「テレワークの運用が難しく、廃止すべきか迷っている…」
「テレワークをうまく運用するコツは?」
このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。近年ではコロナ禍が明けたこともあり、テレワークを廃止する企業が増えているといわれています。しかし、テレワークは企業と従業員の双方にとってメリットのある働き方であり、制度を廃止することが必ずしもプラスに働くとは限りません。
本記事では、テレワークを廃止することで起こりうる弊害や、テレワークを適切に運用するコツを解説します。組織の業績や生産性を落とすことなく、テレワークの運用を継続させたい方は、ぜひ参考にしてください。
テレワークを廃止する企業が増えている?

米国アマゾン社が世界中の従業員に対し、2025年1月よりテレワークを廃止し、「原則週5日オフィスへの出社」を義務付けたことに衝撃を受けた方も多いはずです。アマゾンに限らず、日本国内でもコロナ禍が明けたことで「オフィス回帰」の流れが強まっているといわれていますが、実際はどうなのでしょうか。
以下は、パーソル総合研究所が実施した「テレワークに関する定量調査」の結果の一部をまとめたものです。
▼テレワーク実施率の推移
年 | テレワーク実施率 |
---|---|
2021年 | 27.5% |
2022年 | 28.5% |
2023年 | 22.2% |
2024年 | 22.6% |
たしかに上記の結果を見ると、依然としてテレワーク制度を導入している企業は多いものの、ピークである2022年と比べると大きく減少していることがわかります。参考までに、企業がテレワークを廃止する理由について、東京都の調査によると以下のような意見が多数挙げられたといいます。
- コロナの感染状況が落ち着いたため(81.6%)
- コミュニケーションに不安があるため(51.3%)
- 従業員間に不公平感が生じるため(44.7%)
- 対面の方が業務管理しやすいため(36.8%)
- 従業員の労務管理に支障があるため(33.6%)
なお、テレワークは企業側・従業員双方にとってメリットの多い働き方であり、いきなり制度を廃止すると、何らかの弊害が生じる可能性があります。
そのため、安易にテレワークを廃止せず、制度をうまく運用するにはどうすればいいのかを、各企業が考えていくことが大切です。
参考:
TOKYOはたらくネット「多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」
テレワークを廃止することで起こりうる弊害

テレワークの制度を廃止することで、企業が被る恐れがある弊害について解説します。
余計なコストが増える
テレワークには、オフィスに出社することで発生し得るさまざまなコストを抑制する効果があるとされています。以下は、「テレワーク・デイズ2019*」の実施による削減コストをまとめたものです。
- 事務⽤紙の使⽤量:38.1%削減
- 会議室・会議スペースの稼働率:42.9%削減
- 旅費・交通費:9.6%削減
- 残業時間:44.6%削減
もしテレワークを廃止すると、上記以外にもオフィスでの水道・光熱費や家賃などのコストも上乗せされると考えられる
*テレワーク・デイズ2019:2020年東京オリンピックの開催に先立ち、交通混雑の解消を目的に、全国でテレワークの一斉実施を呼びかけた国民運動プロジェクト。約1,682団体、30万人が約1ヶ月間にわたり参加した
離職率がアップする
「働きやすい職場」を求める従業員にとって、テレワークはさまざまなメリット(通勤が不要、仕事と育児を両立しやすいなど)がある働き方です。そのため、会社側の都合で安易にテレワークを廃止してしまうと従業員の不満を招き、最悪の場合は離職率のアップにつながりかねません。
以下は、転職・求職サイトを運営するファインディ株式会社が、エンジニアを対象に実施した調査の結果の一部をまとめたものです。こちらはエンジニアに対する調査結果ですが、ほかの業種や職種でも同様の傾向がみられると考えられます。
▼Q.「オフィス出社の割合が増加したことによる転職意欲の影響はありましたか?」
- 「転職意欲なしだったが出社割合の増加によって転職意欲ありになり、現在転職活動中である」:27.6%
- 「転職意欲なしだったが出社割合の増加によって転職意欲ありになり、実際に転職した」:17.2%
上記の結果をみると、もともと会社に対してとくに不満をもっていない社員でも、テレワークが廃止されたことで不満を感じ始め、最終的には離職してしまうケースが十分に起こり得るといえます。
若い人材が集まらない
株式会社識学が20~30代の若手社会人を対象に実施した調査によると、「現在働かれている中で最も重要だと感じる環境は何ですか?」との問いに、34.5%が「ワークライフバランス」と回答しています。
