部下がミスをしたときや問題を起こしたときなど、職場では上司が部下を叱責しなければならないケースがしばしばあります。しかし、「パワハラで訴えられるのが怖い」などの理由で、部下をうまく叱ることができない上司も多いでしょう。

本記事では、叱責とパワハラの違いについて、具体例も交えて詳しく解説します。部下を効果的に叱るコツを知り、優秀な人材の育成に役立てたい方は、ぜひ参考にしてください。

パワハラと指摘されることを恐れて叱責できない上司は多い

Job総研が実施した「上司と部下の意識調査」において、部下を持つ上司に「部下に熱量高く叱った経験の有無」を尋ねたところ、「叱った経験がある」と回答したのはわずか34.7%でした。

また、叱らない理由として、30.9%が「ハラスメントを気にしてしまう」と答えています。この結果から、パワハラで訴えられることを恐れ、部下を適切に叱ることができない上司は多いといえます。

パワハラは従業員を肉体的にも精神的にも追い詰める行為であり、絶対に避けるべきなのはいうまでもありません。しかし、部下を叱責するべき状況であるにも関わらず、パワハラを恐れて何もできないのは、上司として不適切な振る舞いといえます。

たとえば、「遅刻が多い」「仕事をサボる」などといった問題行動で周囲に迷惑をかけている者に対し、上司が何も注意しなければ、真面目に働いている社員は不満を抱くでしょう。

また、部下の中には自分自身の成長のために、むしろ上司から叱ってほしいと考えている人も少なくありません。Job総研の同調査でも、「上司から叱られることに対する意識」について尋ねると、19.0%は「叱られたい」と回答しています。

叱られたいと感じる理由としては、「自分の成長につながるから(68.2%)」「自分を見てもらえている気がする(48.1%)」「客観的な評価が欲しい(48.1%)」などの意見が多く挙げられました。

以上のことから、職場の秩序を保つのはもちろん、部下を正しい方向に導き成長を促すためにも、上司が適切に叱責することが大切です。

参考:

PR TIMES「Job総研による『2023年 上司と部下の意識調査』を実施 部下に叱れない上司が6割 世代価値観のギャップが弊害に」

叱責とパワハラの違い

Job総研が社会人男女を対象に実施した「ハラスメントの境界線調査」によると、「ハラスメントの境界線を正しく認識しているか」との問いに対し、「正しく認識している」と回答したのはわずか28.0%でした。

半数以上は「認識しているつもりだが正しいかは曖昧(53.1%)」「なんとなく認識している(17.2%)」などと回答しており、叱責とパワハラの違いが曖昧になっている人が多いことがわかります。

部下を適切に叱るためには、まず叱責とパワハラの違いを理解しておくことが重要です。

パワハラにあてはまる言動

厚生労働省では、以下の3つの要素を満たす職場での言動をパワハラと定義しています。

  • ①優越的な関係に基づいて行われること
  • ②業務の適正な範囲を超えて行われること
  • ③身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること

より具体的に説明すると、パワハラは主に以下の6つのタイプに分けられるといいます。

タイプ具体例
精神的な攻撃・同僚が見ている前で叱責する
・他の社員も宛先に含めたメールで罵倒する
・長時間しつこく説教する
身体的な攻撃・殴る、蹴るなどの暴力をふるう
・物で頭を叩く
過大な要求・入社したばかりの新人に無謀なノルマを課す
・1人に仕事をすべて押し付け、周囲は皆先に帰る
過小な要求・運転手なのに草むしりしかさせない
・事務職なのに倉庫業務だけを命じる
人間関係からの切り離し・1人だけ別室に席を移す
・無視をするなど、職場でコミュニケーションを取らない
・飲み会に出席させない
個の侵害・交際相手について執拗に問う
・配偶者の悪口を言う

