部下をどう叱って良いか分からず、お困りの管理職の方もいらっしゃるでしょう。
フィードバックを行う際は、具体的な行動とその影響を説明し、改善策を共に考えましょう。批判的な内容を伝える際は、暴言や皮肉などで相手の尊厳を傷つけないようにしましょう。
この記事では、部下の成長のために管理職が普段から行うべきことなども解説します。
仕事において叱る目的とは

仕事で部下を叱る目的は、相手の成長を促し、より良い成果を生み出すためです。感情的に叱るのではなく、改善につながる指導を行うことが重要になります。
クラマー経営大学院(ローリンズ・カレッジ)の記事によると、部下を育成するには建設的なフィードバックが重要です。
具体的に建設的なフィードバックとは、相手が改善できる点を明確に伝え、重要な理由と改善方法を理解してもらうことです。
フィードバックの際は相手の人間性を攻撃して貶めるのではなく、相手の行動とそれによる影響を伝え、解決策を一緒に考えましょう。
「建設的な批判 」「破壊的な批判」の違い

フィンドレー大学の記事によると、「建設的な批判」と「破壊的な批判」の違いは次のとおりです。
建設的な批判は、事実に基づいて行います。相手の人格を攻撃するのではなく、改善の必要がある問題について会話するのが特徴です。本人が変えられる行動についてのみ、穏やかな口調で話し合います。改善に効果的な情報を具体的に提供し、行動を変えた場合のメリットについて議論の余地を残します。
破壊的な批判は、相手と行動の意図に否定的な憶測を持つほか、判断や非難を行ったり遠慮がなくなったりしがちです。部下の人格について議論する場合や、怒鳴る、脅迫する、蔑むなどの行動を取ることもあります。社員との議論の余地をなくし、一方的な助言や命令を行います。
例えば、「何度も同じミスをするなんて、仕事を軽視しているんじゃないか?ちゃんと確認して」と伝えることは、否定的な憶測や一方的な命令を含むため、破壊的な批判に該当するでしょう。
反対に、「○○のときと、○○のとき、○○のときに同じミスがありましたね。改善にはこれらの方法がありますが、私にできることやほかのアイデアはありますか?実行した場合、どんなメリットがあると思いますか?」という対話は、事実に基づき改善方法を具体的に提供する建設的な批判といえます。
参考:
Findlay Online “Feedback Strategies: The Pros and Cons of the Sandwich Approach”
建設的なフィードバックを行うメリット

アメリカン・マネジメント・アソシエーションで公開されているデビッド・リー氏の記事によると、建設的なフィードバックを行えば、部下は公平に対応されていると感じられます。また、理解され、尊重されていると感じてもらうことも期待できます。
そのため、建設的なフィードバックを行うことで、部下のパフォーマンス向上だけでなく、部下との関係強化にもつながります。
参考:
American Management Association “6 Ways That A Manager’s Constructive Feedback Can Go Bad”
適切な部下の叱り方