近年の若者は、幼少期からインターネットでさまざまな情報に触れているため、興味関心の幅が広く、仕事以外にも人生の楽しみを見出す傾向が強いのかもしれません。
そして、テレワークはワークライフバランスを充実させるのに有効な制度の1つであり、テレワーク制度の有無は自社への志望度を大きく左右する要素になり得ます。株式会社学情が20代を対象に実施した調査でも、「転職活動において、「テレワーク」の制度があると志望度が上がりますか?」との問いに、81.3%が「上がる」と回答しています。
近年では少子高齢化の影響もあり、優秀な若手人材の確保が喫緊の課題となっている企業が多いはずです。若者にとって自社が働きやすい場所であることをアピールするためには、テレワークの制度を完全に廃止するのは得策ではないかもしれません。
参考:
ITmedia NEWS「ITエンジニアの4割超が「出社増えたら転職する」 オフィス回帰の企業は増加中」
PR TIMES「【今の若手が求める環境とは?若手の働く環境に関する調査】」
PR TIMES「【20代意識調査】「テレワーク」の制度があると志望度が「上がる」が50.8%。テレワークの希望頻度は「週に3~4回」が最多」
テレワークをうまく運用するポイント

テレワークの制度を廃止せずに、うまく運用するためのコツを解説します。
テレワークとオフィス出社を組み合わせる
以下のように、オフィス出社とテレワークにはそれぞれの良さがあり、優劣を一概に決められるものではありません。
オフィス出社のメリット | テレワークのメリット |
---|---|
・コミュニケーションが取りやすい・チームのメンバーや他部署との連携が取りやすい・業務進捗が把握しやすい・業務時間を管理しやすい(長時間労働やサボりが起こりにくい) | ・コスト(光熱費や人件費など)を削減できる・無駄な時間(通勤時間など)をなくせる・ワークライフバランス向上につながる・今後の非常事態(パンデミックや災害など)にも対応しやすい |
そのため、オフィス出社とテレワーク双方の利点を活かす方法として、「ハイブリッドワーク」を導入するのも一案です。
ハイブリッドワークとは、従業員がオフィス出社とテレワークを組み合わせることが可能な働き方です。ここで、世界的なオンライン旅行会社のトリップドットコムが実施した、ハイブリッドワークに関する実験を紹介します。
同実験では、対象者を「週5日オフィスに出社」するグループと「週3日オフィスに出社・2日テレワーク」するグループに分け、6ヶ月間働いた後に、それぞれの仕事の生産性やパフォーマンスの評価を行いました。
その結果、両グループの生産性やパフォーマンスには、ほとんど差が見られなかったといいます。また、後者のグループは6ヶ月間の実験を経て、生産性は1%向上し、仕事への満足度も高まり離職率が35%減少したとのことです。
もちろん、企業や個人によって差はあるでしょうが、ハイブリッドワークは会社にとっても従業員にとっても、メリットの大きい働き方だといえます。
なお、ハイブリッドワークを採用するにあたって、ただ「楽をしたい」「サボりたい」という理由だけで、テレワークばかりを選択する社員が現れてもおかしくありません。そのため、「週2日まで」「月10日まで」など、テレワークできる日数にはある程度制限を設けた方がよいでしょう。
雑談できる時間を設ける
テレワーク中はオフィスに出社した場合と比べると、従業員間で雑談する時間がどうしても減ってしまいます。そのため、Web会議ツールなどを活用し、テレワーク中でも意図的に雑談の時間を設けることが重要です。
職場での雑談には、従業員同士の関係を深め、会社の業績にも好影響をもたらす効果があるとされています。
以下の、一般社団法人日本能率協会(JMA)が実施した調査結果をみても、これは明らかです。
質問 | 「そう思う」と回答した割合 |
---|---|
職場メンバーと「雑談」することは、あなた自身の業務の創造性を高めることにつながっていると思いますか | 60.3% |
職場メンバーと「雑談」することは、あなた自身の職場における人間関係を深めることにつながっていると思いますか | 76.6% |
「雑談」があることは、あなた自身にとってプラスだと感じますか | 79.5% |
また、ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、Web会議の時間を活用して効果的な雑談をするためのポイントとして、以下の3点を挙げています。
ポイント | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
雑談を議題にする | いきなり雑談を始めると、人によっては迷惑に感じてしまう。雑談の意図や目的をあらかじめ共有することで、メンバーも主体的に参加しやすくなる | 「テレワークが始まってからメンバー間のコミュニケーションが減っているので、アイスブレイクから始めましょう」 |