なお、上記はあくまでパワハラのタイプを大まかに分類したものであり、パワハラにあてはまる言動をすべて網羅している訳ではないため注意が必要です。

▼上司の言動がパワハラと認められた事例

金属ほうろう加工業を営むX社のA代表取締役は、社員Bに対して日常的に「てめえ、何やってんだ」「ばかやろう」などと大声で暴言を吐いたり、殴る・蹴るなどの暴力をふるったりしていた。また、仕事上のミスによる損害賠償を求めたり、退職願を書くように強要したりもしていた。Bは妻とともに警察署に相談したものの、その2日後の早朝に自殺。遺族はX社およびAに対し、不法行為に基づく損害賠償請求を提起した。判決では、Aの暴言や暴行は、仕事上のミスに対する叱責の範囲を超えており、不法行為にあたると評価。そして、このようなAの行為が原因でBの心理的ストレスが増加し、自殺するに至ったとして、Aと会社に対して、遺族へ損害賠償5,400万円あまりを支払うよう命じた。

叱責にあてはまる言動

先ほど説明したパワハラの定義に該当しない、すなわち「業務上必要な範囲での注意・指導」は、パワハラに該当しない可能性が高いです。

たとえば、遅刻した部下に対して、「就業規則違反なので遅刻はやめてください」と注意するのは叱責の範囲内であり、パワハラにはならないでしょう。

ただし、いくら部下に非があるといっても、上司という立場を利用して

  • 長時間拘束して説教をする
  • 人格を否定する暴言(「会社を辞めろ」「給料泥棒」など)を吐く

など、業務上適正な範囲を超えた叱責をすると、パワハラになる恐れがあります。

▼上司の指導がパワハラに該当しないと判断された事例

建設業を営むX社で営業所長を務めるA社員は、架空の出来高を計上するなどの不正経理を行っていた。Aの上司は不正経理をやめるよう注意を促したものの、Aは約1年間改善しなかった。上司はAを何度も電話で叱責し、業績検討会において、「会社を辞めても問題が解決するわけではない」といった発言を行った。Aは検討会の3日後に、上司の叱責を苦にしている旨を記した遺書を残して自殺。Aの遺族はX社等に対して、民事損害賠償を求めた。これに対し判決では、上司が1年間にわたり不正経理の改善を求め続けた経緯が重視され、「ある程度厳しい改善指導を行うことは、上司として正当な業務の範疇である」と明確にし、遺族の請求を退けた。

参考:

Job総研「2023年 ハラスメントの境界線調査を実施しました」

厚生労働省「No!パワハラ」

あかるい職場応援団「パワハラ、暴行等と自殺との間に相当因果関係有りとして高額の損害賠償」

あかるい職場応援団「【第2回】上司の叱責とパワハラ」

部下を効果的に叱責するコツ

パワハラで訴えられることなく、部下を効果的に叱責するためのコツを解説します。

相手への思いやりや共感を示す

ルールを破る、仕事をサボるなど、部下が意図的に行った問題行動に対しては、上司は厳しく叱責する必要があるでしょう。

しかし、どんなに真面目で優秀な社員であっても、悪気なくついミスを犯してしまうことはあります。ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、そんなときは部下を厳しく叱るよりも、「思いやり」や「共感」を示す方が効果的とされています。

思いやりや共感を示すリーダーに対して、人の脳はよりポジティブに反応し、リーダーへの信頼度やパフォーマンスの向上につながることが、過去の研究でもわかっているからです。

逆に、怒りに任せた指導すると、相手の忠誠心や信頼を損ねるだけでなく、ストレスを高めたり創造性を低下させたりする恐れがあるといいます。

とはいっても、部下が想定外のミスを犯したときなど、ついイライラの感情をぶつけたくなることもあるでしょう。同記事では、ミスを犯した部下に思いやりや共感を持って対応するためのコツとして、以下の3点を意識することを提唱しています。

  • 冷静になる時間を取る:感情を落ち着かせることで、より合理的な対応ができるようになる
  • 部下の立場に立つ:なぜ部下はミスをしたのか、今どんな気持ちなのかを考えることで、適切な対処法がわかる
  • 許す:ミスを許すことでお互いのストレスが軽減され、部下の生産性やモチベーションも高まる

