大化し、社員一人ひとりの成長に寄り添うことにつながります。360度評価などを導入し、多角的な視点から成長を可視化することも有効です。

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まとめ

本記事では、国内のデータから若手育成の現状と課題を捉え、育成がうまくいかない原因を分析し、海外の研究に基づいた具体的な5つのノウハウと、それを仕組み化するステップを解説しました。

これからの時代に求められる若手育成は、上から下に教え込む「管理」的なアプローチではありません。社員一人ひとりの個性と価値観を尊重し、彼らが自律的に経験から学び、成長していくプロセスを横から支える「支援」的なアプローチへの転換が不可欠です。

心理的安全性の高い環境で、効果的なフィードバックを受けながら、主体的に仕事の意味を見出していく。若手社員がこのような経験を積める企業は、離職率が低下するだけでなく、変化に強く、イノベーティブな組織へと進化していくはずです。

若手社員は、会社の未来そのものです。彼らの可能性を最大限に引き出すことこそが、企業にとって最も価値のある投資と言えるでしょう。この記事が、貴社の若手育成をアップデートする一助となれば幸いです。