会議を雑談から始める | 雑談によって参加者が互いに親しみを感じるようになる。メンバー間のつながりが強化されれば、より生産的な議論ができるようになる | 「本題に入る前に、まずはここ最近の楽しかったこと・うれしかったことを1人ずつ共有しましょう」 |
議論の起こる話題を取り入れる | 聞き手がただ話を聞くだけでなく、議論に参加できるような話題であれば、やり取りがより活発になると期待できる(政治や宗教など、人によって不快に感じる話題はNG) | 「2028年のオリンピックはロサンゼルス、2032年はブリスベンで開催されますが、2036年はどこになると思いますか?」 |
従業員を過剰に管理しない
テレワーク中は上司からの監視がないため、仕事をサボる者がどうしても出てくるでしょう。Job総研がテレワーク経験者を対象に実施した調査でも、「テレワーク中に仕事をサボった経験の有無」について尋ねると、65.4%が「ある」と回答しています。
そのため、テレワークを運用する際は部下がサボらないように、以下のような工夫を施すことも有効です。
- 日報を提出させる
- 進捗報告会をこまめに実施する
- ツールを用いて進捗を可視化する
- 監視ツールを導入する
ただし、部下の怠慢を防ぐ目的だとしても、上司が過剰に管理する「マイクロマネジメント」には陥るべきではありません。
マイクロマネジメントを受けた部下は「自分は上司から信頼されていない」と感じ、モチベーションやパフォーマンスの低下につながる恐れがあるからです。
人材派遣業を営むロバート・ハーフ社が実施した調査でも、マイクロマネジャーの下で働いたことがある人のうち、68%は「士気が低下した」、55%は「生産性が低下した」と主張しています。
したがって、テレワーク中は部下がサボらないようなルールを設けつつ、各自の自主性を重んじる姿勢を見せることも大切です。
最適な人事評価制度を確立する
テレワークでは従業員の業務の進捗や行動が見えにくい分、オフィス出社の頃と同様の人事評価制度では、従業員を適切に評価できない可能性が高いです。そのため、テレワークに合った、新たな人事評価制度を構築する必要があります。
たとえば、従業員の行動が見えないのなら、いっそ行動評価をやめ、成果だけを評価するのも一つの手でしょう(ただし、成果主義が企業文化に合わなければ、かえって従業員の不満を招く恐れもある)。
なお、どのような評価制度であれ、もっとも大切なのは明確な評価基準のもと、従業員を公平・公正に評価することです。公平・公正性に欠けた評価だと従業員が不満を感じ、モチベーションも低下する恐れがあるからです。
Job総研が実施した調査でも、「人事評価によって過去にモチベーションが低下した経験があるか」を尋ねたところ、78.7%が「ある」と回答しています。また、モチベーションが下がった原因としては、「評価の基準が不透明だったから(45.6%)」という意見が多く挙げられています。
上司の主観や偏見を極力排除し、部下を公平・公正に評価するためのコツとして、ハーバード・ビジネス・レビューの記事では「評価の根拠となるエピソードを少なくとも3つ以上挙げる」ことを推奨しています(下記参照)。
▼【具体例】「チームワークとリーダーシップ」に関する評価エピソード
・新人のAさんが新人の田中さんがスムーズにチームに適応し、早期に成果を上げられるように、「歓迎会を開催する」「週に1度フィードバック面談を実施する」「商談に同行させる」などの指導を行った。 ・B社とのプロジェクトにおいてプロジェクトリーダーを務め、各部門との調整やスケジュール管理を適切に行えていた。結果として、プロジェクトは予定通りに成功し、チーム全体の評価にもつながった。 ・チームミーティングを定期的に開催し、メンバー一人ひとりの意見や悩みを聞く機会を設けていた。これにより、メンバーのモチベーションの低下を防ぎつつ、チームの団結力の強化にもつながった。 |
テレワークの運用方法を社内で話し合う
ここまで本記事で説明してきた内容は一般論であり、すべての職場や人にあてはめることはできません。そのため、自社でテレワークを継続する方法について、各職場で最適な運用方法を話し合うことが重要です。
たとえば、同じ会社内でも事務職と営業職ではテレワークで対応可能な業務範囲が大きく異なるため、同一ルールで運用するのは難しいでしょう。また、「全員が同じ場所で働いた方が一体感が生まれる」という企業文化が根付いている職場であれば、テレワークを廃止しオフィス出社に回帰した方がよいでしょう。
なお、テレワークの運用方法について社内で議論する際は、他社で実際にテレワークの運用に成功している事例が参考になるかもしれません。
たとえば、大手製菓メーカーのカルビー株式会社では、テレワーク中のコミュニケーション不足を防ぐための工夫として、Web会議ツールを接続したままにして「まるでオフィスにいるかのような環境」を再現しているといいます。
テレワークによるコミュニケーション不足が課題となっている企業は、このような成功事例を参考にするとよいでしょう。