「昇進」と「昇格」は響きが似た言葉ですが、意味は大きく異なります。具体的な例も交えながら、両者の違いを詳細に説明します。本記事では、従業員の昇進・昇格に関するよくある悩みや、それを成功させるためのポイントも解説します。
「どの社員を昇進・昇格させるべきかわからない…」と悩む管理職の方は、ぜひ参考にしてください。
昇進と昇格の違い

「昇進」と「昇格」は言葉の響き自体は似ているものの、以下のように意味は大きく異なります。
- 昇進:職位や役職が上がること(例:「一般社員から主任へ」、「係長から課長へ」など)
- 昇格:階級や等級が上がること(例:「S1級からS2級への昇格」など)
昇進および昇格は、どちらも人事評価が優れている社員や、会社が定める基準(資格を取得する、試験に合格するなど)をクリアした者が対象となるのが一般的です。
なお、昇進と昇格は、必ずしも同時に行われるわけではありません。たとえば、一般社員が昇格試験に合格し、等級がS1級からS2級へ昇進したとします。しかし、会社が主任への昇進条件として「S3級以上」と定めていれば、役職自体は変わらず一般社員のままです。
昇給や昇任との違い
昇進や昇格と似たような言葉として、「昇給」や「昇任」も挙げられます。
- 昇給:給与が増えること(例:1年ごとに給与が一律で増える「定期昇給」、特定の成果や評価による「特別昇給」など)
- 昇任:主に公務員の役職や階級が上がること(「係長から課長補佐への昇任」など)
なお、昇進や昇格の対象となった従業員は、昇給も伴うのが一般的です。
従業員の昇進・昇格に関するよくある悩み

以下は、株式会社日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が、企業の昇進昇格審査に携わっている社員を対象に実施した調査結果の一部をまとめたものです。
▼Q. 昇進昇格審査に関して困っていること
回答 | 回答割合 | 困りごと |
---|---|---|
審査に客観性を確保すること | 61.0% | 昇進・昇格対象者の選定基準がわかりにくい |
管理職としての明確な期待人物像がないこと | 50.8% | 昇進・昇格対象者の選定基準がわかりにくい |
管理職比率やポスト数に制限があり空きがないこと | 51.3% | ポストに空きがなく昇進・昇格させられない |
昇進昇格前にリーダーとしての経験を積ませられないこと | 46.9% | ポストに空きがなく昇進・昇格させられない |
管理職としてふさわしい人材が少ないこと | 50.3% | 昇進・昇格させたい人がいない |
女性の管理職登用が進まないこと | 51.5% | 女性から昇進・昇格対象者を選ぶのが難しい |
上記の結果をもとに、従業員の昇進・昇格に関してよくある悩みを紹介します。
昇進・昇格対象者の選定基準がわかりにくい
JMAMの調査結果からも明らかなように、従業員の昇進・昇格に関する大きな悩みとして、「昇進・昇格対象者の選定基準がわかりにくい」点が挙げられます。
選定基準が不明瞭な場合、昇進・昇格するのに必要な能力やとるべき行動がわからないため、従業員は努力の方向性を定めにくいでしょう。また、上司や人事担当者の主観で昇進・昇格対象者を選ぶことになるため、一部の社員は不公平に感じる恐れもあります。
そのため、従業員の不満やモチベーションの低下を防ぐには、昇進・昇格対象者の選定基準を明確にすることが不可欠です。
なお企業によっては、従業員が「いかに仕事で成果を上げているか」を基準として、昇進・昇格対象者を選ぶところもあるでしょう。
しかし、チームの一員として働く社員と、チームを引っ張る存在であるリーダーとでは、必要な能力は大きく異なります。そのため、優秀な成績を収めている社員を昇進・昇格させたとしても、その人が必ずしもリーダーとして優れているとは限りません。
そのため、昇進・昇格対象者を選ぶ際は、対人能力や洞察力など、数値化できない要素も選定基準に含めることが重要です。
ポストに空きがなく昇進・昇格させられない
一般的に、会社では1つの役職や階級に就ける人数に限りがあり、そのポストに空きができて初めて昇進・昇格が可能になります。
つまり、どれほど優秀な従業員でも、ポストが空いていなければ昇進・昇格は基本的にできません。年功序列型の企業だと、ベテラン社員が上位の役職や階級を占めるケースが多いため、とくにこの傾向が強いでしょう。
米国マッキンゼー社が複数ヶ国で実施した調査によると、従業員が退職する最大の理由の1つは「キャリアアップの機会が満足に与えられないこと」とされています。つまり、従業員が昇進・昇格を望んでいるにも関わらず、それがいつまでも叶わなければモチベーションは低下し、最終的には離職につながる恐れがあるのです。
そのため、ポストに空きがない場合は、上司がその理由を説明し、従業員が納得できるようにすることが重要です。
その上で、リーダーになるために必要な教育を行ったり経験を積ませたりすることで、モチベーションが低下しないように働きかけることが大切です。
昇進・昇格させたい人がいない
社内で誰かしらを昇進・昇格させなければならないものの、適任がおらず対象者を選ぶのに苦労するケースも多いようです。
昇進・昇格させたい人材がいない要因の一つとして、「出世したい」「リーダーとして活躍したい」という意欲がなく、そもそも昇進・昇格を求めていない者が多いことが考えられます。将来リーダーとして会社を背負う意志がない社員を、昇進・昇格させるべきか悩んでしまうのも無理はないでしょう。