ここでは、部下に適切にフィードバックを与える方法を解説します。
問題行動のあと期間を空けない
アメリカン・マネジメント・アソシエーションで公開されているデビッド・リー氏の記事によると、問題行動を我慢し続けてフィードバックを先延ばししないことが大切です。
限界まで不満をため込んだ状態では、理想的な結果は得られません。上司の攻撃的な態度に、部下は防御しようとするでしょう。
例えば、部下が作成した資料に入力ミスが多いものの、大きい問題ではないからと自分で修正をするケースが考えられます。部下は自分の問題に気づかないためミスを繰り返してしまい、上司の方は負担が続くことで感情的になる場合もあるでしょう。
「あなたはいつもミスが多すぎる。適当な仕事は許されない」と相手を責めてしまう前に、問題行動のあとは、早い段階でフィードバックを行うことが大切です。
問題行動とその影響を教える
クラマー経営大学院(ローリンズ・カレッジ)の記事によると、フィードバックの対象となる相手の行動は具体的に説明する必要があります。フィードバックが曖昧だと、相手は何を改善すべきか分からず、混乱してしまう可能性があります。そのため、実際に部下が取った行動と、それが与えた影響を明確に伝えることが大切です。
例えば、「最近の報告が遅い」と指摘するだけではなく、「先週のプロジェクト報告が予定より1日遅れたことで、次の工程が遅延する可能性がある」といったように、具体的な事実と影響を伝えることで、相手は改善すべきポイントを正しく理解しやすくなります。
改善する方法を提案する
同記事によると、部下を支援するためにここにいると伝えたうえで、改善する方法を相手と考えることが大切です。改善方法を示さず問題点のみ指摘すれば、部下の不満に繋がる可能性も。相手は何をすべきか分からなくなる可能性もあります。
例えば、部下の状況から考えられる改善策を事前に用意したうえで、「改善するために手伝えることはありますか?このような方法もありますが、なにかアイデアはありますか?」と一緒に話し合うと良いでしょう。
一方的に話すのではなく、部下の話も聞く
Harvard Division of Continuing Educationで公開されているリアン・パーソンズ氏の記事によると、業績評価でネガティブなフィードバックを行う際は部下の話も聞くことが大切です。
自分の状況について本人が説明できる機会を作ることで、部下は上司に尊重されていると感じられます。また、管理職の方も社員の苦労を把握でき、今後の方針やサポート方法の検討に役立つでしょう。
話を聞く際は、部下に共感し思いやりを持って接しましょう。
自分の言動に気を配る
同記事によると、業績評価でネガティブなフィードバックを行う際は、批判的に聞こえない言葉遣いをしましょう。形式張らず均一な口調を保つことも大切です。
攻撃的な態度だけでなく、受動攻撃的や回避的な振る舞いも避けましょう。
例えば、ため息をつきながら話したり、「常識的なことなので伝えなくても分かると思いました」などと皮肉を言ったりしてはいけません。
「たしかにこのフローは複雑ですよね。でも、作業できていない箇所があったことで、ほかの業務に影響が出てしまいました。改善策を一緒に考えましょう。各工程ごとに上長に確認を挟むのはどうでしょうか」などと話すと良いでしょう。共感を示し、事実を伝え、解決策を見つけることが大切です。
フィードバックを実施する場所に注意する
同記事によると、業績評価で否定的なフィードバックを行う際は、時間の余裕があるときにプライベートな空間で行いましょう。予定が多いときに会話の機会を設けてしまうと、焦ってお互いに急かされたりストレスを抱えたりすることも考えられます。
また、部下が正直に話せる環境を作るために、公の場ではなく、プライバシーが確保された状況で話すことが重要です。さらに、会話の内容が他の人に漏れないことを保証することで、相手は安心して本音を話しやすくなります。
肯定的なフィードバックも行う
同記事によると、業績評価で否定的なフィードバックを行う際は、部下が成果を出している点も伝えることが大切です。部下を安心させ、感謝の気持ちを伝えることができます。
例えば、「資料作成の際に見やすく図を配置してくれるから、顧客に説明しやすくて助かっています」などと、長所を指摘しましょう。
参考:
American Management Association “6 Ways That A Manager’s Constructive Feedback Can Go Bad”
Crummer Graduate School of Business Rollins College”Constructive Feedback Techniques: Tips for a Positive Outcome”
Harvard Division of Continuing Education “How to Give Negative Feedback to Employees”
避けるべき部下の叱り方