未来に焦点を当てた質問をする

大きな間違いやミスを犯した部下に対し、「何でこんなことをしたんだ」「何を考えていたんだ」などと責め立てたことはないでしょうか。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、相手を叱責する際に、このような「過去に焦点を当てた質問」をしても何も解決しない可能性が高いといいます。

間違いを犯した原因や経緯を上司に説明するにあたって、自分の責任を少しでも軽くしようと、つい言い訳をしてしまうからです。その結果、上司・部下双方にとって納得のいく結論は得られないばかりか、お互いがイライラし関係性が悪化してしまう恐れもあります。

同記事では、ミスをした部下に対して、過去ではなく「未来に焦点を当てた質問」をすることを推奨しています(例:「次に同じような状況になったら、どうすればいいと思いますか」など)

こうすることで、相手は自分のミスを認めた上で、そこから何を学び、どう改善していくかを考えやすくなるのです。

さらに同記事によると、感情をコントロールし、未来に焦点を当てた質問をうまくするためには、以下の3点を意識することが効果的といいます。

  • 発言や行動に移す前に、まずはひと呼吸入れて感情を落ち着ける
  • 自分の発言や行動によって、どのような成果を得たいのかを考える
  • 求める成果が得られる可能性がもっとも高くなるよう、発言や行動の内容を検討する

人格ではなく事実を指摘する

部下を叱責する際は、「だらしない」「給料泥棒」などといった、人格を否定する言葉を使ってはいけません。

人格を否定しても相手を不快にするだけであり、行動や能力は何も改善されないからです。また、先ほども説明したように、いき過ぎた人格否定はパワハラにもなりかねません。

部下の問題点を指摘する際は、感情的にならず、事実に焦点を当てることが重要です。具体的には、「〇〇ということがあり、その結果、△△という影響が生じた」といった形で伝えましょう。

たとえば、仕事の納期を守らなかった部下に対しては、「あなたが締め切りを守らなかったために、クライアントを怒らせてしまい、危うく契約が打ち切られるところでした」と伝えるのです。

このように、事実に焦点を当てた指摘をすれば、相手は自分の行動の問題点を正確に把握できます。また、今後の改善策(「仕事を振られたら優先順位をつけるようする」など)も考えやすくなるでしょう。

訴えると脅されても毅然とした態度で接する

先ほども述べたように、業務上必要な範囲であれば、部下を叱責することはまったく問題ありません。しかし、場合によっては叱責をした部下から、「パワハラで訴える」と脅されることがあるかもしれません。

このような場合でも、パワハラに該当する言動を取っていなければ、脅しに屈せず毅然とした態度で対応することが重要です。

仮に、部下からいわれのないパワハラで本当に訴えられた場合でも、焦る必要はありません。咲くやこの花法律事務所によると、このようなケースでは以下の2点を意識し、反論することが大切といいます。

  • 部下の言い分を確認し、事実と異なる点があれば、時系列に沿って事実を説明する
  • 部下の育成を目的に行った正当な注意・指導であると主張する

そもそも、上司から叱られただけで「パワハラだ」と脅すような部下はかなりの問題社員であり、今後も同様の行為をくり返す恐れがあります。このような部下を叱責する際は、後々のトラブルに対処できるよう、注意・指導の内容を記録しておくとよいでしょう。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下への「思いやり」は「叱責」に勝る」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下がミスを犯したら、上司はどんな言葉をかけるべきか」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「サボる、手を抜く「怠慢な同僚」への賢い対処法」

咲くやこの花法律事務所「部下からパワハラで訴えられたら?パワハラと言われた時の必要な対応」

まとめ

叱責とパワハラの違いや、部下を効果的に叱るコツについて解説しました。

近年ではパワハラの基準が厳しくなったことから、職場でうまく部下を叱れない上司が増えています。しかし、部下を叱責するべき状況にも関わらず、パワハラを恐れて何もできないのは、上司として適切な振る舞いとはいえません。

本記事で紹介したポイントをふまえて、部下の適切な叱り方を知り、優秀な人材の育成に役立ててください。