とくに、近年の若手社員は出世欲がない者が多いといわれています。転職系メディア「転職サイト比較plus」が20代の社会人を対象に実施した調査でも、「将来役職者になりたいと考えますか?」との問いに、「はい」と答えたのはわずか22.4%だったといいます。
以下は、出世を望まない理由として挙げられた主な意見です(括弧内は回答者の割合)。
- 責任のある仕事をしたくない(約26.6%)
- プライベートを大事にしたい(約23.2%)
- 会社内の地位に興味がない(約12.7%)
一方で、若手社員の中にも出世欲があり、モチベーション高く仕事に取り組んでいる者は少なからずいるはずです。たとえ現時点では能力に課題があったとしても、このような人材は会社にとって必要不可欠な存在であり、大切に育てていく必要があるといえます。
女性社員から昇進・昇格対象者を選ぶのが難しい
近年では女性の活躍を推進する社会的な背景から、女性管理職の割合を増やすよう会社から指示されるケースも多いでしょう。しかし、実際に女性管理職を増やそうとしても、その対象者を選ぶのは決して簡単なことではないはずです。
女性の管理職登用が難しい要因の一つとして、出産や育児などの事情から、「管理職になりたい」と考える人がそもそも少ない点が挙げられます。
人材紹介業を営む株式会社プロフェッショナルバンクが、上場企業の女性社員を対象に実施した調査でも、「将来、管理職に就きたいと思いますか?」との問いに、「そう思う」と答えたのはわずか22.4%でした。
管理職になりたがっていない女性社員を、「女性管理職の割合を増やしたい」という会社側の都合で昇進・昇格させるのは、当然好ましい状況とはいえません。
しかし、上記の調査結果からもわかるとおり、女性社員の中にも管理職を目指す人が少なからずいるのは間違いありません。また、本当は管理職を目指したいが、さまざまな事情から諦めざるを得なくなった人もいるでしょう。
そのため、女性社員でも管理職を目指しやすいように、男性とは異なる女性ならではの目線でキャリアプランを立てることが大切といえます。
参考:
日本能率協会マネジメントセンター「JMAM昇進昇格審査 実態調査2022」
ITmedia ビジネスオンライン「「将来、役職者になりたい」20代の2割 どこまで出世したい?」
PR TIMES「【上場企業の女性正社員約1,000名を対象とした女性活躍・管理職に関する意識調査】」
従業員の昇進・昇格を成功させるためのポイント

従業員の昇進・昇格を成功させるために、会社や上司が心がけるべきポイントを解説します。
リーダー向きの人材を早めに見極める
上司は従業員とこまめにコミュニケーションを取り、仕事の様子を観察することで、将来リーダーとなるべき人材を早めに見極めることが重要です。
リーダー向きの人材が早めにわかれば、優れたリーダーになるために必要な教育や経験を若手のうちに提供できるからです。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、従業員が「リーダーに向いているか」を見極めるためのポイントとして、以下の3点をチェックすることを推奨しています。
ポイント | 【例】チェック方法 |
---|---|
対象者は周囲と協調しながら仕事を進めているか(リーダーには対人能力も求められるため、個人スキルだけで成果を上げている者がリーダーに適任とは限らない) | 仕事で何かしら問題や悩みを抱えている社員に対し、自ら積極的に手を差し伸べようとしているか確認する |
対象者は「求めるリーダー像」に合致しているか(「独創的なアイデアを持つタイプ」「メンバーをうまく結束させるタイプ」など、リーダーにもさまざまなタイプが存在する) | 現在抱えている未解決の課題に対するアプローチ方法を観察し、「優れた独創性で事業を進化させる」というリーダー像に合致しているか確認する |
長期的な視点を持っているか(常に変化し続ける市場に対応するためには、未来を見据えた行動をとる必要がある) | 「5年後はどんな仕事をしたいですか?」と質問し、目先の仕事だけに追われることなく、長期的なキャリアプランを描けているか確認する |
ランク付けの人事評価だけに頼らない
リーダーにふさわしい人材を適切に昇進・昇格させるために、数値によるランク付けに頼らず、新たな人事評価手法を導入することが有効です。
従来のランク付けの人事評価では、数値化しやすい成果(獲得契約数や売上など)に焦点が当たりやすく、数値化しにくい能力(対人能力や洞察力など)を評価することが難しいからです。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、近年の米国では非ランク付けの人事評価手法を採用する企業が増えているといいます。以下は、ランク付けの代わりに実施されている評価手法の例です。
- 各評価項目について、数値ではなく自由記述形式でフィードバックを行う
- 日々のリアルタイムでのフィードバックを重視し、人事評価はその延長線上で実施する
上記のような評価手法であれば、従業員の能力を多角的に評価することができ、適切な人材を昇進・昇格しやすくなるでしょう。さらに同記事によると、従業員のランク付けを廃止することで、以下のような効果が期待できます。