ここでは、避けるべき部下の叱り方について解説します。
相手の尊厳を脅かす
ロンドンビジネススクールの記事によると、批判的なフィードバックを効果的に伝えるには、相手の尊厳を脅かす言動をしないようにしましょう。叱責や皮肉、暴言などを行わないよう注意が必要です。
批判的な意見は受け入れづらいため、部下が防御的にならず、素直に話を聞ける環境を整えることが必要です。特に、感情的になっているときはフィードバックを避け、冷静な状態で伝えましょう。
例えば、フィードバックの前には「部下はミスがあるが、早く業務を回そうと積極的に行動してくれている」と長所を思い出すなどして、問題行動への感情のみにとらわれないことが大切です。
ほかの人と比較する
シックスセカンズで公開されているマイケル・ミラー氏の記事によると、業績評価を改善するためには、部下をほかの人と比較するのではなく、以前の部下自身と比較しましょう。
研究によると、業績評価の際に同僚と比較された人と比べて、以前の本人の業績と比較された人のほうが、より正確で公正なレビューを受けたと認識します。
そのため、「○○さんよりもミスが多かった」と伝えるのではなく、「以前と比べてミスが増えている」と時間的比較評価を行いましょう。
自分の意見を押しつける
ロンドンビジネススクールの記事によると、批判的なフィードバックを効果的に伝えるには、自分の意見を押しつけるのではなく客観的な事実を示す必要があります。具体的な事実に基づいたフィードバックであれば、部下はどこに問題があるか正確に理解することが可能です。
例えば、「あなたはいつもプレゼンの準備や努力を全くしない。そのせいで、チーム全員が顧客から信頼できないと思われたんだ」と、間違った一般化をしたり自分の意見をぶつけたりするのはやめましょう。
代わりに、「あなたは前回のプレゼンで、資料を忘れたり商品を説明できなかったりしました。私は、顧客が私たちを信頼できないのではないかと心配しました」と、具体的な行動と影響を伝えると良いでしょう。
相手の人間性について話す
Harvard Division of Continuing Educationで公開されているリアン・パーソンズ氏の記事によると、業績評価でネガティブなフィードバックを行う際は、部下の性格に焦点を当てないよう注意が必要です。
相手の個人的な話にすると、部下は心を閉ざし、フィードバックを受けた内容を学びと行動に活かす可能性が低くなります。
例えば、フィードバックの際は「あなたが提出した書類には、マニュアルに沿っていない複数のミスがありました」と仕事について具体的に焦点を当てましょう。「あなたはミスが多い。その大雑把な性格に問題がある」などと、相手の性格について話してはいけません。
参考:
London Business School ”How to give critical feedback effectively”
Six Seconds “Emotional Intelligence at Work”
Harvard Division of Continuing Education “How to Give Negative Feedback to Employees”
部下の成長のために管理職が普段から行うべきこと

ここでは、部下の成長のために管理職が普段から行うべきことについて解説します。
フィードバック文化を作る
ロンドンビジネススクールの記事によると、人材育成のためには、期待と基準を明確にし、年次レビューよりも頻度を上げて、少しずつフィードバックを行う必要があります。そうすれば、「問題が起こる前に防ぐ」「期待がさらに明確化する」「継続的に学んでいく考えを持ってもらう」ことに繋がります。
また、部下が否定的なフィードバックを受け入れやすくなるためには、管理職の方自身の行動も見直すことが大切です。自分のミスや欠点に向き合い、改善の意志を見せたり、場合によっては謝罪したりしましょう。
部下と良好な関係を作る
同記事によると、批判的なフィードバックが部下に受け入れられる可能性が高いのは、良好な関係を築けている場合です。信頼されず緊張感のある関係ではフィードバックの効果は高くないでしょう。
部下には、定期的に肯定的なフィードバックも伝えましょう。部下に注意を払っていることや価値を認めていること、相手が成功できるよう真摯に行動していること、公正な態度で接していることなどを、知ってもらうのが大切です。
参考:
London Business School ”How to give critical feedback effectively”
まとめ
部下にフィードバックを行う際は、対象となる相手の行動とその影響について伝え、改善策を部下とともに考えましょう。
批判的な内容を伝える際は、相手の尊厳を傷つけたり、自分の意見を押しつけたりしないよう注意が必要です。
管理職の方はフィードバックを受け入れてもらえるよう、普段から部下と良好な関係を築くことを心掛けましょう。