- 従業員の協調性が向上する:高ランクを得るために、他者を蹴落とす必要がなくなるため
- 上司と部下のコミュニケーションが増える:人事評価よりも、日々のコミュニケーションが大切になるため。また、ランクを気にしなくなる分、率直な意見を伝えやすくなるため
- 評価の公平性が増す:数値ではなく文章で評価を行うことで、具体的な評価理由やエピソードを挙げやすいため
昇進・昇格したい理由を確認する
優秀な社員であっても、ポストに空きがなければ昇進・昇格できないケースは少なくありません。
このような状況では彼らのモチベーションが低下し、やがて離職する恐れがあるため、上司が早めに対策を講じることが重要です。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、会社側の都合で昇進・昇格ができない従業員がいる場合は、なぜ「昇進・昇格したい」と考えるのか、理由を確認することが重要といいます。
昇進・昇格が可能か否かに関わらず、コミュニケーションを取ることで「会社は自分の意見に耳を傾けてくれている」と実感させることができ、モチベーションの低下を防げる可能性が高いからです。
さらに、従業員が「昇進・昇格によって何を求めているか」がわかれば、適切な対処がしやすくなります。たとえば、「給料が増えること」を求めているのであれば、昇進・昇格できない場合でも、成果に応じた昇給やインセンティブの付与が有効でしょう。
また、「組織内での影響力を拡大させること」を望んでいるのであれば、
- 高役職者が多く参加する会議に出席させる
- 非公式のプロジェクトチームを結成し、そのリーダーに任命する
- 後輩や若手社員への指導・教育を担当させる
など、昇進・昇格前からリーダーらしい経験を積極的に積ませることが効果的かもしれません。
女性社員の目線でキャリアプランを立てる
近年では徐々に状況が変わりつつあるものの、依然として女性は出産や育児などの事情により、キャリアの中で壁にぶつかる機会がどうしても多いといわれています。
中には、本当は「リーダーや管理職として活躍したい」と考えているものの、ワークライフバランスを犠牲にはできず、やむなく昇進・昇格を諦めている女性社員も少なくないはずです。
このような状況を防ぐためには、男性とは異なる女性独自の目線でキャリアプランを立てる必要があるといえます。ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、女性社員の目線でキャリアプランを立てるためのポイントとして、以下の4点を提唱しています。
ポイント | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
昇進・昇格のペースは柔軟に対応する | 育児休暇や時短勤務など、一時的に働き方が変わっても、その人の成果や能力を評価し続ける | 産休・育休で1年以上職場を離れていた女性社員でも、育休明けに昇進・昇格試験を受けられるようにする |
キャリアプランについて話し合う | 育児や介護などで昇進・昇格を諦めることがないよう、キャリアプランを一緒に考え、積極的にサポートする | 産休・育休に入る女性社員と、育休明けにどのような計画で昇進・昇格を目指すのか、一緒に話し合う |
成長機会を提供する | リーダーとしてふさわしい優秀な女性社員には、たとえ妊娠や育児などの制約があったとしても、重要な仕事を積極的に任せ、成長の機会を与える | 育児中でフルタイムでの出社が難しい女性社員に対し、在宅での勤務を許可しつつ、プロジェクトのリーダーに任命する |
質の高いフィードバックを提供する | フィードバックをこまめに行うことで、「上司は自分に成長の見込みがあるから、アドバイスしてくれるんだ」と相手に実感ささせ、自信やモチベーションを高める | 育児中で時短勤務をしている女性社員に対し、必要以上に気を遣わず、改善すべき点を共有する |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーは過去の業績ではなく潜在力の高さで選びなさい」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員のモチベーションを高める業績評価の方法」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「勇気ある先進企業はランク付けの業績評価に頼らない」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「昇進できない業績優秀者にマネジャーができること」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「女性の昇進を妨げる原因は、男性目線の評価基準にある」
まとめ
従業員の昇進・昇格に関するよくある悩みや、昇進・昇格を成功させるためのポイントを解説しました。
多くの企業では、将来リーダーとして活躍する人材を育成することが早急の課題となっているはずです。そのためには、リーダーにふさわしい若手人材を昇進・昇格させ、早期からリーダーとして必要な教育や経験を提供することが大切です。
本記事で紹介したポイントをふまえ、適切な人材を昇進・昇格させることで、優秀なリーダーの育成を目指してください。